神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
279 / 554
第2部 最終章 始と終のリベレーション

第258話 隆臣と飛鳥

しおりを挟む
「頼まれたからな、お前たちの兄貴に──」

「え?」

 その言葉に、華と蓮は瞠目する。

「お兄ちゃんが……?」

「あぁ……蓮華が俺を心配して家から出てくるかもしれないから、俺の代わりに見ててほしいって……だから俺も、お前達を行かせるわけにはいかない」

「……ッ」

 その瞳にはハッキリとした意思が見えて、本気で行かせる気がないのだとわかる。

「じゃぁ、隆臣さんがここにいるのは、兄貴おかげってこと?」

「何それ、また子供扱い!? いつもそうやって、先回りして……!」

 衝動的に隆臣の服を掴むと、華は悔しそうに唇をかみ締めた。

 いつも、そうだ。

 兄は、いつも自分たちが、危険な目に会わないように、先回りして安全な道を用意してくれる。

 怪我をしないように
 危ない目に会わないように

 いつも一歩先を見越して、先手をうってくる。

「悔しい……っ」

 悔しい。悔しい──

「私達、いつまで、お兄ちゃんに守られてればいいの……っ」

 兄のためになにかしたいと飛び出しても、結局この有様。

 不審者相手に、何も出来ず、逆に心配かけてばかりで──

「なんで……っ」

 なんでだろう。
 大人になるって難しい。

 誰かを守れるようになるって難しい。

 少しでも近付きたいのに、兄に全く近づけないことが、悔しくて悔しくて仕方ない──

「なんで……なんで私たち、いつもこうなの! いつも、守られてばっかりで……っ」

「………」

 ついに泣き出して、隆臣の服をキュッと握りしめる華を見て、隆臣もまた悲しそうに目を細めた。

(悔しい……か)

 その気持ちは、よく分かった。
 なぜなら、自分もそうだったから。

 10年前のあの日、誘拐犯に捕まった飛鳥を一人おいて逃げた時、悔しくて悔しくてたまらなかった。

 飛鳥を置いて、逃げ出してしまった自分に幻滅した。

 逃げ出して、戻る勇気すらもてなった自分の『弱さ』が、許せなかった。

 そのくせ飛鳥は、あんなに綺麗で、女みたいな顔をしていて、その上、腕だって身体だって、俺よりずっと細いくせに

 俺なんかより、ずっとずっと強かった。

 からかってくるクラスメイトも一人で撃退して、誘拐犯においかけまわされても妙に冷静で、いつも凛としていて

 そして、そんな姿がカッコイイと思った。

 だけど───

「そうだな、悔しいよな」
「ッ……!」

 すると隆臣は小さく笑みを浮かべ、華の頭を優しく撫でる。

「頼って欲しいのに、全く頼られないのは、悔しいよな……でもな。飛鳥は別にお前達のことを、子供扱いしたいわけじゃないと思う」

「え?」

「アイツにとって、お前達は大切で、絶対に失いたくない、傷つけたくない宝物みたいなもので……だからきっと、守ることに、人一倍過剰になってる」

「過剰……?」

「あぁ──アイツ、自分の大切なものは、絶対に誰にも託そうとはしないからな」

 いつだったろう。

 飛鳥のその『強さ』が『弱さ』からくる強さなんだって、気づいたのは

 いつも、一人で守ろうとしていた。
 誰にも頼らず、たった一人で

 そんな飛鳥は、一見強そうに見えて
 実はすごく──弱かった。

 飛鳥が、誰にも頼ろうとしないのは、信用出来ないからだ。

 人の『絆』というものを、信じきれていないからだ。

 絆なんて、あっさり壊れてしまう『脆い』ものだと思っている飛鳥は、他人を簡単に信用しようとはしない。

 いや、信用しようとしても出来なかったのかもしれない。

 飛鳥が、あまり交友関係を広くもとうとはしないのも、恋人を作ることをやめたのも

 人の繋がりの脆さを、よく知っているからなのかもしれない。

 だから飛鳥は、いつも一人で守ってた。

 そんな曖昧で、歪なものに、大切な家族を託すなんて出来るはずがなかったから

 正直、すごく厄介なやつだと思った。

 自分の大切なもので、もう腕の中はいっぱいのはずなのに、赤の他人まで抱え込もうとするから

 誰にも、助けをもとめられないくせに、なんでもかんでも抱え込む飛鳥は

 強くて
 弱くて
 厄介で

 だけど──

「だけど、そんな飛鳥が、やっと自分の一番大切なものを他人に預けて、他のやつにも目を向けられるようになったんだ。……10年たってやっと、飛鳥が俺に『助けて』って言えるようになった。だから──」

 そう言うと、隆臣は涙を流す華を見つめ、優しく微笑むと

「だから、後少しだけ飛鳥に守られてやってくんねーか?」

 どうか、あと少し
 飛鳥がしっかり"自覚"するまで──

 もう『一人』で、守る必要はないんだってこと。

 お前に"大切なもの"があるように、俺にも、華にも、蓮にも、大切なものがあるんだってこと。

 そしてその中に、飛鳥、お前も含まれているんだっていうこと。

 お前が傷つけば、悲しむ奴がいっぱいいる。

 だから、もっと頼ってほしい。

 お前が、助けを求めさえすれば、俺達はいつだって、お前の力になってやるから

 だから──もっと信じろ、飛鳥。

 お前が『脆い』と思っている、この『絆』は、そんなに弱な絆じゃない。

 俺達の絆は、絶対に壊れたりしない。
 俺達は絶対に、お前を裏切ったりしない。

 だから、早く自覚しろよ。

 お前は、もう



 『独り』で戦う必要はないんだから───




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...