神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
152 / 554
【過去編】情愛と幸福のノスタルジア

第140話 情愛と幸福のノスタルジア⑪

しおりを挟む
 
 侑斗の部屋を後にしたあと、ゆりは飛鳥が眠る部屋に戻り、入口の扉をゆっくりとしめた。

 扉に持たれかたり、深くため息をつくと、そのままズルりズルりと扉伝いに座り込む。

「っ……なにしてんの、私」

 さっきのことを思い出して、自然と体が熱くなった。触れられた感触も、抱きしめられたあの熱も、まだしっかり残ってる。

 ゆりは、火照った頬を更に赤くすると、その顔を両手で覆い隠した。

(もう、信じらんない! 穴があったら入りたい! むしろ、山にでもこもりたい!! てか、明日から、どんなに顔して合えばいいの!? 絶対、ふしだらな女だと思われた! あんなことしたら、完全にビッチじゃん! あーもう、バカ! 私、ほんとにバカ!!)

 先ほどの自分の行動を振り返り、ゆりの頭の中は一瞬にして修羅場と化した。

「はぁ……」

 深いため息がもれる。そして──

「いつか……大切な人が出来るまで、か」

 先程の侑斗の言葉を思い出すと、ゆりの目にはじわりと涙が浮かんだ。

「悔しいッ……私のこと、全く眼中にないじゃん……っ」

 悔しい。悔しい。

 でも、始めからわかってた。相手は離婚したばかりで、12歳も年上で、高校生の私のことなんて、子供としかおもってなくて、今一緒にいてくれるのも

 ──だだの同情。

 それが、愛にかわるなんて、始めから、あるわけ、ないのに……っ

「んっ、ふぇ……、」
「!」

 瞬間、顔を覆い激しく自己嫌悪する、ゆりの元に飛鳥の声が届いた。今にも泣きそうな声で、小さくうなされ始めた飛鳥を見て、ゆりは慌てて眠る飛鳥の元に向かう。

「……飛鳥」

 四畳半の部屋の真ん中に敷かれた、シングル布団。そこに眠る飛鳥の手を握ると、ゆりは飛鳥の頭を優しく撫でる。

 繋いだ手をギュッ握り返されると、その後は、どうやら安心したのか、飛鳥は、また小さな寝息をたてて、眠りの世界に誘われていった。

(よかった……)

 飛鳥の寝顔を見つめながら、ゆりがふわりと優しい笑みを浮かべた。

 飛鳥の横に寝ころび、頬づえを付きながら、そのふっくらと柔らかい頬を無でると、飛鳥が少しだけ擽ったそうに身じろく。

 にぎり返す手に、心が癒された。
 飛鳥と侑斗さんの隣は、不思議と安心する。

 できるなら、ずっとこのまま、こうしていられたらいいのに──なんて思ってしまう。

「久しぶりだな。こういうの……」

 不意に幼い頃を思い出して、ゆりは悲しげに微笑んだ。
 実の両親が生きていたころは、本当に幸せだった。だけど、どうして、お父さんとお母さんは、私を残して死んじゃったの?

 どうして、私を置いていったの?

 独り残されるくらいなら、一緒に連れていってくれたら良かったのに。残されるのが、どんなに辛いか……二人は、きっと知らないよね?


「ぅーん……ゆりさ……っ」

 物思いに耽っていると、飛鳥が小さく寝言を発した。

「ふふ……ほんと、可愛い」

 自分の名を呼ぶ幼い子に、愛しさを感じる。

 ゆりは、頬杖をつくのをやめ、その場にゴロンと横になると、飛鳥の眠る横顔を見ながら語りかける。

「ねぇ飛鳥。アンタのお父さんて、いつもあーなの? 真面目で誠実で、とっても素敵な人だけど……ちょっと優しすぎるかな?」

 飛鳥の頭を撫でながら、まるで返事を求めるような独り言。

「飛鳥は、あんな誰にでも優しい男にはなっちゃダメだよ。じゃなきゃ、きっと女の子たくさん泣かすことになるよ?」

 目を細め、侑斗ことを思い出しながら、ゆりは少し寂しそうに言葉を放つ。

 最初に意識したのは、病室で泣いたあの時だ。抱えたもの吐き出して、大きな手で頭を撫でてくれた瞬間、すごく安心した。

 なんでかはわからないけど「良かった」って思えた。

 仕事で忙しいのに、飛鳥のために、わざわざ毎日会いに来てくれた。

 正直、飛鳥の話を聞いたときは「どんな、ひどいお父さんなんだ」って思ったけど、本当は家族思いの優しいお父さんだった。

 話すたびに惹かれていって、気が付いたら

 ──好きになってた。

 侑斗さんの、明るく笑う姿と、たまに見せる寂しそうな背中に、ひどく惹かれた。

 きっと、さみしいんだと思った。

 私と同じように、心にポッカリ穴があいて、寂しくて仕方ないんだと思った。

 侑斗さんの、寂しさも虚しさも、全部、私がうめられたらいいのに──そう思ったら、本当になにされてもいいと思った。

 でも、抱きしめられた瞬間、急に怖くなって、嬉しいはずなのに、望んでいたことなのに、急に不安でいっぱいになって。

 やめてくれたことに安心して、ほっとして、自分のことより、私のことを気遣ってくれたのが、なにより嬉しかった。

 でも──

「やっぱり、こんな私じゃ……ダメだよね?」

 もっと、年が近ければ良かったの?

 それとも、出会うタイミングが悪かったの?

 それ以前に、侑斗さんは

 ────私のことなんか……。


「なんで、私……侑斗さんの……こと……好きに……なっちゃたんだろう……っ」

 眠る飛鳥の顔を見つめながら、ゆりな瞳からは涙が溢れた。

 声を殺しながら、だけど、止まることのない涙は、目尻を伝い布団の上にシミをつくる。

(失恋したときって、どうすればいいんだろう……)

 どうすれば、諦められる?
 どうすれば、忘れられる?

「早く、ここ……出ていかなきゃ……っ」


 じゃなきゃ、きっと戻れなくなる。


 私にとっては、"当たり前"の


 あの、"独りきり"の生活に───




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...