殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達

博元 裕央

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・第五十六話「蛮姫愛を語る事(前編)」

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なんち?」

 と、軍議の席上、軍議とはまた違う形で話を切り出したカエストゥスにアルキリーレは眉を潜めた。……そんな反応をしたのは、さっきまでの懊悩がまだ胸の内に残っているからか、と、アルキリーレはそれで自覚した。

「……私達五人で話した事だ。私達の間での相談だが、今、それがアルキリーレに必要だと思う。聞いてくれないか」

 カエストゥスの言葉に、ペルロ、レオルロ、チェレンティ、アントニクスの四人が頷く。アルキリーレの回りの男達。彼らをアルキリーレは見回す。

「おいおい、おいば仲間外れか?」

 男だけで何を? と、冗談めかして笑うアルキリーレだが……男達の表情は冗談ではない事が分かった。

「仲間はずれじゃないよ、ただ、そのね」
「……同じ女に恋した男同士の話し合いって奴ですよ」
「……どげん話じゃっど?」

 続けてのレオルロとペルロの発言に、アルキリーレはどきりとして。問うた。何か、変化が訪れる予兆を感じながら。

「みっともない話さ。ただ、こう結論づけた」
「我等五人同じ女を愛するも、故にこそ同じ女を幸せにする事を己の恋より優先する事を共に誓わんってな。要は恨みっこなし、アンタを幸せにしたいって事だぜ」

 それに対してチェレンティが苦笑で〈みっともない〉部分の詳細は別にアルキリーレが気にする必要のある事じゃないさと流し、そしてアントニクスが言葉を結んだ。

 自分の恋よりアルキリーレの愛。紳士協定でもあるが、同時にそれはアルキリーレへの真摯な思いへの現れでもあって。

「アルキリーレ。今君は悩んでいると思う。悩む事は苦しい事だ。だが、アルキリーレの幸せを何より願う男がここに五人もいる。悩みを話してくれ。支える。助ける。絶対に……私達が貴方に助けられ守られてきた分以上に、思いを返したい」

 恋愛巧者の国の男達としては拙い言葉でもあったが、五人もの意図と国家存亡の危機、愛に不慣れな女が絡んで、女の幸せを最優先したいという思いをその状態で貫いた結果の結論だからこそ、不器用ながら力強い重みがあった。

 その想いを束ねて、カエストゥスがアルキリーレに伝えた。

「……そげんか。確かに、仲間はずれじゃ無かとな」

 それに対するアルキリーレの言葉は今度は男達が不思議に思う番だったが、今悩んでいた事とは少し違うけど正にアルキリーレも似た事を考えてはいたのだ。故にアルキリーレは先程迄の苦渋を一旦薄れさせ、僅かに微笑みをすら浮かべていた。

おいも思うちょった。今考えてかんぐってた事とは別じゃっどん、もしおいが、誰か一人ば好いとうと言うて、そいで仲が崩れてゆっさに負けもうしたら、末代の恥じゃとな。いや、誰と末代を作るかの話しじゃで、下手をすればおいが末代かもしれんがの」
「気持ちは分かるが尾籠な上に縁起でも無い!?」

 思わず突っ込みを入れるレオルロ。とはいえ表現方法は多少アレだが、笑うアルキリーレは一人の生身の人間の女として、男達を気遣い男達に気遣われ、そんな関係を楽しみつつ壊すことを理由に恐れつつ、複雑だが繊細な人の心、人の恋、人の愛を、かつてと違い確かに感じている様子だった。

「ともあれ、何でこんな話をしたかというとな」

 チェレンティがその後に言葉を挟んだ。重ねて、アルキリーレの悩みについて話題を移す。話題を反らさない為に……アルキリーレに気遣わせたり、あるいは逃げさせたりしない為にも。アルキリーレはこの話題から逃げてはいけない、例え気遣いからでもだ、と。

「必要な気がしましてね。アルキリーレ。もう一度改めて言いますが、今、貴方……悩んでおられるでしょう?」
「っ」

 そしてペルロ十八世が宗教者らしい人の心の揺らぎに寄り添う者としての目で見通してアルキリーレに挑んだ。アルキリーレは息を呑んだ。正にその通りなのだ。様々な苦悩、様々な責任、様々な迷いが、今アルキリーレの背に圧し掛かっている。

 それは担うべき者が担わなばならぬものと、共に解きほぐさなければならないものの集合体だ。故に男達は言わねばならぬ事がある。戦をアルキリーレに背負わせた弱者としての責任としても、女を愛する男としても。逃げる者は一人もいない。

「……まず戦についてはだ。アルキリーレ、君が神が遣わした戦乙女の如く強いのは皆知っている。だが君が一人の人間の女性である事も、戦乙女でも逆さにして振れば勝利が出てくる魔法の壺でもない事も知っている」

 それ故に、カエストゥスは改めて戦の事について、訴えたい事を訴える事にした。ペルロやチェレンティも、そんなカエストゥスの思いを認めて小さく頷く。

「アルキリーレ。君の事は愛しい女性だと、共に戦ってくれた仲間だと思っている。だが、君はレーマリア人じゃない。レーマリアが滅ぼうとしていても、レーマリアに殉じる必要なんてどこにも無いんだ」

 無論、アルキリーレが今のレーマリアに欠くべからざる人材である事は分かっている。だが。それでも明らかに、道義的にも単神教モナドの教義としても、アルキリーレがレーマリアに殉じねばならぬ理由が無いだけでなく、レーマリアにアルキリーレに殉じよと命じる権利など無いのだ。そして何より、女を泣かせて存続せねばならぬ国などあるものか、と言うのがレーマリア男魂なのだ。

「言いたかこつはよっく分かっど。じゃっどんおいはこう言うど。何ば言うちょるか、おいが負けっとでも思うちょるか、とのう」

 アルキリーレはカエストゥスの意図を察した。察した上で、でもそう言った。どう勝てばいいか、まだ悩んでいる。それでも、そう言いたいと思ったのだ。

「……でも、どうして、そこまでするの? 戦の趨勢だけじゃなく戦そのものについて言わせて。アルキリーレだって……殺戮が好きなわけじゃないだろ?」
「!?」

 それにたまらずレオルロが問う。何故そう思う。なぜそう言う。二つ目の問い。アルキリーレは咄嗟に、己が殺しを倦みつつある事を告げたアントニクスを見たが、いいやとアントニクスは首を振った。これは皆が各自に気付いた事だと。レオルロはそれこそ、好きな事として研究をしているからこそ、それを鋭敏に感じ取れたか。アルキリーレが今戦場で感じていた悩みの一端を。

「僕も。兵器の発明は最初は新しい分野に知的興奮を覚えたけど。……今の思いはアルキリーレと同じだ」

 重連弩機ヘビーマシンボウを使って思った事、アルキリーレとレオルロ、感情は共通していたか。アルキリーレは、流石天才だ、お見通しのバレバレかと苦笑して。

「……成程のう。ゆっさばすっ理由か、どがんしてじゃろな……」

 アルキリーレは、苦笑して首をかしげた。成程、自身でも分からない。何故こんなに戦おうとしているのか。戦の趨勢について悩みながら、戦そのものについて悩みながら、そしてそこから派生する、己はどう生きれば良いのかという悩み……いや。

 ふとアルキリーレは、その三つの悩む理由に、繋がる一つのものを、アルキリーレは遂に見た。それを確かめるために、アルキリーレは問う。

「のう。お主等おはんらお主等おはんらこそ、何でないごてそげんしてくれっど?」
「そんなの」
「それは」

 アルキリーレは問い、その問への答えを言いかけて、男達ははっとした。

 アルキリーレが強いからでもアルキリーレが美しいからでもない。いや、それは切っ掛けとしてあったが。

 アルキリーレを、愛しているからだ。

 それを見て、アルキリーレは笑った。心底嬉しそうに。

「……そうか。こいが、私のあてん愛か」

 戦術戦略的な悩みを解決する為の原動力。戦う事への悩み、そしてそこから派生する、生きる事愛する事への悩み。その悩む理由は、皆への愛だ。

 愛しているから守る為に勝ちたい、愛しているから愛されるに値する己でありたい、愛しているから愛されたい。故に悩んでいたのだ。

 答えが、アルキリーレに訪れようとしていた。
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