最強ショタ魔王の家出録〜ショタ化した元おっさん、偶然出会った勇者と共に世界平和を目指します〜

青王(あおきんぐ)

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5章 第三、第四の街 ブリジア・ギガンテス

92話 お仕置き後の魔族のその後②

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 カマセーヌが大量の書類整理に追われ、ヤラカスがサキュバス達とバカンスを楽しんでいる頃。

 ◇

 ウォルトスの華やかな表通りから路地裏へ入り、更にそこを抜けた最奥にあるオフィスの一室。ここにもかつて、エルにお仕置きをされた者達がいた。
 

「ケシカさん、ランナさん……! このままでは期日までに完成しませんよ……!?」

「「うるさいぞ、シギサ! 黙って手を動かしなっ!」」

 あれだけエルにこっぴどく叱られたにも関わらず、残念ながらブラックな職場環境は一切改善されていなかった。ここで働く末端社員であるシギサは悲痛な叫びを上げていた。

「いや、だって……。せっかくアイリス様が連れて来て下さった先輩眷属の皆さんが全員、どこかへ行ってしまったんですよ……!?」

 そう。シギサの言う通り、今このオフィス内にはシギサとケシカとランナの三人しかいない。
 本来ならば、アイリスが魔王城から連れて来た眷属達も一緒に働いているはずなのだが、どうやら何かの事情で再び三人だけになってしまったようだ。

「「仕方ないじゃん!! アイリス様が緊急の魔王様命令を受けて眷属達を連れて行っちゃったんだから……!」」

「エル様……どうしてまた眷属達を……。以前にあれ程の罰を受けたというのに、まだ私達を苦しめるのですか……?」

 ケシカとランナが言うエルがアイリスに命じた、緊急の魔王様命令とは即ち、四天王の捜索及び説得の事。シギサはエルの事を恨めしく思っているようだが、エルには断じてそんな意図は無かった。
 
 しかしアイリスはせっかく連れて来た眷属達を、別の任にあたらせてしまい、再びここの労働環境が悪くなってしまったのだ。残念な事に彼女は、二つの事柄を同時に考える事が出来ないタイプのようだ。

「「何を甘えたことを言ってんの! いいじゃん、シギサにはウチらがいるんだから! ウチらが若い頃は二人だったんだよ!? 今は三人いるんだから、それだけで有難いと思いなさいっ!」」

「いや、あなた達の若い頃とか私知りませんし……」

「「え!? 何っ!?」」

「いえ、何も……」

 ケシカとランナは見た目こそロリショタではあるが、二人は魔族。長命且つ、なかなか老け込まないせいで誤解されがちだが、割と歳を重ねている。
 
 それもあってか、二人は現代社会でもよくありがちな"無自覚な若い頃自慢"をしてしまっていた。
 せっかく人間から魔人へと変わったというのに、シギサも苦労が絶えないだろう。

「ですが、このままでは本当に期日に間に合いませんよ? だいたい無理があったのですよ。人間用回復薬を一ヶ月で五千個なんて……」

「「それも仕方ないの! 営業班の眷属が無茶な発注を取って来ちゃったんだから……!」」

 営業班と生産班の連携が上手くとれておらず、納期に生産量が追い付かないというのもよくある話である。おかげで三人はただでさえ少ない休日をも返上して、生産にあたっていた。

「そ、そんなぁ……。ていうか私、そもそも営業班のはずでしたよね……?」

 シギサは元々人間であり、その頃は商人をしていた。その能力を見込んでエルは彼に回復薬の営業を担当させるつもりでいた。しかし、他の眷属達が次々と無茶な発注を受けてしまったばかりに、シギサも生産班に回されてしまったのだ。この男、実に不憫である。

「「はぁ? 今ですら三人で納期に生産量が追い付いてないのに、これ以上発注を取ってきてどうすんの? 馬鹿なの、死ぬの?」」

「はい……すみません……。死にたくないので手を動かします……」

 そしてシギサの言葉に対し、ケシカとランナはどこの会社にもいるであろうお局《つぼね》社員のように嫌味ったらしくまくし立てる。彼はもう、黙って手を動かすしかなかった。

 その後も三人は、黙々と作業に明け暮れていった。
 因みに残念で小さな頭を持つ、駄目な上司筆頭のアイリスは、四天王の捜索を早々に見切りをつけたが、眷属をこの職場に戻すことを忘れていたのだった。


 ◇


 一方その頃、残念な上司ことアイリスはというと――――


「やだぁー、セセリン様ったら、はしたないわぁ……!」

「何を言っているのよ、アイリス。これは本当の話よ?」

 旧四天王のセセリンと、優雅なティータイムを過ごしていた。

「それより聞いた? ふにゃ丸の奴、エル様の旅に同行する為に人間のペットになったそうよ?」

「ふ、ふにゃ丸様をペットに……!?」
(一体誰よ、そんな命知らずは!? あ……あそこの人達は全員そうね……)

 セセリンは部下のハーピーと情報を共有し、人間族の領土で起こっている事を全て把握している。彼女は以前からこういった情報共有を得意とし、旧四天王にまで上り詰めたのだ。情報を制するものは何とやらである。

「驚きよねー。まさか魔族内序列第二位のあのふにゃ丸をペットにするなんてね。エル様のお力が大きいのは前提としても、その人間の度量は計り知れないわ……」

「ほ、本当ですよねぇ……。とんだ命知らずもいたものです……」
(一体誰なのかしら……? セセリン様は人間と言ったからエル様とスカーレットではないとして……。まさか……あの子じゃないでしょうね……?)

 アイリスは小さな頭をフル活用し、その恐れ知らずを突き止めるべく、考えを巡らせていた。ただ、何となくだが、大方見当はついているようだった。

「ふふふ……。その恐れ知らずが誰だか知りたいって顔をしてるわね……?」

「え……!? 何でバレたの!?」
(そ、そんな事ありませんわ。人間の事なんて、どうでもいいですものっ……!)

 さすがは旧四天王のセセリンである。アイリスの僅かな表情の変化で、思考を読んでみせた。そしてアイリスは気が動転しているのか、心の声が表に出てしまっていた。

「あなた、実際の声と心の声が逆になってるわよ……?」

「え……!? そ、それはお恥ずかしい所をお見せしてしまいましたわ……」

「それよりアイリス? 知りたいの? 知りたくないの?」

「し、知りたいです……!」

 全てを見抜かれた高飛車なお嬢様であるアイリスは、頬杖をつきながら余裕の笑みを浮かべるセセリンの前に為す術なく屈服した。

「ふふふ……。可愛いわね。いいわ、教えてあげる。――――ふにゃ丸をペットにした恐れ知らずはリリィという魔女よ」

「そ、そうなんですねっ……!」
(やっぱりあの子だったのね……)

「あーそうそう。そういえばその子、あなたの弟子っ子よね?」

「は、はいっ……!?」
(な、何で知ってるの!? まさか、それも部下を使った情報網で……!?)

 アイリスとリリィの関係をズバリと言い当てられた彼女は、目をまるで逃げ惑う魚のようにぐるぐると泳がせた。
 
「別に隠さなくてもいいじゃない。どうせ私は全部知っているのだから……」

「は、はい……。その子には私が修行をつけました……」
(ハーピーの情報網、恐ろしすぎるわ……。どこにいても筒抜けなんて、この人に対してだけはプライベートなんてあってないようなものね……)
 
 余裕の笑みを浮かべながら淡々と言葉を並べるセセリンに対し、アイリスはまるで刑事に取り調べでもされているかの如く、うつむき加減で自白した。

「別にいいのよ? 私はエル様の真意もわかっているつもりだし、人間と仲良くする魔族に対して何も思わないから」

「そうですか……。なら良かったです……」

「ふふふ……。――――あら? そんな事を言っている間に、あなたの同僚がエル様にお仕置きされているわね?」

「えっ!? 誰ですか……!?」

 セセリンの言葉を受け、先まで俯いていたアイリスが途端に覇気を取り戻した。

「うーん……。これはゴラムね。あらあら……エル様ったら容赦ないわね……」

「ゴ、ゴラムが!? 一体何がどうなっているんですか……!?」

 アイリスの鬼気迫る表情に、セセリンは心を動かされたのか、ゴラムに起きている事を全て説明した。


「――――なるほど……。あのゴラムが核を引き抜かれて、遂には自らの意思で破壊した街を修繕ですか……」

「えぇ。完全に心を入れ替えたみたいね。それだけエル様のお仕置きが堪えたということね」

 二人は顔を見合せ、ゴラムに起こった惨劇を想像し、恐怖した。
 その後、二人はあえて何も考えないようにと、その日三杯目の紅茶を入れ、心を落ち着かせた。
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