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第97話『それが、お姉ちゃんの願い』
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沼の底に居る様な重苦しい世界で、私は深く息を吐いた。
そして、その息に反応してか、その世界で何かが動いた様な気配がするのだった。
『なんだ? 誰か居るのか?』
「……その声、どなたでしょうか」
『我は魔王。って、貴様! アメリア! まだここには来るなと言っただろうが!』
「っ! わ、私はアメリアお姉ちゃんではありません」
『なに? アメリアではない……? しかもお姉ちゃんだと? つまり、お前、アメリアの妹……リリィか』
「はい」
『貴様。何があった。話せ』
「えと、はい。お姉ちゃんが私の代わりに聖人として世界の中心に行って、消えてしまったので、どうにかしてお姉ちゃんを取り戻そうとしたのですが、結局普通の手段では無理だったんです」
『……』
「それで、自分の体を精霊にすれば、お姉ちゃんの器になれると思って、それで」
『はぁ』
「っ」
『まったく厄介な所でよく似ている姉妹だ。お前が消えてアメリアが喜ばない事くらいは分かるだろう?』
「それでも、この世界にはお姉ちゃんが必要なんです」
『アメリアが必要だとしても、お前が必要ないワケではないだろう? リリィ。お前もまたこの世界に必要な存在なんだぞ』
「そんな事」
『無いとは言わせんぞ。世界に絶望していたアメリアが救われたのは間違いなくお前が居たからだ』
「魔王様は……知っているのですか?」
『無論だ。あの雪に埋もれた村で、お前が、たった一人生き残ったお前がアメリアの心に触れた事で、アメリアは間違いなく救われたのだ』
「私はただ助けられただけですよ。あの時、お姉ちゃんの前に居たのは私で無くても良かった「そんな事、ありません!!」っ!? お姉ちゃん!?」
私は暗闇の世界で黒い影の塊である魔王様と話をしていたのだが、そこに眩いばかりの光を放ちながら現れた人。お姉ちゃんへと視線を向ける。
「リリィ。私はとても怒ってますよ」
「……私は自分が間違えてるなんて思ってない」
「リリィ!!」
「怒ったって変わらないよ! この世界にはお姉ちゃんが必要なんだ。私なんかよりも、ずっとっ!」
私はお姉ちゃんに向かって叫んでいたのだが、不意に頬に痛みが走って、ポロリと涙が零れる。
叩かれた。
お姉ちゃんに。
どうして?
今まで一回だって叩いた事無いのに。
「なん……で」
「リリィ。どうしてなんですか? どうして分かってくれないの?」
「お姉ちゃん……」
「私はただ、リリィに生きて、幸せになって欲しいだけなのに」
「そんなの無理だよ……。だって私はお姉ちゃんが居るから幸せなんだよ? お姉ちゃんが居なくなったら幸せになんてなれないよ」
「……リリィ」
私の叫びに、お姉ちゃんが辛そうな顔をする。
しかし、ここは絶対に曲げる事は出来ないのだ。
私の幸せはお姉ちゃんと一緒に居る世界にしか存在しない。
リアムさん達とどれだけ親しくなっても、それは変わらない。何一つ。
「リリィ。どうやっても願いは変わりませんか?」
「うん」
「分かりました。それがリリィの願いだと言うのなら、私も覚悟を決めます」
「かくご?」
「リリィ。私と共に永遠を生きる覚悟はありますか? 世界が、人が生き続ける限り終わらない願いの中で生きる覚悟は」
「あるよ」
『おい。アメリア。まさかお前……』
魔王様が焦った様な声を出して、お姉ちゃんの周囲で渦巻いた。
そして、そんな魔王様を抱きしめてお姉ちゃんは言葉を紡ぐ。
「はい。私はリリィと共に精霊になります。ただし、リリィは残された人の命を生きてから。という事になりますが」
「それは」
「リリィ。まだやり残した事があるでしょう? この世界で」
「……私の代わりにお姉ちゃんが人としての命を生きる事は出来ないの?」
「それは出来ません。どの道、私はリリィの体が無ければこの世界に存在する事は出来ませんし。リリィの体もリリィでなければ生きてゆく事が出来ません」
「そう、なんだ」
「それに。私の一番の願いは貴女が、人として生きて、ちゃんとこの世界にお別れをしてから終わる事なんですよ」
「それが、お姉ちゃんの願い」
「はい。出来ればリリィには人としての生をちゃんと終わらせてから、生まれ変わって欲しかったのですが」
「お姉ちゃん!」
「分かっています。それがリリィの願いであるなら、私はもう何も言いませんよ」
お姉ちゃんは諦めた様に笑い、私の手を取った。
その優しくて、柔らかくて、温かい手で、私の手を握る。
「そういう事になったので、魔王様。申し訳ございませんが、私の命もここで終わりという事になります。これからは精霊として存在してゆく事になりますね」
「その、ごめんなさい。魔王様」
『まったく。しょうがない奴らだな。お前たちは』
「いつまでも魔王様に甘えてばかりでごめんなさい」
『よい。それが子を育てるという事なのかもしれん』
「魔王様……」
『しかし、こうなった以上は我も好きにやらせて貰う。お前たち光の精霊を人が悪用せぬか、見極める。この世界の人間の輝きをな』
「分かりました。ではその時は、私も協力させていただきますね」
「は、はい! 私も」
『フン。良いだろう。手伝わせてやる』
魔王様は明らかに無理をしている様な笑い声を上げながらそんな事を言うのだった。
その優しさが嬉しくて、少しだけ申し訳ない。
「じゃあ、リリィ。私は貴女の中に入りますが、後の事は大丈夫ですか?」
「うん。ちゃんとリアムさん達に説明するよ」
「ありがとうございます。ではお願いしますね」
そして、お姉ちゃんは私の中に消え、私はこの瞬間まで感じていた精霊による痛みから解放されるのだった。
深い沼の底から浮き上がり、柔らかい風が頬を撫でる感触に、私はゆっくりと目を覚ました。
「……ここは」
「リリィ様!」
「オリヴィアちゃん……?」
「リリィ! 目を覚ましたか!」
「本当に君たち姉妹は心配ばかりかけて」
「もう体は大丈夫なのか?」
「痛くはない?」
オリヴィアちゃんと、リアムさん達が私を囲んでいる事に私は僅かに笑みを零すと、体を起こした。
今までの不調が嘘の様に、かつての……いやそれ以上に体に力が溢れている。
「ご心配をおかけしました」
「良かった……でも、リリィ。大変なんだ。アメリア姉ちゃんが消えちゃったんだよ」
「それなら大丈夫ですよ。カーネリアン君。……お姉ちゃんはここに居ます」
私は自分の胸に手を当てながら笑う。
そして告げた。
その絶望的な真実であり、希望に満ちた未来を。
「お姉ちゃんの命は尽きました。もう皆さんの前に姿を見せる事はありません」
「そん……な」
「駄目だったのか」
「ですが、お姉ちゃんは永遠にこの世界に存在し続ける事になります」
「どういう意味だよ。リリィ」
「精霊になるんです。今までに存在した精霊とは違う。まったく新しい精霊。人の心の輝きに力を与える精霊に。光の精霊になるのです」
「リリィは、それで良いの?」
「はい。私も命が尽きればお姉ちゃんと同じところで永遠に存在し続ける事になりますから。この胸の奥に眠る力がお姉ちゃんの所まで導いてくれるんです」
皆さんに申し訳ない気持ちはある。
けれど、この世界に光が溢れるから。
お姉ちゃんの輝きが世界を満たすから。
だから、この結末を受け入れてもらいたい。
「この世界に光がある限り、お姉ちゃんは消えません」
これが私と、世界とお姉ちゃんが出した結論だ。
そして、その息に反応してか、その世界で何かが動いた様な気配がするのだった。
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「……その声、どなたでしょうか」
『我は魔王。って、貴様! アメリア! まだここには来るなと言っただろうが!』
「っ! わ、私はアメリアお姉ちゃんではありません」
『なに? アメリアではない……? しかもお姉ちゃんだと? つまり、お前、アメリアの妹……リリィか』
「はい」
『貴様。何があった。話せ』
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『……』
「それで、自分の体を精霊にすれば、お姉ちゃんの器になれると思って、それで」
『はぁ』
「っ」
『まったく厄介な所でよく似ている姉妹だ。お前が消えてアメリアが喜ばない事くらいは分かるだろう?』
「それでも、この世界にはお姉ちゃんが必要なんです」
『アメリアが必要だとしても、お前が必要ないワケではないだろう? リリィ。お前もまたこの世界に必要な存在なんだぞ』
「そんな事」
『無いとは言わせんぞ。世界に絶望していたアメリアが救われたのは間違いなくお前が居たからだ』
「魔王様は……知っているのですか?」
『無論だ。あの雪に埋もれた村で、お前が、たった一人生き残ったお前がアメリアの心に触れた事で、アメリアは間違いなく救われたのだ』
「私はただ助けられただけですよ。あの時、お姉ちゃんの前に居たのは私で無くても良かった「そんな事、ありません!!」っ!? お姉ちゃん!?」
私は暗闇の世界で黒い影の塊である魔王様と話をしていたのだが、そこに眩いばかりの光を放ちながら現れた人。お姉ちゃんへと視線を向ける。
「リリィ。私はとても怒ってますよ」
「……私は自分が間違えてるなんて思ってない」
「リリィ!!」
「怒ったって変わらないよ! この世界にはお姉ちゃんが必要なんだ。私なんかよりも、ずっとっ!」
私はお姉ちゃんに向かって叫んでいたのだが、不意に頬に痛みが走って、ポロリと涙が零れる。
叩かれた。
お姉ちゃんに。
どうして?
今まで一回だって叩いた事無いのに。
「なん……で」
「リリィ。どうしてなんですか? どうして分かってくれないの?」
「お姉ちゃん……」
「私はただ、リリィに生きて、幸せになって欲しいだけなのに」
「そんなの無理だよ……。だって私はお姉ちゃんが居るから幸せなんだよ? お姉ちゃんが居なくなったら幸せになんてなれないよ」
「……リリィ」
私の叫びに、お姉ちゃんが辛そうな顔をする。
しかし、ここは絶対に曲げる事は出来ないのだ。
私の幸せはお姉ちゃんと一緒に居る世界にしか存在しない。
リアムさん達とどれだけ親しくなっても、それは変わらない。何一つ。
「リリィ。どうやっても願いは変わりませんか?」
「うん」
「分かりました。それがリリィの願いだと言うのなら、私も覚悟を決めます」
「かくご?」
「リリィ。私と共に永遠を生きる覚悟はありますか? 世界が、人が生き続ける限り終わらない願いの中で生きる覚悟は」
「あるよ」
『おい。アメリア。まさかお前……』
魔王様が焦った様な声を出して、お姉ちゃんの周囲で渦巻いた。
そして、そんな魔王様を抱きしめてお姉ちゃんは言葉を紡ぐ。
「はい。私はリリィと共に精霊になります。ただし、リリィは残された人の命を生きてから。という事になりますが」
「それは」
「リリィ。まだやり残した事があるでしょう? この世界で」
「……私の代わりにお姉ちゃんが人としての命を生きる事は出来ないの?」
「それは出来ません。どの道、私はリリィの体が無ければこの世界に存在する事は出来ませんし。リリィの体もリリィでなければ生きてゆく事が出来ません」
「そう、なんだ」
「それに。私の一番の願いは貴女が、人として生きて、ちゃんとこの世界にお別れをしてから終わる事なんですよ」
「それが、お姉ちゃんの願い」
「はい。出来ればリリィには人としての生をちゃんと終わらせてから、生まれ変わって欲しかったのですが」
「お姉ちゃん!」
「分かっています。それがリリィの願いであるなら、私はもう何も言いませんよ」
お姉ちゃんは諦めた様に笑い、私の手を取った。
その優しくて、柔らかくて、温かい手で、私の手を握る。
「そういう事になったので、魔王様。申し訳ございませんが、私の命もここで終わりという事になります。これからは精霊として存在してゆく事になりますね」
「その、ごめんなさい。魔王様」
『まったく。しょうがない奴らだな。お前たちは』
「いつまでも魔王様に甘えてばかりでごめんなさい」
『よい。それが子を育てるという事なのかもしれん』
「魔王様……」
『しかし、こうなった以上は我も好きにやらせて貰う。お前たち光の精霊を人が悪用せぬか、見極める。この世界の人間の輝きをな』
「分かりました。ではその時は、私も協力させていただきますね」
「は、はい! 私も」
『フン。良いだろう。手伝わせてやる』
魔王様は明らかに無理をしている様な笑い声を上げながらそんな事を言うのだった。
その優しさが嬉しくて、少しだけ申し訳ない。
「じゃあ、リリィ。私は貴女の中に入りますが、後の事は大丈夫ですか?」
「うん。ちゃんとリアムさん達に説明するよ」
「ありがとうございます。ではお願いしますね」
そして、お姉ちゃんは私の中に消え、私はこの瞬間まで感じていた精霊による痛みから解放されるのだった。
深い沼の底から浮き上がり、柔らかい風が頬を撫でる感触に、私はゆっくりと目を覚ました。
「……ここは」
「リリィ様!」
「オリヴィアちゃん……?」
「リリィ! 目を覚ましたか!」
「本当に君たち姉妹は心配ばかりかけて」
「もう体は大丈夫なのか?」
「痛くはない?」
オリヴィアちゃんと、リアムさん達が私を囲んでいる事に私は僅かに笑みを零すと、体を起こした。
今までの不調が嘘の様に、かつての……いやそれ以上に体に力が溢れている。
「ご心配をおかけしました」
「良かった……でも、リリィ。大変なんだ。アメリア姉ちゃんが消えちゃったんだよ」
「それなら大丈夫ですよ。カーネリアン君。……お姉ちゃんはここに居ます」
私は自分の胸に手を当てながら笑う。
そして告げた。
その絶望的な真実であり、希望に満ちた未来を。
「お姉ちゃんの命は尽きました。もう皆さんの前に姿を見せる事はありません」
「そん……な」
「駄目だったのか」
「ですが、お姉ちゃんは永遠にこの世界に存在し続ける事になります」
「どういう意味だよ。リリィ」
「精霊になるんです。今までに存在した精霊とは違う。まったく新しい精霊。人の心の輝きに力を与える精霊に。光の精霊になるのです」
「リリィは、それで良いの?」
「はい。私も命が尽きればお姉ちゃんと同じところで永遠に存在し続ける事になりますから。この胸の奥に眠る力がお姉ちゃんの所まで導いてくれるんです」
皆さんに申し訳ない気持ちはある。
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