神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第9章 恋と別れのリグレット

第389話 特別とイチゴ

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「兄貴、行ってらっしゃい!」

 二時前になり、出かける兄を、妹弟達が見送る。

 これから、あかりさんの家に向かう兄は、今日も変わらず、カッコ良かった。

 黒のジーンズを履いた脚はスラリと長いし、Vネックのシャツから覗く鎖骨は、これまた色っぽいし、更に、オシャレなジャケットを羽織る姿は、もう、ため息がでるほどの美男子だ。

 だが、今、その絶世の美男子の手には、が入った紙袋が握られていた。

 そう、華と葉月が一生懸命選んだ、あの服が!!

((なんだか、ドキドキしてきた……っ))

 出かけ間際、双子は緊張の面持ちで、兄を見つめた。

 兄は、これから、あかりさんの家で二人っきりになる。

 もちろん、初めてのことではない。
 だが、兄のことを考えると、どうにも気持ちが落ち着かない。

「じゃぁ、行ってくるね。帰りは」

「待って、飛鳥兄ぃ! 大丈夫だよね!?」

「大丈夫って、何が」

「だから、理性がはずれて、あかりさんを押し倒したりとか!」

「しないよ」

「ほんとかよ! わからないだろ、兄貴だって男なんだから! しかも、あかりさんの部屋で二人きりで脱いだり着たりするんだぞ!」

「脱ぐのも着るのも、だよ」

「うん、分かってるよ、飛鳥兄ぃは、今日女装しに行くんだもん! でも、万が一ってこともあるかもしれない!」

「そうだよ、だから、万が一朝帰りすることになったら、遠慮なく連絡して。俺たちは、二人だけでも大丈夫だから!」

「どんなミラクルが起これば、朝帰りすることになるの? ちゃんと6時には帰ってくるから。ていうか、エレナの前で変な話するな」

 にっこりと笑いつつ、双子を叱咤する。
 こんな純粋な小学生の前で、なんという会話を……

「ねぇ、飛鳥さん!」
「ん?」

 すると、今度はエレナが、飛鳥に近づき話しかけた。エレナは、キュッと飛鳥の服を引っぱると、コソッと耳打ちをする。

「あかりお姉ちゃんと飛鳥さん、とってもお似合いだと思う。だから、頑張ってね」

「……っ」

 その可愛らしい応援に、自然と胸が熱くなった。
 飛鳥は、エレナの頭をぽんと撫でると

「うん、ありがとう。頑張るよ」

 何を頑張れば、あかりの心を振り向かせられるのか、それは分からなかった。

 だけど、まだ、諦めきれない。

 あかりは、これまで生きてきて


 初めて、好きになった、特別な女の子だから……











 「よし、いい感じ♪」

 午前中に買い物を終わらせたあかりは、その後、部屋の掃除をし、お昼を食べたあと、昨晩作って冷やしておいたデザートにデコレーションをしていた。

 あかりが、つくったのはチョコレートプリン。

 ビターチョコを多めにした甘さ控えめなプリンの上には、たっぷりの生クリームとハート型に切ったイチゴが綺麗にデコレーションされていた。そして、仕上げとばかりにブルーベリーとミントの葉を乗せれば、あっという間に上品なデザートが出来上がった。

 うん。なかなかの出来栄えだ。

 クリームの巻き方も綺麗だし、これも喫茶店で、キッチンのバイトを始めたおかげ!

「あ……」

 だが、そこに来てあかりは、はたと気づく。

(……イチゴの形、ハート型にきっちゃったけど、大丈夫だよね?)

 何気なく、バイト感覚で切ってしまったイチゴ。
 
 だが、このハートの形により、自分の恋心を悟られたりしないだろうか?
 あかりは、少しだけ不安になった。

 とはいえ、ハート型のイチゴは、ある意味、定番だ。街の中では、そこら中のデザートにハート型のイチゴが乗っているレベル。

(だ、大丈夫だよね? ただの飾りだし……)

 さすがに意識しすぎかと、あかりは、出来上がったデザートを冷蔵庫にしまいながら、ため息をついた。

 ちなみに、あかりが、今日デザートをつくったのは、バレンタインのお返しも兼ねて。

 バレンタインの日、あかりは、飛鳥から手作りのクッキーを貰った。

 そして、そのお返しに、花見に誘われたが、まだ、ちゃんとしたお返しはしていなかった。

 前に、実家に帰省した際に、お土産は渡したけど、やはり、ちゃんとお返しはしたい。

 そう思い、昨晩から、こうしてデザートを作ったのだが……

(手作りにしなくても、良かったかな?)

 買った方が良かったかも?
 もし、口に合わなかったら、どうしよう?

 いろいろ考えたら、不安になってきた。
 だが、今更変更はできない。

(……もうすぐ、着くかな?)

 壁にかけられた時計を見つめれば、今の時刻は、13時45分。2時までは、あと15分──

 そう思うと、また少し緊張してきた。

 あかりは、その後、気持ちを落ち着かせようと、一度窓を開け、ベランダに出た。

 初夏の風が吹く空は、なんとも清々しい。

 そして、その風を浴びながら、アパート前の公園を見つめれば、そこでは、子供たちが楽しそうに遊んでいた。

 泥まみれで水遊びをする子。滑り台で遊ぶ子。

 その無邪気な声に癒されたおかげか、ずっと忙しなかった心が、少しづつ落ち着いていく。

(みんな、可愛いなぁ……)

 子供は、嫌いじゃない。

 中学までは、いつか自分も子供を産むのだろうと、当たり前のように思っていた。

 好きな人と結婚して、家庭を作る。
 そんな未来に、憧れたものだった。

 だけど、そんな憧れも、あの日、見事に砕け散った。自分には、無理な話なのだと──

(神木さんも、子供が好きいってたっけ。きっと、いいお父さんになるんだろうなぁ。面倒見いいし)

 彼が、父親になった姿を想像する。
 案外、似合ってる気がした。

 そして、そんな彼の横に立つ女性は、どんな人なのだろう。

 きっと、みんなが納得する、素敵な女性だ。だが、自分ではない誰かを想像すれば、少しだけ切なくなった。

 だけど、仕方ない。
 自分には、無理なのだ、どうしても。

 だからこそ、離れなくてはならない。

 私は、神木さんには、相応しくないから──


「あれ、あかりちゃん!」
「……!」

 だが、その瞬間、真横から声が聞こえた。

 その声に、ゆっくりと隣のベランダを見つるると、そこにいたのは、ちょっとしつこい隣人・大野さんだった。
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