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・第三話「転夢」
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私の名前はドリムリーパー。夢を跳ね渡り、夢を終わらせる夢の死神。ドリーム・リープ・グリムリーパー。ドリムリーパーよ。
今日の私の時計の服は、ショックに耐える為に黒い合成樹脂で覆われていた。私は雨の降る夜の町の中を、人がぼんやりと空想しながら窓の外の光景の中を走らせる忍者の様に、けれど、そんな忍者と違って車の窓から視認されないように注意しながら、夜の町を走る車を追いかけていた。
車はもう随分走っている。夢を見る人にとっては憂鬱なシチュエーションかもしれない。けれど、車の窓から見える、車内の計器等が放つ僅かな明かりは、まるで寝室の常夜灯の様に穏やかで柔らかだった。
だから、私は走っている。その夢を守る為に。
あの中にはこの夢を見ている人が、子供時代の姿で乗っている。家族と一緒に。生憎の天気だけど、少し遅いけど、誕生日なのでレストランに連れていって貰うのだ。
あの子はもう大人で。家族はもう居ない。この夢を覚えて起きるかどうかは分からない。覚えて起きたら、悲しくなって泣いてしまうかもしれない。
けれど、夢の中とはいえ懐かしい家族に会えた事を、もしかしたら夢に感謝してくれるかもしれない。家族と会話をしながら、この夢の中では辿りつかないレストランを思い、来た事の無い地域の夜の町の良く見えない輪郭と、雨のお陰で奇妙に反射する街灯や信号の明かりに、わくわくしている、小さな子供だったあの人は。
「だから」
私は鳥の骨を象った幻想で出来た、夜の夢を切り裂く鎌【明日の朝】を構えた。
「あんた達はお呼びじゃないのよ」
ぶりゅん、ぶりゅん、ぶりゅん、と。擬音をつけるならそんな感じで。けれど、降り注いでいるのにしない雨の音と同じように無音で、湧いて出るそいつらに告げた。安いCGみたいな水色の、流体めいた不定形の体。安いCGみたいなベタ塗りの黒い目。あの車から見えない範囲の、マンホールから、側溝から、家の窓から、家のドアから、小川から、湧いて出てくる奴等。『青い怪物のいる夜』という名の悪夢に。
「あんた達が出てきたら、夢の印象が変わっちゃうでしょうが」
単純な姿なのに、何故か見た人間に恐ろしいと思わせる存在。この夢に割り込み夢の内容を途中で変えようとするそいつらに、私は怒って圧し殺した声でそう威圧した。こいつらは行動を変える存在ではなく唯の現象だが、言わずにはおれなかった。
夢というのは後に見た方が起きたときも覚えていやすいものだ。大脳を研究する学者は何か言うかもしれないが、それがドリムリーパーが認識する夢の世界の経験則だ。こいつらが出てきたら、家族の夢を覚えていられる可能性が減ってしまう。
覚えているかはそれでもわからないし、この夢を喜ぶかどうかも分からないけれど。
「消えなさい、悪い夢!」
全ての人間の悪い夢を消せるわけではないし、良い夢からも人間を目覚めさせなければならない。あの子は、道中の夢を見る事は出来ても、レストランの夢を見る前に目覚めなければならないのだ。私が目覚めさせるのだ。
それでも。涙かも知れなくても感動かもしれなくても、この夢があの人には必要だと私の本能が訴えるのだ。
だから、夢特有のあやふやな空間を、私はこういう夢を見ているのだと明晰夢化する事で定義づけて突き進む。私はこうしたのだ、こうなったのだと、目覚める寸前まで意識を高めて状況を確定させながら、青い悪夢達を切り裂いた。叩き潰した。薙ぎ払った。全滅させた。
私はドリムリーパー。夢を跳ね渡り終わりを齎す者。夢の死神。
ドリーム・リープ・グリムリーパー。ドリムリーパー。
何時の夜も、見守っている。
今日の私の時計の服は、ショックに耐える為に黒い合成樹脂で覆われていた。私は雨の降る夜の町の中を、人がぼんやりと空想しながら窓の外の光景の中を走らせる忍者の様に、けれど、そんな忍者と違って車の窓から視認されないように注意しながら、夜の町を走る車を追いかけていた。
車はもう随分走っている。夢を見る人にとっては憂鬱なシチュエーションかもしれない。けれど、車の窓から見える、車内の計器等が放つ僅かな明かりは、まるで寝室の常夜灯の様に穏やかで柔らかだった。
だから、私は走っている。その夢を守る為に。
あの中にはこの夢を見ている人が、子供時代の姿で乗っている。家族と一緒に。生憎の天気だけど、少し遅いけど、誕生日なのでレストランに連れていって貰うのだ。
あの子はもう大人で。家族はもう居ない。この夢を覚えて起きるかどうかは分からない。覚えて起きたら、悲しくなって泣いてしまうかもしれない。
けれど、夢の中とはいえ懐かしい家族に会えた事を、もしかしたら夢に感謝してくれるかもしれない。家族と会話をしながら、この夢の中では辿りつかないレストランを思い、来た事の無い地域の夜の町の良く見えない輪郭と、雨のお陰で奇妙に反射する街灯や信号の明かりに、わくわくしている、小さな子供だったあの人は。
「だから」
私は鳥の骨を象った幻想で出来た、夜の夢を切り裂く鎌【明日の朝】を構えた。
「あんた達はお呼びじゃないのよ」
ぶりゅん、ぶりゅん、ぶりゅん、と。擬音をつけるならそんな感じで。けれど、降り注いでいるのにしない雨の音と同じように無音で、湧いて出るそいつらに告げた。安いCGみたいな水色の、流体めいた不定形の体。安いCGみたいなベタ塗りの黒い目。あの車から見えない範囲の、マンホールから、側溝から、家の窓から、家のドアから、小川から、湧いて出てくる奴等。『青い怪物のいる夜』という名の悪夢に。
「あんた達が出てきたら、夢の印象が変わっちゃうでしょうが」
単純な姿なのに、何故か見た人間に恐ろしいと思わせる存在。この夢に割り込み夢の内容を途中で変えようとするそいつらに、私は怒って圧し殺した声でそう威圧した。こいつらは行動を変える存在ではなく唯の現象だが、言わずにはおれなかった。
夢というのは後に見た方が起きたときも覚えていやすいものだ。大脳を研究する学者は何か言うかもしれないが、それがドリムリーパーが認識する夢の世界の経験則だ。こいつらが出てきたら、家族の夢を覚えていられる可能性が減ってしまう。
覚えているかはそれでもわからないし、この夢を喜ぶかどうかも分からないけれど。
「消えなさい、悪い夢!」
全ての人間の悪い夢を消せるわけではないし、良い夢からも人間を目覚めさせなければならない。あの子は、道中の夢を見る事は出来ても、レストランの夢を見る前に目覚めなければならないのだ。私が目覚めさせるのだ。
それでも。涙かも知れなくても感動かもしれなくても、この夢があの人には必要だと私の本能が訴えるのだ。
だから、夢特有のあやふやな空間を、私はこういう夢を見ているのだと明晰夢化する事で定義づけて突き進む。私はこうしたのだ、こうなったのだと、目覚める寸前まで意識を高めて状況を確定させながら、青い悪夢達を切り裂いた。叩き潰した。薙ぎ払った。全滅させた。
私はドリムリーパー。夢を跳ね渡り終わりを齎す者。夢の死神。
ドリーム・リープ・グリムリーパー。ドリムリーパー。
何時の夜も、見守っている。
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