人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

ヒロインはどこだ?(2)

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 こういう場合、話の進行は基本的に詩絵里に任せるのが暗黙の了解。

 しかし、今回はルイーザがフランクに直接向かっていった。

「あのう、透さんが出会う予定のイケメンさんたちの名前って誰と誰ですか?」

「デヴィッド、グレン、シャルマン、マリウスだ」

「……ああ、なるほど」

 何か心当たりでもあるのかもしれない。

 透は少しずつ場所を移動して、フランクから直接勝宏の方が見れないように立ち位置を変えた。

 パーティー4人のうち、透と勝宏は転生者と遭遇すればほぼ百パーセント、同じ転生者だと思われてしまう。

 今回、透はフランクの探すヒロインとやらと勘違いされているのでひとまず良いとして、勝宏の顔立ちは完全に日本人のそれである。

「やり方は私が覚えておいて、都度透く……透ちゃんに伝えるわ。具体的にどういう行動をとるべきか、話してくれる?」

「ああ。まずはデヴィッドルート……もとい、デヴィッドが気になる場合だ。
学校入学の前に、出会いのイベントを見ておく必要がある。
デヴィッドは正義感が強すぎる設定でな、町で暴漢に襲われているヒロインをデヴィッドが助けるというイベントだ」

「つまり、めんどくさそうな男に透ちゃんが一人で絡まれればいいのね」

「そうなるな。あとは会話中、何度か選択肢……い、意見を聞かれることがある。
それらすべて、典型的な正義厨が好きそうな返答をしていけばルートが定まる」

 詩絵里との会話を見るに、フランクはフランクで、日本人転生者だと思われないように言葉を選んでいるように見える。

 ルイーザは何かを考えている様子で、会話にそれ以上入っていこうとしない。

「次にグレン。出会いの場は町の花屋。
店の前をうろうろするばかりで花を買えずにいるから、代わりに買ってきてやると請け負えばいい。
買った花は一度要らないと突っぱねられてしまうが、病人に贈られる予定の花だ。無理にでも押し付けろ」

 詩絵里がメモ帳にペンを走らせている。
 あれも一応日本製品だけど大丈夫かな。

 いや、出どころはルイーザの在庫からだし、こちらの世界には物品を取り寄せるスキルを持つ転生者があちこちで日本商品を売りさばいている。

 高価らしいが、メモ帳とボールペンくらい、異世界人が持っていてもさほど不思議ではないだろう。

「グレンはいわゆるツンデレ男だ。
本心とは真逆の暴言を吐いてくることがあるが、意図を正確に汲み取って会話を続けてやれ。
それで好感度は問題ないだろう」

 他人事のように聞き流していたが、これはひょっとして自分がデヴィッドやグレンらと会話をしていかなければならないのだろうか。

 どちらも会話によるルート決定が必須、透のつたないコミュニケーション能力でどうにかなるとは思えない。

「シャルマンは夜、墓地に行けば会える。
ストーリー開始直後に母親が病で死んでしまうんだ。
その心の穴を埋めてくれる女を求めているから、ただ定期的に会うだけで勝手に好感度はたまっていくぞ」

 会うだけでいいなら最初の二人よりは難易度が低いかもしれない。

 と、思った矢先に、続くフランクの言葉で突き落とされる。

「だがこいつはいわゆるヤンデレでな。
シャルマンの要求をただ呑み続けていると、早期に監禁ルートに入ってバッドエンドだ。
はっきりイエスノーで意思表示していかなければ、事件解決どころじゃない」

 意思表示。はい、すみません、無理でした。
 世の中そんなに甘くはないですね。

「最後にマリウスだな。こいつは秀才タイプで外面を気にする。
大の甘党だが堂々と買いに行けず、フードを目深に被って菓子屋に足を運んでいる。
出会いイベントは菓子屋で待ち伏せをするといい」

 沈んでいると、フランクが急にこちらに向き直った。

 慌てて勝宏を隠すように体を捻る。
 気にしたふうでもなく、フランクが問いかけてくる。

「トールは料理はできるか? 会話はことごとくけんもほほろに突き放されるが、甘いものが好きだから餌付けで好感度があげられる。
菓子作りが難しければそのへんの店で甘味を買っていけ」

 会話が成立しなくとも、お菓子を渡せばどうにかなる? これだ。この人だ。

 もし透が本当にフランクの言うとおりに行動しなければならないとなったら、このマリウスさんとやらと接触してみようと思う。

「外見や性格で誰を選ぶか決めてもいいが、事件解決に有利な人材を選ぶという視点でも構わないぞ。
イベント……事件発生段階でのそれぞれのジョブは、デヴィッドが前衛の聖騎士、グレンが前衛の双剣士、シャルマンが後衛の呪術師、マリウスが後衛の魔術師になるはずだ」

 ああ。そっか。
 マリウスを選ぶと仲間になるのは後衛なのか。

 この様子じゃ、事件解決っていうのは戦闘も込みだよなあ。

 勝宏や詩絵里、ルイーザが共闘しても問題なければ、もう一人後衛が増えたところで大した影響はないだろう。

 だが、透とマリウス二人で敵と戦う必要があるなら、ちょっと厳しい。

 ダンジョンで大蛇の魔物を詩絵里とともに倒した時と同じ戦法が使えればいいのだけれど。

「四人の情報はこれで一通り説明し終えたな。
これ以上は、四人のうち誰のルートにするか決めたらまた教えてくれ。続きを話そう。
俺はいつでも門前で待っている」

「いつまでに決めればいいのかしら?」

「ルート決定は入学式後のイベントだ。だから入学式の前日までには俺に報告してくれ。詳細な流れを伝えよう」

「わかったわ。こっちも準備があるから、まずは宿でも取りましょう。ね、透ちゃん」

 はい、と言おうとして、声が出ないことを思い出す。
 かわりに頷いて、勝宏の手を掴んだ。

 このままフランクの目に入らないように、彼を隠しながら門をくぐるのだ。



 フランクに見送られ、四人はどうにか何事もなく町の中に入ることに成功した。

 宿を二部屋とって、男部屋の方に全員集合。
 打ち合わせ開始である。

「正義マンのデヴィッド、口の悪いツンデレグレン、ヤンデレマザコンシャルマン、餌付けマリウス。
間違いないです、フランクって人はこの世界を、『恋愛戦華-恋と魔法の眠る街-』っていう乙女ゲームの世界だと思ってます」

 開口一番、ルイーザが断言した。

 乙女ゲームだと思い込んでいる、ウルティナと同じパターンだったようだ。

「フランクは男だろ? 乙女ゲームなんてよく知ってたな」

「あら、男が乙女ゲームやってても不思議じゃないわよ? お姉ちゃんに借りた、とか、スチル集めが楽しいからやってる、とかよくあることだし。
一番見かけるのは、お姉ちゃんにミニゲームだけクリアしろって言われてやり込んだクチかしらね」

 勝宏と詩絵里の言葉に、ルイーザは首を振る。

「それがですね……男たちのルート全部クリアしてハッピーエンドのスチル見て、最後に全員の好感度を同じ数ずつ上げての友情エンドまでやるとですね、隠しキャラとして、ライバル令嬢ちゃんとの百合ルートがあるんですよ」

「ははあ、そういうこと……」

「百合ルートのスチルを担当したイラストレーターさんが男性人気の高い絵師さんで、女性向けゲームなのに男性のプレイヤーも少なくなかったっていう不思議なゲームでした」
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