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プロローグ
第0話 軽木 有栖
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その場に音という概念は存在しなかった。
あるのは大剣グラディウスを両手に持つ女と銃を構える兵士、その兵士達の前に立つ大男。
通称“戦姫”軽木有栖は数百を超える銃口を向けられながら
大男と睨みを利かし合っていた。
“黒騎士”は灰色の空の下、悠々と数百の味方をつけ口角を上げる。
「これで戦姫と俺の物語も最終回ということか…この数で囲まれて“エスト”まで逃げきれるとはいくら貴様でも考える余裕は無かろう。」
「愚問だな、黒騎士。本当はお前が一番わかっているはずだがな、私の力は。」
黒騎士は腕の血管をじんわりと浮かび上がらせ、巨大な拳を指がめり込むのではないかと思われるほど力強く握りしめた。
「貴様…余程早死にしたいようだな。」
「こちらのセリフだが?」
最早周りで銃を構える者はどちらが追い詰められているのかが分からなかった。
誰が見ても勝負の結末がわかっているこの盤面でも
なお“戦姫”の底知れぬなにかが優っているのだろう。
「構えろ!」
不意な黒騎士の命令に兵士達は満身創痍になりながら手に持つ銃の銃口をゆっくりと一人の女に向けた。
「壮観だな、まるで本当の姫にでもなったような気分だ」
「あぁ、お前は確かに姫だ。但し、残虐無二の冷酷な独裁者だ。」
「弟思いをつけろよ、脳筋…」
その紅眼から放たれた鋭く尖った眼力は“黒騎士”を威圧した。
「お、俺は辞めとく、なんかまずいことになりそうだ」
「俺も」
「みんな逃げるぞ」
兵士達が続々と銃を放り、敗走。
クロの額がしわくちゃになる。
「ほっとけ、処刑開始だ」
その場に残った兵士達の銃口から一斉に銃弾が勢いよく飛び出す。
激しい銃声はその場の空気をあっという間に飲み込んだ。
『虚無』
地面から絶えることなく吹き荒れる土煙は事の激しさを象徴していた。
「はは、やったぞ。遂にあの忌々しい“戦姫”の命を絶ってやることができた。」
砂煙が徐々に薄くなり始め、ようやくその全貌が明らかとなって来た。
「お、おいあれって…」
兵士たちがざわめく。
地面のコンクリートには無数の穴が点々とちりばめられていたのが確認できたが、一箇所のみ明らかに跳ね除けられた後があった。
そしてあの聞き慣れた声がその場の空気を冷たくさせた。
「ちゃんと狙って打てよ、この出来損ない共が。この程度の攻撃、能力を使わずともこのグラディウスだけで防ぐことができたぜ。」
大剣グラディウスを地面に垂直に突き刺し、アリスは数百の兵士たちを牽制した。
「おのれ、貴様。まぁ、このままで終わる“戦姫”とは思ってなかったがな。」
「今度はこっちが攻めていいよな?」
“戦姫”は自分の体ほどの大きさのある大剣を片手で持ち上げ、地面から引き抜き、構えた。
いち早く殺気を感じた“黒騎士”はすかさず防御の構えを取る。
「来い」
瞬きをする暇もなく“戦姫”は地を蹴り、一直線に大男へと突進をした。
次の瞬間、真っ正面に見えていた女の姿はなかった。
「消、消えただと」
と思わず声を張り上げた。
“黒騎士”の視線が下へとずれた時にはすでに遅かった。
全身の体幹を全て使い、“戦姫”の大剣が下から上へと勢いよく上がり、大男を切りつけた。
「ぐぁぁぁぁ」
男の悲鳴がその場を凍りつかせる。
赤い色の血がその場を鮮やかに染め上げた。
「貴様の能力はやはり…」
「能力を知ったところでお前に勝ち目はないけどな。しかもすでに致命傷を負っている」
返り血を浴びた軽木有栖は余裕の表情で地面に転がる男を見下す。
「くそ、兵士共、俺の前に来て、俺を守れ」
“黒騎士”の一喝に最早感情を抱く暇もない兵士達が続々と地面に転がる男を守るように陣形を組む。
「このまま手ぶらで帰るようなら“あの方”に何をされるかわからないぞ」
兵士達の顔がより一層強張る。
「“あの方”というとやはりオーヴェストのリーダーか。いや、それとももっと上の存在…」
「お前ら、遠慮は要らん。早くあの女を殺せ」
殺気に満ちた声が兵士の脳内に響く。
「とにかくこの情報はエストに届けなければ」
大剣グラディウスを盾にして滝のように連射される銃弾を防ぎながら攻撃の時を見計らう有栖は冷静沈着であった。
「グゥァァ」
複数の声が沈黙を破る。
返り血をシャワーの如く浴び“戦姫”の大剣が兵士達を遠慮なく切りつける。
「どいていろ、お前ら。回復のための時間は十分だ。後は俺とアイツとの勝負だ」
その声を聞き、兵士達は一目散に他方へと走って散っていった。
「こい、“戦姫”よ」
大剣グラディウスと“黒騎士”の巨拳が正面衝突をした。
空気が揺れ、振動が起こる。
「能力“硬化”!」
大男の前身が黒く染まった。
軽木有栖は口を噤んだままフルスイングで大剣を振るう。
再度、大剣と巨拳が激突した。
今度は能力を使っている分、“黒騎士”の拳が少し上回った。
「くっ、やるじゃないか。“黒騎士”!」
「俺の能力はお前もすでに知っているはずだ。硬化すなわち自分の体、触れたものを全て硬くすることができる能力。俺はこいつとてっぺんを取る」
“黒騎士”の全身が真っ黒に染まり、光沢を放つ。
あるのは大剣グラディウスを両手に持つ女と銃を構える兵士、その兵士達の前に立つ大男。
通称“戦姫”軽木有栖は数百を超える銃口を向けられながら
大男と睨みを利かし合っていた。
“黒騎士”は灰色の空の下、悠々と数百の味方をつけ口角を上げる。
「これで戦姫と俺の物語も最終回ということか…この数で囲まれて“エスト”まで逃げきれるとはいくら貴様でも考える余裕は無かろう。」
「愚問だな、黒騎士。本当はお前が一番わかっているはずだがな、私の力は。」
黒騎士は腕の血管をじんわりと浮かび上がらせ、巨大な拳を指がめり込むのではないかと思われるほど力強く握りしめた。
「貴様…余程早死にしたいようだな。」
「こちらのセリフだが?」
最早周りで銃を構える者はどちらが追い詰められているのかが分からなかった。
誰が見ても勝負の結末がわかっているこの盤面でも
なお“戦姫”の底知れぬなにかが優っているのだろう。
「構えろ!」
不意な黒騎士の命令に兵士達は満身創痍になりながら手に持つ銃の銃口をゆっくりと一人の女に向けた。
「壮観だな、まるで本当の姫にでもなったような気分だ」
「あぁ、お前は確かに姫だ。但し、残虐無二の冷酷な独裁者だ。」
「弟思いをつけろよ、脳筋…」
その紅眼から放たれた鋭く尖った眼力は“黒騎士”を威圧した。
「お、俺は辞めとく、なんかまずいことになりそうだ」
「俺も」
「みんな逃げるぞ」
兵士達が続々と銃を放り、敗走。
クロの額がしわくちゃになる。
「ほっとけ、処刑開始だ」
その場に残った兵士達の銃口から一斉に銃弾が勢いよく飛び出す。
激しい銃声はその場の空気をあっという間に飲み込んだ。
『虚無』
地面から絶えることなく吹き荒れる土煙は事の激しさを象徴していた。
「はは、やったぞ。遂にあの忌々しい“戦姫”の命を絶ってやることができた。」
砂煙が徐々に薄くなり始め、ようやくその全貌が明らかとなって来た。
「お、おいあれって…」
兵士たちがざわめく。
地面のコンクリートには無数の穴が点々とちりばめられていたのが確認できたが、一箇所のみ明らかに跳ね除けられた後があった。
そしてあの聞き慣れた声がその場の空気を冷たくさせた。
「ちゃんと狙って打てよ、この出来損ない共が。この程度の攻撃、能力を使わずともこのグラディウスだけで防ぐことができたぜ。」
大剣グラディウスを地面に垂直に突き刺し、アリスは数百の兵士たちを牽制した。
「おのれ、貴様。まぁ、このままで終わる“戦姫”とは思ってなかったがな。」
「今度はこっちが攻めていいよな?」
“戦姫”は自分の体ほどの大きさのある大剣を片手で持ち上げ、地面から引き抜き、構えた。
いち早く殺気を感じた“黒騎士”はすかさず防御の構えを取る。
「来い」
瞬きをする暇もなく“戦姫”は地を蹴り、一直線に大男へと突進をした。
次の瞬間、真っ正面に見えていた女の姿はなかった。
「消、消えただと」
と思わず声を張り上げた。
“黒騎士”の視線が下へとずれた時にはすでに遅かった。
全身の体幹を全て使い、“戦姫”の大剣が下から上へと勢いよく上がり、大男を切りつけた。
「ぐぁぁぁぁ」
男の悲鳴がその場を凍りつかせる。
赤い色の血がその場を鮮やかに染め上げた。
「貴様の能力はやはり…」
「能力を知ったところでお前に勝ち目はないけどな。しかもすでに致命傷を負っている」
返り血を浴びた軽木有栖は余裕の表情で地面に転がる男を見下す。
「くそ、兵士共、俺の前に来て、俺を守れ」
“黒騎士”の一喝に最早感情を抱く暇もない兵士達が続々と地面に転がる男を守るように陣形を組む。
「このまま手ぶらで帰るようなら“あの方”に何をされるかわからないぞ」
兵士達の顔がより一層強張る。
「“あの方”というとやはりオーヴェストのリーダーか。いや、それとももっと上の存在…」
「お前ら、遠慮は要らん。早くあの女を殺せ」
殺気に満ちた声が兵士の脳内に響く。
「とにかくこの情報はエストに届けなければ」
大剣グラディウスを盾にして滝のように連射される銃弾を防ぎながら攻撃の時を見計らう有栖は冷静沈着であった。
「グゥァァ」
複数の声が沈黙を破る。
返り血をシャワーの如く浴び“戦姫”の大剣が兵士達を遠慮なく切りつける。
「どいていろ、お前ら。回復のための時間は十分だ。後は俺とアイツとの勝負だ」
その声を聞き、兵士達は一目散に他方へと走って散っていった。
「こい、“戦姫”よ」
大剣グラディウスと“黒騎士”の巨拳が正面衝突をした。
空気が揺れ、振動が起こる。
「能力“硬化”!」
大男の前身が黒く染まった。
軽木有栖は口を噤んだままフルスイングで大剣を振るう。
再度、大剣と巨拳が激突した。
今度は能力を使っている分、“黒騎士”の拳が少し上回った。
「くっ、やるじゃないか。“黒騎士”!」
「俺の能力はお前もすでに知っているはずだ。硬化すなわち自分の体、触れたものを全て硬くすることができる能力。俺はこいつとてっぺんを取る」
“黒騎士”の全身が真っ黒に染まり、光沢を放つ。
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