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第1章 異世界の軍略者
第1話 ミナト
しおりを挟む「新しい朝が来た♪希望の朝だ♪ 喜びに胸を開け 大空仰げ♪
ラジオの声に 健やかな胸を♪ この香る風に 開けよ♪
それ一、二、さ…」
壁に思いっきり時計を放る音が部屋中に響き渡る。
「あーあ、これで何度目だよ。時計壊れるの。10回は行ったか?いやもっとか。ともあれ、 また買ってもらわなきゃだな。いつ外に用事に行くかわからないんだから」
いつもの決まり文句を吐いて湊 蓮也は更なる眠りにつく。
男の朝は長い。
夜は遅くまでネットで『軍師オンライン』に汗を流すのだから。
最早、親は呆れて俺を何とも見ていない。
見ているとしたら、そうだな…屑ニートといったところであろう。
もちろんのこと、自分でも自覚はある。
学校でのいじめ?そんなものはない。
小さい頃から空手をやっていたからそこまでヤワじゃないだろうし。特別、太っているわけでもなしに。
単に、学校に行くのがバカらしくなっただけだ。
だって、そうだろう。
歴史なんて学んで何になる?過去のことは振り返らず先のことだけを見つめるべきじゃないのか?
国語だってそう。(数学は好き。あとは三国志)
とにかく、外で起こりうる事象全てに腹が立ったのだ。
それからというものこうして部屋の中でだんまり。
特に親には迷惑かけていない。(しかし、こうした状況が一番親にとって迷惑なのは分かっている)
壊れて、時計の中に内蔵されていた電池を拾い集め、ゴミ箱に慣れた手つきで放り込む。
勉強机の上に置かれたPC群に目をやり、椅子に座る。
プロのスポーツ選手がやる様にこれが俺のルーティン。
『軍師オンライン』
特別面白くなければ、つまらないわけでもないゲーム。
プレイヤーが自分の兵士を使って、軍略を立てて相手の領土を奪って行くことが目的。といったありきたりなゲームである。
「さてさて、この前のフェスの結果はどうなったんだ?結構自信があったんだけどな」
この男の頭には先週まで行われていたフェスの結果のことでいっぱいだった。
「確か、一位にはスペシャルチケットが送られるって書いてあったけども…」
マウスを結果発表ボタンへと伸ばす。
「え?」
思わず口から言葉が漏れる。
1位 ミナト
2位 マイト
・
・
・
「よっしゃあ、一位きたぁぁ。スペシャルチケットゲットー!あれ、でもスペシャルチケットってなんだ?もしや、新しいキャラスキン?それとも強化兵士?何でもいいや、俺がさらに強くなれるのなら」
勢いよくマウスカーソルを開けてみるボタンへ移す。
そして
「カチッ」
安いマウスのクリック音と共にミナトの姿は久しく部屋から消えた。
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