神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
218 / 554
第15章 オーディション

第202話 喫茶店とコスプレ

しおりを挟む

 夏休みが終わり、今日から9月に入った。

 華と蓮は二学期がはじまり、朝、眠い目をこすりながら高校に向かい。一方、飛鳥は、10日頃までは、まだ夏休みのため、今日は隆臣と大河に呼び出され、喫茶店にむかっていた。

 暦の上では秋だが、まだまだ日差しは強い。

 飛鳥は、ふと足を止めると、自身の髪に触れた。

 細くて長いその髪は、光に反射すればキラキラと輝き、相変わらず綺麗な色をしていた。

 だが、暑い時は、この髪が、たまに鬱陶しく感じる。

 だけど、切ろうにも、なかなか切る決心がつかないのは、自分の中で、まだ『克服』出来た実感がないから。

(……いっそ、バッサリ切れば)

 気持ちも変わるのだろうか──?

 数ヶ月前に遭遇した『自分の産みの親』の事を思い出し、飛鳥は考える。

 目にしたのは、ほんの少しの間だけ。

 でも、あの人の醸し出す雰囲気は、あの頃と何も変わらなかった。

 あの冷たい瞳も、あの髪の長さも、あの声も。

 変わったとしたら、少し、年老いたことと

 自分の身長が

 あの人より、高くなったこと──




 ◇◇◇



 カランカラン……!

 喫茶店につくと、扉を開け中に入った。

 ベルが鳴ると、顔見知りの店員が「いらっしゃいませー」と声をかけてきて、飛鳥は軽く挨拶をする。

 平日の昼下がり。

 お昼を過ぎた喫茶店の中は、客も少なく、落ち着いていた。

 暑いなか歩いてきたからか、少し汗ばんだ体に、店内のクーラーがひんやりと心地よい。

 飛鳥は、そのまま店内を広く見回したあと、隆臣と大河を見つけると、席へと移動する。

 いつもは、パーティーションで仕切られた奥の席だが、今日は空いてなかったのか、珍しく窓際の席だった。

 外からはまる見えだが、景色を眺めるにはいい席。

「お待たせ!」

 いつも通りにこやかに声をかけると、飛鳥は、4人がけのテーブルで大河と向かい合わせに座っていた、隆臣の横に腰掛けた。

 その後、通りすがりの店員にアイスコーヒーを一つ頼むと、待ってましたと言わんばかりに大河が飛鳥に話しかける。

「神木くん! 今日は大事な話があって!」

「大事な話?」

 突然呼び出され、半信半疑ながらもここに来た。だが、目の前で子供のように目を輝かせる大河をみて、飛鳥は首を傾げる。

「今日は、神木くんが着たい服を聞いておきたくて!! 女装するなら、どんなのがいいですか!?  俺、神木くんが着たいなら、どんな服でも調達してきますから!!」

「いや待って、なんで俺が着たいみたいな話になってんの?」

 大河の言葉に、すかさずツッコむ。

 先日、華と蓮が遊園地に行くのに、ラビットランドのチケットを飛鳥は大河に奢ってもらった。だが、その埋め合わせとして、なぜか「女装」することになってしまった。

 しかも、そんな経緯など全く知らない隆臣は、隣に座る飛鳥をみて

「お前、女装したいの?」

「したいわけないだろ!」

 飛鳥が、笑顔で反論れば、そのタイミングで、アイスコーヒーが運ばれてきて、飛鳥はミルクを注ぎながら、深くため息をついた。

「華と蓮が遊園地行くっていうから、武市くんに聞いてみたら、チケットを奢ってくれたんだけど、埋め合わせに、何してほしいかって話になったら、なんでか俺の女装姿が、もう一回見たいって」

「……あー、なるほど」

 横でぶつくさ言う飛鳥を見つめ、隆臣は小さく相槌をうつ。すると

「つまりお前は、妹弟のために身体を売ったと」

「その言い方やめて!」

 だが、あながち間違ってない。

 チケット奢ってくれたお礼に、わざわざ自分の身もプライドも犠牲にして、身体を差し出しているわけだ。

 ならば、ある意味、身体を売るわけで…

「あのさ、武市くん。今から他のことに変えられないの?」

「逃げるな飛鳥。男なら、約束したことはちゃんと守れ」

「っ……お前、楽しんでるだろ?」

 女装から、なんとか逃げようとする飛鳥を、隆臣が横から追撃する。

 どうやら、もう逃げられそうにない。

「それでは、神木くん! 衣装は何にしますか! いくつか候補は上がってるんですが!」

「候補?」

 大河がキラッキラと目を輝かせると、向かいに座る飛鳥と隆臣は、同時に首を傾げた。

「色々ありますよ~。セーラー服に、メイド服に婦人警官、ナース、浴衣、チャイナ服、巫女さん、チアガール、あとは、キャリアウーマン風のスーツとか!!」

「なんで、そんなマニアックなやつばかり候補にあがってんの?」

「ほぼ、コスプレだな」

 前の文化祭でした女装(女子高生)とは比べ物にならないガチなラインナップに、飛鳥は蒼白する。

「……ちょっと待って、まさか、その中から決めるの?」

「そうですよ! こんな機会滅多にないですし!」

「ていうか、わざわざ調達してこなくても、女装させたいなら、また高校のブレザーでもいいんじゃないのか?」

「まー、神木くんが着てくれるなら、俺はなんでもいいけど……」

「てか、隆ちゃん。なんでブレザーなら調達しなくて済むの?」

 わざわざ調達してこなくても…と言った隆臣に、なにか当てでもあるのかと、飛鳥が問いかける。

「ブレザーなら、華のがあるだろ」

「馬鹿なの!? 妹の制服、兄が着てたら、それただの変態だよね!?」

 まさかの、華から借りてこい!?
 そんな手段でくるとは思わなかった。

「借りるわけないだろ! 大体、華は女子の中でも小柄なほうだから、サイズ合わないよ」

「小柄なほうじゃなければ、女子の服も着れるみたいな言い回しだな」

「あー!! 確かに神木くん! 普通に女物いけそう! Lサイズくらいなら難なく入りそう!」

「………」

 自分で言った言葉に、更なるツッコミが来て、飛鳥は口ごもる。

 そして「入るかもしれない…」と思ってしまった自分に更に泣きたくなった。

「で、飛鳥。どうするんだ?」

「え?」

「ブレザーが嫌なら、さっきの中から選ばないといけないだろ?」

「ど、どうするっていわれても…」

 飛鳥はその後、うーんと考え込んだ。

 はっきりいうと、どれも着たくない。

 だが、着なくてはならない以上、どれかを選ばなくてはならない。

「スーツとかは? まだ、マシなんじゃないか?」

 すると、横から隆臣が、無難なものを提案してきた。

 だが、スーツと言われて、飛鳥は女性用のスーツを着た自分の姿を想像する。

 だが…

「いや、待って無理。スーツだけは無理。俺たぶん吐く。お願いだから、それ以外にして!」

「なんで、そんなにスーツ毛嫌いしてんの?」

 口元を押さえ、ひどく気持ち悪そうにした飛鳥を見て、隆臣が再びツッコむ。

 だが、ちょっと想像したら、とんでもなかった。

 幼い時、モデル事務所に連れていかれる時に、よく「ミサあの人」がスーツを着ていた。

 女装用のスーツ着て、髪を下ろそうものなら、確実に激似する!

「じゃぁ、神木くん! チアガールとかどうですか?」

「えー、なんかスカート短そう。あまり露出しないのがいい」

「ていうか、これ男に着せて何が楽しいんだ? 普通は女の子に着せて楽しむもんだろ?」

「え!? 何言ってるんだよ橘?! この見た目に、この美しさなら、神木くんは性別を凌駕するよ!! ハッキリ言って神木君なら、俺いくらでもいけるとおもう!!」

「「…………」」

 何が?
 何がいけるの?

 ご飯か?
 ご飯何杯でも、いけるよって意味か?

 それとも、別の?

 その先を問うのがあまりに怖くて、飛鳥と隆臣は、ひたすら硬直する。

「そ、そう言えば……女装って、どこでするの?」

 すると、飛鳥が不意に気になったことを、ポツリと呟いた。すると、それを聞いた大河は

「あ。俺の家とかどうですか? 俺一人暮らしだから、家には誰にもいれませんし」

「……え? 武市くんの家で? 二人っきりで?」

「はい! ダメですか?」

「…………」








***

皆様、いつも閲覧頂き、誠にありがとうございます。この度、新作を公開しました。

↓↓↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/655382051/180593932

第2回次世代ファンタジーカップの参加作品です。内容は現代ファンタジーですが、世界観が同じで、高校時代の飛鳥や隆臣たちも出てきます。

結構、重要な役どころなので、もし、ご興味がありましたら、応援頂けると嬉しいです!宜しくお願いします。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...