人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます (せかます)

す!ず!は!

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章1

幼馴染、襲来(3)

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「くっ……ユナ! リスティ!」

「残念ね。所有者はもう書き換えちゃったの」

 さようなら。
 言って、召喚娘たちに縋りつく男へ消滅魔法を放つ。

 スマホから召喚された少女たちもろとも、彼女らの主人だった男は消滅し――倒れ伏した状態で復活した。

 リセットリングを装備していたのは分かっている。
 だがこれで、アイテムボックスの中身はすべてパアだ。

 スマホを奪われたスマホガチャチートスキルは、それまでにガチャで引き当てていた武器やアイテムの類を奪い尽くせばただの冒険者となんら変わりはない。

 煽りに煽って誘導させた甲斐があった。
 悪役ごっこも意外と悪くないものである。

 勝利条件を満たしていないためポイントが手に入るわけではないが、自分のスキルがSスキルであることを考えるとあまり神の思惑通りに進むのが得策には思えない。

「あとはこのスマホを消滅魔法で処分すれば、こいつは再起不能……だけど」

 これから紙装甲の自分一人で世界樹の種の入手に行くのだ。
 何かあった時のためにも、世界樹の種の入手まで前衛代わりの壁はキープしておくべきだろうか。

 倒れた男を術で拘束しつつ、手元のスマホを眺める。
 召喚娘たちはたった今詩絵里の魔法で消滅したばかりだが、クールタイムを待てば問題なく再召喚が可能なのだ。

 ここで少し休憩して、クールタイムがすぎるのを待ってから再出発が無難かな。

 状態異常魔法で男の意識を刈り取って、先ほどの戦闘でただの切り株になってしまった大木の上に腰を下ろす。

「……シエラ?」

 その場に現れたのは、奴隷落ちする前に別れた幼馴染、クレアだった。



「クレアじゃない。久しぶりね、養成学校はどうだった?」

 見立て通り、しっかり男装の麗人ロードを歩んでくれているようで安心した。
 ちょっとばっかり資金援助をして、彼女を片田舎から騎士養成学校へ送り出した日が懐かしい。

「ああ、君のおかげでしっかり学ばせてもらえたよ。ところで、この男は……?」

「あー……えーとね……急に襲ってきたから、ちょっと魔法で……」

 幼馴染へは、転生者ゲームの話どころか自分に前世の記憶らしきものがあるということすら説明していない。
 スマホガチャチートくんには悪いが、彼の素性はこのあたりをうろついていた盗賊ということにさせてもらおう。

「そうだったのか。シエラが無事でよかったよ」

「この程度の男一人にやられる私じゃないわ」

「そうだね。君はそういう子だった……探したんだよ、シエラ」

 詩絵里の説明では、この森の中で盗賊が単独で襲ってきたことになるのだが、気のいい幼馴染は疑問を抱くことなく納得してくれた。

「君が、村の人たちを逃がすために奴隷になったって聞いてあちこちの奴隷商をまわった。君が買われた形跡だけが見つかるばかりで、買い上げた商人に問いつめても答えない……あのあともあちこちに売られていたんだろう?」

「まあ、そんなところかしらね」

 クレアが戻ってきてもいいように、村に置き手紙を残していたのだが、そういえば透たちを招いた際につい回収してしまったのだった。

 あの家を拠点にするのなら手紙も不要だろうと思ってのことだったが、結局そのあとダンジョン巡りからの長旅を続けることになって……つまるところ、回収した手紙のことなどすっかり記憶の彼方であった。

 彼女は詩絵里が手紙を回収したあとで、タイミング悪く村に戻ってきてしまったのだろう。

「今はなにを?」

「あ、そうなのよ。この先に世界樹の種を持っている人がいるって聞いてね、分けてもらいにきたところなの」

 ちょうどスマホを処分するか検討していたところだった。
 あらかた調べ尽くしてしまって、このチートスマホから得られるものはもう肉壁以外にはなにもない。

 彼女がこのままついてきてくれるならありがたいのだが。

「そうか。……こんな場所に一人で向かわせるなんて……」

「うん?」

「いや、事情はわかった。私もそこまで、シエラの護衛をしよう」

「あらそう? 前衛どうしようかなって思ってたところだったの。助かるわ! それじゃこのスマホはお払い箱ね」

 スマホを空へ放り投げ、上空へ消滅魔法を放つ。破壊不可能と思われたチートスマホだったが、改良した消滅魔法の前にあっけなく塵と化した。

「すまほ? 魔道具の類かい?」

「そんな感じ。あなたが居れば、あれはもういらないの」

 幼馴染は昔から、魔法についてはからっきしだった。

 よくわからないながら、褒められたということは伝わったのだろう。
 目の前の美しく凛々しい顔が照れくさそうに笑っている。

「ここから先、シエラはのんびりついてきてくれるだけでいいからね」

「お手並み拝見」



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 あれから再び少女の姿でフレグルシムへ戻り、ギベオンを購入。
 与えられた部屋で何をするでもなく手持ち無沙汰にぼんやりしていた透の耳に、兵士たちが駆けまわるような騒ぎが聞こえてきた。

(さっきのゾンビみたいなのがまた出たのかな?)

『そんな気配はないが……ああ、いや、あいつだ』

 ウィルの言葉を理解する前に、部屋の窓へ真っ黒な巨体が飛んでくる。

 クロだ。乗っているのは勝宏。
 窓を開けて手を振ると――何を思ったか、彼はクロの背中から飛び降りた。

 えっ! ちょっ、勝宏なにやって。

 クロがいつもの犬サイズに縮み、勝宏は落下と同時に窓へ飛び込んでくる。
 次いでクロが翼で悠然と部屋に降り立つ。

 反応が遅れた透は、勝宏の下敷きになった。
 ウィルが短距離転移で回避させなかったのは、たいしたダメージにはならないと思ったからかな。

「透、大丈夫か?」

 声をかけられても、女の姿では喋ることができない。
 首を傾げると、彼が話を続ける。

「ルイーザから聞いた。透が王様に気に入られて、軟禁されそうになってるから助けに行ってやれって」

 厳密にはここに住んでいるのは王様ではなく領主だし、詩絵里のアドバイスによって軟禁ルートからは外れてきている。
 なるべく早めに合流した方がいいのは確かだから、きっと敢えて語弊のある表現をして勝宏をここまで急がせたのだろう。

 今すぐ軟禁する気なら、窓のある部屋なんか選ばないと思う。
 首を振って、大丈夫と笑ってみせる。
 危害を加えられた様子がないと知ると、彼がほっと安堵の息をついた。

「……あ! ご、ごめん」

 透の体の上にのしかかっていた勝宏が、あわてて半身を起こす。

(そういえば、さっきの騒ぎってひょっとして)

『ドラゴンが屋敷の……それも聖女様が居る部屋に飛んで来たら大騒ぎになるだろ』

(聖女……)

 透だってなにも好き好んで聖女様(仮)になったつもりはないが、ギベオン入手のためだったのだ。
 今回は仕方がない。

 しかし、そうなるとそろそろ。

「失礼します! 聖女様、この部屋に先ほどドラゴンが――」

 大きな音を立てて扉が開け放たれ、兵士たちが部屋になだれ込んできた。
 彼らの視線が、勝宏の方に集まる。

 勝宏これ、不法侵入とか言われないかな。
 どうしようかと逡巡する透をよそに、ウィルが呟いた。

『とりあえず透、その体勢じゃ暴漢に襲われかけの女でしかないぞ』

 開け放たれた窓、床に倒れ込む聖女様(仮)、その聖女様(仮)の上にのしかかっている冒険者風の男。

 パーティーでも弁が立つ女性陣がいないこの場所で、誤解を生みそうなこの状況。

 逃げちゃ駄目ですか。
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