聖女の証

とーふ(代理カナタ)

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第100話『そう。この世界に刻まれた新しい神話。聖女アメリアが世界を救う物語だ』

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リアムさん達と別れてから数年が経った。

私はといえば、オリヴィアちゃんと一緒に世界を巡り、病や怪我で苦しむ人を癒す旅をしている。

オリヴィアちゃんは順調に成長し、気が付いたら私よりも背が大きくなっていた。

ビックリである。

しかも背だけじゃなくて、言葉も大きくなって、最近ではさっさと癒しの力を受け渡して聖女を引退しろと言うのが口癖の様になっていた。

今日も今日とて、二人きりの部屋でベッドに座っている私にオリヴィアちゃんは語り掛ける。

「もう十分ではありませんか? 聖女アメリア様」

「いえいえ。まだまだ」

「でも、最近は朝起きるのも随分と遅くなっていますよね?」

「気のせいではありませんか?」

「……むぅ」

唇を尖らせるオリヴィアちゃんに笑いかけながら、私はもう殆ど人間では無くなった自分の体を動かした。

あれから六年。

私は、お姉ちゃんの名を遺す為に聖女アメリアを名乗り、人々の為にと世界中を歩き回っていた。

一人でも多くの苦しむ人の為に。

一人でも多くの悲しむ人の為に。

ただ、それだけを胸に、歩み続けた。

そのお陰か、聖女アメリアの名前は随分と有名になった様に思う。

「……リリィ様」

「駄目ですよ。オリヴィアちゃん」

「今は二人だけです! 周りにも誰も居ません。闇の魔力で分かります」

「それでも。もし、間違えて呼んでしまったら大変でしょう?」

「……私は、アメリア様と同じくらいリリィ様も偉大な方だと思います」

拗ねた様にそんな事を言うオリヴィアちゃんに私は苦笑しながら、その頭を撫でた。

子供扱いに思えるが、オリヴィアちゃんはいつまで経っても撫でられる事に喜んでいるから。

「私は、所詮お姉ちゃんの力を借りているだけです。大した存在ではありませんよ」

「そんな事!」

私はオリヴィアちゃんの唇に人差し指を当てて、笑う。

「名声に大きな意味はありません。必要なのはお姉ちゃんの名前を残し続ける事です。お姉ちゃんの名前が希望になれば、人々は光を見失わずにいられる」

「でも、アメリア様の名前を残しながら、リリィ様の事をお伝えする事だって……!」

「出来るかもしれません。ですが、もし万が一、お姉ちゃんの事が薄れてしまえば全てが無意味になります」

「……っ」

「ごめんなさい。オリヴィアちゃん。私の我儘に付き合わせて」

「いえ、私は、アメリア様の事も、リリィ様の事もお慕いしておりますから。お二人の願いを優先したいです」

「ありがとうございます。じゃあ、そろそろ次の町へ行きましょうか」

私はオリヴィアちゃんに笑いかけ、話は終わったとベッドから起き上がろうとしたのだが……力が入らない。

あぁ……そうか。もう『終わり』か。

思っていたよりも早かったな。

「リリィ様?」

「……」

「どうかされましたか? お体に何か?」

「いえ。何でもありませんよ。ただ……そうですね。少し考え事をしていました」

「考え事、ですか?」

「はい。今立ち上がろうとしたんですが、どうにも力が上手く入らなくて……年ですかね」

「いや、リリィ様はまだかなりお若いと思いますが……」

「それでも、もう聖女をやるのは限界なのかもしれません」

「っ!! では!!」

オリヴィアちゃんは嬉しそうな顔で私の手を取った。

そんなオリヴィアちゃんにあの時と同じ様に、問う。力を持つ覚悟を。

「オリヴィアちゃん」

「……はい」

「癒しの力は非常に危険な物です。使えばそれだけ命を削る。それは分かっていますね?」

「はい」

「それでも、貴女はこの力を受け入れますか?」

「はい! 私はアメリア様の意思を継ぐ、聖女アメリア様の願いを継ぎたいと、ずっと考えておりましたから」

「そうですか」

私は自分の中にある力と、オリヴィアちゃんの中にある器を繋げる。

「では、この力。オリヴィアちゃんへ授けます」

「あぁ……」

オリヴィアちゃんは私の手を握ったままポロポロと涙をこぼし、何度も頷いた。

そして微笑むと、私に癒しの力を使う。

「どうですか?」

「はい。間違いなく力は使われていますよ」

「いえ。そうではなく! お体の不調はどうですか?」

「あぁ、それなら今ので大分元気になりましたね」

「そうですか! 良かった!!」

オリヴィアちゃんは元気に笑い、立ち上がると遠くの人間と話をする魔術を使い、窓際で誰かと話し始めた。

私はその会話が終わったのを確認してから、再びオリヴィアちゃんに話しかける。

「オリヴィアちゃん?」

「聖女アメリア様! 今レーニさんを呼びましたので、先にお家へ帰って下さい!」

「えぇー。レーニちゃんも忙しいでしょうに。その様な無駄な事は」

「無駄じゃないです! どうしても転移が嫌という事でしたら、いくつかの国にお願いして護衛部隊を作って、お送りしますけど?」

「その様な事はせずとも、私一人で帰れますよ」

「駄目です!! 聖女アメリア様にその様な事はさせられません! どちらか、です! レーニさんか、護衛部隊か!」

「はぁ……分かりました。では、レーニちゃんにお願いします」

「はい!」

ニコニコと嬉しそうに笑うオリヴィアちゃんに苦笑しながら、私はレーニちゃんの到着を待ち、来てからは転移で家まで運んでもらった。

そして、レーニちゃんに言われるままベッドに寝る。

「……何だかレーニちゃんも過保護になりましたねぇ」

「お前が自分を大事にしないから、私やオリヴィアが気にするんだ。嫌ならもっと気を付けろ」

「はぁ」

「はぁ……。じゃない。何を他人事みたいな反応してるんだ。お前の事だぞ! リリィ」

「なるほど」

「まったく。お前は……何年経っても変わらないな」

「そうでしょうか?」

「あぁ。変わらない。聖女をやるって言ってから、あっちへこっちへ走り回って倒れて、また走り回って……私たちがどれだけ心配したと思っているんだ」

「それは申し訳ないです」

「うん」

「でも、まぁ、もう聖女様は引退しましたから」

「……そうだな。これからはここで寝てろ。私が面倒を見る」

「良いんですか? 私、お姉ちゃんじゃないですけど」

「分かってる! でもその……な。私たちは、まぁ、アレじゃないか」

「アレ? アレって何ですか?」

「~~! 良いから! とにかくアレなんだ!」

「アレ。じゃ分からないですよ」

「う、うぅ……」

「レーニちゃん?」

「オリヴィアがリアム達を連れて戻ってくるから、そしたら、ちゃんと言うから、少し待ってろ。私にだって心の準備とか、色々あるんだ」

「なるほど」

私はドタドタと部屋から出て行ったレーニちゃんを見送ってから、小さく息を吐いた。



六年。

最初に想定したよりも短くなってしまったのは、力を使い過ぎたせいかな。

でも……後悔はない。

お姉ちゃんの代わりとして、やれるだけの事はやったのだ。

後は次の世代。オリヴィアちゃんへ。

そしてオリヴィアちゃんの次へと受け継がれてゆく事を願うしかない。

どうか、この光を絶やさず進んで欲しいと。

いつか、この世界にある悲しみが全て消え去って欲しいと、私はただ、願う。



全身の力を抜きながら、ゆっくりと息を吐いて……近くにいるお姉ちゃんの気配に視線を向ける。

「お姉ちゃん」

『はい』

「今まで……ありが、とう」

『いえ。長い間。お疲れ様でした。今はゆっくりと休んでください』

「……うん」

そして、私は目を閉じた。

緩やかに私を包み込むお姉ちゃんの気配を感じながら、私は体から解き放たれ、いつかの様に世界へと溶けてゆく。

ただ、静かに。

私は終わる。

お姉ちゃんの名を受け継いで、聖女として歩んだ私の物語はこれで終わりだ。

永遠に名前を世界に刻み込む物語。

そう。この世界に刻まれた新しい神話。聖女アメリアが世界を救う物語だ。



『おい。リリィ。寝る前に何か食べるか?』

『もう寝たのか?』

『……おい! リリィ! なんで、お前……え?』

『っ! オリヴィア! 急いで戻ってこい! 良いから!! 王族とかどうでも良いから!! 早く!!』

『なんで、リリィ。私はまだ、お前と……なぁ、目を開けてくれ』

『リリィ』
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