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章1
人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます(3)
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詩絵里の発言に、最初に賛同したのは勝宏だった。
「……俺は賛成」
「あら、意外ね。一番説得が難しいの勝宏くんだと思ってたわ」
「だって、アリアルをこのまま放っておいたら、これから先も転生だって騙して連れてこられる人がいるかもしれないだろ」
彼らしい意見だ。だが……。
「でもこれ、この世界の住民たち――ゲームでいうNPCの人たちからすれば、完全に私たち悪者よ?」
「それは……」
自分はともかく、他人の人生にまで影響を及ぼす問題である。
この世界はゲームで、ここに生きている人たちは皆データだけの存在だから死んでも構わない……とまで勝宏が割り切れるとは思えない。
詩絵里もそれを考えて、彼に待ったをかけたのだ。
「私は一人でもやるつもりよ。でも、皆ちゃんと考えた方がいいわ。
私一人でやるなら、恨まれるのは私だけ。失敗するかもしれないし、そうしたらこの世界は現状維持のまま」
「お、俺は」
「透くんも好きなようにしていいのよ。この世界が終わるまで、勝宏くんと二人で暮らすとか……ね」
言われて、言葉に詰まる。
明日世界が終わるなら、なんていつかのたとえ話がいま、確かに現実味を帯びて迫ってきていた。
詩絵里ひとりが悪役になるのを見逃せるわけがない。
けれどそれはつまり、いつか来るエンディングを待つのではなく、この手で終わらせることになる。
大切なひとを箱庭の世界から解放するためであっても、今すぐ決断できるほど強くはない。
「俺、好きなやつがいたんだ」
透の逡巡のあいだに、勝宏が口を開いた。
「今好きな人、の話じゃないのね」
「うん。たぶん好きだった、ってだけなんだけど……俺のせいで事故に遭って、そのままもう会えなくなっちまった」
あまり聞くことのなかった、日本での勝宏の話。
自分のせいで誰かが事故に遭った、優しい彼にとってはきっと今なお心の奥深くで持て余すような出来事だったろう。
「最初に神様から、この世界が異世界だって言われて思ったんだ。あいつもひょっとしたら、この世界に来てるのかもしれないって」
「で、いたの?」
「いなかった。……でも俺、あいつも――姫野もこの世界に囚われていたらって思うと」
姫野?
また珍しい名前の人もいたものだ。すごい偶然だな。
「勝宏くんは、静観はしたくないってことね。……ルイーザのお父さんとか、事情を知らないまま消されるようなものじゃない? ルイーザはどうなの?」
「んー、よくわかんないですけど……あの自称神様は一発殴らないといけない気がします」
アリアルのことにばかり気を取られていたが、そうだ。
アリアルにはもう一人、人間の協力者がいるはずなのだ。
ルイーザの台詞に勝宏が同調する。
「俺も。とりあえず神様名乗ってたあの男はぶん殴る。できれば、この世界の人たちを助ける方法も訊きたい」
「……その神様が、何か知ってたらいいね」
たとえば、この世界を独立した現実の世界にしてしまうとか。
いくらデータの存在だからといって、日本から持ち込んだ本物の食材を異世界の人たちも食べることができて、さらにこちらから持ち出した金塊を日本で売却することができている。
アリアルの力依存だというなら、それに代わる何かが用意できればあるいは。
「そんな都合のいい方法なさそうだけ……ど……、あ」
「うん?」
「いえ、なんでもないの。それじゃあ、神様殴りに行くってことでひとまず意見の一致ね」
何かを言いかけた詩絵里が、首を振って話をまとめた。
「よっしゃ。じゃ改めて、打倒・転生者ゲームを目論んだこの世界の神! だな」
「まあ、どのみち拠点はあったほうがいいわ。素材が揃うまではこれまで通りね」
始終不穏な話だったがどうにか仲違いすることなくまとまってよかった。
肺にこもった息を吐いていると、詩絵里が立ち上がって透のもとまで歩み寄る。
「透くん、ちょっといいかしら」
「あ、はい」
「ルイーザ、今の話ちょっとパソコンに打ち込んでおいてくれる?」
「了解でーす」
詩絵里の席に置いてあったノートパソコンを、ルイーザが手元に引き寄せる。
全員日本人のパーティーはこういう時お互いを頼ることができて良い。
詩絵里に手招きされるままついていくと、小屋の外で彼女が耳打ちをしてきた。
「私とルイーザは引き続き世界樹の種を探しに行くけど……透くん、勝宏くんのステータス、逐一確認しておいてくれる?」
「は、はい。えっと、なにか……?」
「悪いことじゃないの。さっき私、「そんな都合のいい方法なんてない」って言いかけたじゃない」
話の最後のことだろうか。
もちろん、ステータスを定期的に見せてもらうのは問題ないだろうが。
首を傾げていると、彼女が話を続けた。
「あの時、勝宏くんのスキルの説明文が頭を過ったのよね。確か――」
「……模倣はやがて理想になる」
「この世界はアリアルによって生かされている。そして、勝宏くんのそれは奇しくもアリアルの種子スキルだわ」
――しかもあの説明文は成長していない初期段階のスキルの説明よ。
森の中の静けさに、自分の心臓の音が大きくなるのが聞こえる。
「こればっかりは推測段階で断言はしたくなかったから、あの場では言わなかったけど。ひょっとしたら」
彼女の考えていることが、透にも理解できた。
「……あの子が世界を変えるかもしれない」
希望的観測も多分に含まれている。
だが、一人で抱え込んで考えていたあらゆる手段、あらゆる可能性よりも、その言葉が一番透を納得させる”可能性”だった。
「勝宏くんはいま、アリアルに繋がる転移ポイントみたいなことになってるわけだし、少し危険だけど。透くんが傍にいてくれたら、あの子きっと頑張れるわ。だからできる限り、一緒にいてあげて」
「はい」
そう都合のいい話なんてない。
きっとこれだって期待外れに終わる。
そう思ってはいても、その可能性が彼自身だというだけで気持ちが軽くなっていく。
「ぎりぎりまで、勝宏くんには言わない方がいいかもね。それがあの子の負担になって、スキルが暴走なんてしたら元も子もないわ」
秘密を打ち明けたと同時に、新しい秘密ができてしまった。
だけどこれは、透にとってお守りみたいなものだ。
「……俺は賛成」
「あら、意外ね。一番説得が難しいの勝宏くんだと思ってたわ」
「だって、アリアルをこのまま放っておいたら、これから先も転生だって騙して連れてこられる人がいるかもしれないだろ」
彼らしい意見だ。だが……。
「でもこれ、この世界の住民たち――ゲームでいうNPCの人たちからすれば、完全に私たち悪者よ?」
「それは……」
自分はともかく、他人の人生にまで影響を及ぼす問題である。
この世界はゲームで、ここに生きている人たちは皆データだけの存在だから死んでも構わない……とまで勝宏が割り切れるとは思えない。
詩絵里もそれを考えて、彼に待ったをかけたのだ。
「私は一人でもやるつもりよ。でも、皆ちゃんと考えた方がいいわ。
私一人でやるなら、恨まれるのは私だけ。失敗するかもしれないし、そうしたらこの世界は現状維持のまま」
「お、俺は」
「透くんも好きなようにしていいのよ。この世界が終わるまで、勝宏くんと二人で暮らすとか……ね」
言われて、言葉に詰まる。
明日世界が終わるなら、なんていつかのたとえ話がいま、確かに現実味を帯びて迫ってきていた。
詩絵里ひとりが悪役になるのを見逃せるわけがない。
けれどそれはつまり、いつか来るエンディングを待つのではなく、この手で終わらせることになる。
大切なひとを箱庭の世界から解放するためであっても、今すぐ決断できるほど強くはない。
「俺、好きなやつがいたんだ」
透の逡巡のあいだに、勝宏が口を開いた。
「今好きな人、の話じゃないのね」
「うん。たぶん好きだった、ってだけなんだけど……俺のせいで事故に遭って、そのままもう会えなくなっちまった」
あまり聞くことのなかった、日本での勝宏の話。
自分のせいで誰かが事故に遭った、優しい彼にとってはきっと今なお心の奥深くで持て余すような出来事だったろう。
「最初に神様から、この世界が異世界だって言われて思ったんだ。あいつもひょっとしたら、この世界に来てるのかもしれないって」
「で、いたの?」
「いなかった。……でも俺、あいつも――姫野もこの世界に囚われていたらって思うと」
姫野?
また珍しい名前の人もいたものだ。すごい偶然だな。
「勝宏くんは、静観はしたくないってことね。……ルイーザのお父さんとか、事情を知らないまま消されるようなものじゃない? ルイーザはどうなの?」
「んー、よくわかんないですけど……あの自称神様は一発殴らないといけない気がします」
アリアルのことにばかり気を取られていたが、そうだ。
アリアルにはもう一人、人間の協力者がいるはずなのだ。
ルイーザの台詞に勝宏が同調する。
「俺も。とりあえず神様名乗ってたあの男はぶん殴る。できれば、この世界の人たちを助ける方法も訊きたい」
「……その神様が、何か知ってたらいいね」
たとえば、この世界を独立した現実の世界にしてしまうとか。
いくらデータの存在だからといって、日本から持ち込んだ本物の食材を異世界の人たちも食べることができて、さらにこちらから持ち出した金塊を日本で売却することができている。
アリアルの力依存だというなら、それに代わる何かが用意できればあるいは。
「そんな都合のいい方法なさそうだけ……ど……、あ」
「うん?」
「いえ、なんでもないの。それじゃあ、神様殴りに行くってことでひとまず意見の一致ね」
何かを言いかけた詩絵里が、首を振って話をまとめた。
「よっしゃ。じゃ改めて、打倒・転生者ゲームを目論んだこの世界の神! だな」
「まあ、どのみち拠点はあったほうがいいわ。素材が揃うまではこれまで通りね」
始終不穏な話だったがどうにか仲違いすることなくまとまってよかった。
肺にこもった息を吐いていると、詩絵里が立ち上がって透のもとまで歩み寄る。
「透くん、ちょっといいかしら」
「あ、はい」
「ルイーザ、今の話ちょっとパソコンに打ち込んでおいてくれる?」
「了解でーす」
詩絵里の席に置いてあったノートパソコンを、ルイーザが手元に引き寄せる。
全員日本人のパーティーはこういう時お互いを頼ることができて良い。
詩絵里に手招きされるままついていくと、小屋の外で彼女が耳打ちをしてきた。
「私とルイーザは引き続き世界樹の種を探しに行くけど……透くん、勝宏くんのステータス、逐一確認しておいてくれる?」
「は、はい。えっと、なにか……?」
「悪いことじゃないの。さっき私、「そんな都合のいい方法なんてない」って言いかけたじゃない」
話の最後のことだろうか。
もちろん、ステータスを定期的に見せてもらうのは問題ないだろうが。
首を傾げていると、彼女が話を続けた。
「あの時、勝宏くんのスキルの説明文が頭を過ったのよね。確か――」
「……模倣はやがて理想になる」
「この世界はアリアルによって生かされている。そして、勝宏くんのそれは奇しくもアリアルの種子スキルだわ」
――しかもあの説明文は成長していない初期段階のスキルの説明よ。
森の中の静けさに、自分の心臓の音が大きくなるのが聞こえる。
「こればっかりは推測段階で断言はしたくなかったから、あの場では言わなかったけど。ひょっとしたら」
彼女の考えていることが、透にも理解できた。
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希望的観測も多分に含まれている。
だが、一人で抱え込んで考えていたあらゆる手段、あらゆる可能性よりも、その言葉が一番透を納得させる”可能性”だった。
「勝宏くんはいま、アリアルに繋がる転移ポイントみたいなことになってるわけだし、少し危険だけど。透くんが傍にいてくれたら、あの子きっと頑張れるわ。だからできる限り、一緒にいてあげて」
「はい」
そう都合のいい話なんてない。
きっとこれだって期待外れに終わる。
そう思ってはいても、その可能性が彼自身だというだけで気持ちが軽くなっていく。
「ぎりぎりまで、勝宏くんには言わない方がいいかもね。それがあの子の負担になって、スキルが暴走なんてしたら元も子もないわ」
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