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1日目。私、5歳
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私の名前は、葉山千佳。30数年、人間の女性をやっている。
他の人とは少しだけ違う私の過去物語を、今だからこそ、こうして書き残そう。
今日のお話は、私の中にある一番古い思い出。
私は当時5歳で、幼稚園の年中さんだったと思う。
「ちかちゃん!今日ちかちゃんちで遊ぼ?」
一番仲良しのユナちゃんが、笑顔で駆け寄ってきた。
ユキちゃんとは同じマンションで、いつも一緒。
「いいよ!でもね、静かに遊ばなきゃいけないんだ」
私は、ユナちゃんと手をつないで言った。
「あのね、うち、弟が生まれたの!」
すごく胸がドキドキして、嬉しくてたまらなかった。
それなのに。
「え!?嘘でしょ~?おばちゃん、昨日も今日も、朝バス停にいたじゃん」
ユナちゃんの口がとんがる。
「お母さんがケン産んだ時、お母さん病院に入院してたもん!」
ユナちゃんには3つ下の弟がいる。その時にユナちゃんは寂しかったのだと続ける。
でも。
嘘じゃないんだ。
私には今朝、キレイな赤い髪をした、それはそれはかわいい弟が生まれたのだ。
「嘘じゃないもん!」
「そっか。じゃあ、早く帰ろ!千佳ちゃんの弟、見せて!!」
「うん!」
ユナちゃんのお母さんと、私の母さんが待つ校門へ走った。
「ねぇ、ちかちゃん。弟どこ?」
ユナちゃんは家に着くなり、私にこっそり聞いてきた。
私はニヤっとしながら、ユナちゃんを将来の子供部屋(当時は本棚の部屋と呼んでいた)に連れて行った。
「ちかちゃん、ユナちゃん、おやつは??」
母さんが、クッキーをガサガサしながら聞いてきたけど、今日は「後で!!」。
「ここの中だよ」
私はエヘン!と胸を張って、クローゼットを指さした。
「え?この中??」
ユナちゃんは変な顔。
「赤ちゃん、ここ?」
「うん!!」
ガラっとドアを開けたそこには・・・幼稚園児の自分たちと同じサイズのパンダのぬいぐるみ。
「あれ!?」血の気が引くというのを始めて体験した瞬間だった。
いない。いるはずの、美しい弟がいない。
「わぁぁぁ!!かわいい!!!」
横には、パンダに無邪気に喜ぶユナちゃん。
騒ぐ私たちを見に、母さんが部屋に来た。
「あら、パンちゃんで遊ぶの?こっちの部屋寒いからあっちに行こうね。ユナちゃん、パンちゃん持っておいで」
「うん!ちかちゃん、弟って、パンダさんだったんだね!!!」
違う。
あの子はパンダなんかじゃないし、パンダのこと弟なんて言わないし、なんでなんで???
頭の中はパニックで真っ白。
「ユナちゃん、なあに、弟って」
「ちかちゃんがね、弟生まれたって言ってたの!」
「そのパンちゃん、ちかのお気に入りだからねぇ。ユナちゃんも可愛がってあげてね」
「うん!!」
隣で交わされる会話にハッと意識を取り戻す。
「ちがうもん!」
思わず否定が口をつく。
「え??」
2人が怪訝な顔でこっちを見てくる。
「そ…その子、弟だもん。かわいいもん」
何故か自然と嘘をついた。
言っちゃダメだって。
ユナちゃんはニィッと全開の笑顔になって、「じゃあ私、お母さんやるね!おばちゃんはお父さんね!」
楽しいおままごとの時間を作り上げてくれた。
その日の夜。
私はふっと目を覚ました。
目の前には大きな葉っぱ。少し湿気の高い青いにおい。
そして、横には。
キレイな赤い髪の、小さな小さな男の子が眠っていたのだ。
「あ!」
嬉しくなって、思わず大きな声を出してしまった。
「ふぇっ…」
小さくてきれいな赤ん坊が、みるみるうちに泣きじゃくる。
「あらあら!お兄ちゃん、起こしちゃったんですか?」
突然、後ろから困ったような、面白がるような声をかけられた。
振り返ると…大好きな乳母マルゼラの姿があった。
「ディル様、アル様を驚かせたらダメですよ。ふふふ」
マルゼラが優しく弟…アルを抱き上げる。
そう、私…いや、僕はここではディルと呼ばれる男の子なのだ。
「あのね、マルゼラ。また向こうの国へ行ってたんだ」
アルをあやすマルゼラに話しかけると、彼女は優しく微笑んだ。
「今日は、どなたと遊んだのですか?」
「今日もユナちゃんと遊んだよ。でも、僕、こっちの世界と間違えて、アルのことを紹介しようとしてしまったんだ」
今思い出しても、手が震える。
「まぁ。それでディル様は…どうされたのですか?」
マルゼラが続きを促す。
「僕は、アルがいると思ったところを開けたら、ぬいぐるみがあって…それでそのまま遊んだんだ」
「それは、とても楽しい一日でしたね」
マルゼラが頭を撫でてくれる。
やめてほしい。僕はもう7つだし、弟も出来て、もう立派な大人なのに。
「アル様、また眠られましたよ。ディル様はこの後どうされますか?」
マルゼラがおやつでも?と、続けてくれようとしたのを遮り、窓を開ける。
「天気がいいから、少し飛んでくるよ」
そう。こちらの世界は夜ではない。窓から少しばかりの風が入ってきて、前髪を揺らした。
窓の桟に立ち、手のひらを風に向ける。
体が風に包まれ、ふわりと体が浮く。
「夕食までには帰るよ」
頷くマルゼラに手を振り、僕は青空の下体を滑らせた。
「飛ぶって気持ちいいな…」
つぶやいた瞬間、目が覚めた。
目の前には、眠っている母さん。
逆側を向くと、私の誕生日祝いにおばあちゃんが買ってくれた市松人形が。
「!!!」
この間見た怖そうなテレビで、この市松人形が動いていたのだ。それ以来、怖くてそちらが向けない。
ピタッと母さんにくっつく。
すると。
ピピピピ!ピピピピ!!
父さんの目覚ましが鳴り、モコモコと母さんの向こうに人影が起き上がった。
「ちか、もう起きたのか」
目を開けてみていると、父さんと目が合った。
おいでおいでと手招きする父さんと、手をつないで洗面所へ。
小さい私のための踏み台を用意する父さんの背中に、なんとなく言ってみた。
「とうさん、今日ちか飛んでた」
とうさんは振り返って微笑んだ。
「お!ついにちかも飛べたかぁ。上手に飛べたか??」
私は嬉しくなって、うんうん!と大きくうなずいた。
「そうか!ちかは飛べたのか。父さんは、いつもうまく飛べないんだよ。夢なのになぁ」
「え?夢なの?」
「今飛んでたんだろ?寝てるときに見てた景色は、夢っていうんだよ」
「違うよ!夢じゃないよ!!」
私は、ひどくムシャクシャして、大きな声を出した。
「おっと。そうかそうか。ちかは本当に飛んだんだな!」
ははっと父さんは笑って、私の口の中に歯ブラシを突っ込んだ。
シャコシャコされながら、何かが違うのに…と思いながら、私の意識はイチゴ味の歯磨き粉に奪われていった。
これが、今の私が覚えている一番初めの不思議な記憶。
他の人とは少しだけ違う私の過去物語を、今だからこそ、こうして書き残そう。
今日のお話は、私の中にある一番古い思い出。
私は当時5歳で、幼稚園の年中さんだったと思う。
「ちかちゃん!今日ちかちゃんちで遊ぼ?」
一番仲良しのユナちゃんが、笑顔で駆け寄ってきた。
ユキちゃんとは同じマンションで、いつも一緒。
「いいよ!でもね、静かに遊ばなきゃいけないんだ」
私は、ユナちゃんと手をつないで言った。
「あのね、うち、弟が生まれたの!」
すごく胸がドキドキして、嬉しくてたまらなかった。
それなのに。
「え!?嘘でしょ~?おばちゃん、昨日も今日も、朝バス停にいたじゃん」
ユナちゃんの口がとんがる。
「お母さんがケン産んだ時、お母さん病院に入院してたもん!」
ユナちゃんには3つ下の弟がいる。その時にユナちゃんは寂しかったのだと続ける。
でも。
嘘じゃないんだ。
私には今朝、キレイな赤い髪をした、それはそれはかわいい弟が生まれたのだ。
「嘘じゃないもん!」
「そっか。じゃあ、早く帰ろ!千佳ちゃんの弟、見せて!!」
「うん!」
ユナちゃんのお母さんと、私の母さんが待つ校門へ走った。
「ねぇ、ちかちゃん。弟どこ?」
ユナちゃんは家に着くなり、私にこっそり聞いてきた。
私はニヤっとしながら、ユナちゃんを将来の子供部屋(当時は本棚の部屋と呼んでいた)に連れて行った。
「ちかちゃん、ユナちゃん、おやつは??」
母さんが、クッキーをガサガサしながら聞いてきたけど、今日は「後で!!」。
「ここの中だよ」
私はエヘン!と胸を張って、クローゼットを指さした。
「え?この中??」
ユナちゃんは変な顔。
「赤ちゃん、ここ?」
「うん!!」
ガラっとドアを開けたそこには・・・幼稚園児の自分たちと同じサイズのパンダのぬいぐるみ。
「あれ!?」血の気が引くというのを始めて体験した瞬間だった。
いない。いるはずの、美しい弟がいない。
「わぁぁぁ!!かわいい!!!」
横には、パンダに無邪気に喜ぶユナちゃん。
騒ぐ私たちを見に、母さんが部屋に来た。
「あら、パンちゃんで遊ぶの?こっちの部屋寒いからあっちに行こうね。ユナちゃん、パンちゃん持っておいで」
「うん!ちかちゃん、弟って、パンダさんだったんだね!!!」
違う。
あの子はパンダなんかじゃないし、パンダのこと弟なんて言わないし、なんでなんで???
頭の中はパニックで真っ白。
「ユナちゃん、なあに、弟って」
「ちかちゃんがね、弟生まれたって言ってたの!」
「そのパンちゃん、ちかのお気に入りだからねぇ。ユナちゃんも可愛がってあげてね」
「うん!!」
隣で交わされる会話にハッと意識を取り戻す。
「ちがうもん!」
思わず否定が口をつく。
「え??」
2人が怪訝な顔でこっちを見てくる。
「そ…その子、弟だもん。かわいいもん」
何故か自然と嘘をついた。
言っちゃダメだって。
ユナちゃんはニィッと全開の笑顔になって、「じゃあ私、お母さんやるね!おばちゃんはお父さんね!」
楽しいおままごとの時間を作り上げてくれた。
その日の夜。
私はふっと目を覚ました。
目の前には大きな葉っぱ。少し湿気の高い青いにおい。
そして、横には。
キレイな赤い髪の、小さな小さな男の子が眠っていたのだ。
「あ!」
嬉しくなって、思わず大きな声を出してしまった。
「ふぇっ…」
小さくてきれいな赤ん坊が、みるみるうちに泣きじゃくる。
「あらあら!お兄ちゃん、起こしちゃったんですか?」
突然、後ろから困ったような、面白がるような声をかけられた。
振り返ると…大好きな乳母マルゼラの姿があった。
「ディル様、アル様を驚かせたらダメですよ。ふふふ」
マルゼラが優しく弟…アルを抱き上げる。
そう、私…いや、僕はここではディルと呼ばれる男の子なのだ。
「あのね、マルゼラ。また向こうの国へ行ってたんだ」
アルをあやすマルゼラに話しかけると、彼女は優しく微笑んだ。
「今日は、どなたと遊んだのですか?」
「今日もユナちゃんと遊んだよ。でも、僕、こっちの世界と間違えて、アルのことを紹介しようとしてしまったんだ」
今思い出しても、手が震える。
「まぁ。それでディル様は…どうされたのですか?」
マルゼラが続きを促す。
「僕は、アルがいると思ったところを開けたら、ぬいぐるみがあって…それでそのまま遊んだんだ」
「それは、とても楽しい一日でしたね」
マルゼラが頭を撫でてくれる。
やめてほしい。僕はもう7つだし、弟も出来て、もう立派な大人なのに。
「アル様、また眠られましたよ。ディル様はこの後どうされますか?」
マルゼラがおやつでも?と、続けてくれようとしたのを遮り、窓を開ける。
「天気がいいから、少し飛んでくるよ」
そう。こちらの世界は夜ではない。窓から少しばかりの風が入ってきて、前髪を揺らした。
窓の桟に立ち、手のひらを風に向ける。
体が風に包まれ、ふわりと体が浮く。
「夕食までには帰るよ」
頷くマルゼラに手を振り、僕は青空の下体を滑らせた。
「飛ぶって気持ちいいな…」
つぶやいた瞬間、目が覚めた。
目の前には、眠っている母さん。
逆側を向くと、私の誕生日祝いにおばあちゃんが買ってくれた市松人形が。
「!!!」
この間見た怖そうなテレビで、この市松人形が動いていたのだ。それ以来、怖くてそちらが向けない。
ピタッと母さんにくっつく。
すると。
ピピピピ!ピピピピ!!
父さんの目覚ましが鳴り、モコモコと母さんの向こうに人影が起き上がった。
「ちか、もう起きたのか」
目を開けてみていると、父さんと目が合った。
おいでおいでと手招きする父さんと、手をつないで洗面所へ。
小さい私のための踏み台を用意する父さんの背中に、なんとなく言ってみた。
「とうさん、今日ちか飛んでた」
とうさんは振り返って微笑んだ。
「お!ついにちかも飛べたかぁ。上手に飛べたか??」
私は嬉しくなって、うんうん!と大きくうなずいた。
「そうか!ちかは飛べたのか。父さんは、いつもうまく飛べないんだよ。夢なのになぁ」
「え?夢なの?」
「今飛んでたんだろ?寝てるときに見てた景色は、夢っていうんだよ」
「違うよ!夢じゃないよ!!」
私は、ひどくムシャクシャして、大きな声を出した。
「おっと。そうかそうか。ちかは本当に飛んだんだな!」
ははっと父さんは笑って、私の口の中に歯ブラシを突っ込んだ。
シャコシャコされながら、何かが違うのに…と思いながら、私の意識はイチゴ味の歯磨き粉に奪われていった。
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