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最終章 愛と泡沫のアヴニール
第469話 ジャンケンと寄席太鼓
しおりを挟む「わかったよ。じゃぁ、俺が先に着替えるから、ちゃんと見ててね?」
そう言った飛鳥は、今度は、自分の服に手をかけた。
襟付きのオープンカラーのシャツは、カジュアルでありながら、どことなく品がある。
その上、爽やかなブルー系の生地が、飛鳥の艶やかなストロベリーブロンドと、よくマッチしていた。
なにより、このシンプルなシャツを完璧に着こなす姿は、流石としか言いようがない。
そして、その姿を、ベッドに腰掛けた蓮と、壁に寄りかかる隆臣が、じっと見つめていた。
二人分の視線が、飛鳥に注がれる中、一度、服から手を離した飛鳥は、思い出したように髪をほどき、長い髪を、高い位置で、一纏めにした。
浴衣を着るなら、髪はまとめあげた方がいいだろう。
だが、髪をまとめれば、自ずと、白い項があらわになった。
こうしてみると、顔だけでなく、顎から下のラインも美しいのだと気づく。
一体、何を食べれば、ここまで美しくなるのか?
この世の七不思議があるなら、加えたくなるくらいの不思議要素だ。
そんなことを、隆臣が考えていると、飛鳥の手は、再びシャツに伸び、ボタンを外す。
浴衣を着るためには、今、着ている服を脱がなくてはならない。
だが、一つ、二つ……そして、三つ目のボタンを外した瞬間、飛鳥の手が止まった。
わかっている。
服を脱がなくては、着付け方を教えることができないことは。だが──
「あのさ、すごくやりにくいから、あまり、ジロジロみないでくれない?」
『みててね?』と言ったのは、間違いなく飛鳥の方なのに、なぜか、見ていることに不満を言ってきて、隆臣は眉をひそめる。
「は? お前が、見てろって言ったんだろーが」
「そうだけど、俺は、着付けるところを見ててっていったんだよ! 誰も脱ぐところも見てろとは言ってない! ていうか、なんで俺が、こんなに恥ずかしい思いをしてまで、着付け方、教えなきゃいけないの!?」
「さっきと、言ってること違うんだけど!?」
反論する飛鳥に、隆臣がつっこむ!
今の今まで平気そうだったのに、なんだ、この変わりようは!?
だが、これには、蓮と隆臣にも非があった。
なぜなら、穴があくほど、じーーーーと見つめていたから。
いくら一緒に風呂にも入った仲のはいえ、あそこまで凝視されると、やりにくくもなるだろう。
そんなわけで、飛鳥は、あっさり手の平をかえし
「やっぱ、さっきのなし。隆ちゃんの浴衣は、俺が着付ける」
「はぁ!? なんでそうなるんだ!?」
「だって、見られながら脱ぐのは恥ずかしいし……着付ける時も裸見られるし」
「兄貴、俺の気持ちがわかった?」
「うん、よくわかった。でも、隆ちゃんは別ね。文句言わず、早く脱いで」
「なんでだ!?」」
両者どちらも譲らず、隆臣と飛鳥の会話は、さらにヒートアップしていく。
しかし、これでは、一向に着付けが終わらない。
すると、一人だけ着付けが終わり、のんびりと静観していた蓮が
「ねぇ、もたもたしてると、華たちを迎えに行く時間になるよ」
そう言ってきて、飛鳥と隆臣は、ちらりと時計を見つめた。
今の時刻は、5時。
夕方6時には、華たちを迎えに行くことになっていた。
と、なると、5時半までには、なんとしても着付けを終わらせなくては!
「飛鳥、こうなったら、ジャンケンで勝負だ」
「は?」
「勝った方の言うことを聞く! それで」
「いやいや、お前、俺がジャンケン弱いのわかってて、言ってるだろ?」
にっこり黒い笑顔を浮かべた飛鳥は、隆臣の思惑に気づいていた。
何を隠そう飛鳥は、ジャンケンに弱い!
そのせいで、よく双子との勝負に負けて、アイスやケーキを買いに行かされるくらいだ。
そして、隆臣も、その弱点を知っていたため、この提案をしてきたのだが、まんまと見破られてしまった。
だが、ジャンケンすら嫌がる飛鳥に、隆臣は
「じゃぁ、どうするんだ? このままじゃ、間に合わなくなるぞ」
「…………」
隆臣の言葉に、飛鳥は、神妙な面持ちで考え込んだ。
約束の時間に遅れるわけにはいかない。
しかし、どうすればいいのだろう?
やはり、脱いで裸を晒して、着付け教えるべきか?
それとも、隆臣の服を脱がし、強引に着付けるべきか?
飛鳥は、その二択で迷う。
いっそ、あみだくじでもすれば楽なのかもしれない。
だが、ジャンケンにしろ、あみだくじしろ、どちらか一人は恥ずかしい思いをすることになる。
すると、飛鳥は、じっくり考えこんだあと、隆臣を見つめた。
「ねぇ、隆ちゃん」
「な、なんだ……っ」
どうやら、結論がでたらしい。
飛鳥の綺麗な瞳に見つめられた瞬間、隆臣は、ゴクリと息を呑んだ。
◇
◇
◇
「姉ちゃん。あれ、なんの集まり?」
あかりのアパートにて。
今から浴衣を着ようしていたあかりに、弟の理久が声をかけた。
見れば、アパートの前にある公園に、法被姿の子供たちが集まっていた。
どうやら、もうすぐ夏祭りが始まるのだろう。
あかりは、昨年のことを思い出しながら、窓辺に並んで、弟に説明する。
「あれは、子供神輿よ。あの公園から、祭りのある神社まで、子供たちが神輿を担いでいくんですって」
「へー、だから、俺と同じくらいの子がいっぱいいるんだ。しかも、太鼓とか笛もってる人もいる」
「ほんとだ。私もちゃんと見たことないからなぁ」
「あれは、寄席太鼓っていうのよ」
すると、今度は、あかりと理久の母親である稜子が口を挟む。
窓辺に立つ我が子達のそばによると、人が集まる風景を、懐かしむように、稜子は口にする。
「寄席太鼓は、祭りの始まりを、町の人たちに伝えるためにやるの。懐かしいわね。あかりが小さい頃までは、篝町のお祭りでもやってたんだけど、もうなくなっちゃって……でも、桜聖市では、まだあるのね」
「「へー」」
母の言葉に、あかりと理久は、再び、公園の中に目を向ける。
法被を着た子供たちは、とても楽しげで、その後、神輿をかつげば、太鼓や笛の音色が聞こえてきた。
ドン!と、体に芯に響く音。
そして、軽快な祭囃子は、あかりの部屋の中まで響いてきて、祭りの始まりを知らせる。
「すげー! なんか、ワクワクしてきた!」
すると、寄席太鼓のリズムにつられて気持ちがあがったてきたらしい、理久が子供らしく笑えば、あかりも、また嬉しそうに微笑む。
「なんだか、お祭りって感じね」
「うん! 聞いてたら、早く、行きたくなってきた! そうだ、姉ちゃん、こっちの祭りに射的はあるかな? あったら、今年も勝負しようぜ!」
「えー、また? でも、私が勝つと思うけど」
「ガキの頃と一緒にすんなよな! 今年は、絶対勝つ!!」
「ほら、二人とも。喧嘩してないで着替えるわよ」
「「はーい」」
すると、母の言葉に、姉弟仲良く返事し、あかりと理久は、浴衣に着替えるため、また中へ引っ込んだ。
いよいよ、夏祭りが始まる。
明るく陽気な音は、空高く響き、笛太鼓の賑やかな音色は、これから夜に向かう町を、美しく彩っていた。
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