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・第六十話「決戦の事(後編)」
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「チェエエエストオオオオオッ!!!」
「「「う、うおおおおっ!!!」」」
アルキリーレが吼えた。それに騎兵達の叫びが続く。
執政官親衛隊、教帝近衛隊、剣闘士隊等長きの鍛錬による生粋の精鋭と、ここまでの戦でそれに次ぐ精鋭のレベルに成り上がった各地方軍団・国家軍団の騎兵達が、突撃を敢行したのだ。
「(見えた、獲物の急所!)雑魚は構うな!切り捨て突き捨て払い除け突き進め!」
川際の敵騎兵は携帯投火機の火炎地獄で悶えている。辛うじてそこから射程距離街に難を逃れた残りの混乱する騎兵達と歩兵隊の合間。アルキリーレは獲物の首を正確に捉える獅子の眼光でその穿ち抜けに最も適した境目を見抜き、そこに己を先頭とする騎兵隊を楔の如く穿ち、雪崩れ込ませていく!
「チェストォッ! KIEEEEEEE!!」
「あばっ!?」
「「「ぎゃああっ!?」」」
最初に立ち会った敵騎兵が鉈薙刀に槍ごと唐竹割りにされて落馬する。続く敵騎兵は鉈薙刀の大回転に巻き込まれ、たちまち左右に吹き飛ばされた。
レベテ川の方に吹き飛ばされた敵騎兵は悲惨である。仲間が燃える火炎地獄に真っ逆さまだ。反対側に吹っ飛ばされた敵騎兵はまだましだが、騎手を失って混乱した馬が突っ込んでくる東吼歩兵が今度は不幸だ。
「(成る程!)おおおおおっ!!」
そんなアルキリーレの武に「払い除け」と彼女が行った理由を正確に理解して、アントニクスの鉄棍が唸りを上げた。右に左にぶっ飛ぶ敵騎兵。ある者は炎に落ちあるものは味方隊列に馬を突っ込ませ、一際哀れな者は味方の槍衾に串刺しとなる始末。
「止めろ! 止めろーっ!」
「止まるなぁっ!」
騎兵隊では阻止しきれないと、歩兵部隊と射撃部隊が決死の阻止を仕掛けてくる。
軽騎兵を含め射撃を挑んでくる弓に対し、元の弩騎兵部隊長が猛然と騎兵連弩の連射を打ちかけて怯ませ、槍騎兵隊副隊長や槍騎兵隊隊長が歩兵隊も蹴散らかす。
「良か! 良か兵子、良か武家者……良か勇武ぞ!」
「光栄!」
「恐悦至極!」
アルキリーレとの手合わせでは吹っ飛ばされたり振り回されたりして良い所無しだった彼等も、今や立派に成長したのだ。
「まっこて、私に残せっものがあっじゃろうかち思うちょったが……育ったもんじゃ、愛しか子等じゃ!」
カエストゥスが私に愛をくれた。ペルロが私に広い世界をくれた。ならば私は何を誰かにあげられるだろう。レオルロが様々な美術品や技術を残すように、私は何を残せるだろうか。
……残せたのだチェストを、チェストが伝わった結果としての勇武を!
「チェスト!」
昨晩の会話の結実が、アルキリーレの刃に更なる力をもたらす。頑丈な鎧に馬諸共身を固めた重騎兵を先頭に立って次々切断!
「死ね! レーマリア兵! 死ね!」
「ぐうっ……!」
だが次々と襲いかかる生き残りの騎兵の弓矢、槍、曲刀、歩兵の槍、射撃兵の弓!
溜まらず倒れる者も次々! 折角アルキリーレの心を継いだ子等が!
「おのれっ!」
「させっかよぉっ! お前等気張れぇ! 剣闘士根性見せろぉ!」
「行くぞぉっ!」
「こっち見ろやぁっ!」
「行くぞぉっ!!」
剣闘士達を率いて前に出る! 敵はレーマリア兵に死ねと言っているが、剣闘士の力を見せてやれと叫ぶ! 剣闘士達も一斉に呼応! 俺達こそが花形役者よと、アルキリーレの兵達を守る為に進んで窮地を引き受け身を盾にして力戦血闘!
「追え! あの背を! 追え! 黄金の獅子を、いや彼女を一人にさせるな!」
「「「おおーっ!」」」
後続の兵士達もそれを見て奮い立ち後に続く!
「彼女を一人にしたら女達に怒られるぞ!」
「「「おおおおおっ!?」」」
……若干滑稽な気合の入れ方がどうしても混じるのがレーマリア気質だが。
「っ、あいつら……はは、私達も行くぞ!」
「おおっ!」
それは戦場の緊張の中でアルキリーレを癒す。昨夜語らったこれまでの思い出。暖かく愛おしいレーマリア。守ろうという思いが湧く。吼える。兵が応える!
思えば故郷では、兵と心が一体になる事も無かった。アルキリーレは統一と平和を見て、兵達は栄達のみを見ていた。故に今、アルキリーレは兵の質に劣る今こそが、将兵心一体の最盛期かもしれなかった。
「皆! 戦おう! 彼女を追おう! 彼女より遅れて突撃してはいけない!」
「私達の国を異なる国の人までもが守ろうとしている! 我等が奮い立たずしてどうしますか! 単神そを望みたもう!」
「ボルゾ家郎党、前進! 前進だ! 我等の故郷を守る道はその先に!」
そんなアルキリーレの戦いぶりを気球の観測兵が見て、レオルロが本陣に伝える。それを聞いてカエストゥス、ペルロ、チェレンティが必死に全軍を鼓舞する。あのレーマリア軍が退かず、じりじりと敵軍と押し合う!
そして、遂に。
「抜けたっ!!」
「おおっ!!」
アルキリーレ率いる一団がベレテ河岸の騎兵隊を突破し、横から妨害してきた歩兵部隊・射撃兵部隊を振り切った!
「チェーストーッ!!」
同時にアルキリーレが武器を持ち替え斧を投擲! 斧は放物線を描き彼方へ飛び……
「〈天よ〉おごおっ!?」
「ぱ、大臣ぁあっ!?」
正面からの射撃への防御は固めていた簡易祭壇に斜め後方から突き刺さり宗教大臣ジャヴィーティアの禿頭を粉砕! 祈祷僧侶兵達の驚愕! 神秘攻撃途絶!
「まだじゃ、こっかぁが本番ぞ! ついてこい!」
再び鉈薙刀を手に取り金の鎧も金髪も血塗れでアルキリーレが吼える。狙う皇帝の首一つの前に、まだ獣騎兵、親衛隊、そして……
「っ、大丈夫、か!?」
馬を強いて己に並んだアントニクスが荒い息で叫ぶ、血に塗れたアルキリーレを労る。その体を。そして何よりその心を。
「行きましょう!」
「行って下さい!」
「ご武運を!」
「……ああ! チェスト決めてやっど!」
一瞬目を瞑るアルキリーレ。炎に巻かれ、刃で、恐怖と共に絶命する敵兵達、次々脱落していく味方兵達。だが、皆必死に叫んでいる。アルキリーレを守ろうとしている。先に進んでくれと逝く兵に祈られた。獅子の五感は苦しみも逃さぬが祈りも労りも逃さぬ。故に、それを堪える!
「来たか! 獣騎兵、構え!」
輿から戦場へ置いた玉座から立ち皇帝メールジュク一世は手を掲げ命令。
ヴァーンヴァーンヴァーンン! ヴァーンヴァーンヴァーンン!
「パフラァアアアアア! パフラァアアアアア!」
一斉に鳴り響く本軍軍楽隊。それに呼応して、武器を取り付けた鼻と牙を高々と掲げ、巨大な頭を打ち振って城象獣達が吼える!
「ッ……!!」
城象獣の存在は牙を圧倒しうる。このままでは隊烈が崩れる。
「チェストォオオオオッ!!!」
対抗する為にアルキリーレは吼えた。だがアルキリーレは味方を鼓舞する王者としての獅子の神秘は使えぬ。ただ敵を圧倒するだけだ。だから防ぎきれぬなりに、この方向で幾らかでも城象獣を威圧しその圧倒を幾らかでも低減……
「「「「「チェストォオオオオッ!!!!!」」」」」
「「「「「ヒヒィイイイインンッ!!!!!」」」」」
「!!」
アルキリーレの叫びに、皆が呼応した。馬達までもが高く嘶いた。動揺し脱落する馬は居なかった。アルキリーレは目を見開く。即ち、この瞬間。アルキリーレは使えなかった鼓舞の神秘を放っていた。王者として欠けた器が満ちたのだ。
「獣騎兵、突撃!」
「行くぞおおおおっ!」
騎兵隊対獣騎兵、激突!
アルキリーレは正に王者の如き疾走を見せた。右に左に馬蛇行させ城象獣上の櫓から従卒兵達が櫓の上か放つ矢をかわし、逆に斧を投じて櫓の中の象使や従卒兵を叩き落としていく。
斧の残りが少なくなれば従卒兵達が櫓の上から突き降ろしてくる槍を奪い、鉈薙刀と共に振るうだけでなく時に櫓に投げつけ時に城象獣の目を使い捨てに貫く。
「おおおおおっ!」
アントニクスも負けじと、近づかれまいと振るわれる華突の煮付けたれた武器、象鎧につけられた鎌刃を鉄棍振るい次々打ち砕いていく。その上で城象獣の急所である足の付け根を狙うが……
「クソっ、手堅いっ!」
そこには一際念入りに動きを阻害しない鎖帷子と衝撃吸収の刺子鎧。
「構うな! そんまま敵ん武器ば砕き続けい!」
アルキリーレが叫ぶ。背後には血煙。最強双璧たるアルキリーレとアントニクスはそのように切り抜けるが、続く仲間達には脱落する者多数。武器を備えた鼻と角と左右に激しく降りながら走る様に調教され胴鎧にまで鎌刃を備えた獣騎兵は、避けねばならぬ幅が非常に大きい。南黒の樹象獣獣騎兵より更に強いというのは伊達ではない。避け損なえば馬の足を砕かれ転倒落馬、良くて重態悪ければそのまま象の牙や足で絶命する事になる。
「切り開くぞ!」
「おおおっ!」
それを防ぐ為に城象獣に備え付けられた武器を砕く! 牙を、鼻を叩き切る! 砕く! 砕く! 砕く! ……貫く!
「そこか! 皇帝!」
遂に全ての獣騎兵をすり抜けた。獣騎兵も何騎か撃破したが味方も相当のダメージを受けた。だが見えた。取り巻き貴族や女官まで連れてふんぞり返る敵を。レーマリア軍のどの部隊よりも更に華美な装束に身を包んだ親衛隊が手に手に武器を携え立ちはだかる……
「っ! 敵! 側方!」
刹那アルキリーレは警戒を叫んだ。正面の親衛隊は派手な囮。獣騎兵隊が踏み荒らした土煙の残滓から、獣騎兵すら目隠しとして襲いかかる真の敵。
そいつらは皆、アントニクスのように巨体でありながら素早かった。黒い外套を纏う兵達。手に手に、円形刃や拳と一体化した刃、鞭の様に撓る刃や大鎌、鈎や鉤爪等を備えて飛びかかってきた。武闘僧侶兵。
更に多数の兵が討たれた。アントニクスは辛うじて大鎌の攻撃を受け止めたが、鉄棍と大鎌の柄が交差すると同時に、大鎌の先端が鎧の隙間からアントニクスの首筋を浅く切り裂いた。
「ぐっ!」
その程度の傷なら慣れている。踏み留まり押し返すアントニクス。
「何のおおおおっ!」
それでもアルキリーレは獅子奮迅した。片手に鉈薙刀、片手に斧、鉤爪と拳刃、一際の手練れ二人の挟撃を諸共切り捨て、再度皇帝へ突撃を。
「わあっ!?」
「ッ!?」
武装僧侶兵無念の死に顔が撒き散らかされる奮闘の中、アルキリーレは子供の悲鳴を聞いてしまった。眼前、頭を抑えて走り惑い転倒しようとする子供。小姓? 貴族の子弟? 鎧を着ていない。
(非戦闘員?!)
一瞬、芽生えた人間性が戦士ならぬ子供らしき相手を馬蹄にかけて突き進む事を躊躇させた。
「なあんてねっ!」
「な、しまっ……!?」
子供の体がうねった。旋舞の如く地面すれすれで体が回転する。その手が大きく振られる。露になった顔は、少年皇子将校セフトメリム。騙しの一手を打ってのけた、山猫めいた顔に笑み。その手から銀蛇の如く棘付鎖分銅が飛び、異常な威力でアルキリーレの愛馬の頭蓋を打ち砕きながら武器を振り抜いた直後の彼女の腕に更に絡み付き、馬上から引きずり落とす。
激しい転倒音。衝撃。直後アルキリーレの腕の骨が砕ける音が響いた。
「「「う、うおおおおっ!!!」」」
アルキリーレが吼えた。それに騎兵達の叫びが続く。
執政官親衛隊、教帝近衛隊、剣闘士隊等長きの鍛錬による生粋の精鋭と、ここまでの戦でそれに次ぐ精鋭のレベルに成り上がった各地方軍団・国家軍団の騎兵達が、突撃を敢行したのだ。
「(見えた、獲物の急所!)雑魚は構うな!切り捨て突き捨て払い除け突き進め!」
川際の敵騎兵は携帯投火機の火炎地獄で悶えている。辛うじてそこから射程距離街に難を逃れた残りの混乱する騎兵達と歩兵隊の合間。アルキリーレは獲物の首を正確に捉える獅子の眼光でその穿ち抜けに最も適した境目を見抜き、そこに己を先頭とする騎兵隊を楔の如く穿ち、雪崩れ込ませていく!
「チェストォッ! KIEEEEEEE!!」
「あばっ!?」
「「「ぎゃああっ!?」」」
最初に立ち会った敵騎兵が鉈薙刀に槍ごと唐竹割りにされて落馬する。続く敵騎兵は鉈薙刀の大回転に巻き込まれ、たちまち左右に吹き飛ばされた。
レベテ川の方に吹き飛ばされた敵騎兵は悲惨である。仲間が燃える火炎地獄に真っ逆さまだ。反対側に吹っ飛ばされた敵騎兵はまだましだが、騎手を失って混乱した馬が突っ込んでくる東吼歩兵が今度は不幸だ。
「(成る程!)おおおおおっ!!」
そんなアルキリーレの武に「払い除け」と彼女が行った理由を正確に理解して、アントニクスの鉄棍が唸りを上げた。右に左にぶっ飛ぶ敵騎兵。ある者は炎に落ちあるものは味方隊列に馬を突っ込ませ、一際哀れな者は味方の槍衾に串刺しとなる始末。
「止めろ! 止めろーっ!」
「止まるなぁっ!」
騎兵隊では阻止しきれないと、歩兵部隊と射撃部隊が決死の阻止を仕掛けてくる。
軽騎兵を含め射撃を挑んでくる弓に対し、元の弩騎兵部隊長が猛然と騎兵連弩の連射を打ちかけて怯ませ、槍騎兵隊副隊長や槍騎兵隊隊長が歩兵隊も蹴散らかす。
「良か! 良か兵子、良か武家者……良か勇武ぞ!」
「光栄!」
「恐悦至極!」
アルキリーレとの手合わせでは吹っ飛ばされたり振り回されたりして良い所無しだった彼等も、今や立派に成長したのだ。
「まっこて、私に残せっものがあっじゃろうかち思うちょったが……育ったもんじゃ、愛しか子等じゃ!」
カエストゥスが私に愛をくれた。ペルロが私に広い世界をくれた。ならば私は何を誰かにあげられるだろう。レオルロが様々な美術品や技術を残すように、私は何を残せるだろうか。
……残せたのだチェストを、チェストが伝わった結果としての勇武を!
「チェスト!」
昨晩の会話の結実が、アルキリーレの刃に更なる力をもたらす。頑丈な鎧に馬諸共身を固めた重騎兵を先頭に立って次々切断!
「死ね! レーマリア兵! 死ね!」
「ぐうっ……!」
だが次々と襲いかかる生き残りの騎兵の弓矢、槍、曲刀、歩兵の槍、射撃兵の弓!
溜まらず倒れる者も次々! 折角アルキリーレの心を継いだ子等が!
「おのれっ!」
「させっかよぉっ! お前等気張れぇ! 剣闘士根性見せろぉ!」
「行くぞぉっ!」
「こっち見ろやぁっ!」
「行くぞぉっ!!」
剣闘士達を率いて前に出る! 敵はレーマリア兵に死ねと言っているが、剣闘士の力を見せてやれと叫ぶ! 剣闘士達も一斉に呼応! 俺達こそが花形役者よと、アルキリーレの兵達を守る為に進んで窮地を引き受け身を盾にして力戦血闘!
「追え! あの背を! 追え! 黄金の獅子を、いや彼女を一人にさせるな!」
「「「おおーっ!」」」
後続の兵士達もそれを見て奮い立ち後に続く!
「彼女を一人にしたら女達に怒られるぞ!」
「「「おおおおおっ!?」」」
……若干滑稽な気合の入れ方がどうしても混じるのがレーマリア気質だが。
「っ、あいつら……はは、私達も行くぞ!」
「おおっ!」
それは戦場の緊張の中でアルキリーレを癒す。昨夜語らったこれまでの思い出。暖かく愛おしいレーマリア。守ろうという思いが湧く。吼える。兵が応える!
思えば故郷では、兵と心が一体になる事も無かった。アルキリーレは統一と平和を見て、兵達は栄達のみを見ていた。故に今、アルキリーレは兵の質に劣る今こそが、将兵心一体の最盛期かもしれなかった。
「皆! 戦おう! 彼女を追おう! 彼女より遅れて突撃してはいけない!」
「私達の国を異なる国の人までもが守ろうとしている! 我等が奮い立たずしてどうしますか! 単神そを望みたもう!」
「ボルゾ家郎党、前進! 前進だ! 我等の故郷を守る道はその先に!」
そんなアルキリーレの戦いぶりを気球の観測兵が見て、レオルロが本陣に伝える。それを聞いてカエストゥス、ペルロ、チェレンティが必死に全軍を鼓舞する。あのレーマリア軍が退かず、じりじりと敵軍と押し合う!
そして、遂に。
「抜けたっ!!」
「おおっ!!」
アルキリーレ率いる一団がベレテ河岸の騎兵隊を突破し、横から妨害してきた歩兵部隊・射撃兵部隊を振り切った!
「チェーストーッ!!」
同時にアルキリーレが武器を持ち替え斧を投擲! 斧は放物線を描き彼方へ飛び……
「〈天よ〉おごおっ!?」
「ぱ、大臣ぁあっ!?」
正面からの射撃への防御は固めていた簡易祭壇に斜め後方から突き刺さり宗教大臣ジャヴィーティアの禿頭を粉砕! 祈祷僧侶兵達の驚愕! 神秘攻撃途絶!
「まだじゃ、こっかぁが本番ぞ! ついてこい!」
再び鉈薙刀を手に取り金の鎧も金髪も血塗れでアルキリーレが吼える。狙う皇帝の首一つの前に、まだ獣騎兵、親衛隊、そして……
「っ、大丈夫、か!?」
馬を強いて己に並んだアントニクスが荒い息で叫ぶ、血に塗れたアルキリーレを労る。その体を。そして何よりその心を。
「行きましょう!」
「行って下さい!」
「ご武運を!」
「……ああ! チェスト決めてやっど!」
一瞬目を瞑るアルキリーレ。炎に巻かれ、刃で、恐怖と共に絶命する敵兵達、次々脱落していく味方兵達。だが、皆必死に叫んでいる。アルキリーレを守ろうとしている。先に進んでくれと逝く兵に祈られた。獅子の五感は苦しみも逃さぬが祈りも労りも逃さぬ。故に、それを堪える!
「来たか! 獣騎兵、構え!」
輿から戦場へ置いた玉座から立ち皇帝メールジュク一世は手を掲げ命令。
ヴァーンヴァーンヴァーンン! ヴァーンヴァーンヴァーンン!
「パフラァアアアアア! パフラァアアアアア!」
一斉に鳴り響く本軍軍楽隊。それに呼応して、武器を取り付けた鼻と牙を高々と掲げ、巨大な頭を打ち振って城象獣達が吼える!
「ッ……!!」
城象獣の存在は牙を圧倒しうる。このままでは隊烈が崩れる。
「チェストォオオオオッ!!!」
対抗する為にアルキリーレは吼えた。だがアルキリーレは味方を鼓舞する王者としての獅子の神秘は使えぬ。ただ敵を圧倒するだけだ。だから防ぎきれぬなりに、この方向で幾らかでも城象獣を威圧しその圧倒を幾らかでも低減……
「「「「「チェストォオオオオッ!!!!!」」」」」
「「「「「ヒヒィイイイインンッ!!!!!」」」」」
「!!」
アルキリーレの叫びに、皆が呼応した。馬達までもが高く嘶いた。動揺し脱落する馬は居なかった。アルキリーレは目を見開く。即ち、この瞬間。アルキリーレは使えなかった鼓舞の神秘を放っていた。王者として欠けた器が満ちたのだ。
「獣騎兵、突撃!」
「行くぞおおおおっ!」
騎兵隊対獣騎兵、激突!
アルキリーレは正に王者の如き疾走を見せた。右に左に馬蛇行させ城象獣上の櫓から従卒兵達が櫓の上か放つ矢をかわし、逆に斧を投じて櫓の中の象使や従卒兵を叩き落としていく。
斧の残りが少なくなれば従卒兵達が櫓の上から突き降ろしてくる槍を奪い、鉈薙刀と共に振るうだけでなく時に櫓に投げつけ時に城象獣の目を使い捨てに貫く。
「おおおおおっ!」
アントニクスも負けじと、近づかれまいと振るわれる華突の煮付けたれた武器、象鎧につけられた鎌刃を鉄棍振るい次々打ち砕いていく。その上で城象獣の急所である足の付け根を狙うが……
「クソっ、手堅いっ!」
そこには一際念入りに動きを阻害しない鎖帷子と衝撃吸収の刺子鎧。
「構うな! そんまま敵ん武器ば砕き続けい!」
アルキリーレが叫ぶ。背後には血煙。最強双璧たるアルキリーレとアントニクスはそのように切り抜けるが、続く仲間達には脱落する者多数。武器を備えた鼻と角と左右に激しく降りながら走る様に調教され胴鎧にまで鎌刃を備えた獣騎兵は、避けねばならぬ幅が非常に大きい。南黒の樹象獣獣騎兵より更に強いというのは伊達ではない。避け損なえば馬の足を砕かれ転倒落馬、良くて重態悪ければそのまま象の牙や足で絶命する事になる。
「切り開くぞ!」
「おおおっ!」
それを防ぐ為に城象獣に備え付けられた武器を砕く! 牙を、鼻を叩き切る! 砕く! 砕く! 砕く! ……貫く!
「そこか! 皇帝!」
遂に全ての獣騎兵をすり抜けた。獣騎兵も何騎か撃破したが味方も相当のダメージを受けた。だが見えた。取り巻き貴族や女官まで連れてふんぞり返る敵を。レーマリア軍のどの部隊よりも更に華美な装束に身を包んだ親衛隊が手に手に武器を携え立ちはだかる……
「っ! 敵! 側方!」
刹那アルキリーレは警戒を叫んだ。正面の親衛隊は派手な囮。獣騎兵隊が踏み荒らした土煙の残滓から、獣騎兵すら目隠しとして襲いかかる真の敵。
そいつらは皆、アントニクスのように巨体でありながら素早かった。黒い外套を纏う兵達。手に手に、円形刃や拳と一体化した刃、鞭の様に撓る刃や大鎌、鈎や鉤爪等を備えて飛びかかってきた。武闘僧侶兵。
更に多数の兵が討たれた。アントニクスは辛うじて大鎌の攻撃を受け止めたが、鉄棍と大鎌の柄が交差すると同時に、大鎌の先端が鎧の隙間からアントニクスの首筋を浅く切り裂いた。
「ぐっ!」
その程度の傷なら慣れている。踏み留まり押し返すアントニクス。
「何のおおおおっ!」
それでもアルキリーレは獅子奮迅した。片手に鉈薙刀、片手に斧、鉤爪と拳刃、一際の手練れ二人の挟撃を諸共切り捨て、再度皇帝へ突撃を。
「わあっ!?」
「ッ!?」
武装僧侶兵無念の死に顔が撒き散らかされる奮闘の中、アルキリーレは子供の悲鳴を聞いてしまった。眼前、頭を抑えて走り惑い転倒しようとする子供。小姓? 貴族の子弟? 鎧を着ていない。
(非戦闘員?!)
一瞬、芽生えた人間性が戦士ならぬ子供らしき相手を馬蹄にかけて突き進む事を躊躇させた。
「なあんてねっ!」
「な、しまっ……!?」
子供の体がうねった。旋舞の如く地面すれすれで体が回転する。その手が大きく振られる。露になった顔は、少年皇子将校セフトメリム。騙しの一手を打ってのけた、山猫めいた顔に笑み。その手から銀蛇の如く棘付鎖分銅が飛び、異常な威力でアルキリーレの愛馬の頭蓋を打ち砕きながら武器を振り抜いた直後の彼女の腕に更に絡み付き、馬上から引きずり落とす。
激しい転倒音。衝撃。直後アルキリーレの腕の骨が砕ける音が響いた。
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