神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第15章 オーディション

第221話 恥じらいと謝罪

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(ど……どうしよう…っ)

 その後、突然抱きしめられたあかりは、飛鳥の腕の中で困惑していた。

 前に自転車を回避するために、抱きよせられたことはあったが、これは確実に、抱きしめられていた。

(ど…どうしよう……っ)

 再度困惑し、あかりは顔を赤くする。
 服越しに伝わる熱のせいか、身体中が熱い。

 見た目は女の人みたいだし、一般的な男性よりは華奢な身体付きをしているのだろうとは思う。

 だが、それでも、自分よりも高い身長と、角張った骨格。背中に回った腕は、少し身じろいたぐらいではビクともしなくて──

「……ありがとう、あかり…っ」

「ッ……」

 耳元で囁かれれば、心臓がドクンと跳ねた。
 恥かしくて、どうにかなってしまいそう。

(な、なにか……言わないと……っ)

 離して──と言おうと思いつつも、あかりは無意識に、飛鳥の服を握りしめた。

 頭の中はパニックになっていて、どうすればいいのか、よく分からない。

 だが、その瞬間、飛鳥の長い金色の髪が目に入って、あかりは我にかえる。

 視界の先では、色素の薄い髪が、陽の光に反射してキラキラと輝いていた。

 ミサさんと同じ──髪の色。

(ずっと、一人で……)

 ──俺のこと、どう思う?

 その言葉を思い出し、急に胸が苦しくなった。

 今日、聞いた話の『全て』を、ずっと一人で抱えてきたのだろうか?

 家族にも、友達にも、誰にも言えず

 たった、一人で──…

 そう思ったら、今は彼が落ち着くのを待ってあげるのが、一番いいと思った。

 でも……

(でも……これ大学の人に見られたら、かなりヤバいんじゃ……っ)

 瞬間、とんでもなく恐ろしい未来が過ぎって、あかりは青ざめる。

 これだけの人気者だ。

 しかも、そんな人が、路上で女の子を抱きしめていたなんて、大学中にひろまったら、ヤバい!! 絶対にヤバい!!

 しかも、ここは外で、おまけにマンションのド真ん前。今はお昼前で人がいないが、それでも、いつ人が来てもおかしくない状況で……

 待ってあげたい。
 だが、さすがに場所が悪すぎる!!

「ぁ、あの……神木、さん……っ」

「……………」

 瞬間、あかりは顔を赤くしたまま、申し訳なさそうに飛鳥に語りかけた。

 なるべく察してもらおうと、直接『離して』とは言わず、名前だけで呼びかける。

 すると──

「ッ──ゴメン!!」

 肩を掴まれたかと思えば、勢いよく引き離され、お互いの距離が、いつもの距離に戻る。

 だが、再度目が合えば、そこには、珍しく顔を赤くした飛鳥がいた。

「ご、ゴメン、ほんと、ごめ……! あの、その…謝る! 土下座した方がいいなら、今すぐ土下座する!!」

「土下座!? ここで!? 逆に困ります!!」

 どうやら我に返ったのか、飛鳥が慌てて謝罪すれば、その後、二人の間には、また沈黙が訪れた。

(……っ、俺……なにやってんの?)

 気がついたら、抱きしめていたなんて、自分でも、酷く衝動的なのがわかった。

 しかも、こんな人目のつくところで──…

「本当に……ごめん…っ」

「………」

 だが、再度謝れば、あかりはその後目を丸くし、何がおかしかったのか、クスクスと笑い出した。

「ふふ…っ」

「っ……何、笑ってんの?」

「だって、神木さん、あんなにモテてて、すごく女性慣れしてそうなのに、まさか、そんなに動揺するなんて」

「……っ」

 意外な反応を見たからか、あかりも気が抜けたらしい。
 確かに、見た目のせいか、飛鳥はよく、女慣れしてそうと思われることはあった。しかし……

「あのな、言っとくけど、誰にでもこんなことしてるわけじゃないから。今のは、あかりが──」

「え?」

「あ……あかり、が……?」

 あかりが、なに?

 別に、あかりが悪いわけじゃないし、今のは確実に俺が悪いし。

 てか、これじゃぁ、まるで『あかりにしか、こんなことしない』って言ってるようにも聞こえない?

 あれ? 俺、何言ってんの?

 てか、どう弁解すればいいの?……というか、もう抱きしめた時点で、どうにも出来ないんだけど……

「……と、とにかく! 別に女慣れしてるわけじゃないし、誘われても断るって、前にも言っただろ」

「そうですけど。でも、昔、彼女はいたんですよね?」

「っ……そりゃ、いたけど……でも、それも高一くらいまでの話で……っ」

 彼女──そう言われ、飛鳥は、ふと昔のことを思いだした。

 確かに、何人か女の子と付き合ったこともあるし、それなりに恋人らしいこともした。

 だけど、だからと言って手を出しまくっていたわけではなく、むしろ、自分でも驚くくらい、冷めていた気がする。

 何をするにも冷静で、今みたいに、衝動的に抱きしめたくなることなんて、一切なくて……

 ただ、このままではダメだと。

 "好きな子"でもできれば、変われるんじゃないかと、相手に求められるまま、ただ『恋人』として振舞っていただけだった。

(なんか……変な感じ……)

 さっきまで、あかりに触れていた手を見つめ、飛鳥は目を細めた。

 あかりの言葉は、確かに嬉しかった。

 だけど、なんで抱きしめてしまったのか?
 それが自分でも、よく分からない。

「あ、でも……あかりって、案外抱き心地いいかも。サイズ感が丁度いいというか」

「なに言ってるんですか。セクハラで訴えますよ」

 だが、真面目な顔をしたかと思えば、予期せぬ言葉が飛鳥から返ってきて、あかりは笑顔で毒づく。

「ッ信じられない! もしかして、下心があったとかじゃないですよね!?」

「ないよ。てか、お前が『女遊び激しそう』なんて言うからだろ?」

「誰も、そこまで言ってないじゃないですか」

「言ったようなもんだろ。それに、俺、見た目で判断されるの嫌いなんだけど?」

「そうですか。では、その髪を、一度真っ黒に染めてみては? 少しはプレイボーイ感薄れるのでは?」

「お前、相変わらず可愛くないな」

 なんとなく、懐かしいやり取りに、苦笑しつつも、ほっとした。

 やっぱり、あかりの側は居心地がいい。
 そして、同時に安心もする。

 この関係か、この先も、ずっと続くことに……

「あ、そうだ」
「?」

 すると、今度はあかりが声を上げて、飛鳥が視線を向ける。

「どうしたの?」

「あ、その……妹さん達、もしかしたら勘違いしてるかもしれないので、ちゃんと話しておいてくださいね?」

「勘違い?」

「はい。多分、エレナちゃんのこと気づいてないでしょうし、きっと、神木さんの部屋で……その……二人っきりだと、思われてると思うので」

「………」

 その言葉に、飛鳥は双子を追い出した時のことを思い出した。

 エレナのことで頭がいっぱいだったから、忘れていたが、確かにあれだと、自分があかりを、部屋に連れ込んで──

(あー……あいつら、絶対、変な勘違いしてる)

 とはいえ、帰って来る前に気づけて良かった。

「わかったよ。ちゃんと、だって伝えとくから」

「そうしてください。じゃぁ、私はそろそろ」

「うん、送ってかなくていい?」

「はい、大丈夫です。帰りに、買い物もしたいですし」

「そう……」

 すると、あかりは、また飛鳥を見つめ、深く頭を下げた。

「今日は、エレナちゃんのこと、ありがとうございました」

「うんん、俺が勝手に首突っ込んだだけだから。それより、さっき俺が言ったこと、ちゃんと守れよ」

「……はぃ。……では、また」

「うん……またね」

 互いに挨拶を交わすと、飛鳥は軽く手をふり、あかりを見送った。

(また……か)

 いつもと変わらない、挨拶。
 いつもと変わらない、関係。

 そのことに安堵して、飛鳥は小さく笑みを浮かべた。

 だが、そんな飛鳥とあかりのやり取りを、華と蓮が遠巻きに見つめていたなんて

 飛鳥は全く、気づくことがなかった。



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