魔王メーカー

壱元

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第四章

第三十二話

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 次々に皿が空になっていく。

「これもう一個おかわりね」

その度に空の皿は下げられ、料理を盛って新しく出される。

それら全てを一人で行っているのはリレラだ。

あまり大柄という訳でもない彼女が休憩も取らず次々に平らげる様は、嫌でも目で追ってしまう。

しかも、いつもは体格相応の量しか食べないはず。だから余計に気を惹かれてしまう。

「気になるか?」

そんな私に気付いたウロが声を掛けてきた。

素直に返事すると、彼は説明してくれた。

「あー見えてリレラは常人より筋肉の密度が高い『特殊体質』だ。筋肉が多ければエネルギーの消費が激しい。だから大飯喰らいになるが、普段は魔具でその分を補ってんだ」

「魔具?」

「あの剣だ。あれはオレとマギクで設計してそこそこ有名な鍛冶師に作らせたオーダーメイド品だ。攻撃を受け止めたり、こっちから攻撃した時に出るエネルギーを一旦純粋な魔力に変えて持ち主の身体に流す」

「なるほど! じゃあそれが食べ物から摂るエネルギーの代わりになるってことですね?」

「おう! …やっぱりお前オレの心読んでね?」

エネルギーが十分にない状態で魔力を消費すると当然危険だ。リレラがあの全身から赤い光を出す技を戦闘の中盤になってから使うのはそういった事情があるようだ。

「でも今回の戦いは長引きすぎた」

マギクが果実のミックスジュースを呷ってから言った。

「消費に供給が追い付かなくなって食べ物から摂らざるを得なくなった。より正確に言うなら食べ物から摂るのが最良になった」

そうだよね、と肩に触れるとリレラは肉を頬張りながらこくりと頷いた。

私達は今や仲間同士。

仲間のことを知っておいて損はないだろう。きっと彼らがこんなに詳細に説明してくれたのもそういう考えがあったからだろう。

これからも仲間のことは知り続けていかなければ。

それも受動的にではなく、能動的に。

仲間にしてもらった以上、それに値する態度を示さなければ。

「それはそうとーー 君ももっと食べなよ。好きなの頼んでいいから」

マギクがメニュー表を差し出しながら言う。

「いえ、もういっぱい食べたので」

私も、そしてラーラも。

私は〆のつもりで頼んだはずだった焼き菓子を数枚取って、こっそりポケットにしまっておいた。

今宵はとても楽しい夜になった。


 翌日、午前中はぶらぶらして過ごした。

「ちょっとラーラを連れて二人で行ってもいいですか?」

夕暮れを横目にラーラを背負って街の外れの方へ歩いて行った。

「…そろそろ起きたらどうですか、ラーラ様」

ふと立ち止まり背中の方へ呼びかけた。

直後、もぞもぞと動き出す。

体重が下へと移動し、裸足でペタっと音を立てて地面に降り立つ。

振り返るとそこには、いたずらっぽく微笑むラーラが居た。

「どうして分かったんですか?」

「なんとなく」

私達は久しぶりに二人並んで歩いた。

丁度いい塀があったのでそこに腰かけ、他愛のない話を続ける。

ラーラが寝ている間にあったことをざっくばらんに話題として上げながら。

「あ、そうだ」

会話が一段落してから、私はポケットに手を伸ばす。

「昨夜食べたデザートが美味しかったので」

「私の為に取っておいてくれたのですか? ありがとうございます」

彼女は焼き菓子を受け取り、小さく齧った。

私も一枚齧る。

ラーラはしばらく何も言わず、じっくりと味わっていた。

しかし私の視線に気付いたようで、

「美味しいですね」

と笑って言った。

「程よい甘さで美味しいですよね」

私はそう相槌を打ってもう一口齧った。

欠片を飲み込み、一呼吸おいてから「それ」を言う。

「嘘ですね」

〆のつもりで頼んだ「はずだった」焼き菓子。

予想外の淡泊さでそうは成らなかった焼き菓子。

「私に合わせてくれようとしてくれたのですか? 貴方と私の関係はそんなに水臭いものなのですか?」

「いいえ、私はただ…」

冷静と焦燥が交差する表情。私は知っていた。

「それとも、貴方は甘さが分からないのですか?」


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