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・その形で超技術を得た~血闘輝ダイレバット~
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決闘歴十年、地球衛星軌道上、スペースコロニー基地〈リングサイド〉格納庫。
十年前では人類が知る由も無く、今も地上においては一切用いられていない宇宙技術の成果たる基地の中に、地球人が一人佇んでいた。腹立たしげに、即ち、如何にも地球人らしい感情を湛えて。
少年だ。パイロットとして必要な範囲で鍛え上げられたしなやかな体を、基地と同じ宇宙技術による、しかし、堅牢で堅実な基地の構造とは違う、際どい部分の凹凸は程々にごまかしながらもぴったりとはりつきボディラインを強調するような呪術的戦化粧と配線回路が融合したような模様のボディスーツで覆っている。
それは一見ビニールとレザーの中間に金属光沢を与えたように見えるが、実質はある種の生体素材だ。基地を構築するシンプルな機械とは方向性の異なる技術。
そのパイロットスーツとそれを纏う理由である〈操縦する対象〉が、少年にその複雑な表情を浮かべさせていた。
それはこの格納庫が納めるもの。液体で満たされた巨大なカプセルの中に浮かぶ、パイロットスーツと同じビニール・レザー・金属を織り混ぜたような質感を持つ、繋ぎ目の無い装甲で出来た巨人。巨大な人型の生体機械である兵器……
「ヨシハ少年、ヨシハ少年。いよいよだな、決闘日が決定されたぞ」
「そうか」
項良吉羽という少年の名を呼ぶ声が聞こえた。少年は悪くない地顔を台無しにする濁った眼でその声の主を見やり、短く答えた。
声をかけたのは、少年とは違う種族の存在だ。ヒューマノイドで、宇宙の広大さを考えればほぼ同一と言っていいほど人類に近いのは寧ろ驚くべきだが、丁寧に後ろに撫でつけた薄緑の髪にピンク色の目、耳に金色をした角質の縁取りがあり、額から一本アンテナのようなペーパーナイフめいた薄く鋭い角が生えているのが地球人との違いだ。服装は吉羽と構造は同じだが模様の異なるパイロットスーツ、姿は女性的で容姿はやや額が秀でた印象があるが生真面目そうで美しく、吉羽より外見年齢は少し年上だが少女の範囲といったところか。もっとも、実際には地球人との違いはもっと大きく深い。それは今、1Gの疑似重力が存在するこの宇宙ステーションにも関わらず無重力のようにふわりと飛んで吉羽の隣に着地した事からもその片鱗は明らかだ。
「君とダイレバット・アースの初陣だな……私は少しドキドキしている。名にしろ、この私、ユエラナベル・ギデスガ初めての教え子だからな」
己の隣に並び培養カプセルの中の巨人を見て息を弾ませ語る少女に、吉羽はぐちゃぐちゃにした複雑な感情を抱いた。
「俺はドキドキしてねえよ。相手は、デデスデ星だろ?」
「君は本当に……地球人だなあ」
元からある程度予定された、分かりきった事だ、という風に内心の感情を押し隠して答える吉羽に、ユエナラベルは苦笑する。
「そういうお前は、本当にゾゾイエンだよな」
吉羽もまた、苦笑を返した。ゾゾイエン。それはユエナラベルの種族の名前だ。
十年前。当時はまだ地球歴を使用していた宇宙に進出した人類は、デデスデという別種の知的生命体と戦争状態に陥っていた。
植民惑星の苛烈な潰し合い、際限の無い徴兵、艦隊の消耗戦、乱れ飛ぶ星系間ミサイル、捕虜を生体実験し脳髄から情報を吸出し工作員を送り込み扇動し洗脳する戦争犯罪の応酬。耐えきれず起こる、宇宙進出以前からの諸民族の軋轢を引きずった内紛を潰しながらの冷たく苛烈な日々。
それに唐突に横入りした種族がゾゾイエンであった。地球・デデスデ双方が用いる宇宙戦艦を遥かに上回る戦闘力を持つ人型兵器、地球の言語に翻訳して直接乗込操縦式生体ロボット兵器略してダイレバット、あるいはその用途と生体機械である事を捩って血闘輝と呼ばれる兵器で、なんの利害関係も有さないにも関わらず戦闘に介入した。しかも戦争を抑止するのに飽き足らず、双方の軍隊を解体するまで攻撃を続けたのだ。
「ああ、地球人だからな。忘れちゃいない、俺も」
「勿論、忘れちゃいないさ、僕も。僕達は〈大義〉を決して忘却しない」
その目的をゾゾイエンは〈大義〉だと語った。ゾゾイエンは元々〈万代の主〉〔ドミ=支配種の意〕という種族が享楽の道具としてダイレバットと共に産み出した剣闘奴隷種族の一つであり、その中で例外的なバグとして戦いの〈大義〉を考える能力を持つ種族だった故に、命から己の運命を戦って決める自由を奪う〈万代の主〉の享楽に〈大義〉は無いと判断し反旗を翻した。故にゾゾイエンは自由を司る正当な闘争をこそ〈大義〉とする、その〈大義〉を宇宙に天下布武すると。
故に相互圧政とでも言うべき全面戦争をゾゾイエンは破壊する。そしてその代わりにダイレバットを代表剣闘士とする決闘による戦争を行わせる。
その為にゾゾイエンは様々な文明を征服してきた。その最新の二つがデデスデと地球だった。地球とデデスデの艦隊は破壊され、その代わりにそれぞれの文明にダイレバットが齎された。
その過程は、だがしかし救済でも平和でも無い。双方の軍隊は破壊された。決闘による戦争に抵抗する勢力は、あくまでダイレバットによる力で排除された。言葉の力を使い知性の意思をねじ曲げるのはゾゾイエンの〈大義〉ではなく、あくまで己の意思を信じたまま戦いで散らせるほうがゾゾイエンにとっては〈大義〉に則った慈悲なのだそうだ。
そしてゾゾイエンは自由を尊ぶ。隷従を許さない。例え秩序を破壊してでも。故にゾゾイエンは地球・デデスデ双方に、文明を代表する戦いの為のダイレバットだけではない、地方や少数集団が他の地方や中央に対して意思を通す為の決闘を挑む為のダイレバットすら与えた。決闘は恒常化した。自由に沸いた者もいたが、死んだ者もいた。
当初ダイレバットとゾゾイエンを戦を止める平和の天使と勘違いしていた者達が抗議の声を上げた時、地球圏を制圧したゾゾイエンは……それは正に眼前のこのユエラナベル・ギデスガ本人だ、彼女はこう答えた。
((ゾゾイエンは常に〈大義〉の為に戦う。命という、時を減れば消える事が確定しているものの為には戦わない。我らは屈さぬ為に命を捨て、故に文明となった。だから、地球人はこれまで〈利益〉を第一としていたが、ゾゾイエンは〈大義〉を第一とする。そして地球人はこれまで誰が〈利益〉を得るのかを戦って決めてきたのだから、ゾゾイエンが戦いで地球人の〈利益〉とゾゾイエンの〈大義〉どちらがまかり通るべきか決めた事に抗議するのは理屈に合わないだろう))
ゾゾイエンは懇切丁寧に地球とデデスデを復興させた。物資も、ダイレバット他ソゾイエンが持つ技術も惜しげもなく投じた。ダイレバット以外の手段による闘争を否定するという以外においては彼等は仁慈に富み、そしてダイレバットを使った戦においても〈大義〉の元彼等が〈交戦規定〉と呼ぶ騎士道精神・武士道精神めいた倫理を極めて忠実に順守する種族であった。
だがその技術を解析する事は許さなかった。それだけは、強く厳しく罰した。厳しく破壊し、それを行おうとした者は決闘場に引き立てダイレバットの操縦席に放り込み、決闘で必ず殺した。ゾゾイエン自身が持つ技術はそのほぼ全てが〈万代の主〉から奪ったものであり、彼等自身も使い方はわかっても理論を理解し発展改良させることはあちらを削りこちらを増やすようなアレンジを除けば困難であったからだ。〈大義〉を敷く為にその侵害は看過しなかった。
そして地球人の性根は、ゾゾイエンのそれとは正反対であった。敗北してから短時間の間に、ゾゾイエンの持つダイレバットの技術は本来決闘用である人型兵器の形にあえてする所に非効率性があり、理論を抽出した上で宇宙戦艦や宇宙戦闘機に応用すれば遥かに強くなると理解していた。
そしてゾゾイエンによって支配を覆された層は、ゾゾイエンに撃破された軍の関係者やゾゾイエンへの失望を持った平和活動家が節操無く野合し、恥知らずに面従腹背し、ゾゾイエン相手に陰謀と諜報を繰り広げた。
ゾゾイエンによる〈大義〉式の宇宙戦争文明の移植が形になり始めた、その始まりを起源とするこの決闘歴十年。その陰謀と謀略の成果もまた、一つの形を成そうとしていた。
(その為に、俺はここにいる)
良羽は改めて、己の宿命を反芻する。
彼はユエナラベルによるパイロット育成に選ばれた。それは紛れもなく鍛練と才覚によるものだったが、その鍛練の動機は、呪いのような宿命によるものだ。
彼の父は軍人であった。ゾゾイエンによる戦争の停止の時、他ならぬユエナラベルに殺された。
彼の母は平和運動家であった。父とは逆にゾゾイエンに平和の期待を託し、そして裏切られた。
父の戦友から、母の同志達から、二重三重に縛られた彼には任務がある。
ゾゾイエンからの地球の独立の為、ゾゾイエンの与える決闘による戦いという〈大義〉を崩す為に、ダイレバットの技術を解析せよと。
巨大ロボットに秘められた超技術を分解し、それを通常兵器に応用できるようにして、巨大ロボットによる決闘を止めさせ、再び大量の兵器による大戦争を起こせるようにしろと。
歪んだ人類の希望を、背負っている。
(……正しいのか? )
憎しみは、無いでもない。ほんの幼いころとはいえ、父の仇だ。〈大義〉を人名より思いとして振りかざすゾゾイエンのあり方への反発もある。だが、ゾゾイエンの反発、人類の独立は決闘による犠牲者の少ない戦争より大切だという考え方も、ゾゾイエンのそれとはまた違う〈大義〉ではないのか。一部の、後援者という名の命令者は、そうではないと主張するが、そうではないというのなら、利益の為により多くの死者が発生する戦争に戻る事は正しいと言えるのか、悪ではないのか。
そして何より。
「さあ、今日も訓練をしよう。今日からはいよいよ実機を使った訓練だ。僕のダイレバット・アグレッサーⅦの実機も見せてあげよう」
告げるユエナラベル。平和を齎し、技術を齎し、訓練を与え力をも齎す者。彼女は正に古く清冽な戦士で、〈大義〉に殉じるだけではない献身と気遣いを絶やさず、父の墓にも欠かさず詣で、良羽の感情を正面から受け止めた。
彼女は言った。
((君が僕を憎んでいるのはわかる。だからいつか、独立を掛けて挑んできてくれても構わない。その時の為に、君にはその心が正しければ僕に勝てるよう、必ず僕の有する全ての戦闘技術を授けよう))
それは現代地球人的なあり方とはあまりにも違うが、確かにある種の真摯さで。
(……なんでこんな、俺達と違う種族を。〈大義〉に狂った種族な筈なのに)
かっこいいと、美しいと、そう思ってしまう心の一部分が己にはあるのだろう。
良羽は、内心今日も葛藤する。
これは、宇宙の命運を賭けた決闘に至る、宇宙の命運を賭けた決闘の命運を担う、少年と少女の物語である。
十年前では人類が知る由も無く、今も地上においては一切用いられていない宇宙技術の成果たる基地の中に、地球人が一人佇んでいた。腹立たしげに、即ち、如何にも地球人らしい感情を湛えて。
少年だ。パイロットとして必要な範囲で鍛え上げられたしなやかな体を、基地と同じ宇宙技術による、しかし、堅牢で堅実な基地の構造とは違う、際どい部分の凹凸は程々にごまかしながらもぴったりとはりつきボディラインを強調するような呪術的戦化粧と配線回路が融合したような模様のボディスーツで覆っている。
それは一見ビニールとレザーの中間に金属光沢を与えたように見えるが、実質はある種の生体素材だ。基地を構築するシンプルな機械とは方向性の異なる技術。
そのパイロットスーツとそれを纏う理由である〈操縦する対象〉が、少年にその複雑な表情を浮かべさせていた。
それはこの格納庫が納めるもの。液体で満たされた巨大なカプセルの中に浮かぶ、パイロットスーツと同じビニール・レザー・金属を織り混ぜたような質感を持つ、繋ぎ目の無い装甲で出来た巨人。巨大な人型の生体機械である兵器……
「ヨシハ少年、ヨシハ少年。いよいよだな、決闘日が決定されたぞ」
「そうか」
項良吉羽という少年の名を呼ぶ声が聞こえた。少年は悪くない地顔を台無しにする濁った眼でその声の主を見やり、短く答えた。
声をかけたのは、少年とは違う種族の存在だ。ヒューマノイドで、宇宙の広大さを考えればほぼ同一と言っていいほど人類に近いのは寧ろ驚くべきだが、丁寧に後ろに撫でつけた薄緑の髪にピンク色の目、耳に金色をした角質の縁取りがあり、額から一本アンテナのようなペーパーナイフめいた薄く鋭い角が生えているのが地球人との違いだ。服装は吉羽と構造は同じだが模様の異なるパイロットスーツ、姿は女性的で容姿はやや額が秀でた印象があるが生真面目そうで美しく、吉羽より外見年齢は少し年上だが少女の範囲といったところか。もっとも、実際には地球人との違いはもっと大きく深い。それは今、1Gの疑似重力が存在するこの宇宙ステーションにも関わらず無重力のようにふわりと飛んで吉羽の隣に着地した事からもその片鱗は明らかだ。
「君とダイレバット・アースの初陣だな……私は少しドキドキしている。名にしろ、この私、ユエラナベル・ギデスガ初めての教え子だからな」
己の隣に並び培養カプセルの中の巨人を見て息を弾ませ語る少女に、吉羽はぐちゃぐちゃにした複雑な感情を抱いた。
「俺はドキドキしてねえよ。相手は、デデスデ星だろ?」
「君は本当に……地球人だなあ」
元からある程度予定された、分かりきった事だ、という風に内心の感情を押し隠して答える吉羽に、ユエナラベルは苦笑する。
「そういうお前は、本当にゾゾイエンだよな」
吉羽もまた、苦笑を返した。ゾゾイエン。それはユエナラベルの種族の名前だ。
十年前。当時はまだ地球歴を使用していた宇宙に進出した人類は、デデスデという別種の知的生命体と戦争状態に陥っていた。
植民惑星の苛烈な潰し合い、際限の無い徴兵、艦隊の消耗戦、乱れ飛ぶ星系間ミサイル、捕虜を生体実験し脳髄から情報を吸出し工作員を送り込み扇動し洗脳する戦争犯罪の応酬。耐えきれず起こる、宇宙進出以前からの諸民族の軋轢を引きずった内紛を潰しながらの冷たく苛烈な日々。
それに唐突に横入りした種族がゾゾイエンであった。地球・デデスデ双方が用いる宇宙戦艦を遥かに上回る戦闘力を持つ人型兵器、地球の言語に翻訳して直接乗込操縦式生体ロボット兵器略してダイレバット、あるいはその用途と生体機械である事を捩って血闘輝と呼ばれる兵器で、なんの利害関係も有さないにも関わらず戦闘に介入した。しかも戦争を抑止するのに飽き足らず、双方の軍隊を解体するまで攻撃を続けたのだ。
「ああ、地球人だからな。忘れちゃいない、俺も」
「勿論、忘れちゃいないさ、僕も。僕達は〈大義〉を決して忘却しない」
その目的をゾゾイエンは〈大義〉だと語った。ゾゾイエンは元々〈万代の主〉〔ドミ=支配種の意〕という種族が享楽の道具としてダイレバットと共に産み出した剣闘奴隷種族の一つであり、その中で例外的なバグとして戦いの〈大義〉を考える能力を持つ種族だった故に、命から己の運命を戦って決める自由を奪う〈万代の主〉の享楽に〈大義〉は無いと判断し反旗を翻した。故にゾゾイエンは自由を司る正当な闘争をこそ〈大義〉とする、その〈大義〉を宇宙に天下布武すると。
故に相互圧政とでも言うべき全面戦争をゾゾイエンは破壊する。そしてその代わりにダイレバットを代表剣闘士とする決闘による戦争を行わせる。
その為にゾゾイエンは様々な文明を征服してきた。その最新の二つがデデスデと地球だった。地球とデデスデの艦隊は破壊され、その代わりにそれぞれの文明にダイレバットが齎された。
その過程は、だがしかし救済でも平和でも無い。双方の軍隊は破壊された。決闘による戦争に抵抗する勢力は、あくまでダイレバットによる力で排除された。言葉の力を使い知性の意思をねじ曲げるのはゾゾイエンの〈大義〉ではなく、あくまで己の意思を信じたまま戦いで散らせるほうがゾゾイエンにとっては〈大義〉に則った慈悲なのだそうだ。
そしてゾゾイエンは自由を尊ぶ。隷従を許さない。例え秩序を破壊してでも。故にゾゾイエンは地球・デデスデ双方に、文明を代表する戦いの為のダイレバットだけではない、地方や少数集団が他の地方や中央に対して意思を通す為の決闘を挑む為のダイレバットすら与えた。決闘は恒常化した。自由に沸いた者もいたが、死んだ者もいた。
当初ダイレバットとゾゾイエンを戦を止める平和の天使と勘違いしていた者達が抗議の声を上げた時、地球圏を制圧したゾゾイエンは……それは正に眼前のこのユエラナベル・ギデスガ本人だ、彼女はこう答えた。
((ゾゾイエンは常に〈大義〉の為に戦う。命という、時を減れば消える事が確定しているものの為には戦わない。我らは屈さぬ為に命を捨て、故に文明となった。だから、地球人はこれまで〈利益〉を第一としていたが、ゾゾイエンは〈大義〉を第一とする。そして地球人はこれまで誰が〈利益〉を得るのかを戦って決めてきたのだから、ゾゾイエンが戦いで地球人の〈利益〉とゾゾイエンの〈大義〉どちらがまかり通るべきか決めた事に抗議するのは理屈に合わないだろう))
ゾゾイエンは懇切丁寧に地球とデデスデを復興させた。物資も、ダイレバット他ソゾイエンが持つ技術も惜しげもなく投じた。ダイレバット以外の手段による闘争を否定するという以外においては彼等は仁慈に富み、そしてダイレバットを使った戦においても〈大義〉の元彼等が〈交戦規定〉と呼ぶ騎士道精神・武士道精神めいた倫理を極めて忠実に順守する種族であった。
だがその技術を解析する事は許さなかった。それだけは、強く厳しく罰した。厳しく破壊し、それを行おうとした者は決闘場に引き立てダイレバットの操縦席に放り込み、決闘で必ず殺した。ゾゾイエン自身が持つ技術はそのほぼ全てが〈万代の主〉から奪ったものであり、彼等自身も使い方はわかっても理論を理解し発展改良させることはあちらを削りこちらを増やすようなアレンジを除けば困難であったからだ。〈大義〉を敷く為にその侵害は看過しなかった。
そして地球人の性根は、ゾゾイエンのそれとは正反対であった。敗北してから短時間の間に、ゾゾイエンの持つダイレバットの技術は本来決闘用である人型兵器の形にあえてする所に非効率性があり、理論を抽出した上で宇宙戦艦や宇宙戦闘機に応用すれば遥かに強くなると理解していた。
そしてゾゾイエンによって支配を覆された層は、ゾゾイエンに撃破された軍の関係者やゾゾイエンへの失望を持った平和活動家が節操無く野合し、恥知らずに面従腹背し、ゾゾイエン相手に陰謀と諜報を繰り広げた。
ゾゾイエンによる〈大義〉式の宇宙戦争文明の移植が形になり始めた、その始まりを起源とするこの決闘歴十年。その陰謀と謀略の成果もまた、一つの形を成そうとしていた。
(その為に、俺はここにいる)
良羽は改めて、己の宿命を反芻する。
彼はユエナラベルによるパイロット育成に選ばれた。それは紛れもなく鍛練と才覚によるものだったが、その鍛練の動機は、呪いのような宿命によるものだ。
彼の父は軍人であった。ゾゾイエンによる戦争の停止の時、他ならぬユエナラベルに殺された。
彼の母は平和運動家であった。父とは逆にゾゾイエンに平和の期待を託し、そして裏切られた。
父の戦友から、母の同志達から、二重三重に縛られた彼には任務がある。
ゾゾイエンからの地球の独立の為、ゾゾイエンの与える決闘による戦いという〈大義〉を崩す為に、ダイレバットの技術を解析せよと。
巨大ロボットに秘められた超技術を分解し、それを通常兵器に応用できるようにして、巨大ロボットによる決闘を止めさせ、再び大量の兵器による大戦争を起こせるようにしろと。
歪んだ人類の希望を、背負っている。
(……正しいのか? )
憎しみは、無いでもない。ほんの幼いころとはいえ、父の仇だ。〈大義〉を人名より思いとして振りかざすゾゾイエンのあり方への反発もある。だが、ゾゾイエンの反発、人類の独立は決闘による犠牲者の少ない戦争より大切だという考え方も、ゾゾイエンのそれとはまた違う〈大義〉ではないのか。一部の、後援者という名の命令者は、そうではないと主張するが、そうではないというのなら、利益の為により多くの死者が発生する戦争に戻る事は正しいと言えるのか、悪ではないのか。
そして何より。
「さあ、今日も訓練をしよう。今日からはいよいよ実機を使った訓練だ。僕のダイレバット・アグレッサーⅦの実機も見せてあげよう」
告げるユエナラベル。平和を齎し、技術を齎し、訓練を与え力をも齎す者。彼女は正に古く清冽な戦士で、〈大義〉に殉じるだけではない献身と気遣いを絶やさず、父の墓にも欠かさず詣で、良羽の感情を正面から受け止めた。
彼女は言った。
((君が僕を憎んでいるのはわかる。だからいつか、独立を掛けて挑んできてくれても構わない。その時の為に、君にはその心が正しければ僕に勝てるよう、必ず僕の有する全ての戦闘技術を授けよう))
それは現代地球人的なあり方とはあまりにも違うが、確かにある種の真摯さで。
(……なんでこんな、俺達と違う種族を。〈大義〉に狂った種族な筈なのに)
かっこいいと、美しいと、そう思ってしまう心の一部分が己にはあるのだろう。
良羽は、内心今日も葛藤する。
これは、宇宙の命運を賭けた決闘に至る、宇宙の命運を賭けた決闘の命運を担う、少年と少女の物語である。
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