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第7話『君は僕の勇者』
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アーサーという男は、かつて争いの絶えぬ世界で戦い続け、世界を平和に導いた本物の英雄である。
が、その生涯を戦いの中で過ごしていたからか、少々世間知らずというか、天然気質な所があった。
いや、冷静に考えたら争いの中で生きてたって事と、天然な事は関係ねぇわ。
あのイケメンはただの天然男。
アハハと爽やかな顔で笑いつつ、頭の中は割といい加減な思考回路で回っている。
優柔不断だしな。
ここぞという時には決めるが、ここぞという時以外は抜けている。
アーサーはそんな男である。
故に。
魔王軍の四天王を危険な方だけ半分落とし、残った方を勇者君や、現地の英雄たちに任せながら、多くの魔族を光り輝く剣で切り裂いて、進むアーサーはまさに英雄であった。
そして、そんな英雄もこの世界では既に用なしだ。
何故なら、魔王の胸にアーサーは1本目の剣を突き立てており、力を減らしている魔王の前に、この世界の真なる勇者が現れたからだ。
弊社、株式会社デモニックヒーローズには一つの理念がある。
それは如何なスポンサーと言えど、決して歪める事の出来ない、俺を含めた社員全員が共通して持っている信念だ。
『全ての命は、ただ純粋に他者の幸せを願った時、最も輝くモノだ。魂の輝きを疑うな』
俺はまだ異世界に来て三度目だが、二回とも、見せつけられた。
その言葉の意味を。
「少年!! 駄目だ!!」
アーサーは勇者君たちの前に立ち、魔王の攻撃を全身で受け止める。
『グハハハハ! 愚かなり! 無力な子供を庇い、勝利を放棄するなど』
「へっ! まだ俺たちは負けちゃ居ねぇぜ!」
チャーリーがだっさい名前の剣を振りかぶって、魔王に切りかかった。
しかし、それを隙と見た、魔王の側近から攻撃を受けて壁に向かって吹き飛ぶ。
だが、それすらも俺は索敵済みだ。
ずっと魔王の陰に隠れていた側近を表舞台に引きずり出す為に、チャーリーはわざと隙を見せたのだから。
ハリーは極大魔法を側近に向かって放ち、側近は逃げる隙もなく灰となって消えた。
そしてハリーも魔王の攻撃を受けて、倒れる。
『ぬ!? 貴様ら、何故、諦めんのだ!! もはやお前たち人類に勝ち目はない! だというのに、何故立ち上がる!』
魔王の言葉に、俺はニヤリと笑う。
そろそろ俺の出番だからだ。
派手に戦って、派手に散る。
その一瞬の輝きを、この世界の人間の胸に永遠の灯として、灯す!
「アーサー。これまでの旅、楽しかったぜ」
「っ!? タツヤ! ……すまない」
「良いって事よ! さぁ。行くぜ! 魔王。人間様の最後の輝きって奴を見せてやる!」
『ぬ!?』
俺は既に失われている左腕から溢れる血をわざとらしく床に流し、右手一本で小刀をクルクルと回しながら逆手で構える。
そして、魔力を通し、淡く光る刃を空中に映える様に流しながら、疾風の様に魔王へ掛けた。
俺の速さに魔王は威力を落として範囲攻撃を放つという手段で対抗する。
だが、そんな事は承知済みだ。
俺は全身に魔力で出来た刃が突き刺さるのを感じながら、右手に持った小刀を魔王の胸に突き刺した。
全身全霊。全ての魔力を注ぎ込んだそれは、魔王の魔力結界を破壊し、そして命のストックを残り一つまで削り取る。
しかし、俺はその直後に放たれた魔王の咆哮によって、欠片一つ残さず消え去ってしまうのだった。
「タツヤ……! くっ」
そして魔王は、もはやこれ以上近づけさせまいと、勇者君たちを庇うアーサーに向かって魔法を放ち続ける。
このまま消えてくれという祈りを込めるかの様に。
だが、今まで散々悪逆非道の限りを尽くしてきた魔王の祈りなど、誰も聞きはしない。
アーサーは腰に刺さったままの剣を抜き、光を宿して、勇者君の前に笑顔で突き立てた。
既に折れてしまった勇者君の剣の代わりに、己の魂とも言うべき剣を。
「後は託した。新たなる世界の英雄。勇者……ノア!」
かくして英雄アーサーは俺と同様に完全のこの世界から消え去り、俺と同じく魂だけの存在となってこの後の展開を特等席で眺める場所へと来たのだった。
『さぁ、始まるよ。本当の英雄が立ち上がる』
『魂の輝きか』
黄金に輝く剣を握り、涙を振り払いながら、勇者ノアは立ち上がった。
恨みではない。憎しみでもない。
ただ、託された世界を護りたいと、その心を黄金の様に輝く魂の光で染め上げて、真なる英雄、勇者は立つのだ。
苦し紛れで放たれた魔王の魔法を切り裂いて、走りながら、魔王の体を切り裂いてゆく。
そして、ノアが傷ついても、ノアと共にここまで苦楽を共にしてきた少女、ルナが涙を流しながら癒していった。
二人の胸の中には俺たちと共にあった時間があるのだろう。
多くの人たちが笑い、泣き、喜び、安心する世界があるのだろう。
それを護るために、彼らは叫び、そして魔王への攻撃を続け……やがて魔王は光に呑まれて倒れた。
だが、ノアの顔にも、ルナの顔にも喜びの色はない。
ルナが必死に癒そうとしているチャーリーも、もはや致命傷だ。彼女の魔法では癒せない。
死を待つだけだ。
そして、この世界での物語を終わらせるために、マザーが姿を現して、心の傷を少しでも軽くするために、マザーと共にハリーが二人に優しく語り掛ける。
『……昔』
『ん?』
『僕は絵本で読んだ勇者に憧れた事があったんだ』
『ふーん。てことは夢は叶ったって事か?』
『いや。叶っていないさ。僕は何かを壊す事しか出来なかったからね』
『……』
『あの子たちの様に。他の世界の英雄たちの様に。僕は人に希望を与える存在になりたかったんだ』
『アーサー』
『……なんだい?』
『この前さ。人事部のヒナヤクさんと偶然休憩所で会ってさ。話をしてたんだよ』
『うん? うん』
『そこで聞いたんだけど、アーサーには会社の中でもトップクラスに難易度が高い世界が割り振られるらしいぜ?』
『そうなんだ』
『なんでか分かるか?』
『……強いから?』
『まぁ、それもあるだろうな。でも、それだけじゃないって俺は思ってる』
『なんだろう。分からないや』
『アーサーはさ。よく笑うだろ。楽しい時も、辛い時も。それがさ。みんなの希望になるんだよ。安心出来るんだ』
『……』
『俺はさ。前の会社で、このまま名前のないどこかの誰かになって歴史の中で消えていくのかな。って思ってたんだよ。でもさ。デモニックヒーローズから誘われて、アーサーと一緒に仕事して、楽しいって思えたんだ。俺の生まれてきた意味はこれだったんだ。って思えたんだよ』
『でも! それは僕じゃなくても同じだったんじゃないか?』
『んな事ねーよ。だって、俺。アーサーと会う前は無理だなって思ってたんだぜ? 特別な人間じゃないと出来ない仕事だったんだってさ。でも、アーサーは特別じゃない俺を受け入れてくれた。だから今がある』
アーサーと話しながら、俺は視線を勇者君たちの方へ向けた。
マザーが神々しく両手を広げているから、そろそろ転生という形で物語が終わるのだろう。
少し寂しくはあるが、異物があまり長くいるべきじゃないってのは確かだ。
この世界の未来を担うのは、この世界の人間が相応しい。
『アーサー。君が俺に希望を宿した。そして、俺たちがノアたちの希望となった。これからノアたちが誰かの希望になっていく。そうやって世界は回ってるんだ。だからさ、君は確かに誰かの勇者様って奴になれたんだよ。そして、それはこれからも』
『タツヤ』
『俺たちの戦いはまだまだ終わらない。だろ?』
『……あぁ。あぁ! そうだね! 僕もそうありたいと思うよ! タツヤ!』
『そう。それで良いのさ。アーサー。アーサー先生の次回作にご期待下さいってね』
俺は世界を救う手伝いをしたという満足感の中で、マザーの光に包まれて、元の体へと戻るのだった。
が、その生涯を戦いの中で過ごしていたからか、少々世間知らずというか、天然気質な所があった。
いや、冷静に考えたら争いの中で生きてたって事と、天然な事は関係ねぇわ。
あのイケメンはただの天然男。
アハハと爽やかな顔で笑いつつ、頭の中は割といい加減な思考回路で回っている。
優柔不断だしな。
ここぞという時には決めるが、ここぞという時以外は抜けている。
アーサーはそんな男である。
故に。
魔王軍の四天王を危険な方だけ半分落とし、残った方を勇者君や、現地の英雄たちに任せながら、多くの魔族を光り輝く剣で切り裂いて、進むアーサーはまさに英雄であった。
そして、そんな英雄もこの世界では既に用なしだ。
何故なら、魔王の胸にアーサーは1本目の剣を突き立てており、力を減らしている魔王の前に、この世界の真なる勇者が現れたからだ。
弊社、株式会社デモニックヒーローズには一つの理念がある。
それは如何なスポンサーと言えど、決して歪める事の出来ない、俺を含めた社員全員が共通して持っている信念だ。
『全ての命は、ただ純粋に他者の幸せを願った時、最も輝くモノだ。魂の輝きを疑うな』
俺はまだ異世界に来て三度目だが、二回とも、見せつけられた。
その言葉の意味を。
「少年!! 駄目だ!!」
アーサーは勇者君たちの前に立ち、魔王の攻撃を全身で受け止める。
『グハハハハ! 愚かなり! 無力な子供を庇い、勝利を放棄するなど』
「へっ! まだ俺たちは負けちゃ居ねぇぜ!」
チャーリーがだっさい名前の剣を振りかぶって、魔王に切りかかった。
しかし、それを隙と見た、魔王の側近から攻撃を受けて壁に向かって吹き飛ぶ。
だが、それすらも俺は索敵済みだ。
ずっと魔王の陰に隠れていた側近を表舞台に引きずり出す為に、チャーリーはわざと隙を見せたのだから。
ハリーは極大魔法を側近に向かって放ち、側近は逃げる隙もなく灰となって消えた。
そしてハリーも魔王の攻撃を受けて、倒れる。
『ぬ!? 貴様ら、何故、諦めんのだ!! もはやお前たち人類に勝ち目はない! だというのに、何故立ち上がる!』
魔王の言葉に、俺はニヤリと笑う。
そろそろ俺の出番だからだ。
派手に戦って、派手に散る。
その一瞬の輝きを、この世界の人間の胸に永遠の灯として、灯す!
「アーサー。これまでの旅、楽しかったぜ」
「っ!? タツヤ! ……すまない」
「良いって事よ! さぁ。行くぜ! 魔王。人間様の最後の輝きって奴を見せてやる!」
『ぬ!?』
俺は既に失われている左腕から溢れる血をわざとらしく床に流し、右手一本で小刀をクルクルと回しながら逆手で構える。
そして、魔力を通し、淡く光る刃を空中に映える様に流しながら、疾風の様に魔王へ掛けた。
俺の速さに魔王は威力を落として範囲攻撃を放つという手段で対抗する。
だが、そんな事は承知済みだ。
俺は全身に魔力で出来た刃が突き刺さるのを感じながら、右手に持った小刀を魔王の胸に突き刺した。
全身全霊。全ての魔力を注ぎ込んだそれは、魔王の魔力結界を破壊し、そして命のストックを残り一つまで削り取る。
しかし、俺はその直後に放たれた魔王の咆哮によって、欠片一つ残さず消え去ってしまうのだった。
「タツヤ……! くっ」
そして魔王は、もはやこれ以上近づけさせまいと、勇者君たちを庇うアーサーに向かって魔法を放ち続ける。
このまま消えてくれという祈りを込めるかの様に。
だが、今まで散々悪逆非道の限りを尽くしてきた魔王の祈りなど、誰も聞きはしない。
アーサーは腰に刺さったままの剣を抜き、光を宿して、勇者君の前に笑顔で突き立てた。
既に折れてしまった勇者君の剣の代わりに、己の魂とも言うべき剣を。
「後は託した。新たなる世界の英雄。勇者……ノア!」
かくして英雄アーサーは俺と同様に完全のこの世界から消え去り、俺と同じく魂だけの存在となってこの後の展開を特等席で眺める場所へと来たのだった。
『さぁ、始まるよ。本当の英雄が立ち上がる』
『魂の輝きか』
黄金に輝く剣を握り、涙を振り払いながら、勇者ノアは立ち上がった。
恨みではない。憎しみでもない。
ただ、託された世界を護りたいと、その心を黄金の様に輝く魂の光で染め上げて、真なる英雄、勇者は立つのだ。
苦し紛れで放たれた魔王の魔法を切り裂いて、走りながら、魔王の体を切り裂いてゆく。
そして、ノアが傷ついても、ノアと共にここまで苦楽を共にしてきた少女、ルナが涙を流しながら癒していった。
二人の胸の中には俺たちと共にあった時間があるのだろう。
多くの人たちが笑い、泣き、喜び、安心する世界があるのだろう。
それを護るために、彼らは叫び、そして魔王への攻撃を続け……やがて魔王は光に呑まれて倒れた。
だが、ノアの顔にも、ルナの顔にも喜びの色はない。
ルナが必死に癒そうとしているチャーリーも、もはや致命傷だ。彼女の魔法では癒せない。
死を待つだけだ。
そして、この世界での物語を終わらせるために、マザーが姿を現して、心の傷を少しでも軽くするために、マザーと共にハリーが二人に優しく語り掛ける。
『……昔』
『ん?』
『僕は絵本で読んだ勇者に憧れた事があったんだ』
『ふーん。てことは夢は叶ったって事か?』
『いや。叶っていないさ。僕は何かを壊す事しか出来なかったからね』
『……』
『あの子たちの様に。他の世界の英雄たちの様に。僕は人に希望を与える存在になりたかったんだ』
『アーサー』
『……なんだい?』
『この前さ。人事部のヒナヤクさんと偶然休憩所で会ってさ。話をしてたんだよ』
『うん? うん』
『そこで聞いたんだけど、アーサーには会社の中でもトップクラスに難易度が高い世界が割り振られるらしいぜ?』
『そうなんだ』
『なんでか分かるか?』
『……強いから?』
『まぁ、それもあるだろうな。でも、それだけじゃないって俺は思ってる』
『なんだろう。分からないや』
『アーサーはさ。よく笑うだろ。楽しい時も、辛い時も。それがさ。みんなの希望になるんだよ。安心出来るんだ』
『……』
『俺はさ。前の会社で、このまま名前のないどこかの誰かになって歴史の中で消えていくのかな。って思ってたんだよ。でもさ。デモニックヒーローズから誘われて、アーサーと一緒に仕事して、楽しいって思えたんだ。俺の生まれてきた意味はこれだったんだ。って思えたんだよ』
『でも! それは僕じゃなくても同じだったんじゃないか?』
『んな事ねーよ。だって、俺。アーサーと会う前は無理だなって思ってたんだぜ? 特別な人間じゃないと出来ない仕事だったんだってさ。でも、アーサーは特別じゃない俺を受け入れてくれた。だから今がある』
アーサーと話しながら、俺は視線を勇者君たちの方へ向けた。
マザーが神々しく両手を広げているから、そろそろ転生という形で物語が終わるのだろう。
少し寂しくはあるが、異物があまり長くいるべきじゃないってのは確かだ。
この世界の未来を担うのは、この世界の人間が相応しい。
『アーサー。君が俺に希望を宿した。そして、俺たちがノアたちの希望となった。これからノアたちが誰かの希望になっていく。そうやって世界は回ってるんだ。だからさ、君は確かに誰かの勇者様って奴になれたんだよ。そして、それはこれからも』
『タツヤ』
『俺たちの戦いはまだまだ終わらない。だろ?』
『……あぁ。あぁ! そうだね! 僕もそうありたいと思うよ! タツヤ!』
『そう。それで良いのさ。アーサー。アーサー先生の次回作にご期待下さいってね』
俺は世界を救う手伝いをしたという満足感の中で、マザーの光に包まれて、元の体へと戻るのだった。
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