290 / 554
第2部 最終章 始と終のリベレーション
第269話 兄と母
しおりを挟む
「……ど、どうしよう」
キッチンのなかで、華が顔を青くして呟いた。
手には、オレンジジュースと麦茶。
「わ、私、お茶入れるって言ったけど、あのエレナちゃんて子、なに飲むかな? オレンジジュース? 麦茶? あ、炭酸のグレープジュースもあるけど、私は小学生の時、何出されて喜んでたっけ?」
「なんでもいいよ。ていうか、全員麦茶でいい。それより、落ち着け!」
「お、落ち着けるわけないじゃん! だって、お兄ちゃんが……お兄ちゃんがいきなり、妹連れてきたんだよッ」
落ち着けと言う蓮に、華がわなわなと手をふるわせる。
「なんで、いきなり妹なんて……それに、こんな時間につれてくるなんて、あの子の親、心配したりしないのかな?」
「ていうか、あの子の親ってことは、要するに兄貴の母親ってことだろ」
「……っ」
瞬間、華は目を見張った。
「ぁ、そうか……そぅ、だよね?」
兄の母親──
聞こうとしても、ずっと兄が隠そうとしていた人。
「それに、兄貴もだけど、あのエレナちゃんて子も、首に包帯巻いてたし、兄貴が連れてこなきゃいけないような、何かがあったってことだろ。なんの理由もなく、兄貴が連れてくるとは思えないし」
「うん、そうだね……っ」
少しだけ冷静になる。慌てて出て行った兄が、怪我をして帰ってきた。
何もなかったはずがない。あのエレナちゃんの元に行って、きっと何かあったんだ。
だから、今こうして、あの子を連れてきた。
「まぁ、どの道、あの子が兄貴の妹だってのは一目瞭然だし、間違いないだろ。俺たちと違って──そっくりだ」
「…………」
俺たちと違って──その言葉に、華はキュッと唇をかみ締めた。
本当に、あの二人はよく似ていた。
悔しいくらいに、エレナちゃんは、兄にそっくりだ。
「今日、泊めるつもりなのかな?」
「………」
麦茶を人数分、注ぎ終わり、少し不安そうに呟いた華を見て、蓮がその不安を和らげるように、華の手を取った。
自分よりも少し小さい華の手を、蓮はきつくきつく握りしめる。
「華、俺はなにがあっても、お前の味方だよ」
「……」
「華が我慢する必要ない。兄貴の話を聞いて、納得がいかない時は、嫌だっていえばいい。俺だって、いきなり妹だとか言われても、そう簡単に受け入れられない。お前と一緒だ」
「……蓮」
蓮の言葉に、じわりと胸が熱くなる。
「うん。ありがとう」
華はそう言って、キュッと目を閉じると
「お茶、準備できたから、お兄ちゃんたち呼んできて」
「……わかった」
そう言うと、蓮はリビングを出ていった。
華はそのあと、リビングの隅にあるチェストの前に歩み寄ると、母である"神木ゆり"の写真の前に立つ。
「お母さん。お兄ちゃんの妹……私だけじゃなかったみたい」
ふわりと微笑むゆりの写真を手にとって、華はぽつりぽつりと囁く。
「大丈夫だよね、私たち…」
それは、まるで祈るように。
華は、ゆりの写真を胸の前で抱きしめる。
「どうか、私たちのこと見守っててね……お母さん……っ」
第269話 兄と母
◇◇◇
その後、リビングには、飛鳥を初めとして、華、蓮、エレナ、隆臣の五人が一堂に会していた。
そして、キッチン前の四人がけのダイニングテーブル。
そのいつもの席に飛鳥が着くと、右隣にエレナが腰掛け、その向かいの席に華と蓮も腰掛けた。
ピンと張り詰めた空気。
その光景を見ながら、隆臣はそこから少し離れたソファーに座り、四人の様子を伺っていた。
きっと、この場にいる誰もが、居心地が悪いと感じているのだろう。
重くて、どんよりとした雰囲気。
だが、そんな中、話の中心とも言える飛鳥が、やっと言葉を放つ。
「まずは、こんな時間まで連絡しないで、ゴメン」
「…………」
全員無言のまま、飛鳥の話に耳を傾ける。
「今から、話すよ。お前達が、知りたがってたこと……でも、その前に」
「?」
「お前達が、当たり屋に遭遇したって話、詳しく聞いていい?」
((ひぃぃぃぃぃぃ!?))
だが、その後放たれた言葉に、華と蓮は心の中で悲鳴をあげた。
(え!? なんで、兄貴そのこと知ってんの!?)
(まさか、隆臣さん!! もう、話したの!?)
兄から突きつけられた気まづい話に、華と蓮が助けを求めるように隆臣をみやる。
すると、隆臣もまさかここで、その話が出てくるとは夢にも思っていなかったのだろう。
(悪い、蓮華……)
すこしバツが悪そうに、視線を逸らす。
だが、遅かれ早かれ、明日にはバレる。
そう確信した、華と蓮は
「あ、あの……家で待っとけって言われたけど、やっぱり心配で、財布も持たずにとびだしまして」
「その途中で、俺に男の人がぶつかってきて、その人が、その……当たり屋だったみたいで、スマホ壊れたから、お金払えって言われて…」
「それで、あの、なんだかんだ隆臣さんが助けてくれて、何とかなったというか……あの、その……ごめんなさい」
「…………」
素直に謝る二人に、飛鳥は目を細めた。
怖かっただろう。
何事もなくて、よかった。本当に──
すると飛鳥は、その後、華と蓮をまっすぐに見つめると
「謝らなくていい……」
「「え?」」
そういった飛鳥に、華と蓮は呆気に取られた。
てっきり、怒られるだろうと思っていた。
それなのに──
「お兄ちゃ……」
「謝らなくていい。悪いのは、全部……俺だから」
そういった瞬間、リビングはシンと静まり返る。
「俺が、何も言わず家を出たのが、悪い。俺が、ずっと隠し事をしてたのが悪い」
「……」
「エレナだって、本当は知らなくて良かった事を、俺が一方的に教えて、無理やり巻き込んだようなものだから、どうか、責めないでやって……悪いのは、責められなきゃいけないのは、全部、俺だから」
呼吸すら出来なくなるような、そんな兄の声に、その場の全員が息を飲んだ。
一気に、雰囲気の変わった飛鳥の姿に
皆、確信する。
──あぁ、始まるんだ……と。
「全部、話すよ。お前達が知りたがってたこと……俺の母親がどんな人なのかも、子供の頃何があったのかも、どうしてエレナが、今ここにいるのかも。そして──ゆりさんのことも」
「え?」
突如飛び出してきた母親の名前を聞いて、華と蓮は目を見開いた。
「昔俺が、ゆりさんと出会って、そこで何があったのか。全部、聞いて──」
それは、重く、辛く、悲しい話。
この話を終えたあと、この家族が、どうなってしまうのか
それは、まだ、誰にも分からない。
キッチンのなかで、華が顔を青くして呟いた。
手には、オレンジジュースと麦茶。
「わ、私、お茶入れるって言ったけど、あのエレナちゃんて子、なに飲むかな? オレンジジュース? 麦茶? あ、炭酸のグレープジュースもあるけど、私は小学生の時、何出されて喜んでたっけ?」
「なんでもいいよ。ていうか、全員麦茶でいい。それより、落ち着け!」
「お、落ち着けるわけないじゃん! だって、お兄ちゃんが……お兄ちゃんがいきなり、妹連れてきたんだよッ」
落ち着けと言う蓮に、華がわなわなと手をふるわせる。
「なんで、いきなり妹なんて……それに、こんな時間につれてくるなんて、あの子の親、心配したりしないのかな?」
「ていうか、あの子の親ってことは、要するに兄貴の母親ってことだろ」
「……っ」
瞬間、華は目を見張った。
「ぁ、そうか……そぅ、だよね?」
兄の母親──
聞こうとしても、ずっと兄が隠そうとしていた人。
「それに、兄貴もだけど、あのエレナちゃんて子も、首に包帯巻いてたし、兄貴が連れてこなきゃいけないような、何かがあったってことだろ。なんの理由もなく、兄貴が連れてくるとは思えないし」
「うん、そうだね……っ」
少しだけ冷静になる。慌てて出て行った兄が、怪我をして帰ってきた。
何もなかったはずがない。あのエレナちゃんの元に行って、きっと何かあったんだ。
だから、今こうして、あの子を連れてきた。
「まぁ、どの道、あの子が兄貴の妹だってのは一目瞭然だし、間違いないだろ。俺たちと違って──そっくりだ」
「…………」
俺たちと違って──その言葉に、華はキュッと唇をかみ締めた。
本当に、あの二人はよく似ていた。
悔しいくらいに、エレナちゃんは、兄にそっくりだ。
「今日、泊めるつもりなのかな?」
「………」
麦茶を人数分、注ぎ終わり、少し不安そうに呟いた華を見て、蓮がその不安を和らげるように、華の手を取った。
自分よりも少し小さい華の手を、蓮はきつくきつく握りしめる。
「華、俺はなにがあっても、お前の味方だよ」
「……」
「華が我慢する必要ない。兄貴の話を聞いて、納得がいかない時は、嫌だっていえばいい。俺だって、いきなり妹だとか言われても、そう簡単に受け入れられない。お前と一緒だ」
「……蓮」
蓮の言葉に、じわりと胸が熱くなる。
「うん。ありがとう」
華はそう言って、キュッと目を閉じると
「お茶、準備できたから、お兄ちゃんたち呼んできて」
「……わかった」
そう言うと、蓮はリビングを出ていった。
華はそのあと、リビングの隅にあるチェストの前に歩み寄ると、母である"神木ゆり"の写真の前に立つ。
「お母さん。お兄ちゃんの妹……私だけじゃなかったみたい」
ふわりと微笑むゆりの写真を手にとって、華はぽつりぽつりと囁く。
「大丈夫だよね、私たち…」
それは、まるで祈るように。
華は、ゆりの写真を胸の前で抱きしめる。
「どうか、私たちのこと見守っててね……お母さん……っ」
第269話 兄と母
◇◇◇
その後、リビングには、飛鳥を初めとして、華、蓮、エレナ、隆臣の五人が一堂に会していた。
そして、キッチン前の四人がけのダイニングテーブル。
そのいつもの席に飛鳥が着くと、右隣にエレナが腰掛け、その向かいの席に華と蓮も腰掛けた。
ピンと張り詰めた空気。
その光景を見ながら、隆臣はそこから少し離れたソファーに座り、四人の様子を伺っていた。
きっと、この場にいる誰もが、居心地が悪いと感じているのだろう。
重くて、どんよりとした雰囲気。
だが、そんな中、話の中心とも言える飛鳥が、やっと言葉を放つ。
「まずは、こんな時間まで連絡しないで、ゴメン」
「…………」
全員無言のまま、飛鳥の話に耳を傾ける。
「今から、話すよ。お前達が、知りたがってたこと……でも、その前に」
「?」
「お前達が、当たり屋に遭遇したって話、詳しく聞いていい?」
((ひぃぃぃぃぃぃ!?))
だが、その後放たれた言葉に、華と蓮は心の中で悲鳴をあげた。
(え!? なんで、兄貴そのこと知ってんの!?)
(まさか、隆臣さん!! もう、話したの!?)
兄から突きつけられた気まづい話に、華と蓮が助けを求めるように隆臣をみやる。
すると、隆臣もまさかここで、その話が出てくるとは夢にも思っていなかったのだろう。
(悪い、蓮華……)
すこしバツが悪そうに、視線を逸らす。
だが、遅かれ早かれ、明日にはバレる。
そう確信した、華と蓮は
「あ、あの……家で待っとけって言われたけど、やっぱり心配で、財布も持たずにとびだしまして」
「その途中で、俺に男の人がぶつかってきて、その人が、その……当たり屋だったみたいで、スマホ壊れたから、お金払えって言われて…」
「それで、あの、なんだかんだ隆臣さんが助けてくれて、何とかなったというか……あの、その……ごめんなさい」
「…………」
素直に謝る二人に、飛鳥は目を細めた。
怖かっただろう。
何事もなくて、よかった。本当に──
すると飛鳥は、その後、華と蓮をまっすぐに見つめると
「謝らなくていい……」
「「え?」」
そういった飛鳥に、華と蓮は呆気に取られた。
てっきり、怒られるだろうと思っていた。
それなのに──
「お兄ちゃ……」
「謝らなくていい。悪いのは、全部……俺だから」
そういった瞬間、リビングはシンと静まり返る。
「俺が、何も言わず家を出たのが、悪い。俺が、ずっと隠し事をしてたのが悪い」
「……」
「エレナだって、本当は知らなくて良かった事を、俺が一方的に教えて、無理やり巻き込んだようなものだから、どうか、責めないでやって……悪いのは、責められなきゃいけないのは、全部、俺だから」
呼吸すら出来なくなるような、そんな兄の声に、その場の全員が息を飲んだ。
一気に、雰囲気の変わった飛鳥の姿に
皆、確信する。
──あぁ、始まるんだ……と。
「全部、話すよ。お前達が知りたがってたこと……俺の母親がどんな人なのかも、子供の頃何があったのかも、どうしてエレナが、今ここにいるのかも。そして──ゆりさんのことも」
「え?」
突如飛び出してきた母親の名前を聞いて、華と蓮は目を見開いた。
「昔俺が、ゆりさんと出会って、そこで何があったのか。全部、聞いて──」
それは、重く、辛く、悲しい話。
この話を終えたあと、この家族が、どうなってしまうのか
それは、まだ、誰にも分からない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる