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第一部 第ニ章 新しい家族
じゅうしゃさん
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───バサッ
(…なに?なんのおと?)
おとが聞こえるのと一緒に、なにか温かい光が僕にあたっている気がして重いまぶたをゆっくり開けてみたら、僕にあたっていたのは、おひさまの光だった。
「おひさま、ぽかぽかねぇ。……あしゃ?」
僕、5歳になっても朝はよわよわで、起きたときはやっぱりポヤ~ってしちゃう。母さまの元気がなくなってからは、頑張って母さまより早く起きて起こしに行ってたけど…。今はもう母さまがいなくなっちゃったから起こす相手もいない。
(これから僕どうし─)
「ユーリ様、おはようございます」
「ふぁ‼」
まだ少しふわふわしている頭でぼーっとしてたら、急に誰かの声が聞こえた。
バッて声のしたほうを向いたら、僕より少し年上のお兄ちゃんがこっちに歩いてくるところだった。
(何だおにいちゃんか……んゅ?おに、お兄ちゃん!?)
このお家には母さまと僕以外の人はいないはずなのに!
「……うぇ!?…ぇ!んぅむぇ!?」
(だ、だれ!?…どうしよう!?)
とりあえず僕は髪と目をお兄ちゃん見られないように、お布団の中にバッともぐった。
神様は僕の髪と目を『大好き』って言ってくれたけど…。
まだ僕の中では男爵家のことが…髪と目を人に見られると叩かれちゃうっていうのが残っていて、誰かと会うのがすごく怖い。
(さ、さっき髪と目を見られちゃったかな…?また怒られちゃう…?叩かれる?)
身体が怖い言葉と叩かれる痛さにたえられるように、勝手にぎゅっと丸まる。
でも、きたのは怖い言葉でも叩かれる痛みでもなくて、すごく優しい声だった。
「…ユーリ様、驚かせてしまい申し訳ございません。私の名前はアルバートと申します。これから、ユーリ様の侍従としておそばでお仕えします。よろしくお願いいたします」
「じじゅう…?」
初めて聞く言葉に思わずお布団をめくって、そっとあるばーとさんを見る。あるばーとさんはベットのすぐそばで、じゅうたんに片方のお膝をついて胸のところに手をあてて優しい表情で僕を見ていた。
(ふわわわ!)
優しいあるばーとさんのお顔を窓からのお日さまの光が照らしていて…なんかなんか…
(すごくキラキラしてる!)
あるばーとさんのお顔を見てたら急に僕の胸がきゅーって苦しくなって思わずまた丸くなる。
(え?あ、あれ?どうしたんだろう?もしかしてなにかのお病気…?)
少し自分のお胸に手をあてて考え込んでいた僕は、もう一度あるばーとさんのお顔を見ようとして…気付いちゃった。
「そのおようふく……」
「この服ですか?」
あるばーとさんは僕が小さな声で呟いた言葉を聞いて、自分のお洋服を不思議そうにして見ていた。
「この服は男爵家の─」
「あ、あるばーとさんも僕を叩くの?」
僕は、はっ!となって、お布団のめくっていた部分を戻して、さっきよりも強くぎゅっとにぎって丸まった。できるだけ、あるばーとさんを見ないように、自分の姿を見られないように。
「ユ、ユーリ様─」
「だって…だって!父さまのお家にいた人たちと一緒のお洋服を着てる!そのお洋服を着た人たち、僕を見て『気味が悪い』って言って……た、たたいたからっ…!ぼ、僕はバケモノだって!」
あの時の怖さを思い出しちゃった僕は、我慢できなくなってお布団の中で泣いちゃった。
─痛くて
─怖くて
─悲しくて
─寂しくて
あのね。僕をたたいてる人たちはいろんなお顔をしてたの。全然お顔の表情が変わらない人、眉毛をキュッて寄せて汚いものを見るようなお顔の人、怒ったようなお顔の人。そして、すごくすごく笑ってる人。
笑ってる人は僕がいっぱい「痛い!やめて!」って言うと、もっと笑ったんだ。僕が痛がるのが嬉しくて、楽しいみたいに。それがすごくすごく怖かった。でも一番怖かったのは、たたかれる痛みや人の表情じゃなくて…。
──おい、バケモノが泣いてんじゃねぇよ!
──母さまはもういないんだよ!お前の大好きなか母さまはお前が殺したんだ!
──さっさといなくなれ!このバケモノッ!
今まで僕は知らなかったの。ずっと隣には母さましかいなくて、母さまが話す言葉は僕を傷つけたり、怖がらせたりしなかったから。
でも…僕は今日、人を傷つける言葉があることを知っちゃった。
父さまやメイドさん、女の人、僕をたたいた人たち…。
母さまと神様以外の人たちからの言葉は僕のお胸をぎゅーとしめつけて息苦しくさせるの。
僕はその人たちを思い出すから、その服が…あるばーとさんが着ているお洋服が怖くなっていた。
「う、うぇぇ…あ、ありゅびゃ…とさんも…ぼくを…た、たたいて…わ、わりゃうの…?」
「っ‼」
僕は泣きながらいっぱい伝えた。
──あるばーとさんも僕を叩くの?
──僕が痛がるとうれしいの?
──僕をバケモノだと思うの?
──早く僕にいなくなってほしいの?
お布団の中にもぐっているせいで、あるばーとさんの表情は全然見えないけど、あの人たちみたいに笑ってたらどうしよう…。怒ってるお顔だったらどうしよう…。いろいろとなことを考えてるうちに、どんどん身体が冷たくなってくる。
そんな風にカタカタ震えて泣いていると、誰かが僕が潜っているお布団ごとふわっと持ち上げて、そのままぎゅっと抱きしめた。
そして、お布団越しだから少し聞こえにくかったけど確かに「大丈夫です」と優しい声がした。
──大丈夫。大丈夫ですよ
(あれ?この声…どこかで聞いたことがある?……そうだ!怖い夢を見ていた時にずっと励ましてくれていた声に似てる!すごくすごく優しくて……母様みたいな声)
「ユーリ様、怖がらなくても大丈夫ですよ。私があなたを叩いたり、傷つけたりすることなど決してありません」
あるばーとさんは、ぽんぽんと優しくお布団を叩きながら何度も「大丈夫」って言ってくれる。けど…
「…だ、だって!みんな僕のことき、きらいだって……」
「私がユーリ様のことを嫌いになることはあり得ませんよ」
「……でもっ!」
「ユーリ様。今すぐに私のことを信頼してくださいとは言いません。ただ、今は信じられなくても、これから一緒に過ごす時間の中で絶対にあなたを傷つけない、嫌わないってことを必ず証明してみせます」
「…これ…から?あるばーとさんは、これからもずっと僕といっしょ?」
「はい!ユーリ様の従者としてこれからもご一緒できればと思っております」
(じゅうしゃ?さっきも言ってた言葉だ!)
「……あるばーとさん。じゅうしゃってなに?『かぞく』とはちがうの?」
「そうですね…。家族とは少し違うかもしれませんね。家族のように対等な立場じゃなくて、ユーリ様にお仕えして周りのことをサポートする人と言いますか…」
あるばーとさんが言っていることは少ししかわからなかったけど、『じじゅう』が僕がなりたい『かぞく』とは違うっていうのは、はっきりとわかった。
(それなら…『じじゅう』じゃなくて『かぞく』になってほしいな)
だって、『かぞく』ってね、「おはよう」ってごあいさつしたり、一緒にご飯食べたり、遊んだり、大好きって言ってぎゅーってしてくれたりするんだよ。だからぼく、一緒にいてくれるなら『かぞく』になりたいな…。
でも、こんなこと言ったら僕わがままって思われちゃうかな?せっかくそばにいてくれるって言ってくれたのに、嫌になっちゃうかも…。
そう思ったら、止まりかけていた涙がまたポロポロとでてきちゃった。
「ふっ…ぅぅ…」
「ユ、ユーリ様?どうかなさいましたか?……もし私が侍従となるのが嫌でしたら─」
「ちっ、ちがう!嫌じゃないよ!アルがじじゅうになってくれるの…」
「よかったです!嬉しいと思っていただけて。これからよろしくお願いいたします、ユーリ様」
本当はまだ少し母さまや神様以外の人は怖い。『また傷つける言葉がきたらどうしよう』とか『いつか僕のことが嫌いになって叩くようになったらどうしよう』とかいろいろなことを考えちゃう。
でも神様は僕に『諦めないで』って、『頑張れ』って言ってくれた。
───だから
僕はお布団をめくって、少しうつむきながら上目遣いであるばーとさんのお顔を見る。
「……うん。よろしくおねがいします。……ありゅばーと……しゃん」
ぼく、小さな声だったけど、ちゃんとあるばーとさんに『よろしくおねがいします』って言えたよ。
だけど、あるばーとさんは「んー?」って少しこまったような声で笑った。
「…ユーリ様、先ほどから少し気になっていたのですが。私のことは『アルバートさん』ではなく、『アルバート』とお呼びください」
「んゅ?『さん』いらないの?」
(あれ?まちがっちゃったかな?母様が読んでくれた絵本では、うさぎの子供は森で出会う動物さんを『さん』をつけて呼んでいたんだけど……。あっ!もしかして)
「あるばーとにいさま?」
「に、兄様!?ユーリ様、『さん』がダメと言う訳ではなくて、私は侍従なので敬称は不要なのですよ。なので、私のことはどうか『アルバート』と」
「そうなの?…うん、わかった!これからよろしくおねがいします、ありゅばーちょ!」
「…………」
「…………ッ!」
(か、かんじゃったー!むー!あたまでは分かってるのに、言葉にすると『あるばーと』ってむずかしい!んんぅ…神様が言ってたとおり、すこし前の僕にもどったみたい)
□□□□□
『あっそうだ、ユーリ君』
『なんですか?』
『帰る前に、君の心のストッパーを緩めておくね』
『すとっぱー?』
『うん。今の君はお母さんが倒れたことによって心を無理やり大人にしている状態なんだ。この世界の普通の5歳はもう少しヤンチャだったり、言葉だってそんなしっかり話せないよ』
『そうなんですか?』
『そうそう。今の頑張って大人っぽくしているユーリくんも充分可愛くて素敵だけど、周りの人に甘えるには少し枷になってしまう可能性があるからね。だから、無意識に心にかけてるストッパーを緩めとくね』
『で、でも神様…。すとっぱー?を緩めたら…僕、悪い子になっちゃいませんか?いっぱいわがまま言ったりして困らせちゃう子になったらどうしよう。僕、また嫌われちゃう…』
『悪い子になんてならないよ!少し考え方や言動が年相応になるだけだから安心してよ!それに…』
『それに?』
『万が一にでも、年相応になったユーリ君をいじめる大人がいたら、──神様パワーでユーリくん以外の人間を滅ぼしちゃうから安心してよ!』
『…ひぇ』
(すごくきれいな笑顔で言っている神様…なんか怖いです!)
□□□□□
「がーん」
(か、神様!僕、上手く話せなくなってるよ⁉ストッパーが外れるって『赤ちゃん』になるってこと⁉前までは母さまと難しい言葉使ってお話できたのに。…むむぅ~もう一回!)
「あ、あるばーと!」
「……………」
「も、もっとスーッて呼ばないと!ありゅ、あ…アル、アル…びゃ…バーちょ!………ト!」
「………………申し訳ございません。私のことは『アル』とお呼びください。さん付けも不要です」
僕が何回も『ありゅっ!アルッ!』って練習している間、両手でお顔を押さえて上を向いていたあるばーとさんが少し笑いながら言った。
(アル?アル…あるばーとさんが良いって言うなら、そう呼んでもいいのかな?あっ!これから一緒にいてくれるなら、仲良くならないと!神様のアドバイス守らなくちゃ!)
そう思って、さっきよりもちゃんとアルの目をじっと見るけど…
「……っ!あ……ぅ」
お胸がすごくドキドキする。
──髪と目の色…気持ち悪くないかな
──化け物に見えないかな
──僕のことを叩きたくなったりしてないかな
──男爵家で叩いてきた人みたいに、僕を見て笑ってたらどうしよう
さっきまではお布団の中にいたり、少しうつむいてたから気にならなかったけど、改めてあるばーとさんと目を合わせると頭の中で色々なことが言葉が浮かんでくる。なのに、お胸と喉がキュッとなって苦しくて、浮かんだ言葉が口から出てこない。
急に「あぅ」しか言えなくてプルプル震えている僕を見てアルは─────笑顔だった。
だけど僕はその『笑顔』を見ても全然怖くはなかった。
だって男爵家で僕を叩いてきた人は目がギラギラしてて、お口は笑ってるのに睨み付けてるみたいで何かゾワゾワしてた。
だけど、だけどアルの『笑顔』は─
「ユーリ様のお顔を見れて、とても嬉しいです。やっぱり、ユーリ様の髪と目はキラキラしていて、とても綺麗ですね」
「────っ!」
見てたら胸がきゅーってなる笑顔だった!この気持ちが何か分からないけど、きゅーってなってふわふわしててすごく温かくなった。
(本当だ…!男爵家にいた人たちみたいに僕のお顔を見ても怒ったりしない!アルは嘘ついてなかった!それに、母様と同じで褒めてくれた!)
そう思ったら、なんでかわからないけど、僕の胸が『わー!』ってなってから『きゅーっ』となった。すごくすごく、お顔もあったかいの。
だから、アルにもこの気持ちが伝わるといいなって思って僕もアルのことを思いきって伝えてみた。
「あ、あのね!アルの髪と目も綺麗だよ」
「…私の髪と目ですか?どこにでもいる茶色の髪と目ですよ?」
僕が勇気をだして伝えると、アルは不思議そうに首をコテンとかしげた。
「うん。えーとね、茶色なんだけど。なんか、目の奥がきらきらしてるの」
そうなの。パッと見は茶色なんだけど、その奥に…白?ううん、銀色っぽいキラキラした色が見えるの。僕が今まで見たことがないくらいに綺麗な色。
あまり上手くしゃべれないけど、頑張ってそう伝えると、アルはハッとびっくりしたお顔で僕を見た。
(え…?ぼく、何か悪いこと言っちゃったのかな?)
「ご、ごめんなさい…!」
思わずアルバートさんの服をぎゅっとして謝ると、「いえいえ!ユーリ様が謝ることはないのですよ」って僕の頭を優しく撫でてくれた。
「ただ少し驚いてしまっただけで…怖がらせてしまい申し訳ございません」
そう言って僕をぎゅっと抱きしめて、撫でてくれていた手で今度は背中をトントンと叩いくれる。
「アルバートさんのぎゅっは、母さまたちと同じ温かさだね…」
(温かくて、優しくて、すごく気持ちがいいの…)
僕が思わずそう呟いちゃったら、アルバートさんがピタッと動きを止めて「…たち?」と言って僕の目を真剣な表情で見た。
「…ユーリ様。お母様以外に、このように抱きしめられたことがあるのですか?」
「んぇ?」
母さま以外に?えーと、母さま以外だと……
「うん。あのね、『ぎゅっ!』だけじゃなくて、いっぱい『大好き』って言ってもらったり、なでなでスリスリしてもらったの」
そうなの。神様は僕をぎゅってしてくれながら、ほっぺをスリスリしたり、頭をなでなでしてくれたり、すごくすごーく優しかった!
「……なでなでにスリスリですか」
「うん!すごく気持ちよくて、僕、いっぱい声をだしちゃったの!」
なんかね、神様がいっぱい撫でて「大好き」って言ってくれたのが嬉しくて、気持ちよくて…。
僕、「きゃー!」って声をだして笑っちゃった。思い出したらなんか胸がぽかぽかしてお顔もあったかくなった。
「気持ちい……声。……って、ユーリ様!?何でお顔が赤く!?」
僕が神様とのことを思い出してぽかぽかしていたら、なぜかアルがすごく慌てていた。
「え、えーと。ユーリ様?その、いっぱい触って、スリスリしてきたのは、ユーリ様と同じ年ぐらいの子ですか?」
(うゆ?同じ年?神様と僕が?)
「ううん。僕よりもお兄さんで…。あ!アルよりもお兄さんだよ」
「おにっ!?ユ、ユーリ様。そのお兄さんにどこまで、されたんですか!?まさか、服を脱がされたり…」
「服?うんとね~ここまでめくったよ?」
そう言いながら僕は左胸のあたりに手を置いた。
「胸を見せたんですかっ…!?」
神様が僕がびっくりしないように身体のどこに『もんしょう』が現れるのかを教えてくれたの。そのときに「シャツをあげて~」って言われたから、この位置までぺらっとめくったんだよ。それで、「ほらここに『もんしょう』があるよー」って一緒に確認したんだ!
(あっ、そうだ!お風呂の時に、胸にある『もんしょう』をアルになんて説明しよう…。僕、まだちゃんとお風呂に入れなくて、母さまが動けない時は、母さまにやってもらってた時のことを思い出しながら、お水で頭とか洗ったり、タオルで体を拭いてたけど……。も、もしかして一緒に入ってくれるのかな?)
僕が『もんしょう』のことをどう伝えようかなって考えたり、お風呂にいっしょにはいってくれるかな?母様以外の人と入るの初めて!ってドキドキしているあいだに、アルは「はぁ」と頭をおさえて何か呟いていた。
「…ユーリ様はセレナ様以外の大人と会う機会がなかったはず…。ならば、男爵家の使用人………いや、彼らはユーリ様を怖がってたはず。となると……町の住民の中にユーリ様のような年齢の子供を狙う大人がいるということか?」
「アル?どうしたの?」
「あっ、いえ。何でもございませんよ。ところで、ユーリ様、私から一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「おねがい?」
アルは「はい」って言うと、真剣なお顔でぼくの肩を掴んで、目線を合わせた。
「今後は知らない人……いえ、私以外の者が『大好き』と言って抱きしめたり、触ろうとしてきたら、必ず私に助けを求めるか、全力で逃げてください」
「ぬぅ?に、逃げるの?どうして?アル以外の人はダメなの?」
「そうですね。私以外の者がそういった行動を起こした場合、ユーリ様が襲われる危険がありますので」
「お、おそわれる?」
ぼく、『おそわれる』がよくわからなくて「おそわれるってなぁに?」ってアルに聞いてみたら、アル、難しいお顔してた。
「そ、そうですね。襲われるというのは…ユーリ様が食べられてしまうということですかね」
「うぇぇ!ぼ、ぼく…食べられちゃうの?」
(『おそわれる』って絵本に出てきたウルフがやってた「ガオー!食べちゃうぞー!」っていうやつなの!?も、もしかして『大好き』って、抱きしめたりなでなでしてくれるのは、『食べるぞー!』っていう意味だったの!?)
えっ?えぇ?って頭がぐるぐるしちゃったけど、僕すぐに「あっ!」って思い出したことがあった。
「で、でも母さまは僕のことを『大好き』って言ってぎゅってしてくれたけど、ぼくのこと食べなかったよ?」
「奥様はユーリ様の家族ですので食べたりしませんでしたが…。奥様以外の方がユーリ様に同じことをしてきた場合、最終的には(色んな意味で)食べられてしまう危険があります」
「ええぇー!?」
じゃあ神様、「大好きだよ」ってぎゅっとしてくれたけど…。
まさか、食べ物としての『大好きだよ』ってこと!?
…神様ってウルフと同じ肉食なの?
ぼくが「うぇぇ!?」とまたぐるぐるしている間にアルがぎゅっと僕を抱きしめた。
「ですから、絶対に私以外の者に抱きしめられてはいけませんよ。その分、私がいっぱいぎゅっとしますので」
「…アルはいいの?僕のこと食べない?」
ちょっと怖くなった僕は半泣きで少し高い位置にあるアルのお顔を見上げて質問した。
でもアル、「ぐっ!」って変なお声をだして、もっと上を向いちゃったんだ。
「ア、アル?どうしたの?大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ。私はユーリ様の従者で、これからも一緒にいる家族のようなものですので(ボソッ)それに今のユーリ様を食べるなど、良心が痛みますし」
アルはそう言ってぼくに目を合わせてニッコリ笑ってくれた。
(そ、そうだよね!アルはこれから、ずっと一緒にいてくれるんだから、ぼくのこと食べるわけないよね?)
「うん!アル以外にぎゅってされないように頑張る!」
手をグーにしてそう言うと、アルはまたふわっと笑ってぎゅっと抱きしめてくれた。
(ふあぁ!なんか、アルと少し仲良くなれた気がする!神様、アドバイスありがとうございます!ぼく、アルともっと仲良くなれるように頑張ります!)
□□□□□
この時、アルに背中を預け、気合いをいれていたユーリは気付かなかった。
自分を優しく抱きしめている従者の目に…。先程、ユーリが綺麗と言ったはずのその目にほの暗い光が灯り、「さて…ユーリ様に触れた害虫をどう始末しようか」と呟いていたことを。
(…なに?なんのおと?)
おとが聞こえるのと一緒に、なにか温かい光が僕にあたっている気がして重いまぶたをゆっくり開けてみたら、僕にあたっていたのは、おひさまの光だった。
「おひさま、ぽかぽかねぇ。……あしゃ?」
僕、5歳になっても朝はよわよわで、起きたときはやっぱりポヤ~ってしちゃう。母さまの元気がなくなってからは、頑張って母さまより早く起きて起こしに行ってたけど…。今はもう母さまがいなくなっちゃったから起こす相手もいない。
(これから僕どうし─)
「ユーリ様、おはようございます」
「ふぁ‼」
まだ少しふわふわしている頭でぼーっとしてたら、急に誰かの声が聞こえた。
バッて声のしたほうを向いたら、僕より少し年上のお兄ちゃんがこっちに歩いてくるところだった。
(何だおにいちゃんか……んゅ?おに、お兄ちゃん!?)
このお家には母さまと僕以外の人はいないはずなのに!
「……うぇ!?…ぇ!んぅむぇ!?」
(だ、だれ!?…どうしよう!?)
とりあえず僕は髪と目をお兄ちゃん見られないように、お布団の中にバッともぐった。
神様は僕の髪と目を『大好き』って言ってくれたけど…。
まだ僕の中では男爵家のことが…髪と目を人に見られると叩かれちゃうっていうのが残っていて、誰かと会うのがすごく怖い。
(さ、さっき髪と目を見られちゃったかな…?また怒られちゃう…?叩かれる?)
身体が怖い言葉と叩かれる痛さにたえられるように、勝手にぎゅっと丸まる。
でも、きたのは怖い言葉でも叩かれる痛みでもなくて、すごく優しい声だった。
「…ユーリ様、驚かせてしまい申し訳ございません。私の名前はアルバートと申します。これから、ユーリ様の侍従としておそばでお仕えします。よろしくお願いいたします」
「じじゅう…?」
初めて聞く言葉に思わずお布団をめくって、そっとあるばーとさんを見る。あるばーとさんはベットのすぐそばで、じゅうたんに片方のお膝をついて胸のところに手をあてて優しい表情で僕を見ていた。
(ふわわわ!)
優しいあるばーとさんのお顔を窓からのお日さまの光が照らしていて…なんかなんか…
(すごくキラキラしてる!)
あるばーとさんのお顔を見てたら急に僕の胸がきゅーって苦しくなって思わずまた丸くなる。
(え?あ、あれ?どうしたんだろう?もしかしてなにかのお病気…?)
少し自分のお胸に手をあてて考え込んでいた僕は、もう一度あるばーとさんのお顔を見ようとして…気付いちゃった。
「そのおようふく……」
「この服ですか?」
あるばーとさんは僕が小さな声で呟いた言葉を聞いて、自分のお洋服を不思議そうにして見ていた。
「この服は男爵家の─」
「あ、あるばーとさんも僕を叩くの?」
僕は、はっ!となって、お布団のめくっていた部分を戻して、さっきよりも強くぎゅっとにぎって丸まった。できるだけ、あるばーとさんを見ないように、自分の姿を見られないように。
「ユ、ユーリ様─」
「だって…だって!父さまのお家にいた人たちと一緒のお洋服を着てる!そのお洋服を着た人たち、僕を見て『気味が悪い』って言って……た、たたいたからっ…!ぼ、僕はバケモノだって!」
あの時の怖さを思い出しちゃった僕は、我慢できなくなってお布団の中で泣いちゃった。
─痛くて
─怖くて
─悲しくて
─寂しくて
あのね。僕をたたいてる人たちはいろんなお顔をしてたの。全然お顔の表情が変わらない人、眉毛をキュッて寄せて汚いものを見るようなお顔の人、怒ったようなお顔の人。そして、すごくすごく笑ってる人。
笑ってる人は僕がいっぱい「痛い!やめて!」って言うと、もっと笑ったんだ。僕が痛がるのが嬉しくて、楽しいみたいに。それがすごくすごく怖かった。でも一番怖かったのは、たたかれる痛みや人の表情じゃなくて…。
──おい、バケモノが泣いてんじゃねぇよ!
──母さまはもういないんだよ!お前の大好きなか母さまはお前が殺したんだ!
──さっさといなくなれ!このバケモノッ!
今まで僕は知らなかったの。ずっと隣には母さましかいなくて、母さまが話す言葉は僕を傷つけたり、怖がらせたりしなかったから。
でも…僕は今日、人を傷つける言葉があることを知っちゃった。
父さまやメイドさん、女の人、僕をたたいた人たち…。
母さまと神様以外の人たちからの言葉は僕のお胸をぎゅーとしめつけて息苦しくさせるの。
僕はその人たちを思い出すから、その服が…あるばーとさんが着ているお洋服が怖くなっていた。
「う、うぇぇ…あ、ありゅびゃ…とさんも…ぼくを…た、たたいて…わ、わりゃうの…?」
「っ‼」
僕は泣きながらいっぱい伝えた。
──あるばーとさんも僕を叩くの?
──僕が痛がるとうれしいの?
──僕をバケモノだと思うの?
──早く僕にいなくなってほしいの?
お布団の中にもぐっているせいで、あるばーとさんの表情は全然見えないけど、あの人たちみたいに笑ってたらどうしよう…。怒ってるお顔だったらどうしよう…。いろいろとなことを考えてるうちに、どんどん身体が冷たくなってくる。
そんな風にカタカタ震えて泣いていると、誰かが僕が潜っているお布団ごとふわっと持ち上げて、そのままぎゅっと抱きしめた。
そして、お布団越しだから少し聞こえにくかったけど確かに「大丈夫です」と優しい声がした。
──大丈夫。大丈夫ですよ
(あれ?この声…どこかで聞いたことがある?……そうだ!怖い夢を見ていた時にずっと励ましてくれていた声に似てる!すごくすごく優しくて……母様みたいな声)
「ユーリ様、怖がらなくても大丈夫ですよ。私があなたを叩いたり、傷つけたりすることなど決してありません」
あるばーとさんは、ぽんぽんと優しくお布団を叩きながら何度も「大丈夫」って言ってくれる。けど…
「…だ、だって!みんな僕のことき、きらいだって……」
「私がユーリ様のことを嫌いになることはあり得ませんよ」
「……でもっ!」
「ユーリ様。今すぐに私のことを信頼してくださいとは言いません。ただ、今は信じられなくても、これから一緒に過ごす時間の中で絶対にあなたを傷つけない、嫌わないってことを必ず証明してみせます」
「…これ…から?あるばーとさんは、これからもずっと僕といっしょ?」
「はい!ユーリ様の従者としてこれからもご一緒できればと思っております」
(じゅうしゃ?さっきも言ってた言葉だ!)
「……あるばーとさん。じゅうしゃってなに?『かぞく』とはちがうの?」
「そうですね…。家族とは少し違うかもしれませんね。家族のように対等な立場じゃなくて、ユーリ様にお仕えして周りのことをサポートする人と言いますか…」
あるばーとさんが言っていることは少ししかわからなかったけど、『じじゅう』が僕がなりたい『かぞく』とは違うっていうのは、はっきりとわかった。
(それなら…『じじゅう』じゃなくて『かぞく』になってほしいな)
だって、『かぞく』ってね、「おはよう」ってごあいさつしたり、一緒にご飯食べたり、遊んだり、大好きって言ってぎゅーってしてくれたりするんだよ。だからぼく、一緒にいてくれるなら『かぞく』になりたいな…。
でも、こんなこと言ったら僕わがままって思われちゃうかな?せっかくそばにいてくれるって言ってくれたのに、嫌になっちゃうかも…。
そう思ったら、止まりかけていた涙がまたポロポロとでてきちゃった。
「ふっ…ぅぅ…」
「ユ、ユーリ様?どうかなさいましたか?……もし私が侍従となるのが嫌でしたら─」
「ちっ、ちがう!嫌じゃないよ!アルがじじゅうになってくれるの…」
「よかったです!嬉しいと思っていただけて。これからよろしくお願いいたします、ユーリ様」
本当はまだ少し母さまや神様以外の人は怖い。『また傷つける言葉がきたらどうしよう』とか『いつか僕のことが嫌いになって叩くようになったらどうしよう』とかいろいろなことを考えちゃう。
でも神様は僕に『諦めないで』って、『頑張れ』って言ってくれた。
───だから
僕はお布団をめくって、少しうつむきながら上目遣いであるばーとさんのお顔を見る。
「……うん。よろしくおねがいします。……ありゅばーと……しゃん」
ぼく、小さな声だったけど、ちゃんとあるばーとさんに『よろしくおねがいします』って言えたよ。
だけど、あるばーとさんは「んー?」って少しこまったような声で笑った。
「…ユーリ様、先ほどから少し気になっていたのですが。私のことは『アルバートさん』ではなく、『アルバート』とお呼びください」
「んゅ?『さん』いらないの?」
(あれ?まちがっちゃったかな?母様が読んでくれた絵本では、うさぎの子供は森で出会う動物さんを『さん』をつけて呼んでいたんだけど……。あっ!もしかして)
「あるばーとにいさま?」
「に、兄様!?ユーリ様、『さん』がダメと言う訳ではなくて、私は侍従なので敬称は不要なのですよ。なので、私のことはどうか『アルバート』と」
「そうなの?…うん、わかった!これからよろしくおねがいします、ありゅばーちょ!」
「…………」
「…………ッ!」
(か、かんじゃったー!むー!あたまでは分かってるのに、言葉にすると『あるばーと』ってむずかしい!んんぅ…神様が言ってたとおり、すこし前の僕にもどったみたい)
□□□□□
『あっそうだ、ユーリ君』
『なんですか?』
『帰る前に、君の心のストッパーを緩めておくね』
『すとっぱー?』
『うん。今の君はお母さんが倒れたことによって心を無理やり大人にしている状態なんだ。この世界の普通の5歳はもう少しヤンチャだったり、言葉だってそんなしっかり話せないよ』
『そうなんですか?』
『そうそう。今の頑張って大人っぽくしているユーリくんも充分可愛くて素敵だけど、周りの人に甘えるには少し枷になってしまう可能性があるからね。だから、無意識に心にかけてるストッパーを緩めとくね』
『で、でも神様…。すとっぱー?を緩めたら…僕、悪い子になっちゃいませんか?いっぱいわがまま言ったりして困らせちゃう子になったらどうしよう。僕、また嫌われちゃう…』
『悪い子になんてならないよ!少し考え方や言動が年相応になるだけだから安心してよ!それに…』
『それに?』
『万が一にでも、年相応になったユーリ君をいじめる大人がいたら、──神様パワーでユーリくん以外の人間を滅ぼしちゃうから安心してよ!』
『…ひぇ』
(すごくきれいな笑顔で言っている神様…なんか怖いです!)
□□□□□
「がーん」
(か、神様!僕、上手く話せなくなってるよ⁉ストッパーが外れるって『赤ちゃん』になるってこと⁉前までは母さまと難しい言葉使ってお話できたのに。…むむぅ~もう一回!)
「あ、あるばーと!」
「……………」
「も、もっとスーッて呼ばないと!ありゅ、あ…アル、アル…びゃ…バーちょ!………ト!」
「………………申し訳ございません。私のことは『アル』とお呼びください。さん付けも不要です」
僕が何回も『ありゅっ!アルッ!』って練習している間、両手でお顔を押さえて上を向いていたあるばーとさんが少し笑いながら言った。
(アル?アル…あるばーとさんが良いって言うなら、そう呼んでもいいのかな?あっ!これから一緒にいてくれるなら、仲良くならないと!神様のアドバイス守らなくちゃ!)
そう思って、さっきよりもちゃんとアルの目をじっと見るけど…
「……っ!あ……ぅ」
お胸がすごくドキドキする。
──髪と目の色…気持ち悪くないかな
──化け物に見えないかな
──僕のことを叩きたくなったりしてないかな
──男爵家で叩いてきた人みたいに、僕を見て笑ってたらどうしよう
さっきまではお布団の中にいたり、少しうつむいてたから気にならなかったけど、改めてあるばーとさんと目を合わせると頭の中で色々なことが言葉が浮かんでくる。なのに、お胸と喉がキュッとなって苦しくて、浮かんだ言葉が口から出てこない。
急に「あぅ」しか言えなくてプルプル震えている僕を見てアルは─────笑顔だった。
だけど僕はその『笑顔』を見ても全然怖くはなかった。
だって男爵家で僕を叩いてきた人は目がギラギラしてて、お口は笑ってるのに睨み付けてるみたいで何かゾワゾワしてた。
だけど、だけどアルの『笑顔』は─
「ユーリ様のお顔を見れて、とても嬉しいです。やっぱり、ユーリ様の髪と目はキラキラしていて、とても綺麗ですね」
「────っ!」
見てたら胸がきゅーってなる笑顔だった!この気持ちが何か分からないけど、きゅーってなってふわふわしててすごく温かくなった。
(本当だ…!男爵家にいた人たちみたいに僕のお顔を見ても怒ったりしない!アルは嘘ついてなかった!それに、母様と同じで褒めてくれた!)
そう思ったら、なんでかわからないけど、僕の胸が『わー!』ってなってから『きゅーっ』となった。すごくすごく、お顔もあったかいの。
だから、アルにもこの気持ちが伝わるといいなって思って僕もアルのことを思いきって伝えてみた。
「あ、あのね!アルの髪と目も綺麗だよ」
「…私の髪と目ですか?どこにでもいる茶色の髪と目ですよ?」
僕が勇気をだして伝えると、アルは不思議そうに首をコテンとかしげた。
「うん。えーとね、茶色なんだけど。なんか、目の奥がきらきらしてるの」
そうなの。パッと見は茶色なんだけど、その奥に…白?ううん、銀色っぽいキラキラした色が見えるの。僕が今まで見たことがないくらいに綺麗な色。
あまり上手くしゃべれないけど、頑張ってそう伝えると、アルはハッとびっくりしたお顔で僕を見た。
(え…?ぼく、何か悪いこと言っちゃったのかな?)
「ご、ごめんなさい…!」
思わずアルバートさんの服をぎゅっとして謝ると、「いえいえ!ユーリ様が謝ることはないのですよ」って僕の頭を優しく撫でてくれた。
「ただ少し驚いてしまっただけで…怖がらせてしまい申し訳ございません」
そう言って僕をぎゅっと抱きしめて、撫でてくれていた手で今度は背中をトントンと叩いくれる。
「アルバートさんのぎゅっは、母さまたちと同じ温かさだね…」
(温かくて、優しくて、すごく気持ちがいいの…)
僕が思わずそう呟いちゃったら、アルバートさんがピタッと動きを止めて「…たち?」と言って僕の目を真剣な表情で見た。
「…ユーリ様。お母様以外に、このように抱きしめられたことがあるのですか?」
「んぇ?」
母さま以外に?えーと、母さま以外だと……
「うん。あのね、『ぎゅっ!』だけじゃなくて、いっぱい『大好き』って言ってもらったり、なでなでスリスリしてもらったの」
そうなの。神様は僕をぎゅってしてくれながら、ほっぺをスリスリしたり、頭をなでなでしてくれたり、すごくすごーく優しかった!
「……なでなでにスリスリですか」
「うん!すごく気持ちよくて、僕、いっぱい声をだしちゃったの!」
なんかね、神様がいっぱい撫でて「大好き」って言ってくれたのが嬉しくて、気持ちよくて…。
僕、「きゃー!」って声をだして笑っちゃった。思い出したらなんか胸がぽかぽかしてお顔もあったかくなった。
「気持ちい……声。……って、ユーリ様!?何でお顔が赤く!?」
僕が神様とのことを思い出してぽかぽかしていたら、なぜかアルがすごく慌てていた。
「え、えーと。ユーリ様?その、いっぱい触って、スリスリしてきたのは、ユーリ様と同じ年ぐらいの子ですか?」
(うゆ?同じ年?神様と僕が?)
「ううん。僕よりもお兄さんで…。あ!アルよりもお兄さんだよ」
「おにっ!?ユ、ユーリ様。そのお兄さんにどこまで、されたんですか!?まさか、服を脱がされたり…」
「服?うんとね~ここまでめくったよ?」
そう言いながら僕は左胸のあたりに手を置いた。
「胸を見せたんですかっ…!?」
神様が僕がびっくりしないように身体のどこに『もんしょう』が現れるのかを教えてくれたの。そのときに「シャツをあげて~」って言われたから、この位置までぺらっとめくったんだよ。それで、「ほらここに『もんしょう』があるよー」って一緒に確認したんだ!
(あっ、そうだ!お風呂の時に、胸にある『もんしょう』をアルになんて説明しよう…。僕、まだちゃんとお風呂に入れなくて、母さまが動けない時は、母さまにやってもらってた時のことを思い出しながら、お水で頭とか洗ったり、タオルで体を拭いてたけど……。も、もしかして一緒に入ってくれるのかな?)
僕が『もんしょう』のことをどう伝えようかなって考えたり、お風呂にいっしょにはいってくれるかな?母様以外の人と入るの初めて!ってドキドキしているあいだに、アルは「はぁ」と頭をおさえて何か呟いていた。
「…ユーリ様はセレナ様以外の大人と会う機会がなかったはず…。ならば、男爵家の使用人………いや、彼らはユーリ様を怖がってたはず。となると……町の住民の中にユーリ様のような年齢の子供を狙う大人がいるということか?」
「アル?どうしたの?」
「あっ、いえ。何でもございませんよ。ところで、ユーリ様、私から一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「おねがい?」
アルは「はい」って言うと、真剣なお顔でぼくの肩を掴んで、目線を合わせた。
「今後は知らない人……いえ、私以外の者が『大好き』と言って抱きしめたり、触ろうとしてきたら、必ず私に助けを求めるか、全力で逃げてください」
「ぬぅ?に、逃げるの?どうして?アル以外の人はダメなの?」
「そうですね。私以外の者がそういった行動を起こした場合、ユーリ様が襲われる危険がありますので」
「お、おそわれる?」
ぼく、『おそわれる』がよくわからなくて「おそわれるってなぁに?」ってアルに聞いてみたら、アル、難しいお顔してた。
「そ、そうですね。襲われるというのは…ユーリ様が食べられてしまうということですかね」
「うぇぇ!ぼ、ぼく…食べられちゃうの?」
(『おそわれる』って絵本に出てきたウルフがやってた「ガオー!食べちゃうぞー!」っていうやつなの!?も、もしかして『大好き』って、抱きしめたりなでなでしてくれるのは、『食べるぞー!』っていう意味だったの!?)
えっ?えぇ?って頭がぐるぐるしちゃったけど、僕すぐに「あっ!」って思い出したことがあった。
「で、でも母さまは僕のことを『大好き』って言ってぎゅってしてくれたけど、ぼくのこと食べなかったよ?」
「奥様はユーリ様の家族ですので食べたりしませんでしたが…。奥様以外の方がユーリ様に同じことをしてきた場合、最終的には(色んな意味で)食べられてしまう危険があります」
「ええぇー!?」
じゃあ神様、「大好きだよ」ってぎゅっとしてくれたけど…。
まさか、食べ物としての『大好きだよ』ってこと!?
…神様ってウルフと同じ肉食なの?
ぼくが「うぇぇ!?」とまたぐるぐるしている間にアルがぎゅっと僕を抱きしめた。
「ですから、絶対に私以外の者に抱きしめられてはいけませんよ。その分、私がいっぱいぎゅっとしますので」
「…アルはいいの?僕のこと食べない?」
ちょっと怖くなった僕は半泣きで少し高い位置にあるアルのお顔を見上げて質問した。
でもアル、「ぐっ!」って変なお声をだして、もっと上を向いちゃったんだ。
「ア、アル?どうしたの?大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ。私はユーリ様の従者で、これからも一緒にいる家族のようなものですので(ボソッ)それに今のユーリ様を食べるなど、良心が痛みますし」
アルはそう言ってぼくに目を合わせてニッコリ笑ってくれた。
(そ、そうだよね!アルはこれから、ずっと一緒にいてくれるんだから、ぼくのこと食べるわけないよね?)
「うん!アル以外にぎゅってされないように頑張る!」
手をグーにしてそう言うと、アルはまたふわっと笑ってぎゅっと抱きしめてくれた。
(ふあぁ!なんか、アルと少し仲良くなれた気がする!神様、アドバイスありがとうございます!ぼく、アルともっと仲良くなれるように頑張ります!)
□□□□□
この時、アルに背中を預け、気合いをいれていたユーリは気付かなかった。
自分を優しく抱きしめている従者の目に…。先程、ユーリが綺麗と言ったはずのその目にほの暗い光が灯り、「さて…ユーリ様に触れた害虫をどう始末しようか」と呟いていたことを。
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つづきが気になりすぎます😭
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感想ありがとうございます!!
遅くなりましたが、お話を更新しました!これからもユーリの成長を見守っていただければと思います!