おれの正反対の兄

蓮水千夜

文字の大きさ
1 / 1

どっちがお好き?

しおりを挟む
 広めのリビングにある大きなテレビでは、ジムの特集が流れていた。

「うーん。おれも鍛えた方がいいのかなぁ」

 ソファーの上で自身の二の腕を触りながら、筋肉の度合いを確かめる。ぷにぷにとは言わないまでも、決してカチカチではない。

「なー。兄貴はどう思う?」
 すぐ横でノートパソコンを触っている兄に問いかける。

「なにがだ?」
「だ~か~らぁ、筋肉だって。ムッキムキの方がいい? それとも今のちょっぴりぷにぷにのまんまがいい?」

 テレビを指差しながら二の腕を見せつけるが、視線は依然としてノートパソコンに向いたままだ。

「……お前の好きな方にすればいいんじゃないのか」
「まーた、そういうことを言う」
 こう言うときは決まって適当なことしか言わないのだ。

 ──このおれが聞いてるのに!

「おれは、兄貴に聞いてんの!」
 兄の顔を掴み無理やりこちらへ向かせる。

「……っ。おい」
 兄の瞳がやっとこっちを捉えた。

「ね、ほら。わかんないならさ、直接触って確かめて……」
 耳元で囁きながら、兄の手を自分の服の中へ誘導する。よく知る大きな手が吸い付くように腹部に触れる感覚は、とても気持ちがいい。

「こら。今は仕事中で……」

 だが、甘い感覚は、その一言で一気に冷めた。

「はぁ~~っ!? なんかさっきからずっとパソコンいじってるかと思えば、また仕事持ち帰ったのかよ!? おれといるときは仕事すんなっていったじゃん!」

 ──信じらんない! 今日はようやく二人で一緒に取れた休みの日だったのに!
 
 怒りが収まらないでいると、絞り出すように兄の口が開いた。

「……今日の。今日の休みをもぎ取るために少し持ち帰っただけだ」
 兄の申し訳なさそうな顔が目に入る。

「なっ……! そう言われたら、なんも言えないじゃんか」

 ──確かに、今兄貴めちゃくちゃ忙しいもんな。

 ほぼ休日返上と言っていいくらい、仕事を頑張っていることはわかっているつもりだ。だけど、一緒にいる今だけはどうしても自分のことだけを見てほしい。そんな、我儘な気持ちの方が上回ってしまう。

「……ごめん。でも、おれは今構って欲しいんだよ」

 そっと、兄の頬に触れながら、その隙に兄の膝の上にあるノートパソコンを無理やり奪う。

「だから、はいっ! ほら、ちょとだけ休憩!」
「おい」

「ねぇ、早く教えて……。どっちが好き?」
 素早くノートパソコンを机の上に置いて、腕を兄の首に回すと諦めたような顔でため息をつかれた。

 ──やっぱ、怒ったかな? 

「ぁっ……!」
 そう思ったのも束の間、気づけば大好きな兄の手が服の中に潜り込んでいた。

「……肌触りで決めるんだったか」

 大真面目な顔をしているが、触る手つきはなんともいやらしい。

「う、ん……。ッひぁっ……!」
 下から上へ、這い回るように、一つ一つ確認するかのようにゆっくりと触れていく感覚が妙に焦ったくて、もどかしくて変になる。

「も、あ、にきっ……!」
 もっと明確に、気持ちいい場所に触れて欲しくて、懇願するようにその瞳を見つめると、神妙そうな顔で兄は呟いた。

「今のままでも十分魅力的な体だが……」
「だ、が……?」

「健康のために鍛えるというのなら、止めはしない」
「えぇっ?」

 想定外の回答に思わず困惑していると、さらに想定外の言葉が飛び出した。

「少しでも永く、共に生きていたいからな」

 ふっ、ととびきり優しい顔で微笑むものだから、その瞬間、必要以上に自分の体温が上がっていくのがわかった。

「ッ……! なにそれ。プロポーズかよ」
 照れ隠しに、つい憎まれ口を叩くように言ってしまう。

「そう捉えてもらっても構わない。まぁ、もう結婚しているようなものだが」
「ちょ、もう! ばーか、ばぁーかっ!」

 ──そういうとこ! 兄貴ホントそういうとこ!

 悶えすぎて、兄をの胸をついぽかぽか殴ってしまう。

「……痛い」

 ──嘘つけ。そんな痛いほど殴ってないし。

「すーぐそういうこと言うんだからさ……」

 いつもなにを考えているんだがわからないような仏頂面をしているくせに、こういうときは本当に甘いのだから。

「ほんっと……、最高かよ」

 なにか言いたそうな兄がその声を発する前に、その声ごと唇を奪ってやった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

Memory

yoyo
BL
昔の嫌な記憶が蘇って、恋人の隣でおねしょしてしまう話です

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

処理中です...