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まにゃC++

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第一章:塔の魔女と導きの石

3 辺境のギルド

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 辺境ライナルト領南西部。 荒涼とした大地にそびえ立つ、巨大な壁の中に色鮮やかな町並みが見える。 この町の周辺に生息する魔物は強く、近場にはダンジョンもあるため、町を守る対策として壁が建設された。 その外観から、ライナルト要塞と呼ばれているが、今や各地から腕に覚えのある猛者ばかりが集う冒険者の町である。

 怪しまれないよう、壁よりも大分離れた荒地に降りたった。 周辺の大地には、前回ほどではないが、また大きいクレーターができていた。


 大人しく歩いて米粒ほどに見えている町に向かう。 ふと傍にダンジョンの入り口があるが、見ないふりをして通り過ぎた。 気にはなるが、入ったら間違いなく日を跨いでしまうので我慢だ。 今日はギルドに行くだけと決めたから。


 少し日が落ちてきた頃、壁にやっと辿たどり着いた。 警備をしている兵に、ギルドカードを見せる。 ギルドカードは冒険者の身分証だ。 自分は今、Bランクと記されている。 通行の許可が下り、まっすぐ冒険者ギルドに向かう通りを歩いていると、横から飛び出してくる影が見えた。 その急ぎようを瞬時に捉えたアルテアは、咄嗟 とっさ に足払いを掛けた。 直観だ。 外套を羽織り目元を深く隠した男が、思いっきり地面に飛び込んでいく様子が、スローモーションで見える。


「いってぇな! なにしやがる!!」

 地面に(顔から)全力のダイブを決めた男の顔は土だらけで、額や唇に血がにじんでいた。

「ああ、ごめん。 見事なダイブだったな」
「テメーふざけんなよ!!」


 吐き捨てるようにいって、立ち去ろうとする男の行く手を阻むように立ち塞ぐ。 


「邪魔しやがって!」


殴りかかってきた男の拳を軽くかわし、男の背後に追ってくる影を捉えた。 すぐに男に視線を戻すと、当たらない事が気に入らないのだろう、更に苛立っている。 そうこうしているうちに近づいてくる複数の足音に、口端を吊り上げて薄く笑う。


「このっ!!」

「俺に構ってていいのか?」


 男がはっと後ろを振り返って確認するが、もう遅い。 男はあっさりと王国兵に拘束され、引き摺られていった。 殴りかかられる様子を見られていたので、アルテアも事情聴取されたが、軽くぶつかっただけだと誤魔化して早々に立ち去った。


   ***


 辺境のギルドは石造りの2階建て構造になっている。 1階には、中央に依頼の掲示されるボード、左側に受付、そのカウンターの奥に職員の出入りする部屋と、右側に冒険者たちが利用するテーブル席が数多く設けられている。  

 いつも厳めしい装備に身を包んだ野郎たちでごった返している印象だったのだが、この日はやけに人が少ないように感じた。 数多くある席に座っているのがたった3組の冒険者なんて、時間帯の問題だろうか(時刻は大体夕方の4時頃)。 その中に見知った顔もなく、特別な用事もないので、せっかく来たしなにか簡単な依頼でもやっていくか…と横長の依頼ボードを通覧する。


 現在出ている依頼:

 B:大型獣の討伐ばっかり
 C:中型獣の群れ討伐ばっかり
 D:小型獣の群れ討伐ばっかり


 ・・・ざっくりとこんな感じだ。 採取系は皆無。 討伐も強い個体か群れ(つまり、面倒くさいやつ)しか残っていない。 急にやる気を失ったアルテアはそのまま引き返そうとしたのだが。


「お兄さん! お一人なんですか!」

 背後から声を掛けてきた、ツンツンの短いオレンジ髪にぱっちりとした鮮やかな青目が特徴的な、小柄の男。 茶色い革のベストに、白い短パン、履き古したようなロングブーツ……武器は2丁の魔法銃か、珍しいな。 席を立って、こちらに話しかけてくる。

「失礼ですが。 どちら様ですか?」
「ジタンっていいます! 今はフリーの元レンジャーです!」
「へえ」
「今ボード見てましたよね? もし良かったらオレと一緒に行きませんか!」

 キラキラオーラ全開で提案してくる青年、ジタン。 よどみのない、澄んだ眼差し。


 レンジャーについては、森の保護活動を行う集団と聞いている。 聞いた話から、彼らの扱う武器は、弓や斧という原始的なイメージを抱いていたが、今時は違うのか。 …ま、悪い人ではなさそうだし、万が一が起こっても相手は1人の人間だ。 魔法銃の二刀流という彼の戦い方に興味もある。 

「いいよ。 あまり面倒くさくないやつなら」
「それなら、これはどうですか?」

 と、彼が指したのはCランクの討伐依頼。 武装して二足歩行するトカゲ、リザードマン8体の討伐だった。 アルテアはすかさず狩場を確認し、頷いた。

「いいじゃん。 早速いこうぜ」


   ***


 オレンジ髪の銃使いと並んで、来た道を引き返していた。 なんと要塞に向かう途中に見かけたダンジョンが、今回の依頼の場所だったのだ。 他愛もないことを話しながら、暗くなってきた荒地を進んでいく。


「それって、魔法銃だよな? ギルドで見たときから、珍しいなと思ってたんだ」
「そうなんですよ! しかもオレの知り合いが造ってくれたやつなんっすよ!」
「すごいな、唯一無二 オンリーワン か」

 その知り合いは鍛冶屋か何かやっているのだろうか? シンプルなフォルムで大きすぎず、外観も細工に拘りを感じられる、美しい2対の銃だ。 こんな武器を作ってくれる知人がいるなんて羨ましい。


「お兄さんは今いくつなんすか?」
「いくつに見える?」

「うーん、21ぐらい?」
「残念、不正解だ」


「正解は?」
「秘密」
「えー」

 初対面相手によくしゃべる奴だなと思う。 ちなみに年齢を伏せたのは、学生 未成年 とバレると面倒だからだ。 ギルドの登録は特別な事情がない限り、成人してからでなければ認められない。 彼は幼く見えるが、大人の男性ということである。

「暗くなってきたな」
「そうっすね……わっ!」

 右手にパチパチと迸る光を纏わせて、周囲を淡く照らす。 ジタンはこれに驚き、

「お兄さん、光属性持ちなんですか!」

 と目をキラキラさせていた。 アルテアのは光属性とはまた違う気もするが、本人もよく分かっていないので適当な相槌を返す。

 その後も和気あいあいと話しながら行き、ダンジョンに着く頃にはすっかり日が落ちていた。


「この辺りなら大丈夫かな」
「…?」

 首を傾げるジタン。

「野営の場所だ。 ここなら、適度なスペースもあるし、魔物は結界を張れば__」
「あっ、えっと……や、野営ですかっ?」
「ん? このまま討伐していくのか?」
「えと……」
「俺はどちらでも構わないが」

 周囲を照らす魔法を使えるので問題はないが、彼は息が上がっているし、顔や首に滝のような汗をかいている。 …疲れているだろう。 このままダンジョンに行っても構わないが、彼の実力がわからない以上、万全を期して臨みたかった。

 目標はリザードマン8体の討伐だが、ダンジョン内では他の魔物の乱入などよくあるので。


「……その、オレ、野営のセット持ってなくて」
「なんだ、そういうことか。 寝袋なら貸すよ」
「え! いいんですか?」
「ああ」


 アルテアは【空間収納】からごっそりと枝やカット済みの木材を取り出して優しく放電した。 小さな火が煙とともに広がり、周囲を温かく照らし出す。 焚火というやつだ。

 続いて、横の空いたスペースに【空間収納】から簡易テントを取り出し設置する。 既に魔物除けの結界を展開済みの、便利グッズ。 アルテアの、数える程しかいない希少な友人のお手製だ。

 さらに【空間収納】から取り出したのは__フカフカした、奇抜な緑色と蛍光ピンク色の寝袋。 しかも発光している、目に眩しいピンク色のほうを、ジタンに押し付ける。

「……派手なピンク色っすね……」
「ああ。 それは蓄光の塗料の色なんだ。 新品だから、衛生面は心配ないぞ。 緑色が俺のな」
「わかったっす。 ありがとう、お兄さん」


「そのテントに魔物除けの結界が張られているから、見張りも必要ない。 …俺、少し出歩いてきてもいいか?」
「どこに行くんすか?」

「野暮用だな」


   ***


「道具ならいろいろ持ち歩いているけど、食料は現地調達なんだよな……」

 【空間収納】は大量の物を詰め込むことができるが、品質は時間とともに劣化してしまう。 だから食べ物など、鮮度が大切なものは、その時その時に用意する必要があった。


 夜の荒野を一人、早足で進んでいく。 魔力を感知した方向へ向かうと、遠目に黒い点々が見えた。 あれはカプロス__猪のような魔物の群れだ。 獲物  肉  を見つけたアルテアは、即座に左手に短刀を構えて【魔法の点繋ぎ】で急接近した。 凄まじい風圧で吹き飛ばされ、散り散りに逃げていくカプロスたち。 気絶し横たわっていた1体の急所を突き、痙攣けいれんが収まったところで、専用ナイフを取り出し解体を始めた。

 ※作者に解体の知識はないので、割愛します。


   ***


 ジタンが一人、テントの中で発光するピンク色の寝袋に包まっていると、近くでガサガサと物音が聞こえた。 そして、足音が近づいてくる。

「今戻った。 ジタン、こっちに来てくれ」

 黒髪のお兄さんの声だ。 テントを出ると、おいしそうな香辛料の香りが鼻腔をくすぐる。
 お兄さんは焚火で、細長い金属の棒にぶっ刺した肉塊を焼いていた。

「カプロスを狩ってきたんだ。 一緒に食おうぜ」


 彼がふらっと出掛けてから、それほど時間は経っていない。 今、狩ってきたって言った…? そういえば、武器も鞄も持っていないけれど、どこから荷物を取り出したのだろうか、とジタンは疑問に思った。

 こんがりと焼けた肉にかぶり付くお兄さんを見て、ジタンもこんがりと焼けた肉に齧り付いた。

「あっっっつ!!」
「焼いたばかりなんだから、そりゃそうだろ。 ほら、水__おっと」

 差し出されたものを見て驚愕し、肉を手放しそうになったのを、お兄さんの右肘で支えられた。 左手に、今し方差し出そうとしていたもの__ガラスの容器に入れた水を持っている。

「気をつけろよ」
「……うっす」

 心を落ち着かせて、冷えた水を受け取った。 おにいさんはおかしそうにくすくすと笑っている。

 ガラスなんて、平民には無縁の代物だ。 このお兄さん、一体何者なのだろう…。 ジタンは思考をぐるぐると巡らせながら、野性的な食事を済ませて、派手なピンク色の寝袋に包まった。

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