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【過去編】情愛と幸福のノスタルジア
第140話 情愛と幸福のノスタルジア⑪
しおりを挟む侑斗の部屋を後にしたあと、ゆりは飛鳥が眠る部屋に戻り、入口の扉をゆっくりとしめた。
扉に持たれかたり、深くため息をつくと、そのままズルりズルりと扉伝いに座り込む。
「っ……なにしてんの、私」
さっきのことを思い出して、自然と体が熱くなった。触れられた感触も、抱きしめられたあの熱も、まだしっかり残ってる。
ゆりは、火照った頬を更に赤くすると、その顔を両手で覆い隠した。
(もう、信じらんない! 穴があったら入りたい! むしろ、山にでもこもりたい!! てか、明日から、どんなに顔して合えばいいの!? 絶対、ふしだらな女だと思われた! あんなことしたら、完全にビッチじゃん! あーもう、バカ! 私、ほんとにバカ!!)
先ほどの自分の行動を振り返り、ゆりの頭の中は一瞬にして修羅場と化した。
「はぁ……」
深いため息がもれる。そして──
「いつか……大切な人が出来るまで、か」
先程の侑斗の言葉を思い出すと、ゆりの目にはじわりと涙が浮かんだ。
「悔しいッ……私のこと、全く眼中にないじゃん……っ」
悔しい。悔しい。
でも、始めからわかってた。相手は離婚したばかりで、12歳も年上で、高校生の私のことなんて、子供としかおもってなくて、今一緒にいてくれるのも
──だだの同情。
それが、愛にかわるなんて、始めから、あるわけ、ないのに……っ
「んっ、ふぇ……、」
「!」
瞬間、顔を覆い激しく自己嫌悪する、ゆりの元に飛鳥の声が届いた。今にも泣きそうな声で、小さくうなされ始めた飛鳥を見て、ゆりは慌てて眠る飛鳥の元に向かう。
「……飛鳥」
四畳半の部屋の真ん中に敷かれた、シングル布団。そこに眠る飛鳥の手を握ると、ゆりは飛鳥の頭を優しく撫でる。
繋いだ手をギュッ握り返されると、その後は、どうやら安心したのか、飛鳥は、また小さな寝息をたてて、眠りの世界に誘われていった。
(よかった……)
飛鳥の寝顔を見つめながら、ゆりがふわりと優しい笑みを浮かべた。
飛鳥の横に寝ころび、頬づえを付きながら、そのふっくらと柔らかい頬を無でると、飛鳥が少しだけ擽ったそうに身じろく。
にぎり返す手に、心が癒された。
飛鳥と侑斗さんの隣は、不思議と安心する。
できるなら、ずっとこのまま、こうしていられたらいいのに──なんて思ってしまう。
「久しぶりだな。こういうの……」
不意に幼い頃を思い出して、ゆりは悲しげに微笑んだ。
実の両親が生きていたころは、本当に幸せだった。だけど、どうして、お父さんとお母さんは、私を残して死んじゃったの?
どうして、私を置いていったの?
独り残されるくらいなら、一緒に連れていってくれたら良かったのに。残されるのが、どんなに辛いか……二人は、きっと知らないよね?
「ぅーん……ゆりさ……っ」
物思いに耽っていると、飛鳥が小さく寝言を発した。
「ふふ……ほんと、可愛い」
自分の名を呼ぶ幼い子に、愛しさを感じる。
ゆりは、頬杖をつくのをやめ、その場にゴロンと横になると、飛鳥の眠る横顔を見ながら語りかける。
「ねぇ飛鳥。アンタのお父さんて、いつもあーなの? 真面目で誠実で、とっても素敵な人だけど……ちょっと優しすぎるかな?」
飛鳥の頭を撫でながら、まるで返事を求めるような独り言。
「飛鳥は、あんな誰にでも優しい男にはなっちゃダメだよ。じゃなきゃ、きっと女の子たくさん泣かすことになるよ?」
目を細め、侑斗ことを思い出しながら、ゆりは少し寂しそうに言葉を放つ。
最初に意識したのは、病室で泣いたあの時だ。抱えたもの吐き出して、大きな手で頭を撫でてくれた瞬間、すごく安心した。
なんでかはわからないけど「良かった」って思えた。
仕事で忙しいのに、飛鳥のために、わざわざ毎日会いに来てくれた。
正直、飛鳥の話を聞いたときは「どんな、ひどいお父さんなんだ」って思ったけど、本当は家族思いの優しいお父さんだった。
話すたびに惹かれていって、気が付いたら
──好きになってた。
侑斗さんの、明るく笑う姿と、たまに見せる寂しそうな背中に、ひどく惹かれた。
きっと、さみしいんだと思った。
私と同じように、心にポッカリ穴があいて、寂しくて仕方ないんだと思った。
侑斗さんの、寂しさも虚しさも、全部、私がうめられたらいいのに──そう思ったら、本当になにされてもいいと思った。
でも、抱きしめられた瞬間、急に怖くなって、嬉しいはずなのに、望んでいたことなのに、急に不安でいっぱいになって。
やめてくれたことに安心して、ほっとして、自分のことより、私のことを気遣ってくれたのが、なにより嬉しかった。
でも──
「やっぱり、こんな私じゃ……ダメだよね?」
もっと、年が近ければ良かったの?
それとも、出会うタイミングが悪かったの?
それ以前に、侑斗さんは
────私のことなんか……。
「なんで、私……侑斗さんの……こと……好きに……なっちゃたんだろう……っ」
眠る飛鳥の顔を見つめながら、ゆりな瞳からは涙が溢れた。
声を殺しながら、だけど、止まることのない涙は、目尻を伝い布団の上にシミをつくる。
(失恋したときって、どうすればいいんだろう……)
どうすれば、諦められる?
どうすれば、忘れられる?
「早く、ここ……出ていかなきゃ……っ」
じゃなきゃ、きっと戻れなくなる。
私にとっては、"当たり前"の
あの、"独りきり"の生活に───
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