人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

文字の大きさ
81 / 193
章1

どっちかっていうと性能じゃなくて迷惑度がSランク(4)

しおりを挟む
「あら、ポーション切れなら私たちが買ったやつ、使ってくれてもいいんだけど」

 勝宏のほうはちょくちょく使っているようなので、ルイーザから買い上げたポーションはあまり手元に残っていないらしい。

 だが、基本的に後衛でダメージを受けることがなく、MPすらも装備の関係で自然回復スピードが上がっている詩絵里は、買った時からほとんど丸々残っている状態だろう。

「ちがうんです。派遣の人たち、現場でポーション使うたびお金払ってくれるので……稼ぎ時だなあって思いまして」

 ルイーザが視線を泳がせながら告げる。
 契約書が凍結中だからといって、ダンジョン攻略に関係のない頼みごとをするのが躊躇われるようだ。

 使った分だけお支払い。

 ていうか、それ、完全にあれだ。置き薬だ。
 配置薬と呼ぶべきか、配置販売業というべきか。
 転移持ちの透ひとりではなく、詩絵里も含めて相談と言ったのは、アイテムボックスの有無の問題なのだろう。

 透が一人で何度か往復して数を揃えてもいいが、これまでのことを考えても他に選択肢のない場面以外では一人になるべきではない。
 ……建前としてはそうなるが、本音でいえば、ルイーザの両親が経営しているであろうお店に透一人が足を運んで事情を説明するという高難度ミッションをクリアできる気がしないのである。

 しかし、身を守る程度の戦う力とアイテムボックスがあるだけで、荷物持ちにも運び屋にもなれるあたり、スキル以外のこまごまとしたオプション機能もそれぞれ現地人からすればチート能力だ。

 アイテムボックス持ちで、自分のみを自分で守るどころか十二分に戦える商人が随行してのダンジョン攻略や行軍が、どれだけ快適なことか。

 これまで日本人な自分たちは知らずに恩恵を受けていたが、その要素だけでお金稼ぎ立身出世系のチート転生物語がひとつ出来上がってしまいそうな内容である。

「ダンジョンに同行する必要がないってんなら、まあ行ってきてあげてもいいけど。私たちの留守中、今の手持ちの在庫だけで足りるの?」

「ちょっと厳しいかもです……」

 バタフライ効果的に、ダンジョン攻略に無関係というわけでもなかろう。
 売り時に品薄になってしまうのでは、彼女も気がかりで攻略に集中などできないはずだ。

 ルイーザの返答を聞いて、詩絵里がアイテムボックスから消耗品類を根こそぎ取り出した。

「とりあえず、これを使っておいてちょうだい。……ああ、返品じゃないわよ。この分は在庫を持ってくる時に、あなたの実家から直接貰うわ。それでどうかしら」

「詩絵里さん……! ありがとうございます! 父にはその旨手紙を書いておきますので、ちょっと待ってくださいね」

 ルイーザが個数を確認しながら、床に置かれたポーションなどをアイテムボックスにしまっていく。

 しまい終えて、代わりに取り出されたのは便箋だ。
 一緒に取り出されたペンで、ルイーザがさらさらと手紙を綴る。

「これ、うちの商会の関係者しか文字が書けないマジックアイテムなんです。詩絵里さんに今ある消耗品類の在庫の半分と、それから借りてる分の個数をお渡しできるように書いておきました。見せるだけで大丈夫です」

「了解。マップに印つけてくれる?」

 詩絵里がステータス画面のマップを開示設定にして、ルイーザに見てもらっている。
 国から町を絞り込んで、表示されたマップでルイーザが指した建物をマークした。

 透にはステータスの類がないため分からないことだが、あらかじめ場所が分かっていれば自動車のナビのような機能もあるのかもしれない。

「勝宏くんは要る?」

「私ですかー? 別にいらないです」

「じゃあ勝宏くんもこっちね。起こしてちゃちゃっと出発しましょ」

 詩絵里の言葉にルイーザが敬礼のような仕草をみせて、眠っている勝宏の前まで歩み寄る。
 何をするのかと思ったら、そのまま遠慮なく勝宏の口と鼻を両手で押さえつけた。

「が……っもが!?」

「勝宏さんー、冒険の時間です。起きてくださいー、あなたの脳内に直接語りかけてまーす」

 脳内というかなんというか。
 楽しげなルイーザの両手の下で、勝宏がじたばたともがいている。

「あ、あの、それくらいに……」

 起こすどころか永遠の眠りについてしまいそうな気配がしてくる。
 顔面をおさえつけるルイーザの指が勝宏の顔にめり込んでいるが、大丈夫なのだろうか。
 とても言いにくいけれど、その、ステータス的に。

「もご……もご、ご……」

「ルイーザ、勝宏くんが弱ってきてるわ」

「おっと、失礼しました。あ、このお茶貰ってもいいですか?」

 ルイーザが勝宏から離れた。
 こちらが返事をする前に、テーブルの上の冷えたティーポットがルイーザによって奪われる。

 アイテムボックスから取り出されたカップに残りを全て注いで、男らしくぐびぐびと一気にあおった。女の子だけど。

 そのまま直飲みしないだけまだ女の子だ。うん。

「ふう。じゃあ私は扉の間に戻りますね。在庫の件、よろしくお願いします!」



 ルイーザによって圧殺されかけた勝宏を起こして、一旦尖塔をあとにする。

 ここから彼女と出会ったナトリトン地下遺跡までは馬車で二日ほどかかる距離。
 そこまで移動していては稼ぎ時どころかイベントが終了してしまうのでは、とも思ったが、杞憂だった。

 詩絵里によると、彼女の実家はこの国のすぐ国境線近くにある町なのだそうだ。

 父親の名前はギルネル。
 ルイーザが転生者であることは知らず、突如アイテムボックスの才能に目覚めたため毎晩こっそり寝る間を惜しんで冒険者としての修行をしていた娘……と思われているはず、との説明である。

 彼女自身が転生者であることを打ち明けていない以上、自分たちが口を滑らせるわけにはいかない。
 同じアイテムボックス持ちとして旅先で会った知人、という設定で通すことにまとまった。

 馬車に揺られて半日。
 途中、ダンジョンに入り浸っているはずのルイーザへ食事の差し入れを転移で置きに戻りながら、彼女抜きで彼女の故郷に到着した。

 時間からしてダンジョン1件攻略のたび尖塔の休憩部屋に戻ってきている形跡はあったため、テーブルの上に置いた食事にはきっと気付いてもらえることだろう。

 マップで見つけ出した商店を訪問し、在庫の件は詩絵里が話をつけてくれた。
 娘からの直筆の手紙――というより、ほぼ発注書だが――もあって、在庫が無事に詩絵里のアイテムボックスに収まるまで非常にスムーズにことが運んだ。

 食事時以外で転移を使うことがなかった透としては、自分のいらない子っぷりをひしひしと感じるおつかいであったが、尖塔の方に残っても戦力の足りているルイーザチームに非チートど素人は不要だろう。
 言ってて悲しくなってきたので、ここまでにしておきます。

「そうか。それで、娘はいったいどこで商売をしているんだ?」

「ダンジョンの前ですよ。そのダンジョンが結構な穴場らしくて、一時的に冒険者の入りが増えたのでダンジョン前に構えてポーションを売りさばいてるそうです」

 ルイーザの父、ギルネルに問われ、顔色一つ変えずにさらりと虚偽報告をしていく詩絵里は強い。

 多少戦いの才能があるとはいえ、まだ十二歳で戦闘経験もほとんどないはずの娘が、まさかダンジョン60連続踏破を目指している――などとは、言わない方がご両親の胃のためである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? 夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)は、見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良ワーウルフの悪友(同級生)まで……なぜかイケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、異世界学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

処理中です...