100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく

文字の大きさ
4 / 30
第一章 銀髪の少女

第四話 常識という概念は捨てました

しおりを挟む
 あれから暫く歩き回ったが、人の姿は見当たらなかった。その代わり、モンスターにばかり出会うものだから嫌になってくる。
 最初こそ緊張はしたが、今では夜桜でサクサク倒して進める程には慣れてきた。そもそも、武器を使う必要も無いかもしれないのだが。

「一発殴っただけで倒しちゃうしなぁ……」

 別に自分の身を危険に晒してまで強い相手と戦いたいなんて思ってない。

 ( けど、なんか……もう少し貼り合いがあってもいいんじゃないですかね…… )

 ウィンドウを開いて調べたり、何度か戦闘を繰り返す中で、いくつか分かったことがある。
 まずは俺についてだ。最初はステータスの数値にばかり気を取られて忘れていたのだが、改めてステータスから俺のプロフィールに目を通してみた。名前の欄には"ノーラ"と記されており、俺がアバターに付けた名前そのまんまだった。その隣に表示されているレベルの数値は百、リバホプの上限数値だ。

 職業は"グラディエーター"と表示されている。簡単に言えば剣士職の上位版と言ったところだろう。
 リバホプには一次職と二次職の二つが存在しており、例えば俺のように剣士を極めれば、二次職のグラディエーターに転職する事が可能なのだ。

 他にも色々と調べてみたが、やっぱりこの身体……いや、今の俺はゲームのアバターで間違いはないだろう。簡単に説明すれば、ゲームのアカウントをまるごと持ってきた挙句、プレイヤーである俺がアバターの身体に乗り移っている、と言った感じだ。

「何度考えても信じられないっていうか……けど、もうそれしか考えられないんだよなぁ……」

 ひとまず、今はそう言った解釈で納得することにした。考えすぎてそろそろ頭から煙が吹き出しそうだしな。

 次はこの世界についてだ。当然まだ不明点は多いが、基本的にはよくあるRPGのゲームシステムに類似している事が分かった。
 アイテムやステータスを見る時もそうだが、敵や物に対しても、その対象についての情報がまとめられたウィンドウが表示されるようだ。敵ならステータスや弱点、落とすアイテムなど。物ならそれについての詳細や入手場所が記されている。仮に食べ物に困っても、ちゃんと調べさえすれば毒キノコとか食べたりせずに済みそうだ。

「問題は……コレだな」

 最後に分かったこと、それはステータスに記されている称号についてだ。

 俺は以前、リバホプのランキング上位者にのみ与えられる "トッププレイヤー" と言う称号で設定していたのだが、それが " 神殺かみごろし " に変わっている。
 恐らく死神を倒した事で得た称号だとは思うが……。せめて死神殺しにがみごろしと表記してくれないと、罰が当たりそうで恐ろしい……。
 一応変更もできるようなので、元の称号に戻しておいた。途中、一覧の中に"召喚者"と言う称号も含まれていたが、別に使う用も無いのでスルーしておこう。

 「ん……? あれってもしかして……」

 そこで一旦考えを整理しつつ遠くを見つめた。すると、見えてきたのは建物の並ぶ街がひとつ。その光景に俺は目を輝かせた。

 ( あそこに行けば人に出会えるかもしれない!)

 ……しかし、なんせ距離が遠すぎる。例えれば遠くに見える山の頂上を今から目指すようなものだ。

  「そろそろ日も沈みかけてるし、今日中に辿り着くのは無理かな」

 ( だとすると野宿になるのか、やだなぁ…… )

 毎日ゲームに入り浸っていた自分の部屋が恋しくなってくる。まぁ、文句ばかり垂れていても仕方がない。少しでも距離を縮めておこうと俺は軽く走り出した。

 瞬間、

「え───」

 高速で走る新幹線の窓を眺めているかの様だ。いや、もしかするとそれ以上に早いのかもしれない。
 そうだ、これは俺の身体であっても、元々の俺の身体じゃない。俺が考えているような身体能力の基準なんて当てにならないという事だ。とは言え、小走りで出せるようなスピードではないと思うのだが……。いや、ここでは現実の常識は当てにならないものだとして受け入れておこう。

「でもっ、これなら今日中に間に合……」

 前方不注意とは、まさにこの事を言うのだろう。高速で通り過ぎる景色に意識を向けていたばかりに、草の中に隠れていた石に躓いてしまった。

「うわぁぁああ! 目がまわるぅぅぅ!!」

 ごろんごろんと猛スピードで転がる俺。

 ( そう言えば昔に遊んでたゲームの中に、こうやって高速で転がるキャラクターとか居たな。アイツもこんな気分だったのか…… )

 ようやく勢いが止まり、俺は仰向けに空を眺めた。ぐるぐると回転する視界の中、ため息と共に弱音をこぼす。

「色んな意味でハードモード過ぎるだろ……」

 まずはこの馬鹿げた身体能力に慣れるところから始めよう。こればかりは経験で覚えるしかないからな。

 あぁ、先が思いやられるよ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...