新しい道へ

ゆきりん(安室 雪)

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 桜は同じフロアーにある事務所とスタジオを1日に何度か往復する。その際、廊下で楽しげに話すリョウを見てしまった。一緒に話しているのはアイドルグループの1人だ。笑顔が可愛くリョウにボディタッチしたりする仕草が、いかにも女の子で可愛らしい。

 でも、ソレを見た瞬間に桜は何だかイラッとしてしまったのだ。イライラモヤモヤ。

 スタジオに入り、ナレーションの録音をしなきゃいけないのに、柔らかい声が出せず、何故が尖ってしまう。3回録音に挑戦し、諦めた。下でチャイ買って、休憩したらまた挑戦しよ。

 スタジオを出た所で、リョウに声をかけられる。

「あれ?桜ちゃん、録り終わり?」

 いつも通り話しかけてくる。

「喉の調子が良くないみたいなので、休憩してまた録り直します」

 リョウの横を通り過ぎようとするが、腕を掴まれる。

「何かあった?」

「いえ、ちょっと疲れてるだけかな?休憩したら多分大丈夫」

 リョウの手をやんわり解きエレベーターで下に向かう。リョウに『何だかイラッとしました』なんて、八つ当たり出来ないよね?



 そういえば、食堂横にもカフェがあるって聞いたから、気分変えてそっちにしようかな。レジに向かうと、そこにいたのは・・・。

「蓮さん!バイト?似合わない・・・」

 カフェエプロンを着けた無愛想な蓮に出くわしたのだ。

 無愛想のまま、オーダーを促してくる。

「ロイヤルミルクティーお願いします」

 出てきたミルクティーを持って席に着く。見るとはなしに蓮さんを見ていると、何故か笑えてくる。蓮さんの無愛想振りにお客さんが引いているのだ。まあ、社員しかいないからいいんだろうけど。声は出さずに笑ったつもりなのに。

「お前、笑いすぎ」

 と頼んでないアップルパイを桜のテーブルに置く。

「頼んでないですよ?」

「切り損ねた。食え」

 頭をポンっと叩き、業務に戻っていく。確かに縁がバリバリに割れてる。

 せっかく頂いたものだし、食べてみる。

 美味しいっ!ミルクティーに合うしっ!

 ご機嫌でペロリと食べ終わった桜は『ご馳走でした』と蓮さんに声をかけて仕事に戻った。さっき途中で投げ出したナレーション録りも、納得のできるモノになった。

 ふふっ、蓮さんて無愛想なだけでいい人なのかもね?

 休憩から戻ってご機嫌な桜をリョウは訝しげに、松田さんは不思議そうに見ているのだった。


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