363 / 554
第4章 雪の日の二人
第341話 心配と約束
しおりを挟む「神木くん、またね~」
「うん、またね」
本日最後の講義を終えると、飛鳥は荷物をまとめ、そそくさと校舎から出た。真冬の空は、もうまっくらで、雲が重く、空気は一弾と冷える。
(さすがに、もう帰ってるかな?)
6限目を終えた、今の時刻は19時30分。
ダウンコートにマフラーをした飛鳥は、足早に進みながら、考えた。
エレナが帰宅する時間は4時すぎで、その後一緒に、あかりの家に向かったとしても、さすがにもう帰っている頃かもしれない。
そう思いながらも、一目あかりの様子を確認しようと、飛鳥はあかりの家に急ぐ。
「飛鳥」
「……!」
だが、その直後、隆臣に呼び止められて、飛鳥は足を止めた。
どうやら、隆臣も6限までいたのか、飛鳥が、自宅とは違う方向に向かうのに気づいて、声をかけてきたようだった。
「お前、どっかいくのか?」
「あぁ、あかりの家」
「え? お前なぁ、前にも言ったけど、あまり暗くなってから、女の子の家に行くのは」
「わかってるよ。でも今日は、あの人が、あかりに謝りに行くとか言ってて……っ」
不安げに呟いた飛鳥の言葉に、隆臣は全てを察した。
あの人──とは、つまり飛鳥の母親のことで、その母親が、あかりさんに会いに行くと言っているわけだ。
「あー、引き止めて悪かったな。行け、今すぐ!」
「あはは! さすが隆ちゃん。察しが良くて助かる!」
飛鳥が、ニコッといつもの笑みを浮かべた。だが、どことなく不安そうな表情は消しきれず
「あれから、ミサさんとは会ったのか?」
「………っ」
隆臣が、続けて問いかければ、話しづらい内容に、飛鳥は一瞬口篭った。
結局、クリスマスの日に、エレナを病院に連れて行って以来、飛鳥は一度も行っていない。
まぁ、父に任せてしまったから、行く理由がなかったのもあるが
「会ってないよ。……まぁ、退院出来たし、精神的にも安定してるはずだから、あかりに会わせても、大丈夫だとは思うけどね」
「そうか……」
病院側が退院を許可したのなら、きっと、あかりさんの元に行っても大丈夫なのだろう──隆臣は、そう理解する。
だが、そうは思っても、あの日の出来事を忘れられないせいか、飛鳥には、まだ不安があるように見えた。
「ねぇ、俺……あの人のこと、なんて呼べばいいと思う?」
すると、躊躇いがちに飛鳥がそう言って、隆臣は目を細めた。
どこか、迷いのある表情──あの飛鳥が、自分の母親への接し方に迷ってる。
「やっぱり『お母さん』って、呼んであげた方がいいのかな?」
「…………」
その言葉は、きっと飛鳥の優しさからくるものだろう。
受け入れてあげるなら、そう呼んであげるのが一番で、だからこそ飛鳥は、それを分かった上で、そんなことを聞いてる。
でも……
「わかんねーよ。そんなの、直接会って話してから考えろ」
ハッキリとそういい放てば、飛鳥は、薄く笑みを浮かべた。そして──
「はは……いじわる」
「悪かったな。でも、俺はお前の味方だ」
「……え?」
「俺は、無理をしてまで、優しい人間である必要はないと思ってる。だから、次会った時に、お前が心からそう呼んでいいと思うなら、呼べばいいし、呼びたくないなら呼ばなくていい。例え、この先、一生呼べなかったとしても、俺はお前のことを『薄情な息子だ』なんて思わねーよ」
「…………」
まるで、心に直接響くようなその言葉に、飛鳥は一瞬目を見開き、そして、また呆れたように笑った。
「はは。なんか、お見通しって感じ?」
「長い付き合いだからな」
「そっか……本当、俺って主人公にはなれないタイプだよねー。あっさり和解して、許してあげられればよかったのに」
子供なら、こうするべきだとか
家族なら、こうあるきだとか
世の中には、そんな一方的な常識が溢れていて
これが物語なら、何もなかったように許し合うこともできたかもしれないのに
現実は、そんなに簡単じゃない。
親だからこそ
家族だったからこそ
許せないことや
許したくないこともあって
でも、その一方的な常識のせいで、自分をひどく責めてしまう時がある。
親を許してあげられない自分は
なんて、ダメな子供なのだろう……と。
「隆ちゃんは、ダメな子供って思わないんだ」
「思わねーよ。逆に、この16年のわだかまりが、あっさり消えたら、夢物語だろ」
「はは、そうだね。しかし、甘いなー」
「え?」
「あかりも隆ちゃんも、俺に甘すぎるよ。一言『言ってやれ』って……『許してやれ』って言ってくれたら、覚悟も決まるかもしれないのに……ホント意地悪」
外の風は、とても冷たくて、吐く息は自然と白くなった。
飛鳥は、まるで冗談でも言うように笑いながらそう言って、隆臣がまた言葉を挟む。
「他人に『覚悟』を委ねるなよ」
「……っ」
「俺達は、責任を持てない。だから、どうしたいかは、お前の『心』で決めろ」
「……………」
真面目な顔で、そう言われれば、飛鳥は笑うのをやめ、そっと目を閉じた。
「……うん、そうだね。……ゴメン。意地悪なのは、俺の方だ……っ」
誰かに決めてもらえれば
間違えた時に
後悔した時に
その誰かのせいにできるから
考えることを
悩むことを放棄して
他人に──覚悟を委ねた。
でも、それじゃダメだって、本当は分かってる。
世間の常識に、身を委ねちゃいけない。
楽な方に、逃げちゃいけない。
関わることを、避けてはいけない。
この先、あの人の事を、一生、母と呼べなかったとしても
ちゃんと、向き合って
自分の『心』で決めないと──
「でも、本当に、呼び方には困ってるんだよね……どうすればいい?」
だが、その後、飛鳥がまたポツリと呟けば
「本人には聞いてみれば?」
「え!? それで『お母さんって、呼んで』って言われたらどうするんだよ!?」
「嫌なら、嫌って言えばいいだろ」
「泣いちゃうかもしれない!?」
「ヤベーな、それは。それより、早く行った方がいいんじゃないか?」
「あ、うん。……そうだね。じゃぁね、隆ちゃん。あ、それと」
すると、去り際に振り返り、飛鳥は、また隆臣に視線をあわせる。
「俺も、ずっと隆ちゃんの味方だから。なにか悩みがあったら相談してね……約束!」
振り向き、可愛らしく言った飛鳥に、隆臣は軽く眉をひそめた。なぜなら……
(酔ってないのに、飛鳥がデレるなんて……この後、雪かもな?)
◇
◇
◇
「あ、雪降ってきた」
それから、小走りであかりの家へと向かうと、その途中で、チラチラと雪が降ってきた。
飛鳥は、マフラーを軽く整えながら進むと、しばらくしてあかりのアパートの前につく。
一階から、二階のあかりの部屋を見れば、電気がつい着いた。
不安な気持ちを抑えながら、飛鳥は階段を駆け上がると、肩についた雪を振り払いながら、あかりの部屋の前に立つ。
──ピンポーン。
控えめに、インターフォンをならして、中からあかりが出てくるのを待った。
時刻は、もう8時。
きっとエレナたちは、もういないのだろう。
(……大丈夫だったかな?)
顔を見るまで安心できず、ただただその場に立ち尽くしていると、ガチャンと鍵が開く音がした。
だが、扉が開き、その中からでてきた、あかりは
「え……?」
なぜか、目を赤くし、泣き腫らしたような顔をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる