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最終章 愛と泡沫のアヴニール
第459話 晩酌と自由
しおりを挟む「晩酌、付き合って!」
そう言って、ビールを差し出され、飛鳥は眉をひそめた。
20歳になり、お酒飲めるようになってから早一年。息子と飲めるのが嬉しいのかは知らないが、父は、帰国する度に、こうしてお酒を勧めてくる。
「また?」
「またとか言わないの。帰って来た時にしか、飛鳥とは飲めないんだぞー。それに、俺は心配なんだよ。お前が、お酒で失敗しないか」
「失敗? そんなのするわけ」
「あー、はい、はい! 自覚ないのが、一番厄介なの!というわけで、とっととお父さんの隣にきなさい!」
「わっ!」
すると、侑斗は飛鳥の背を押しやり、無理やりソファーに座らせた。
暑い夏の夜。冷房の効いた部屋で、風呂上がりに飲むビールは最高に美味いだろう。
だが、飛鳥は、その美味さには、まだ目覚めていないらしく……
「俺、お酒飲むと、朝、起きれないくなるんだけど」
「大丈夫、大丈夫。俺がいるんだから、明日は、朝ご飯も洗濯もパパがやるからな。というわけで、飲むぞ! 浴びるほどな!」
「浴びるほど!?」
無茶苦茶な父の発言に、飛鳥は、これまた眉をひそめた。
(そういえば、冷蔵庫に、たくさんお酒入ってたっけ?)
父が買いだめてきたのだろう。夕飯を作る時に、冷蔵庫の中にビールやらハイボールやらが、大量に入っといるのを見た。
となれば、この後は、たんまり飲まされるのだろう。
「はい、ビールでいいよな?」
「なんでもいいよ」
侑斗が、冷えた缶ビールを再び差しだす。
すると、二人は缶を開け、グビッと一口。
しゅわしゅわのアルコールは、風呂上がりの身体に、じんわり染み渡る。
そして、この感覚は、素直に心地いいと思う。
「帰国の目処がたって、良かったね」
すると、飛鳥がビールを飲みなら呟いた。
来年の春には、父が海外赴任を終えて帰ってくる。
転勤が決まった時に、4~5年だろうと話してはいたが、もう、そんなに経ったのかと、しみじみ思った。
「帰国は、4月?」
「いや、2月。飛鳥も、就職前で忙しくなるだろ? だから、その前には帰りたいって、人事にも話してる」
「そう……じゃぁ、そのつもりでいる」
「おぉ。また、詳しいことが決まったら連絡するからな。でも、こうして、俺が無事にキャリアを積めたのも、全部、飛鳥のおかげだなー」
上機嫌な父は、しみじみと、そう言った。
確かに、飛鳥のサポートがなければ、海外転勤なんて出来なかっただろう。
「まぁ、双子を同時に大学に通わせるって、お金かかるしね」
「あー、それ気づいてたのね?」
「気づくよ。双子の同時入学のヤバさは、高校入学の時に思い知ったし。だから、父さんが、海外にいったのは、俺のためでもあり、蓮華のためでもあったんだろうなって」
双子というのは、倍、お金がかかる。
そして、それを、飛鳥は、二人分の入学の準備をしながら実感した。
そして、この過保護が父が、海外での単身赴任を決断したのは、紛れもなく、子供達の将来のためだったということも──
「でも、無理して海外にいかなくても、二人で稼げばなんとかなったんじゃない? 俺も、春から社会人になるんだし」
「何言ってるんだ。飛鳥が稼ぐ金は、飛鳥だけのものだろ。なにより、息子の金を宛してどうする。華と蓮は、俺がしっかり大学まで通わすよ。とはいえ、飛鳥が居なかったら、海外には行けなかっただろうし、お前には、本当に感謝してる。でも、俺が帰ってきたら、もう華と蓮の親代わりをする必要はなくなるからな」
「……!」
瞬間、お疲れ様とでも言うように、肩をポンと叩かれた。
親代わり──それは、飛鳥の『当たり前』だった。
母として、父として、双子の傍に居つづけた日々。
だが、それも父が帰国すれば、終わりを迎えるのだろう。
「……そっか」
ほっとしたような、寂しいような、複雑な心境だった。
ずっと、変わりなくないと思っていた。
だから、自ら進んで、その役割を望んだ。
ゆりさんとの約束は、守れなかったから
華と蓮だけは、なにがあっても守り抜こうと。
でも──
(終わるんだ……)
華と蓮の『全て』が『自分だけ』だった頃。
それが、もうすぐ終わろうとしている。
そして、終わってしまえば、自分は、父でもなく、母でもなく、ただの『兄』になる。
ただの『神木 飛鳥』に──
「お前は、十分すぎるくらい頑張ってくれた、家族のために……だから、これから先は、お前のやりたいように生きればいいんだからな」
「………」
それは、過去や家族に縛られず、自由に羽ばたいて行けということ。
そして、その父の言葉は、まさに親から子に向けられたもので、まるで、背中を押しているようにも聞こえた。
「うん、ありがとう。……頑張って、幼稚園教諭の内定とる」
「おぉ、その意気、その意気! しかし、楽しみだなー。また、みんなで暮らせるのは! あー、でも飛鳥は、もうすぐ社会人なわけだし、一緒に暮らせたと思ったら、あっさり結婚して、神木家を出ていったりするのかなー?」
「………」
すると、侑斗がしみじみと語りだし、飛鳥は、再びお酒を口にする。
(結婚……か)
そして、その言葉を聞いて思い出したのは、あかりの姿だった。
やさしく笑う、あかりの姿。
だが、結婚を意識するほど、好きなのかと思うと、無性に恥ずかしくなってきた。
(身体が、熱い……っ)
多分、これは、お酒のせい。
火照った身体からは、艶めいた吐息が漏れる。
頬が熱くて、胸も苦しい。
すると、ふと目を逸らした先て、テーブルの上に置いていたスマホが目に入った。
そういえば、風呂に入る前に、そこに置いてたんだった。
飛鳥は、お酒の入った缶を置くと、無意識にスマホに手を伸ばす。
「飛鳥?」
そして、なにをしているのか?
スマホを操作しはじめた飛鳥を見て、侑斗が首を傾げる。
「お前、何やってるんだ?」
「……電話」
「電話? 誰に?」
「あかり」
「え?」
突然の飛鳥の行動に、侑斗は目を丸くする。
しかも、今の時刻は、深夜11時。
こんな時間に、あかりちゃんに電話を──!?
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