英雄の世紀

博元 裕央

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・第6集【安保反対の旗の下に~ヒーローと正義の味方の間で、日本は波乱の道を歩んだ~】

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「私はただ、人を助けたいだけなんだけどなあ」
(正義の味方ゴハンマン、新聞社に取材を受けてのコメント)
「声なき声すら、今や正義の味方を守れと叫んでいる」
(当時の新聞の見出し)

 侍童子シシハヤテ、ジェットキッド、特車人間五式、フューチャーボーイ、バババの化子、ゴハンマン、コーアンナイン、忍者捕物隊、アースエンジェル、そしてハイパーマン。

(当時の児童雑誌や新聞記事、テレビ報道などからの写真・映像の抜粋。獅子を象った面頬付の鎧を着けた少年武者、ジェットパックを背負い目元を覆う仮面と銃を装備した少年、手足や胴や頭に旧日本軍の戦車を思わせる装甲のついた黒髪おかっぱ頭の少年型アンドロイド、伸縮自在の二本角鉄兜に赤と黒ツートンカラーのボディスーツ・ブーツ装束を纏う少年、羽や花で飾った褐色肌の美少女妖怪、丸顔で団子鼻で地味な茶色のマント付き装束を纏うおっさん、黒とグレーを基調色とした端正なデザインの変身サイボーグ、軍服と忍装束を取り混ぜた姿で仮面を付けた五人の集団、金色の肌と金の長髪を持つ女天使、銀色に銅色と金色の太陽を思わせる模様が入った金属色の肌に宝石のような光る目と幾何学的な仮面のような顔を持つ怪獣と同等の体格を有する巨人)

 1960年の日米新安保条約における、日本にもヒーロー/正義の味方登録制度をという要求に当時関わった主なヒーロー/正義の味方です。このうちハイパーマンは日本国外に出現する事もありましたが、初出現が日本で怪獣出現頻度が特に高い日本に最も多く出現した為、日本の正義の味方であると世界的に見なされていました。

 菩薩仮面と七色天女の失踪はありましたが、この中で最後発のハイパーマンを除けば戦後の超人社会の言わば第一世代からより本格的な第二世代に至るまでの過渡期の面々と言うべきでしょう。

 日米新安保条約におけるヒーロー/正義の味方登録制度の導入に対して、彼等の立ち位置は様々でした。

 刑事機械改人サイバーのコーアンナインは警視庁公安部所属、仮面の男服部健児率いる忍者部隊であった忍者捕物隊は陸上自衛隊警備情報課所属の公営正義の味方。

 それ以外の正義の味方は民間人ですが、探偵をしていた特車人間五式は表だって活動し、侍童子シシハヤテとジェットキッドとフューチャーボーイは変身して正体を隠すタイプ、バババの化子はそもそも復員兵についてきた南洋妖怪なので戸籍も無く、アースエンジェルは金鵄髑髏と同じ古代文明の出身ですがあるいはそうであるが故に同じ轍を踏むまいとしたのか国家への所属を拒否しており、そしてこの中では最後に登場した、世界で唯一怪獣を短時間で単独打倒できる輝く巨人ハイパーマンは、この時点では全くの正体不明、突然現れ突然消える存在でした。

 事を複雑にしたのは、第一世代の大人のヒーローであった菩薩仮面と七色天女がいなくなった後の、侍童子シシハヤテやジェットキッド、フューチャーボーイ、バババの化子、特車人間五式が何れも未成年あるいは未成年の姿をした存在だった事です。

 日本武尊や桃太郎、牛若丸、少年少女探偵団の昔から少年英雄の存在に寛容だった日本ですが、大人を上回る肉体と頭脳を持つ彼等について、それでも未成年として管理すべきか大人と同様の義務を課すべきか否か、という悩みは常につきまとっていました。それがこの時点で、政治問題に対する彼等の意見をどうするのか、という形でも問題になったのです。とはいえヒーロー/正義の味方関係で問題になり論議・運動を加熱させたのは、新安保条約に正式に「正義の味方登録制度」として記載された制度の内容と、それにおける様々な付帯事項でした。

 「登録された正義の味方は同時にディ・シィ・コデックスにもヒーローとして登録される」「ディ・シィ・コデックスが定めるスーパーヴィラン指名手配を日本でも適用する」「ディ・シィ・コデックス登録ヒーローの日本での活動憲を認め捜査協力を行う」……

 「ディ・シィ・コデックスにも登録されるという事は同じように反共産主義の制約と国家への協力を強要されるという事であり、「スーパーヴィラン指名手配を日本でも運用する」という事は、前述の情報と組み合わせると所謂マーベラス・コミュニティ同様登録に従わなかった日本の正義の味方はアメリカにスーパーヴィランとして扱われうる事、更にそれら二条項と加え、第三の項目は新安保条約において米軍と自衛隊は相互に防衛の義務を追うが当初密約とされていた在日米軍に対する裁判権は放棄するという約束を組み合わせると、事実上アメリカのヒーローは日本人を逮捕できるがアメリカのヒーローを日本側は逮捕できずかつ日本の正義の味方はアメリカのヒーローに逆らわず協力しなければならないという従属的な関係となる。

 一つ一つは問題無いように見えて論争と成り得る要素を含んでおり、更に組み合わされば大問題となるこれらの条項は、密約が明るみに出たことにより結果的に軍事的な内容と同等以上の大問題となりました。

(左派的なスローガンが書かれたプラカードを掲げ抗議活動をするデモ隊)

 初めは、再軍備反対、戦争反対、東西融和、軍備より民間など、左派的な勢力の活動が主だった新安保闘争。既にある程度大規模な活動でしたが、うち続く怪獣対策問題に対する自衛隊の必要性やガグラ事件の際に米軍の核実験が原因とはいえ在日米軍が壊滅状態に陥るまで積極的に日本を守って戦った事、人類防衛軍HDFという国際協調的名動きに対する感情もあって国民的運動になれずにいました。

 正義の味方達の反応も様々でした。

 元々政府所属のコーアンナインと忍者捕物隊は従いました。

 アースエンジェルは国家への所属を最初から拒んでおり、ハイパーマンはそもそも怪獣と闘う為に出現し倒した後は即座に姿を消すため交渉不能。

 特車人間五式は械人アシモフでした。これは合成人間チャペックタイプの人造人間は〈人間を殺傷できる〉のに対して、械人アシモフでは〈人間を害さない、他の人間の為に止める事は合っても殺しはしない〉……アシモフ博士の3プログラムが共通のベースになっている為に、脅威たり得ないからこその共存で。

 そうであるが故に人間に対して従順な特車人間五式は共存以外の選択肢はありませんでした。

 それに対して、バババの化子は明確に拒絶しました。

「お化けがお上の手先なんて冗談じゃない。お化けにゃ兵隊も、警察も、資本家も環境汚染も何にもないのよ!」
(バババの化子、正義の味方登録制度について問われ答える映像)

 悪い妖怪をやっつけるとはいえ復員兵や子供や良き妖怪や自然に寄り添う存在であり、古代からの自由で牧歌的な社会を愛する化子は、アメリカのスーパーヒーローみたいに政府に従って従軍し好いてついてきた復員兵の片腕を奪った戦争の片棒を担ぐなんて真っ平御免だと啖呵を切ったのです。

 第一世代の正義の味方・菩薩仮面の弟子筋にあたる侍童子シシハヤテ、ジェットキッド、フューチャーボーイは悩んだと言われています。社会的、政治的な理由によって菩薩仮面の活動は阻止された、だからそれを許さないか、だからこそ社会と融和すべきか。

 その判断に影響を与えたのは、ゴハンマンでした。彼はその名の通り食事を作り出す能力を持つインパール作戦を勝利に導いた元超人兵士で、能力の応用で体内で生み出した栄養を直接勝つ急速に肉体に注ぎ込み身体強化を行ったり、炊事という概念を応用する事により熱や蒸気を操りあまり得意ではありませんが飛行する事も可能で、食事を振る舞うという概念の拡大解釈でお腹を空かしている人を探知する能力を持っていました。

 その活動理念はシンプルな唯一つ。餓えた人を救う事。

「反革命的なルンペン超人、人民の阿片、魚の釣り方ではなく魚を与える革命の敵」
「市民の労働意欲を削ぎ、自助努力、自主自立、立身出世のアメリカンドリームを毀損する共産主義の手先」
「アカのドン百姓」
「我々が間違っているとは考えない。彼は“過剰トゥーマッチ”だ」
「自由民主主義社会の秩序というより大きなものを守らなければならない。我々こそ正しい、彼は間違っている」
「ずるいぞ、その人気は私のものになるべきだったんだ! 今すぐゴッサンGod‘s Sonシティの貧民街にハンバーガーとホッドドッグをトラック100台分づつばらまくぞ! アーサーコープの一大CMを打つんだ、ゲイン・エンタープライズ社とスタールインダストリーの対する批判キャンペーンもだ!」
(それぞれソ連新聞ナスタイヤシ現実紙の論評、米国新聞デイリースター紙の論評、アメリカンヒーロー・ミスターUSAのコメント、アメリカンヒーローにして米三大企業スタールインダストリー社長メタルプレジデントのコメント、アメリカンヒーローにして米三大企業ゲインエンタープライズ社長ゴーストクルセイダーのコメント、アメリカンスーパーヴィランにして米三大企業アーサーコープ社長アレックス・アーサーのコメント)

 風采が上がらず戦う事もしない彼をアメリカのヒーロー達が”かっこわるいから”馬鹿にしていたというのは当時の安保反対運動で配られた冊子に書かれていた絵物語の拡大解釈で誤解でしたが……彼が多数の他国のヒーローや他国そのものから問題視されていたのは事実でした。

 彼は求める声があれば何処へでも行きました。他国だろうと東側諸国だろうと、飢え死にしそうな人が飢え死にする前に助ける為に一直線に。

(空をよたよたと低速低空で飛ぶゴハンマン。世界各地に出向いている為、各国のニュースなどの様々な映像に残っている)

 だから当然密出入国の常習犯でしたし、軍事機密地域の上だろうが気づかず飛びましたし、その過程で管理状況が悪くて囚人が餓えている刑務所や強制収容所にも行きましたし、貧民街にも行きました。

 彼は西側からすれば東側に物資を援助する利敵行為者・売国奴であり、無料で食料を配る共産主義者で、何処の国にもある貧民街の問題を抉り出す活動家で、貧富の対立を煽る革命家でした。

 そしてディ・シィ・コデックスに所属するヒーローからしてみれば、ミスターUSAのような愛国主義的なヒーローからすれば愛する祖国の不完全性をえぐり出す存在であり……同じ国旗を背負うヒーローであったソルジャーステイツは寧ろ彼が明らかにした問題をなんとかしなければと思う人格者でしたが……生前のアダムマンのような企業所属ヒーローにとっては社の敵であり、ゴーストクルセイダーやメタルプレジデントのような富豪・社長系ヒーローにとっては、己が立脚する資本主義の否定であると同時に、己のヒーロー活動、そして表の顔である富豪としての慈善活動自体が、至らない偽善ではないかと突きつける存在でした。

 ついでに言えば大富豪系スーパーヴィランのアレックス・アーサーも、資本家としての反感と名前が売れている事に対するジェラシーからやっぱり彼の事が大嫌いで、それがまた富豪系ヒーローを、結局自分達はアレックス・アーサーと同じ穴の狢なのではないかと悩ませました。

 一方彼は東側からすれば、平等を標榜する社会が実際にはまるで平等では無い貧しい圧制である事を全世界に暴露する存在でした。

 唯良くあろうとしただけなのに、彼はこの件で反対派と区分されました。

 彼の素顔は戦中は兵士だったとはいえ戦後は帰農した唯の普通の農家だったのに、彼こそが世界の矛盾の体現者でした。

 そうであるが故に、それぞれの陣営の人間も、ゴーストクルセイダーやメタルプレジデントのファンも、アレックス・アーサーとその配下も、彼を憎みました。

(ニューヨークのスラム街で食料を配っていた所を密入国を理由にミスターUSAに追いかけ回され慌ててよたよたと空に飛び上がって逃げるゴハンマンの映像)

 だけど戦後日本の子供達は皆、ひもじい思いをしているとやってきてご飯を奢ってくれる彼の事が大好きでした。同じ正義の味方である侍童子シシハヤテやジェットキッドやフューチャーボーイも。

 だから彼等は納得するまで調べようとして、結果的に正体を隠して少年記者手伝いをしていたジェットキッドが密約の存在を見つけ出し、公にしました。

 それを見て、侍童子シシハヤテとジェットキッドとフューチャーボーイは安保反対で行くと腹を決め、これで日本の代表的ヒーローのこの件に関する意見は、賛成3反対6棄権1。

 そして、この正義の味方登録制度の詳細発覚により、事態が大きく動いたのです。

(国会議事堂の前を埋め尽くす抗議活動。客が一人も居ないガラガラの後楽園球場で嘆息し試合を中断する野球選手達)

 当初左派を押さえ込む為に政府が協力しようとしていた右派勢力は、かつて軍と一緒に戦った超人の子供世代が合う憂き目を許容できませんでした。

「これは再びのGHQだ。あんたらは国内にまたGHQを作る気か! もう二度と奪わせんぞ。もう二度と、菩薩仮面も七色天女も奪わせん!」
(当初政府に密かに依頼され左派の運動と対立していた右派組織の面々が条約の内容を知って政府の使者に激怒し叫んだ言葉)

 ジェットキッドがついでに暴露した、協議の為訪日したジェイムズ・グリーン報道官が「日本のセイギノミカタとやらに、世界標準たるアメリカンヒーローの公正を重んじるあり方を教育しなければならない」「そもそも日本語の正義という言葉が駄目だ。正義ではなくジャスティスに従わなければならない」等の傲岸不遜な発言をし、それに日本の政治家が阿諛追従していたという事が特に彼等を激怒させました。

 それは正義の味方達にとっても衝撃であり、影響を与えました。

 正義とは「1.人道に適う正しい事柄。2.正しい意思・大義ないし解釈・理解。3.人間社会の評価基準で、それに反した場合厳格な制裁を受けるべきとされる規範」(大辞盤・第二版より)。ジャスティスとは「1.人が法で裁かれ、犯罪者が罰される制度。2.フェアネス公正。人々の扱いが公平である事。3.ライト正しさ。公正な扱いを受けるに値する性質」(ショートマン現代英英辞典・第三版より)。

 同じ言葉として翻訳されるこの二つの言葉の微妙な違いを、この後日本の正義の味方は意識するようになります。

 それはともかく。

   そして、右派でも左派でも無い普通の人達の中にも、声を挙げる人々が多数出てきました。

 戦前から戦中、戦後にかけて、紙芝居やラジオや活動写真で、金鵄髑髏や神兵太郎、八紘犬士や天空侍や冒険王弾鉄達の活躍を聞いていた老人達。

 昔戦場で超人兵士に助けられ生き延びた帰還兵だった市民。

 戦後の混乱期に、菩薩仮面や七色天女に助けられた人々。

 立ち直り行く焼け跡のラジオや紙芝居で、漸く放送の始まった白黒テレビで、菩薩仮面や七色天女の活躍を見守った青年達。

 漫画雑誌やテレビで、それどころか時に直接、侍童子シシハヤテ、ジェットキッド、特車人間五色、フューチャーボーイ、バババの化子達と友達として育ち、時に特車人間五式に暴走機械から助けられ、時に三態人間や人食茸や吸血怪物から侍童子シシハヤテやジェットキッドやフューチャーボーイの手で守られ、時に生まれつつあった都市伝説をなんとかする為に化子ちゃんに手紙を書いた子供達まで。

 そして何より、次々現れる怪獣災害を忽ち解決したハイパーマンの輝きを仰ぎ見た全ての人々が声を挙げました。

 轟々たる国民的運動となり、銀座も後楽園もガラガラになり、ついでに日米離反を目論んで活動していたソ連の超人スパイが「我が祖国では我々超人はこんなに皆に思いやられ慕われてはいない! 非情な祖国と比べ、ここはなんて優しい国だ!」とおいおい泣き出して正体を露にする珍事まで報道され……

 あまりの運動の加熱に、アメリカも怖じ気づきました。ただでさえ朝鮮半島の不安定化が著しく、キューバ危機で経済制裁を譲歩せざるを得なかった中で、これ以上の西側からの脱落者は避けたかったのです。

「まずい、と、私は父の回顧録を思い返していました。父は出世欲と名誉欲と自己顕示欲の権化で公私共に問題のある人物でしたが、かつてこの国と関わっていた時、この国の国民と超人が皆命を捨てて戦う事、この国の民の天皇エンペラーのような敬愛に値する存在への思いの強さ、それらを考えて『背筋を伸ばし礼儀を唯して彼等の名誉を扱わなければ命取りになる。ひょっとしたら、いずれ問題が起きるかもしれない』と言っていました。敵を評価する公正な己を示すという自己顕示の意識もあったかもしれませんが……あれで案外臆病な父は、あるいは本気で、どこかで日本の超人に襲われる事を畏れ続けていたのかもしれません」

 戦中は将軍であり戦後初期はGHQの代表を務めていた富豪系スーパーヴィラン、アレックス・アーサーの息子で父とは対立していたアレックス・アーサーJr駐日大使の当時の手記は、アメリカの強い危機感の代弁者でした。

 そして、決定的な事件が起こりました。

 朝鮮半島の南北国境を突破しようとしたゴハンマンが東西両陣営軍から攻撃され、それをアースエンジェルとハイパーマンが救助したのです。

 ハイパーマンが怪獣などの人類以外の存在から人類を守る為ではなく、人類同士の争いに介入したのはこの時が最初で、大きな衝撃を持って迎えられました。

「……ヘッヘッヘ、心配シナイデホシイ……コウイウ介入ハ本来シタクナイ……君達ニハ自由デアッテホシイ……今回ハソノ……ツイ見テラレナクテ……」

 光バリアで砲撃を遮断した後、意識を失ったゴハンマンを背負って仰天するアースエンジェルにへどもどしながら下手な日本語で語ったその言葉は、彼と人類の初めての対話で、金属の像を思わせる姿から弥勒だとも、天より下り月のような光の刃を用い十字の光を放つ事から神や救世主だとも思われていたハイパーマンが、あくまで神ではなく宇宙の人類である事を人間が理解したファーストコンタクトでしたが……

 それは兎も角この一件は正義の味方の活動に関する本格的な干渉であり、そしてこの時の迎撃部隊には東西両陣営の超人兵士が混ざっており、自分達もそういう事をさせられるかもしれないと、特車人間五式が慄きます。

 そして、日本の政治家からも声が上がりました。

「そもそもハイパーマンを我が国の超人として登録してしまって本当にいいのだろうかね。また、出来るのだろうかね。いや、ディ・シィ・コデックスにも登録されるから同時にアメリカの超人であるともされるんだろうが、それもいいんだろうかね」
(当時の議員の国会での意見)

 よりによって突然出現し怪獣退治が終われば忽然姿を消すコミニケーションの取りにくいハイパーマンが、この時代最強の超人でした。

 人を庇う為に自らの身で怪獣の炎を受け止め、盾となり、落下しそうな人間を優しく受け止め、静かに、微笑むように見守る。そんなハイパーマンが正義の味方である事は誰の目にも明らかでしたが、それでも尚、突出した存在でした。

 30m以下の怪獣でも打倒するには複数の超人を必要とします。これが4~50m以上となると、国家単位で集合アッセンブルするか核兵器を使うか同じ怪獣が戦うかより他無く、破壊怪獣ガグラや金光星龍ズメルゴのような強大な個体相手ではそれでも尚手に余る事もありました。

 そんな怪獣を次から次へと打倒するハイパーマンは、核兵器を搭載したミサイル基地や原子力空母艦隊にも遙かに勝る戦力だという事が可能でした。

 それを日本が「所持」してしまっていいのか?

 それは冷戦のバランスを崩す危険があるという、言わば妥協の言い訳が見出されたのです。

 結果的に日米新安保条約は正義の味方登録制度部分を骨抜きにする形で締結となり、合わせてそれまで曖昧にされていた械人アシモフ合成人間チャペックの知的生命体としての人権・戸籍登録に関する法律も整理され運動は一段落を迎える事となります。

 ……尤も、一旦立場を等しくしたとして、実際の違いをどうしていくのか、人と超人が対立したら、人対超人の戦争が起こったら、という不安の種は、国際的に燻り残ってしまう事になるのですが。
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