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対面
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対面の場
帝都の中立地帯に指定された、古い貴族の屋敷。
ルシアン公爵からの会談受諾の返信は、驚くほど早かった。
私は今、父(リステン侯爵)と共に、その屋敷の応接室に座っている。
屋敷の周囲は、ルシアン公爵が連れてきた北の兵士たちによって、完璧に封鎖されていた。
父が連れてきた護衛たちも、そのあまりの練度の高さと殺気に、緊張を隠せずにいる。
「……本当に、大丈夫なのだろうな、エリアーナ」
父が、小声で私の耳元に囁く。
「大丈夫です、お父様。彼は、話が通じる相手ですから」
1周目の記憶では、彼はアランの失政のせいで北の領地が疲弊し、その怒りからアランと対立していた。
彼は冷酷だが、合理的だ。 その時、重い扉が開く音がした。
※※※※※※※※※※※※※※※
冷血公爵の入場 入ってきたのは、一人の男。
闇色の黒髪、長身、そして鍛え上げられた体躯。
彼が部屋に入った瞬間、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚に陥った。
彼こそが、北の「冷血公爵」、ルシアン・ヴァレリウス。
1周目、私は彼とまともに話したことはなかった。
彼は常にアランと対立し、社交界でも孤立していたからだ。
ルシアンは、私と父を一瞥(いちべつ)すると、護衛の者を一人だけ残して、大股で歩き、私たちの真正面のソファに深く腰を下ろした。
その金色の瞳が、私を射抜く。
「……リステン侯爵。そして、エリアーナ嬢。本日は、俺のために茶番を演じていただき、感謝する」 声まで凍てつくようだ。
「公爵様、本日はお時間いただき……」
父が挨拶をしようとするのを、ルシアンは手で制した。
※※※※※※※※※※※※※※※
最初の牽制
「時間の無駄だ、侯爵」
ルシアンの視線は、私から外れない。
「俺が話したいのは、あんたじゃない。そこに座っている、皇太子殿下の手を振り払ったという、勇気ある(あるいは愚かな)令嬢だけだ」
父が侮辱に息を呑んだが、私は動じない。
「……公爵様。わたくしが、愚かかどうかは、この後の話でお分かりになるかと」
「ほう。言うな」
ルシアンは、初めて私の目をまともに見た。
「では、聞こう。皇太子殿下の手を振り払ってまで、俺に会いに来た理由は?」
「……」
「アランの差し金か? 俺の情報を探るために、お前という『貢物』が送られてきたのか?」
「違います」 私は即答した。
「では、なんだ。アランに飽きられたか? だから、次の権力者として、俺に乗り換えようと?」
私は、彼の挑発に乗らず、静かに答えた。
「わたくしがここに来た理由は、ただ一つ」
私は、父ではなく、ルシアン公爵だけを真っ直ぐに見つめて言い放った。
「貴方様が、皇太子殿下を憎んでいることを、存じ上げております」
※※※※※※※※※※※※※※※
変化する視線 ルシアンの金色の瞳が、わずかに見開かれた。
彼の後ろに控えていた側近が、剣の柄に手をかける気配がした。
不敬、ということなのだろう。
父が「エリアーナ!」と私の名を呼ぶ。
だが、ルシアンは再び手を挙げて、二人を制した。
彼は、初めて私を「値踏み」する視線から、「興味」の対象として見始めた。
「……続けろ」
「わたくしの目的は、アラン殿下への復讐です」
私は、はっきりとそう告げた。
応接室の空気が、完全に凍りついた。
ルシアンは、驚きを通り越し、ふ、と鼻で笑った。
「復讐、か。侯爵令嬢の、おままごとにしては、随分と物騒だな」
しかし、その金色の瞳は、もう私から逸らされていなかった。
帝都の中立地帯に指定された、古い貴族の屋敷。
ルシアン公爵からの会談受諾の返信は、驚くほど早かった。
私は今、父(リステン侯爵)と共に、その屋敷の応接室に座っている。
屋敷の周囲は、ルシアン公爵が連れてきた北の兵士たちによって、完璧に封鎖されていた。
父が連れてきた護衛たちも、そのあまりの練度の高さと殺気に、緊張を隠せずにいる。
「……本当に、大丈夫なのだろうな、エリアーナ」
父が、小声で私の耳元に囁く。
「大丈夫です、お父様。彼は、話が通じる相手ですから」
1周目の記憶では、彼はアランの失政のせいで北の領地が疲弊し、その怒りからアランと対立していた。
彼は冷酷だが、合理的だ。 その時、重い扉が開く音がした。
※※※※※※※※※※※※※※※
冷血公爵の入場 入ってきたのは、一人の男。
闇色の黒髪、長身、そして鍛え上げられた体躯。
彼が部屋に入った瞬間、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚に陥った。
彼こそが、北の「冷血公爵」、ルシアン・ヴァレリウス。
1周目、私は彼とまともに話したことはなかった。
彼は常にアランと対立し、社交界でも孤立していたからだ。
ルシアンは、私と父を一瞥(いちべつ)すると、護衛の者を一人だけ残して、大股で歩き、私たちの真正面のソファに深く腰を下ろした。
その金色の瞳が、私を射抜く。
「……リステン侯爵。そして、エリアーナ嬢。本日は、俺のために茶番を演じていただき、感謝する」 声まで凍てつくようだ。
「公爵様、本日はお時間いただき……」
父が挨拶をしようとするのを、ルシアンは手で制した。
※※※※※※※※※※※※※※※
最初の牽制
「時間の無駄だ、侯爵」
ルシアンの視線は、私から外れない。
「俺が話したいのは、あんたじゃない。そこに座っている、皇太子殿下の手を振り払ったという、勇気ある(あるいは愚かな)令嬢だけだ」
父が侮辱に息を呑んだが、私は動じない。
「……公爵様。わたくしが、愚かかどうかは、この後の話でお分かりになるかと」
「ほう。言うな」
ルシアンは、初めて私の目をまともに見た。
「では、聞こう。皇太子殿下の手を振り払ってまで、俺に会いに来た理由は?」
「……」
「アランの差し金か? 俺の情報を探るために、お前という『貢物』が送られてきたのか?」
「違います」 私は即答した。
「では、なんだ。アランに飽きられたか? だから、次の権力者として、俺に乗り換えようと?」
私は、彼の挑発に乗らず、静かに答えた。
「わたくしがここに来た理由は、ただ一つ」
私は、父ではなく、ルシアン公爵だけを真っ直ぐに見つめて言い放った。
「貴方様が、皇太子殿下を憎んでいることを、存じ上げております」
※※※※※※※※※※※※※※※
変化する視線 ルシアンの金色の瞳が、わずかに見開かれた。
彼の後ろに控えていた側近が、剣の柄に手をかける気配がした。
不敬、ということなのだろう。
父が「エリアーナ!」と私の名を呼ぶ。
だが、ルシアンは再び手を挙げて、二人を制した。
彼は、初めて私を「値踏み」する視線から、「興味」の対象として見始めた。
「……続けろ」
「わたくしの目的は、アラン殿下への復讐です」
私は、はっきりとそう告げた。
応接室の空気が、完全に凍りついた。
ルシアンは、驚きを通り越し、ふ、と鼻で笑った。
「復讐、か。侯爵令嬢の、おままごとにしては、随分と物騒だな」
しかし、その金色の瞳は、もう私から逸らされていなかった。
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