神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第16章 コスプレと橘家

第223話 飛鳥くんと女装

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 それから、2週間ほどがたった9月下旬。

 飛鳥は出かける準備をすませると、華と蓮が寛いでいるリビングに顔を出した。

「蓮華、俺、出かけてくるから」

 髪をいつものように緩く横に流し、Tシャツにジーンズ、その上に紺のカーディガンを羽織った飛鳥。

 シンプルながらも、サラッと着こなすそのスタイルの良さに脱帽しつつも、珍しく日曜に出かけようとしている兄に、双子は首を傾げた。

「今日、日曜だよ。どこいくの?」

「隆ちゃんち」

「へー、勉強でもすんの?」

 いつもなら、待ち合わせは喫茶店のはずだが、今日は隆臣の自宅に向かうらしく、双子は再度兄に問いかける。

 すると──

「違うよ。夏祭りに約束したを叶えにいくんだよ」

 心なしか表情を曇らせ、飛鳥が返事を返すと、その『武市くんのお願い』を思い出した双子は、くつろいでいたソファーから、弾かれたように立ち上がった。

「マジで!? ついに女装すんの、兄貴!?」

「うそ~! すっごい気になる!! 何、着るの!?」

「お・し・え・な・い!」

 目を輝かせて、詰め寄る双子に、飛鳥がにこやかに答えた。

 だが、顔は笑っているが、心は全く笑っていなかった。

 なにより、元はと言えば、双子が大河に、あんな提案をしたから、こうなったわけで……

「全く、お前らのせいだからな」

「私たちのせいじゃないし。飛鳥兄ぃが、武市さんにチケット貢がせたのが、いけないんでしょ!」

「貢がせてないよ。あっちが勝手に、貢いできたんだから」

「兄貴、俺達も一緒にいっていい? 兄貴の女装姿、また見たい」

「連れてくわけないだろ。大人しく家で待ってろ」

 双子にピシャリと言い放つと、飛鳥はリビングから出て玄関に向かった。

 スニーカーを履いて荷物を持つと、玄関先に出た飛鳥は、再度、双子に目を向ける。

「じゃぁ、行ってくるね。帰りは夕方になると思うから」

「わかった。写真送ってね!!」

「動画でもいい」

「送るか!」

 そんなこんなで、なかなか引き下がらない双子を置き去りにし、飛鳥は女装するため、隆臣の家へと向かったのだった。










 220話  『飛鳥くんと女装』










 ◇◇◇

 ピンポーン!

 午後2時──飛鳥は隆臣の自宅に訪れると、玄関先でインターフォンを鳴らした。

 少しだけ涼しくなり始めた、秋の日。

 庭先には美里が植えたのか、赤や白、オレンジといった色とりどりのガーベラの花が小さな蕾をつけていた。

 小5で隆臣と仲良くなってから、何度と訪れたこの橘家は、ごく普通の二階建ての一軒家。

 玄関を入って左手にある扉を開ければ、その先にはリビングとキッチンがあり、その反対側には、客間である和室と洋室が一部屋。

 そして、廊下の奥にある階段を上った先には、隆臣が使う少し広めの洋室があった。

 大抵、飛鳥が訪れると、一階のリビングで過ごすか、二階の隆臣の部屋で過ごすかだった。

 二人とも、高校も大学も同じだったからか、受験前に隆臣の部屋で一緒に受験勉強したのだが、それすらも、今では懐かしく感じてくる。

「飛鳥、入っていいぞ」
「お邪魔しまーす♪」

 インターフォンを鳴らして暫くすると、中で待っていた隆臣が顔を出した。

 黒のスキニーに赤いチェックのシャツを着た隆臣は、飛鳥を家に入れるなり、そのままリビングへと連れていく。

「あれ、武市くんは?」

「大河なら、バイトが長引いて少し遅れるって」

「そうなんだ」

 隆臣のあとに続き、リビングに入ると飛鳥は荷物を置き、そのままソファーに腰を下ろす。

 すると、ソファで項垂うなだれながら、飛鳥は小さく愚痴を零し始めた。

「ねー隆ちゃん……マジで着るのかな?」

「今更なに言ってんだ。大体、はお前が、あみだで引き当てたんだろ?」

「そうだけど……」

 前に喫茶店で、何の女装をするか話し合った時、隆臣が提案した『あみだくじ』で、その衣装を引き当てた飛鳥。

 自分で選んだとはいえ、やはり今からソレを着るのかと思うと、ちょっと戸惑う。

「あ、そういえば、さっき華から『お兄ちゃんの女装写真、送って』って、LIMEがきたぞ」

「はぁ!!?」

 すると、同じくソファーに腰かけた隆臣の言葉に、飛鳥は信じられないとばかりに声を上げた。

 まさか、隆臣にまで根回しするとは!?
 どんだけ見たいんだ、あいつら!?

「言っとくけど、写真撮影は禁止ね。1枚でも撮ったら、張っ倒すからな」

「わかってるよ。そう言うと思って『無理だ』と返信しといた」

 華たちには悪いが、隆臣とて長年飛鳥と友人をつづけてきたのだ。

 怒らせた時の飛鳥がどれだけ怖いかは、よくわかっていた。

 ──ピンポーン!

「!」

 すると、そのタイミングでインターフォンを鳴って、二人は大河が来たのだと確信する。

 隆臣がリビングからでて玄関に向うと、それからすぐに、いつも通りハイテンションな大河がリビングに入ってきた。

「神木くん!! 遅れてすみません! バイトが長引いて~!!」

「別にいいよ。バイトお疲れ様」

 飛鳥の前にたち、大河がパンと手を合わせて謝ると、飛鳥は特段気にすることなく労いの言葉をかける。

 だが、来て早々、大河は飛鳥に、紙袋を差し出してきた。

「神木くんが選んだ衣装、しっかり調達してきました!! さっそくやっちゃいますか!?」

「……っ」

 相変わらず、忙しない奴だ。

 飛鳥は、ズイと差し出された紙袋を受け取りながら、その口元を引き攣らせた。

 そして、察した。
 もう、逃げられそうにない……と。

「はぁ……言っとくけど、似合わなくても文句言わないでね。あと、写真は撮るなよ?」

「はい、わかってます!! 神木くんの女装姿は、この目にしかと焼き付けます!!」

「いや、むしろ忘れて」

 にっこり笑って、本音を呟く。
 できるなら、記憶から抹消して欲しいくらいだ。

「飛鳥、着替えるなら俺の部屋つかっていいぞ?」

「あ、うん、ありがとう」

 すると、隆臣に促されるまま、飛鳥は二階に向かった。

 階段をのぼり、隆臣の部屋に入るなり扉を閉めると、飛鳥は改めて、大河から受け取った紙袋を見つめた。

 中には、先日、自分があみだくじで引いた衣装が、しっかり入ってる。

(……やるからには、ちゃんとしないとな)

 引き受けた手前、いい加減なことはできず、飛鳥はしぶしぶ腹をくくると、部屋の中を見回した。

 8畳ほどのシンプルな隆臣の部屋には、縦長の鏡が備え付けてあった。

 全身が映る大きなものではないが、男が身だしなみを確認するには、十分すぎる大きさ。

 その後飛鳥は、紙袋から衣装を取り出すと、側にあったベッドの上に置き、着ていたカーディガンをするりと脱いだ。

 長い髪を束ねていたリボンをスルリとほどけば、腰近くまで伸びた長い髪が、流れにそってふわりと靡く。

 高校の女子高生姿から、数年──

 さてはて今回は、どんな姿に化けるのやら?




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