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章1
札束で殴るイベを無課金で突っ切る鬼のような所業(2)
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戦闘開始とほとんど同時に、落とし穴という初歩的なトラップに引っかかってしまった。
「ななななんかどこまでも落ちてますけどどうしましょう勝宏さん!?」
「ルイーザ、捕まれ!」
壁を蹴り、一緒に落下しているルイーザへ手を伸ばす。
彼女の腕を引いて、どうにか抱えることができた。
スキルを発動。
翼を持つタイプのキャラクターになるには、ちょっとこの穴は狭すぎる。
だからといってこのままでは、奈落の底に剣山が並んでいたら二人一緒に串刺しである。
ここは最も使い慣れたフォームで。
ルイーザを左肩に担いだまま、右手で剣を生成する。
下から上へと流れていく壁に力いっぱい突き刺して、両足を使いながら落下速度をゆるめていく。
「ひえええ、映画みたいですね」
「ふいー。止まった……ルイーザ、下どうなってるか見えるか?」
「えーっと……あっ、私いいの持ってます」
勝宏はというと、両手がふさがっており、彼女を抱えているため視線を下に向けにくい。
地底が確認できるかどうかは彼女に確かめてもらった方がいいだろう。
訊ねると、ルイーザがアイテムボックスから何かを取り出した。
暗がりで分かりづらいが、一粒の魔石のようである。
「MPを込めて……今からこの辺を光らせますけど、びっくりして私を取り落としたりしないでくださいね」
「おう」
忠告に気を引き締めていると、ルイーザが魔石を底へと投げ入れた。
しばらくしてカツン、と小さな音が響き、あたり一帯を蛍光灯で照らしたかのような真っ白な光が包み込む。
ちょっとまぶしい。
ルイーザの事前の忠告がなければ目を焼いていたかもしれない。
光の眩さに慣れたあたりで、ルイーザが声を上げた。
「あっ、下にトラップはないみたいですよ! ここからなら私たち、飛び降りても怪我しないです!」
「じゃあ手離すぞ」
「はーい!」
壁に突き刺したままの生成剣から手を離す。
ルイーザを抱えたまま、問題なく着地することができた。
担いでいた彼女を下ろすと、ルイーザはきょとんと首を傾げている。
「手離すって、あの話の流れ的には勝宏さんが私を下ろすってことだと思ってました」
「ん? 下ろしただろ今」
「じゃなくて、ポーイってされるかなあと」
彼女の言いたいことにようやく察しがついた。
ともに攻防ステータスの高い前衛同士、ルイーザは勝宏に自然と庇われたのが疑問だったのだ。
「いくらなんでも、女の子にそんなことしないって」
「ひゃー、女の子扱いされたの久しぶりすぎて泣けてきちゃいますね……」
前世の姿・性別そのままで再構築された勝宏は全く気にならなかったが、ルイーザは女。
転生者特有の高ステータスを持つことで、自分たち男には理解できない悩みをいくつも抱えてきたのだろう。
そういえば詩絵里もステータスを気にするようなそぶりを見せたことがあった。
転生者個々人が特に専用のスキルやUIを導入していない限り、この世界では確認することのできるステータス項目が非常に少ない。
ゆえに、魔法使いは後衛として戦うものなのに熟練すればするほど攻撃力が上がり、筋力とはまた別物の怪力が手に入ってしまう……という話をクルスに聞いたことがあった。
あのほら、透と最初に行った町を管理してた転生者。
鷹也の襲撃のせいで、結局透はクルスには会えずじまいだったけど。
ルイーザはステータスが偏りなく成長するタイプのようなので、最初から前衛向きだったのだろうが、詩絵里は詩絵里で大変そうだ。
今のところ、女二人男二人の四人パーティーにも関わらず一番腕っぷしのか弱いのが透という状態だし。
「それにしても、ここ、なんなんでしょう? なあーんにもないですね」
「あ、扉はあるな。一個だけだけど」
ルイーザのマジックアイテムの明かりがあたりを照らしている。
確認できる限りでは、これまでの5の倍数階層におけるボス部屋と同じつくりのように思える。
今までと違う点は、次のフロアに続く扉が見当たらないというところだろうか。
ボス魔物の姿も見当たらないが。
「侵入者を閉じ込める系の罠とかかな」
「うーん……でも落ちる間際、詩絵里さんの声すっごい驚いてませんでした? たぶんスキルで看破できないような――予測のしようがないくらい唐突に出現した落とし穴だったんだと思いますけど」
「あー、確かに。じゃあ俺ら、できたてほやほやの落とし穴にうっかり落ちた? ってことか?」
「詩絵里さんのスキル、鑑定と看破の上位互換みたいな能力ですし、見落としはありえないんじゃないかなって思うんです。だったらもう、そうとしか……」
憶測ばかりで結論の出しようがない話題に、二人して唸る。
「まあ、一旦考えるのは後にしましょう。それより、私たちどうにかして上の階に戻らないと」
ルイーザの言葉が、焦燥を植えつけた。
そうだ。あのフロアには透と詩絵里しかいない。
攻撃力はともかく、残してきてしまった二人は防御力などないに等しい組み合わせだ。
詩絵里が無詠唱で大蛇をワンキルできればいいが、そうじゃなければ全滅もありうる。
「早く助けに戻らないと……!」
この広い空間で翼を広げても、狭い落とし穴の中を通って戻るのは不可能だ。
ならば先ほどの逆、剣で壁を突き刺しながら登っていくしかないだろう。
一旦変身を解く。
天井にぽっかり開いたままの落とし穴の縁までは飛んだ方がいい。
距離を確認して飛び上がろうとしたところ、自分たち以外には誰もいないはずのフロアに少年の声が響いた。
『ええええええあいつらなんでここに!? まだ25層のボスモンスター用意できてないのに……! ちょ、相馬! 相馬ヘルプミー!』
『今20層のエキドナの方に忙しい』
『さっき落とし穴に落ちた転生者! 25層に来ちゃったんだってば!』
『はあ?』
『落下先はそのまま脱出ポートに乗せて最上層の1層目になるはずだったのに、最下層の25層になってた!』
『……うん、お手柄だと思っていたが、やっぱポンコツだったか……』
『そんな、相馬あー!』
少年と青年の声が交互に流れ、校内放送が途切れたみたいに、ぷつん、と途切れる。
ややあって、ステータスメニューに新たな通知が入った。
「えー……ナトリトン地下遺跡ダンジョンを、踏破しました……?」
「あ、私もナトリトンダンジョンクリアになってます」
「ひょっとして……あの落とし穴は防衛側のただのミスで、俺らゴールに直接案内された?」
防衛側がちょうど21層目以降を工事しているところにタイミング悪く俺たちがダンジョン攻略開始して、慌てた防衛側がミスってゴールまで落っことした……というのがことの真相な気がしてきた。
戦闘開始とほとんど同時に、落とし穴という初歩的なトラップに引っかかってしまった。
「ななななんかどこまでも落ちてますけどどうしましょう勝宏さん!?」
「ルイーザ、捕まれ!」
壁を蹴り、一緒に落下しているルイーザへ手を伸ばす。
彼女の腕を引いて、どうにか抱えることができた。
スキルを発動。
翼を持つタイプのキャラクターになるには、ちょっとこの穴は狭すぎる。
だからといってこのままでは、奈落の底に剣山が並んでいたら二人一緒に串刺しである。
ここは最も使い慣れたフォームで。
ルイーザを左肩に担いだまま、右手で剣を生成する。
下から上へと流れていく壁に力いっぱい突き刺して、両足を使いながら落下速度をゆるめていく。
「ひえええ、映画みたいですね」
「ふいー。止まった……ルイーザ、下どうなってるか見えるか?」
「えーっと……あっ、私いいの持ってます」
勝宏はというと、両手がふさがっており、彼女を抱えているため視線を下に向けにくい。
地底が確認できるかどうかは彼女に確かめてもらった方がいいだろう。
訊ねると、ルイーザがアイテムボックスから何かを取り出した。
暗がりで分かりづらいが、一粒の魔石のようである。
「MPを込めて……今からこの辺を光らせますけど、びっくりして私を取り落としたりしないでくださいね」
「おう」
忠告に気を引き締めていると、ルイーザが魔石を底へと投げ入れた。
しばらくしてカツン、と小さな音が響き、あたり一帯を蛍光灯で照らしたかのような真っ白な光が包み込む。
ちょっとまぶしい。
ルイーザの事前の忠告がなければ目を焼いていたかもしれない。
光の眩さに慣れたあたりで、ルイーザが声を上げた。
「あっ、下にトラップはないみたいですよ! ここからなら私たち、飛び降りても怪我しないです!」
「じゃあ手離すぞ」
「はーい!」
壁に突き刺したままの生成剣から手を離す。
ルイーザを抱えたまま、問題なく着地することができた。
担いでいた彼女を下ろすと、ルイーザはきょとんと首を傾げている。
「手離すって、あの話の流れ的には勝宏さんが私を下ろすってことだと思ってました」
「ん? 下ろしただろ今」
「じゃなくて、ポーイってされるかなあと」
彼女の言いたいことにようやく察しがついた。
ともに攻防ステータスの高い前衛同士、ルイーザは勝宏に自然と庇われたのが疑問だったのだ。
「いくらなんでも、女の子にそんなことしないって」
「ひゃー、女の子扱いされたの久しぶりすぎて泣けてきちゃいますね……」
前世の姿・性別そのままで再構築された勝宏は全く気にならなかったが、ルイーザは女。
転生者特有の高ステータスを持つことで、自分たち男には理解できない悩みをいくつも抱えてきたのだろう。
そういえば詩絵里もステータスを気にするようなそぶりを見せたことがあった。
転生者個々人が特に専用のスキルやUIを導入していない限り、この世界では確認することのできるステータス項目が非常に少ない。
ゆえに、魔法使いは後衛として戦うものなのに熟練すればするほど攻撃力が上がり、筋力とはまた別物の怪力が手に入ってしまう……という話をクルスに聞いたことがあった。
あのほら、透と最初に行った町を管理してた転生者。
鷹也の襲撃のせいで、結局透はクルスには会えずじまいだったけど。
ルイーザはステータスが偏りなく成長するタイプのようなので、最初から前衛向きだったのだろうが、詩絵里は詩絵里で大変そうだ。
今のところ、女二人男二人の四人パーティーにも関わらず一番腕っぷしのか弱いのが透という状態だし。
「それにしても、ここ、なんなんでしょう? なあーんにもないですね」
「あ、扉はあるな。一個だけだけど」
ルイーザのマジックアイテムの明かりがあたりを照らしている。
確認できる限りでは、これまでの5の倍数階層におけるボス部屋と同じつくりのように思える。
今までと違う点は、次のフロアに続く扉が見当たらないというところだろうか。
ボス魔物の姿も見当たらないが。
「侵入者を閉じ込める系の罠とかかな」
「うーん……でも落ちる間際、詩絵里さんの声すっごい驚いてませんでした? たぶんスキルで看破できないような――予測のしようがないくらい唐突に出現した落とし穴だったんだと思いますけど」
「あー、確かに。じゃあ俺ら、できたてほやほやの落とし穴にうっかり落ちた? ってことか?」
「詩絵里さんのスキル、鑑定と看破の上位互換みたいな能力ですし、見落としはありえないんじゃないかなって思うんです。だったらもう、そうとしか……」
憶測ばかりで結論の出しようがない話題に、二人して唸る。
「まあ、一旦考えるのは後にしましょう。それより、私たちどうにかして上の階に戻らないと」
ルイーザの言葉が、焦燥を植えつけた。
そうだ。あのフロアには透と詩絵里しかいない。
攻撃力はともかく、残してきてしまった二人は防御力などないに等しい組み合わせだ。
詩絵里が無詠唱で大蛇をワンキルできればいいが、そうじゃなければ全滅もありうる。
「早く助けに戻らないと……!」
この広い空間で翼を広げても、狭い落とし穴の中を通って戻るのは不可能だ。
ならば先ほどの逆、剣で壁を突き刺しながら登っていくしかないだろう。
一旦変身を解く。
天井にぽっかり開いたままの落とし穴の縁までは飛んだ方がいい。
距離を確認して飛び上がろうとしたところ、自分たち以外には誰もいないはずのフロアに少年の声が響いた。
『ええええええあいつらなんでここに!? まだ25層のボスモンスター用意できてないのに……! ちょ、相馬! 相馬ヘルプミー!』
『今20層のエキドナの方に忙しい』
『さっき落とし穴に落ちた転生者! 25層に来ちゃったんだってば!』
『はあ?』
『落下先はそのまま脱出ポートに乗せて最上層の1層目になるはずだったのに、最下層の25層になってた!』
『……うん、お手柄だと思っていたが、やっぱポンコツだったか……』
『そんな、相馬あー!』
少年と青年の声が交互に流れ、校内放送が途切れたみたいに、ぷつん、と途切れる。
ややあって、ステータスメニューに新たな通知が入った。
「えー……ナトリトン地下遺跡ダンジョンを、踏破しました……?」
「あ、私もナトリトンダンジョンクリアになってます」
「ひょっとして……あの落とし穴は防衛側のただのミスで、俺らゴールに直接案内された?」
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