人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

アニメキャラに恋をするのと過去の人物に恋をするのとではどちらがより幸せか(2)

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 動揺が大きかった透は、尖塔まで戻ってくるまでコア未登録ダンジョンのことをすっかり忘れてしまっていた。

 コア未登録のダンジョンには、石板に「コアの登録方法」や「操作方法」、「管理画面をいじる方法」などが書かれていると聞いている。

 先ほど訪れたダンジョンの石板に書かれてあったのは、そういった内容ではなかった。

 おそらく、入口の存在しない部屋という条件でダンジョンを探した結果、この世界の根幹に関わる裏側まで入り込んでしまったのだろう。

 つまり、詩絵里から言いつかっていた目的のダンジョンはまだ見つけられていない。

 普段はもう3時間ほど外で探索を続けている。

 帰ってくるのが早すぎるわりに、コア未登録ダンジョンの情報なしでは不審がられるだろうか。

「あら、おかえりなさい透くん。今日は早いわね」

 ノートパソコンのエクセルデータと睨めっこをしながら、詩絵里が声をかけてきた。

 彼女が今見ているのは、大罪系スキル――Sスキルに関する情報をまとめたデータである。

 最近、このデータを前に考え事をしている詩絵里を見かける頻度が増えた。
 気になることでもあるのかもしれない。

「うん? どうかしたの、透くん。目が赤いけど、何かあった?」

「あ……いえ……」

「今、勝宏くんとルイーザは体がなまる! ってダンジョンで腕馴らししてるところだから。二人に話せないことなら今がチャンスよ」

 詩絵里には、言うべきだろうか。
 この世界が現実のものではないこと、なにもかもが虚構の箱庭であること。

 逡巡して、口をつぐむ。
 やめておこう。彼女もまた、ゲームに取り込まれたユニットデータのひとつだ。

 話してみて、「その質問には答えられないように”できている”わ」なんて言われてしまったら立ち直れそうにない。

 何より、言ったところでどうしようもない真実を話されても詩絵里まで悲しい思いをするだけだ。

「大丈夫です。すみません、ありがとうございます……」

「そう? それならいいんだけど……。コア未登録ダンジョンは見つかりそう?」

「すみません、それはまだ……」

「ああ、いいのよ、急がなくても。今見つかったって、シェルターの起動とか運用とか、相談すべきことは山ほどあるからね」

 彼女が言っているのは、現状透以外は入れないオペレーションルームに、どうやって詩絵里たちが入るか? という問題である。

 コアの登録ができるのは、ステータス画面をチェックできる転生者のみ。

 単純に考えれば、詩絵里自作の転移アイテムを透が転移で直接該当フロアに置いてくればいいだけだが、マジックアイテムを作る際に転移先の設定で苦労するのかもしれない。

「結構この塔での共同生活、楽しいわよね。透くんはどう?」

「あ、はい……その……好きです」

「よかった、私も好きよ。だったらダンジョンをシェルターにしての共同生活もきっと大丈夫ね」

 勝宏くんは転生の仕方からして身内はいないだろうけど、私の両親やルイーザの両親なんかはどうしたものかしら。
 いっそ村ひとつくらい収納できちゃう広さのダンジョンがあればいいんだけど。

 コア未登録ダンジョンが見つかったあとのことを、詩絵里が楽しげに語る。

 村ひとつがすっぽり入ってしまう広さのダンジョンなら、コアを使ってダンジョン下層に村人全員分の家を建てて、ダンジョン上層部に透の飲食店を開くのもいいかもしれない、とか。

 上層階だけは誰でも入れるように設定すれば、外からも客が呼べる、とか。

「そうなったら私たちの家は別々に建ててもよさそうだけど……そのころにはもしかしたら、透くんは勝宏くんと同じ家に住んでるかもしれないわね」

「そう、でしょうか」

 どんなに彼らと親密になれても、透は部外者だ。
 今回の件で、その意識がさらに強くなった。

 そうでなくとも、誰かとルームシェアをするなら勝宏は例の好きな子とやらを招きたがるだろう。

 ……勝宏の”好きな人”も、このゲームの世界の住民、なんだろうか。

 彼を袖にできることよりも、彼に愛されていることよりも、彼と同じ世界に属する存在であることが羨ましく思う。
 透が同じ立場ならきっと、たとえ偽りの世界でも彼との幸せを享受できるだろう。

「好きなんでしょ? 勝宏くんのこと」

「……はい」

 いつ気付かれてしまったのか、詩絵里にはお見通しだったらしい。

 まあ、夜這いまがいのことをしたなんて話したら、そう思われても仕方ないか。
 実際にはその時は、透自身まだ自覚できていなかったのだが。

「大丈夫よ。勝宏くんなら、きっといい方向に行くから」

 続けられたその言葉には、何も返せなかった。

 彼女は単純に、色恋沙汰について語っただけなのだろう。
 けれど、透の脳裏にはつい今しがた見てきたばかりのこの世界の裏側がずっとちらついている。

 これを知ったのが透ではなく勝宏だったなら。
 透ではなく彼が”部外者”だったなら。

 きっと気持ちのいい解決を見せてくれるんじゃないかと思う。

 透にはとても、彼の代わりにはなれそうにない。

「ほら、透くん。たまにはダンジョン探しばっかりじゃなくて、ここでのんびりするのもいいんじゃない? 二人とも、きっとそろそろ帰ってくるわ」

 透の様子から、励ましてやったのに余計に落ち込んだ、と思われてしまったのだろう。
 詩絵里が話題を変えて、パソコンの前に手招きをする。

「透くんが色々作れるのは知ってるけど、得意料理とかある? 気が早い話なのは承知でね。
定番のメニューと材料費を計算しようかなと思ってたのよ。
ダンジョン見つかったらすぐ経営に取り掛かるかもしれないし」

 パソコンの画面には、先ほどまで開かれていたSスキルのデータではなく、透が経営する前提の飲食店の草案が書かれていた。
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