95 / 554
第6章 死と絶望の果て
第86話 蓮と飛鳥
しおりを挟む「失礼しまーす」
放課後、蓮は学級日誌を手に、職員室の前に立った。
騒然と並んでいる机の中から、担任である尾崎先生の席を探し当てると、蓮は教室で書き上げた日誌を手渡すため、尾崎の元へと進む。
「先生、終わりました」
「あー今日の日直は、神木だったな。おつかれー」
蓮が日誌を手渡す。すると、尾崎はそれをパラパラとめくり、中の内容を確認する。
「よし、しっかり書けてるし、もういいぞ。神木はバスケ部に入部したんだってな。このあとは、部活か?」
「……はい」
にこやかに話しかけてくる尾崎先生は、とても気さくで話しやすい先生だ。しかも、イケメンということもあり、生徒からの人気も高い。
「あ、神木。お前、 "あの神木"の弟なんだってなぁ!」
すると、その瞬間、尾崎の向かいに座っていた少し年配の相沢先生が、二人の会話に割って入ってきた。
「お前の兄貴はな、色々とすごかったんだぞ!」
相沢が、蓮をマジマジと見つめながら、腕組みをすれば、それを聞いた他の先生たちも、わらわらと集まり始めた。
「えー、神木君て "あの神木君"の弟なんですか? 同じ名字だとはおもってたけど」
「ああ、少し前に、神木が顔だしにきたんだよ。『妹に弁当届けに来た』とかいってな。妹弟《きょうだい》が入学したから宜しくとは言ってたが、あの頃からすると、また背も伸びて、更にイケメンになってだぞ!」
「え! そうなんですかー。残念、私も会いたかったなー。神木くんに~」
「…………」
蓮を取り囲み、先生たちがワイワイと語りはじめ、蓮は少しばかり表情を曇らせる。
(やばいな、これは……)
すると、そんな先生達の話を聞いて、今度は尾崎が、蓮に語りかけてきた。
「へー、神木、お兄さんいたのか」
「は、はい……います」
ものすごく、厄介な兄が──
「あ、そっか! 尾崎先生は最近、赴任《ふにん》してきたばかりだから知らないんですよね。3年前に卒業した生徒会の元副会長なんですけど、 生徒からも先生からも人気があって、本当すごかったんですよ~!」
「そうなんですね」
「そうなんですよー。しかも、色々と要領もよくて、仕事も早くて丁寧だったし、おまけに、ものすっごいイケメンで! 贔屓《ひいき》しちゃいけないのわかってるのに、あの笑顔でお願いされたら、つい聞いてあげたくなっちゃうんですよね~」
「しかし、お前弟なのに、神木とは全然似てないんだな」
「え? 似てないんですか? でも神木(蓮)も十分イケメンじゃないですか!」
「いやいや、尾崎先生! もう、お兄ちゃんの方は桁《ケタ》が違うんですよ! 男の子なのに線が細くて女の子みたいに綺麗で、もう、いるだけで場が華やぐっていうか、本当に桁外れて美人だったんですよー」
「へー」
(……なんか、さっきから滅茶苦茶グサグサ刺さんだけど)
目の前で飛び交う兄を賞賛する会話。
それを聞き、蓮は顔をひきつらせた。
だが、これは別に珍しいことではない。
今までにも、こういうことはよくあった。
あの兄は、同年代だけでなく、年配者にもよく好かれるのだ。
そう、兄は老若男女問わず誑《たぶら》かす、魔性の男とでもいえばいいのか?
一見、金髪なので先生達から目をつけられやすくはあるが、兄の素行は一切悪くない。むしろ、どちらかといえば、優等生。
その上、あの容姿に愛嬌のある笑顔。なんでもそつなくこなす、あの"出来る兄"が、先生たちの人気を集めないはずがなかった。
中学の厳しいと評判だった、あの生徒指導の半田先生ですら、髪色を注意した際に、兄に「地毛です♪」と笑顔で言われただけで、あっさり折れたらしい。
そして蓮は、そんな兄の弟ということもあり、幼い頃からよく比べられてきた。
神木の弟──
いわれるのは、毎回それだ。あの兄の"付属品"のような扱い。
こういう時は、時々、兄が憎らしくなる。
「先生、俺、部活いかなきゃならないんで」
ワイワイと盛り上がる先生たちをよそに、蓮、一つ息をつくと、そう尾崎に返した。
このまま聞いていても、話がいつ尽きるかわかりゃしない。逃げるが勝ちだ。
「部活か、お前も、兄貴みたいになれるように、がんばれよ!」
すると、また相沢先生が口を挟んできて
「善処します」
「政治家か、お前は!」
ぶっきらぼうに返事て返した蓮は、そのまま職員室をでて、教室にむかった。
*
『兄貴みたいになれるように、頑張れよ!』
悪気はないのだろうが、やはりグサリとくる。
なれと言われて、なれる気がしないから余計に。
弟である俺は、よく兄貴と比べられることが多かった。
全く似てない容姿に、愛想がいいとも言えない性格。周りから、兄のようにと期待をかけられても、それには全く答えられず、昔はそれが、たまらなく嫌だった。
だけど「兄貴と比べられて嫌だ」なんて言う資格は、俺にはないと思う。
俺たちは、兄貴が努力してきたのを、よく知ってるから。
昔、父さんから、母さんが死んだ時は、かなり悲惨だったと聞いたことがある。
あの明るい父が、食事も取らず部屋に閉じこもっていたらしい。
そんな中、兄貴が一人で、俺と華を見てくれていたといっていた。
「飛鳥がいたから、頑張れた」と、なにげなしに話した、あの懺悔するような父の悲しげな顔は、今でも、忘れられない。
兄貴は、まるで亡くなった母の代わりをするように、俺たちに一生懸命尽くしてくれた。
料理だって
裁縫だって
家事だって
勉強だって
はじめから、できてた訳じゃない。
影ながら努力してた。
火傷しながら料理して、手に怪我しながら裁縫して、自分の時間削って家事して、空いた時間に勉強だって真面目にしてた。
それを母が亡くなった小学二年生のころから、ずっと続けてきたんだ。
正直、すごいと思う。
今思えば、兄貴がやって来たことは、やる気になれば、俺にだって出来たのかもしれない。
なろうとしていれば、俺も兄貴みたいになれたのかもしれない。
でも──
兄貴の優しさに甘えて、やろうとしなかったのは、俺だ。
兄貴を「なんでも一人でこなせる人」にしてしまったのは
「誰にも甘えられない人」にしてしまったは
他でもない───俺達だ。
そんなことに、今更、気づくなんて……
「れーん! 部活いくぞー」
「!」
教室に戻ると、航太が蓮の荷物をもち、教室の入口に立った蓮に声をかけてきた。
蓮と、そう背の変わらない航太は、不意に目が合った瞬間、どこか淀んだ顔をしている蓮に気づいて首を傾げる。
「どうした? 暗い顔して」
「別に……職員室で"兄貴の武勇伝"聞かされてただけ」
「あー、それでへこんでんのか?」
「へこんでないから!」
蓮が航太から荷物を受けとると、二人は、教室をでて、バスケ部が部活をする、体育館に向かう。
「そういえば、うちの華に片思い中の榊くん、あれから、なにか進展あった?」
すると、その道中、さめざめと蓮が問いかける。
「っ……なんだよ。その棘のある言い方」
「そりゃ、どこぞの馬の骨にはやれないし」
「馬の骨!? ったく、なにか進展があったようにみえるか? ドラマやマンガでありがちな進展イベントが、そこいらに転がってると思うなよ!」
「だろうな」
「それに、神木(華)は俺のこと、 弟の友人としか思ってないみたいだし、下手に告白なんてしたら、今の関係くずれそうだしなぁ……」
「……」
ため息まじりに、そう呟いた航太は、まさに恋する男子だった。正直、友人が双子の姉に恋してるなんて、複雑すぎる。
「まー、普通にいけば、このまま一切進展しないで、卒業前に慌てて告白して、玉砕するパターンだな」
「なんで、玉砕限定なんだよ!?」
「つーか、お前こそ、なんでよりによって、華なんだよ!?」
「それは……っ」
航太が、華を好きになった"きっかけ"はなんだったのだろう。
蓮は、ふと気になって問いかけた。すると航太は、ほんの少しだけ顔を赤らめたあと──
「それは多分、蓮《おまえ》のせいだぞ」
「……え?」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる