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章1
引きこもりに適したチート能力(3)
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「で……その……買いに行くの?」
「え?」
肩を抱いたままの勝宏が、間近で尋ねてくる。
「ほら……エリアスに頼まれてたやつ……」
避妊具のことか。
女性経験のまるでない透は無論その手のたぐいのものを買いに行ったこともないが、頼まれてしまったものは仕方ないだろう。
買うことはもちろん、それを使うと思われること自体は恥ずかしいものではない。
女性特有の消耗品を、人目を気にしながらこそこそと自分で買いに行くよりはずっとましだ。
「うん、まあ……そうだね」
そういえば、魔法を使うことで女の子になるという便利なのか不便なのか分からない体質を抱えてしまった透だが、どうも月経に関しては毎度のことではないらしい。
透が初めて女体化したのが、確かイベントクエスト開始5日目くらいのことだった。
生理用品が必要になったのは最初の一回だけで、それ以降は今のところ出血する様子が見られない。
本来の女性の周期もいまいち分かっていないので、これで問題ないのかどうかさえ判断がつかないが。
いやでも、だからって月経について女性メンバーに根掘り葉掘り聞くのはちょっと。
「そ、そっか……」
勝宏の歯切れが悪い。何か言いたいことでもあるのか、と思考を巡らせてみる。
もしかして、勝宏も欲しい?
可能性としては充分ありうる。
エリアスが頼んできたことからしても、この世界の避妊具は質の悪いものしかない……もしくは、ゴムは存在せずアフターピルのようなものだけで対応していると考えていいだろう。
ああ、好きな子がいるって言ってたな。
うまくいったんだろうか。
「……一緒に買ってこようか?」
「へ」
「つ、使う……よね?」
相手がいるなら、そりゃ使うだろう。
頬の触れ合う距離にある彼の顔が、ちょっとだけ赤くなる。
「あ、あ……いや……使っ……いいの……?」
「う……うん」
照れてる、のかなこれは。
友達にコンドームを買ってきてと頼むのは、世間一般の男子としては恥ずかしいものなんだろうか。
長いことウィルと二人で暮らしていたおかげで、透はそういう常識をてんで知らない。
いや、勝宏に友達だと言われたことは一度もないけども。
と、そこまで考えて勝手に気分が沈んでいく。
彼はこの性格だから、透が確認のために「友達だよね?」と訊きさえすれば、最終的には頷いてくれることだろう。
なぜなら勝宏は、友達だよね、と突然顔見知り程度の相手に話しかけられても、おーそうだな! と返してしまうタイプに違いないからである。
問題は尋ねた直後の彼の正直な反応だ。
勝宏は考えていることが顔に出る。
ただのクラスメイト程度にしか考えてなかった、とか、気にしたこともなかった、とか、そういう表情をされてしまうと、続く言葉が肯定であっても訊ねた透の方が立ち直れない。
……やめよう、この話は。
想定できるパターンを考えれば考えるほど自分がみじめになる。
はい、妄想終わります。
こういうの、たぶん出会ってすぐの頃に確認できていれば気が楽だったろうに。
おまえはいつもそうだ。
全くです。
「あれ、お二人ともなんかまためんどくさいラブコメしてます? それより見てくださいあれ!」
動揺している勝宏に、肩を抱かれたままどんよりしている透。
双方を見比べて目を瞬かせたルイーザが、前方を指した。
言われて前を見遣ると、ネールとヤヨイの戦う場所にエリアスが乱入したところだった。
「話に夢中で気付いてなかったです? ヒロイン二人がピンチになってヒーローが駆けつける、かっこいいシーンだったんですよ」
勝宏との会話は一旦中断。
先ほどからクロに乗りっぱなしの詩絵里が、そのまま降りずにクロの背で立ち上がる。
あの高さからなら戦闘の様子がよく見えそうだ。
「これでやっと相手の手札が分かるわね」
特に武器を持っていないように見えるエリアスだが、果たして。
と、そこでエリアスがおもむろに手を掲げる。
光をまとって空中で生成されたのは、ゲームによく見かける大剣だった。
「接近戦タイプみたいね。でも、武器からして火力不足とはちょっと言えない戦闘スタイルだわ」
詩絵里の解説を聞きながら、60層目のフロアボスと対峙するエリアスを見る。
ボス魔物は、大砲を甲羅に設置した巨大なカメのようなモンスターである。
「いまいち実感わかないんですけど、あれどのくらい強いんですか?」
「そうね……HPの数値だけでいうと……ほら、ナトリトンダンジョンで遭遇したフレアドラゴン、倒したでしょ。あれのちょうど半分くらいだわ」
四人がかり――内訳としては転生者三人と一般人一人だが――で危なげなく倒したフレアドラゴンのおおよそ半分くらいのステータスらしい。
すると、転生者が二人いれば問題なく倒せる程度のボスなのだろうが、エリアスは透たちに助力を願うことなく戦いに出向いてしまった。
「手伝わなくていいのか?」
「いいんじゃない? これは実力を見る良い機会よ」
戦いの様子を見ることに集中し始めた勝宏が、透から離れて前方に少し乗り出す。
ようやく勝宏の腕から解放された。
透にくっついていたのも忘れているんじゃないかと思い始めていたところだったので、ほっとしたような、ちょっと残念なような。
ふと思ったことだが、20層しかないナトリトンで出てきたフレアドラゴンが、こちらのダンジョンでは60層目になるフロアボスよりも強いというのは不思議な話だ。
ダンジョンによって難易度の差はあるにしても、あれはなんだか各層の難易度にムラのあるダンジョンだった。
「え?」
肩を抱いたままの勝宏が、間近で尋ねてくる。
「ほら……エリアスに頼まれてたやつ……」
避妊具のことか。
女性経験のまるでない透は無論その手のたぐいのものを買いに行ったこともないが、頼まれてしまったものは仕方ないだろう。
買うことはもちろん、それを使うと思われること自体は恥ずかしいものではない。
女性特有の消耗品を、人目を気にしながらこそこそと自分で買いに行くよりはずっとましだ。
「うん、まあ……そうだね」
そういえば、魔法を使うことで女の子になるという便利なのか不便なのか分からない体質を抱えてしまった透だが、どうも月経に関しては毎度のことではないらしい。
透が初めて女体化したのが、確かイベントクエスト開始5日目くらいのことだった。
生理用品が必要になったのは最初の一回だけで、それ以降は今のところ出血する様子が見られない。
本来の女性の周期もいまいち分かっていないので、これで問題ないのかどうかさえ判断がつかないが。
いやでも、だからって月経について女性メンバーに根掘り葉掘り聞くのはちょっと。
「そ、そっか……」
勝宏の歯切れが悪い。何か言いたいことでもあるのか、と思考を巡らせてみる。
もしかして、勝宏も欲しい?
可能性としては充分ありうる。
エリアスが頼んできたことからしても、この世界の避妊具は質の悪いものしかない……もしくは、ゴムは存在せずアフターピルのようなものだけで対応していると考えていいだろう。
ああ、好きな子がいるって言ってたな。
うまくいったんだろうか。
「……一緒に買ってこようか?」
「へ」
「つ、使う……よね?」
相手がいるなら、そりゃ使うだろう。
頬の触れ合う距離にある彼の顔が、ちょっとだけ赤くなる。
「あ、あ……いや……使っ……いいの……?」
「う……うん」
照れてる、のかなこれは。
友達にコンドームを買ってきてと頼むのは、世間一般の男子としては恥ずかしいものなんだろうか。
長いことウィルと二人で暮らしていたおかげで、透はそういう常識をてんで知らない。
いや、勝宏に友達だと言われたことは一度もないけども。
と、そこまで考えて勝手に気分が沈んでいく。
彼はこの性格だから、透が確認のために「友達だよね?」と訊きさえすれば、最終的には頷いてくれることだろう。
なぜなら勝宏は、友達だよね、と突然顔見知り程度の相手に話しかけられても、おーそうだな! と返してしまうタイプに違いないからである。
問題は尋ねた直後の彼の正直な反応だ。
勝宏は考えていることが顔に出る。
ただのクラスメイト程度にしか考えてなかった、とか、気にしたこともなかった、とか、そういう表情をされてしまうと、続く言葉が肯定であっても訊ねた透の方が立ち直れない。
……やめよう、この話は。
想定できるパターンを考えれば考えるほど自分がみじめになる。
はい、妄想終わります。
こういうの、たぶん出会ってすぐの頃に確認できていれば気が楽だったろうに。
おまえはいつもそうだ。
全くです。
「あれ、お二人ともなんかまためんどくさいラブコメしてます? それより見てくださいあれ!」
動揺している勝宏に、肩を抱かれたままどんよりしている透。
双方を見比べて目を瞬かせたルイーザが、前方を指した。
言われて前を見遣ると、ネールとヤヨイの戦う場所にエリアスが乱入したところだった。
「話に夢中で気付いてなかったです? ヒロイン二人がピンチになってヒーローが駆けつける、かっこいいシーンだったんですよ」
勝宏との会話は一旦中断。
先ほどからクロに乗りっぱなしの詩絵里が、そのまま降りずにクロの背で立ち上がる。
あの高さからなら戦闘の様子がよく見えそうだ。
「これでやっと相手の手札が分かるわね」
特に武器を持っていないように見えるエリアスだが、果たして。
と、そこでエリアスがおもむろに手を掲げる。
光をまとって空中で生成されたのは、ゲームによく見かける大剣だった。
「接近戦タイプみたいね。でも、武器からして火力不足とはちょっと言えない戦闘スタイルだわ」
詩絵里の解説を聞きながら、60層目のフロアボスと対峙するエリアスを見る。
ボス魔物は、大砲を甲羅に設置した巨大なカメのようなモンスターである。
「いまいち実感わかないんですけど、あれどのくらい強いんですか?」
「そうね……HPの数値だけでいうと……ほら、ナトリトンダンジョンで遭遇したフレアドラゴン、倒したでしょ。あれのちょうど半分くらいだわ」
四人がかり――内訳としては転生者三人と一般人一人だが――で危なげなく倒したフレアドラゴンのおおよそ半分くらいのステータスらしい。
すると、転生者が二人いれば問題なく倒せる程度のボスなのだろうが、エリアスは透たちに助力を願うことなく戦いに出向いてしまった。
「手伝わなくていいのか?」
「いいんじゃない? これは実力を見る良い機会よ」
戦いの様子を見ることに集中し始めた勝宏が、透から離れて前方に少し乗り出す。
ようやく勝宏の腕から解放された。
透にくっついていたのも忘れているんじゃないかと思い始めていたところだったので、ほっとしたような、ちょっと残念なような。
ふと思ったことだが、20層しかないナトリトンで出てきたフレアドラゴンが、こちらのダンジョンでは60層目になるフロアボスよりも強いというのは不思議な話だ。
ダンジョンによって難易度の差はあるにしても、あれはなんだか各層の難易度にムラのあるダンジョンだった。
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