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章1
この世界で生きているひと(4)
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食事を終えて、再び詩絵里たちのもとに転移する。
エリクサーの受け渡しと食器の片づけだ。
女性部屋の扉をノックすると、部屋の中に迎え入れられた。
「おかえりなさい。ごはんはたべた?」
「はい。今、勝宏のところで」
別れ際にカノンから渡された詩絵里あての手紙のようなものと、受け取ったエリクサー数本が入ったエコバッグ。
女性部屋のテーブルの上にそれらを置くと、詩絵里が「でかした」と飛びついた。
「あとは世界樹の種とギベオンね。この手紙にどっちかの情報は書かれてあるはずだけど――」
エコバッグの中から手紙を取り出して、詩絵里が内容に目を通す。
「……なるほどね」
「何か書いてありました?」
詩絵里よりも少しばかり身長の低いルイーザが、背伸びをして手紙を覗き込もうとする。
「まず、ギベオン。これは西方山脈で稀に市場に出るらしいわ。この国の神刀・紅雪の手入れの際に、打ち粉の材料として使っていて、入手ルートまで書いてくれてる」
「えー! 商人が絶対明かしちゃいけない最重要機密事項じゃないですかそれ! よく教える気になりましたね」
「それだけの利益を期待できるってことなんでしょうね、日本製品」
「まあ確かにそうですけど……日本製品、最近流通しなくなっちゃいましたし……」
それはおそらく、哲司さん――ショップスキルを先天的に得た転生者がいなくなってしまったからだろう。
後天的なポイント取得はできるようだが、カノンの話ではずいぶん高額だと聞いている。
自分の命を預けなければならないスキル選択。
身の安全を完全に確保できているとはいいがたい中、娯楽を優先させる者はいないはずだ。
その”身の安全”の方も、未登録ダンジョンを拠点にすることができれば解決するのだが。
「世界樹の種の方は……確実に入手できるとは限らないけど、提案みたいなものね。植物の種を作り出して育てるスキルがあるらしいわ。その転生者の居場所……っていうかそのまま住所が書かれてある」
住所を簡単に教えることができるということは、カノンの知り合いか何かだろうか。
それともこのあたりでは有名な薬草売りだったりするのか。
「近いのは世界樹の種の方だけど、ギベオンが市場に出ていないか確認したいわね」
「あ、じゃあ俺行ってきます」
いつ市場に出るか分からず、稀少性の高い鉱物。
定期的に出品をチェックするなら、透が転移で見てきた方が早いだろう。
「そうね、お願いしようかしら。世界樹の種の方に向かいつつ、透くんにちょくちょく西方を様子見してきてもらうってことで」
「じゃあ拠点ダンジョンまでひとっ飛びして、勝宏さんを回収して出発ですね!」
早速、ルイーザがうたた寝をしているクロを起こしにかかった。
「回収っていうか、私たちだけで行くのがいいんじゃないかしら。コア登録までは見張りは置いておきたいし」
「勝宏さんスルーしていきます?」
「いったんこの内容を直接話した方がいいかもね。とりあえずダンジョンには向かう、引き続き勝宏くんにはそこに待機してもらって、私たちだけ出発、っていうのはどう?」
今回の透の仕事はギベオンの定期チェックと連絡係。
世界樹の種に関しては、行動方針は詩絵里たちにお任せだ。
詩絵里とルイーザの会話を横で聞きながら、再びうとうとしはじめたクロの頭を撫でる。
向こうに三人が揃ったら、あの話をしよう。
エリクサー調達のあいだに勝宏が作り上げた小屋を見て、詩絵里がすごいわねと唸った。
「拠点の中に客を入れるのって、一般人ならともかく転生者だと大変だろ? ダンジョンで準備して、ここで出したらいいんじゃないかと思ってさ」
「ああ、まあ、そんなことだろうと思ったわ」
小屋の中のベッドをいったん片付けて、追加で作っていたらしい長机と椅子を勝宏が並べていく。
あっという間にカウンター席のある飲食店の完成だ。
「勝宏くんにこんな才能があったとは……」
「まあスキルがないと木材切り出せなかったけどな」
そういえば、彼が木工作業をしていると知っていて、のこぎりひとつ用意してやっていなかった。
どうやって作ったのかと思ったが、なるほどそういうことか。
「ほうほう、ところで勝宏さん、手が空いたらもう少し装飾部分を凝った感じの家具作ってみませんかー?」
「売る気ね……」
「もちろんです」
椅子やカウンターの出来を触って確認していたルイーザが、突然商談を始めようとする。
小屋を自作できる時点ですごいが、家具もDIYの範疇を超えた完成度だ。
当事者のわりに話から外れている勝宏に、声をかけてみる。
「あの、ね」
「ん?」
「話したい、ことがあって」
食事中に話してしまってもよかったが、できれば詩絵里たちにも聞いてほしかった。
全員が揃ったいま打ち明けるのがベストだろう。
「おー、なになに」
「少し長くなるかも」
「……ひょっとして、まえ透が転生者じゃなかったって話した時みたいなやつ?」
「そんな感じ」
打ち明け話という意味では、勝宏の推測は当たっている。
少し考えて、彼が頷く。
「そっか」
勝宏が、こちらに手を伸ばした。
そっと抱き寄せられて、透の頭は彼の肩に乗る。
「漫画とかでさ、いままで隠してたんだけど……、って言ってすげー力発揮するやつあるじゃん」
「え?」
「それ、漫画読んでるとめちゃくちゃアツい展開だけどさ、実際やられると心臓に悪いと思うんだよな」
なんの話だろう。
首をかしげる透に補足なしで、勝宏の話が続く。
「だって、味方に隠してたってことは、味方経由でもし敵にバレたら困る力。もしくは、味方にバレると絶対使うなって止められるようなヤバい力……ってことになるじゃん」
ああ、そうか。
これはきっとカルブンクの時のように、ウィルやセイレン、オフィスの「対価」についても話せということだ。
これに関しては透本人の問題。
話すつもりはなかったが、確かに事情を話さず戦闘途中で倒れたりしたら迷惑をかける。
概要くらいは説明しておくべきなのかもしれない。
エリクサーの受け渡しと食器の片づけだ。
女性部屋の扉をノックすると、部屋の中に迎え入れられた。
「おかえりなさい。ごはんはたべた?」
「はい。今、勝宏のところで」
別れ際にカノンから渡された詩絵里あての手紙のようなものと、受け取ったエリクサー数本が入ったエコバッグ。
女性部屋のテーブルの上にそれらを置くと、詩絵里が「でかした」と飛びついた。
「あとは世界樹の種とギベオンね。この手紙にどっちかの情報は書かれてあるはずだけど――」
エコバッグの中から手紙を取り出して、詩絵里が内容に目を通す。
「……なるほどね」
「何か書いてありました?」
詩絵里よりも少しばかり身長の低いルイーザが、背伸びをして手紙を覗き込もうとする。
「まず、ギベオン。これは西方山脈で稀に市場に出るらしいわ。この国の神刀・紅雪の手入れの際に、打ち粉の材料として使っていて、入手ルートまで書いてくれてる」
「えー! 商人が絶対明かしちゃいけない最重要機密事項じゃないですかそれ! よく教える気になりましたね」
「それだけの利益を期待できるってことなんでしょうね、日本製品」
「まあ確かにそうですけど……日本製品、最近流通しなくなっちゃいましたし……」
それはおそらく、哲司さん――ショップスキルを先天的に得た転生者がいなくなってしまったからだろう。
後天的なポイント取得はできるようだが、カノンの話ではずいぶん高額だと聞いている。
自分の命を預けなければならないスキル選択。
身の安全を完全に確保できているとはいいがたい中、娯楽を優先させる者はいないはずだ。
その”身の安全”の方も、未登録ダンジョンを拠点にすることができれば解決するのだが。
「世界樹の種の方は……確実に入手できるとは限らないけど、提案みたいなものね。植物の種を作り出して育てるスキルがあるらしいわ。その転生者の居場所……っていうかそのまま住所が書かれてある」
住所を簡単に教えることができるということは、カノンの知り合いか何かだろうか。
それともこのあたりでは有名な薬草売りだったりするのか。
「近いのは世界樹の種の方だけど、ギベオンが市場に出ていないか確認したいわね」
「あ、じゃあ俺行ってきます」
いつ市場に出るか分からず、稀少性の高い鉱物。
定期的に出品をチェックするなら、透が転移で見てきた方が早いだろう。
「そうね、お願いしようかしら。世界樹の種の方に向かいつつ、透くんにちょくちょく西方を様子見してきてもらうってことで」
「じゃあ拠点ダンジョンまでひとっ飛びして、勝宏さんを回収して出発ですね!」
早速、ルイーザがうたた寝をしているクロを起こしにかかった。
「回収っていうか、私たちだけで行くのがいいんじゃないかしら。コア登録までは見張りは置いておきたいし」
「勝宏さんスルーしていきます?」
「いったんこの内容を直接話した方がいいかもね。とりあえずダンジョンには向かう、引き続き勝宏くんにはそこに待機してもらって、私たちだけ出発、っていうのはどう?」
今回の透の仕事はギベオンの定期チェックと連絡係。
世界樹の種に関しては、行動方針は詩絵里たちにお任せだ。
詩絵里とルイーザの会話を横で聞きながら、再びうとうとしはじめたクロの頭を撫でる。
向こうに三人が揃ったら、あの話をしよう。
エリクサー調達のあいだに勝宏が作り上げた小屋を見て、詩絵里がすごいわねと唸った。
「拠点の中に客を入れるのって、一般人ならともかく転生者だと大変だろ? ダンジョンで準備して、ここで出したらいいんじゃないかと思ってさ」
「ああ、まあ、そんなことだろうと思ったわ」
小屋の中のベッドをいったん片付けて、追加で作っていたらしい長机と椅子を勝宏が並べていく。
あっという間にカウンター席のある飲食店の完成だ。
「勝宏くんにこんな才能があったとは……」
「まあスキルがないと木材切り出せなかったけどな」
そういえば、彼が木工作業をしていると知っていて、のこぎりひとつ用意してやっていなかった。
どうやって作ったのかと思ったが、なるほどそういうことか。
「ほうほう、ところで勝宏さん、手が空いたらもう少し装飾部分を凝った感じの家具作ってみませんかー?」
「売る気ね……」
「もちろんです」
椅子やカウンターの出来を触って確認していたルイーザが、突然商談を始めようとする。
小屋を自作できる時点ですごいが、家具もDIYの範疇を超えた完成度だ。
当事者のわりに話から外れている勝宏に、声をかけてみる。
「あの、ね」
「ん?」
「話したい、ことがあって」
食事中に話してしまってもよかったが、できれば詩絵里たちにも聞いてほしかった。
全員が揃ったいま打ち明けるのがベストだろう。
「おー、なになに」
「少し長くなるかも」
「……ひょっとして、まえ透が転生者じゃなかったって話した時みたいなやつ?」
「そんな感じ」
打ち明け話という意味では、勝宏の推測は当たっている。
少し考えて、彼が頷く。
「そっか」
勝宏が、こちらに手を伸ばした。
そっと抱き寄せられて、透の頭は彼の肩に乗る。
「漫画とかでさ、いままで隠してたんだけど……、って言ってすげー力発揮するやつあるじゃん」
「え?」
「それ、漫画読んでるとめちゃくちゃアツい展開だけどさ、実際やられると心臓に悪いと思うんだよな」
なんの話だろう。
首をかしげる透に補足なしで、勝宏の話が続く。
「だって、味方に隠してたってことは、味方経由でもし敵にバレたら困る力。もしくは、味方にバレると絶対使うなって止められるようなヤバい力……ってことになるじゃん」
ああ、そうか。
これはきっとカルブンクの時のように、ウィルやセイレン、オフィスの「対価」についても話せということだ。
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