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第1章 王室暮らしの王女

第3話 ノア・エヴァンズ

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「はい」

 奥の扉からひとりの男が姿を現した。

 「紹介しよう、アヴェ。こちらがお前の家庭教師をしてもらうノア・エヴァンズ君だ」

「よろしく、王女」

 ノアは軽く会釈をした。

「ちょ、ちょっと待ってよ、お父さん。本気?こんな私よりちょっと年上ぐらいの男に勉強を?」

「ノア君は優秀だぞ、私の古い友人からの推薦だ。断るわけにもいかんしな」

「え…でも」

 困惑するアヴェの心情を尻目に王アンドレア・キャンベルは話を進めて言った。

「おい、ノア君を部屋まで案内してあげなさい」

 召使いの一人に王はそう指示し、ノア・エヴァンズは大広間を後にした。

 去り際、誰にも気づかれないくらいに軽くアヴェの方を見て微笑んだ。

 「なによ、あいつ。やな感じ」

「ノア君は住み込みだからな。まぁ、部屋は違う塔だが、何か困っていたら教えてやりなさい」

「う、うん」
 
これがアヴェとノアの出会いだった。

 朝食を食べ終えると、部屋に戻り、エルドラド学院のバックを持ち、外にでる準備をした。

 この父アンドレア・キャンベルが統治する国、エルドラド王国にある唯一の学校。

 その中の人には私もいる。
 
 エルドラド学院は主に少数単位からなるクラスで成り立つ全校生徒約1万人を有する学校である。

 そこで学ぶことが出来るのは勉学だが、この世界に存在する人類史上最大の発明であるこそこの国で栄えるのに欠かせないものであるのだ。

 魔法は隣国のラグナ王国やその他の王国との戦争が絶えないこのご時世でパワーバランスを保つ上でも大切な存在になっている。

「じゃあ、行ってくるわね。二人共。」

「行ってらっしゃいませ、王女。」
「授業中、寝るんじゃねーぞ。」

「寝るのではないですよ、でしょ?アリア。」

 どちらにせよ王女に向かって言うことではないが、友人もいない自分からしたらこのやり取りすら心地よく感じた。

 城の裏口からこっそり出る。

 表から出るなんて恥ずかしいにもほどがある。

「はぁ、貴方は少しは口調に気をつけなさい。アリア。」

「分かってるって、クレア。でもさ、ここだけの話、王女って友達とかいるのかね?」

「それは‥いるのではないですか?」

「どうだか。だって城に友達を連れてきた試しがないじゃん。」

「うーん。」

 ついにクレアは沈黙した。

「あいつ、どこ行ったんだ?」

 二人の後ろから聞いたことのない声がした。

 瞬時に身の危険を察してアリア、クレアは素早い身のこなしで声の方から距離を置いた。

「おいおい、そんなビビんなって。俺だよ、俺。」

 声の先にはつい先程、王女の専属家庭教師となったノア・エヴァンズだった。

 

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