悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第二部

Hiroko

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11 死闘

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「香奈子の血の匂いを辿ってきおったな」芹那のおじいちゃんは、扉の向こうの鵺を睨みつけ言った。
 倉庫の壁に開いた小さな窓からは月明かりが見えた。だが外の様子を見るほどの大きさはない。
 重い鉄の扉の向こうでは、鵺が匂いを嗅いでいるのか、荒い鼻息のような音が聞こえる。そしてギリリリ……、ギリリリ……、と爪で扉をひっかく音がする。僕らは息を潜め、願わくば鵺が諦めて去ってくれるのを待った。
「香奈子の様子はどうじゃ?」
「心配ないよ。まだ眠ってるけど、ちゃんと落ち着いて息してる。傷もふさがったみたい」芹那が言った。
「その力、あとで説明せいよ?」
「うん。わかった」
 鵺は扉の向こうで何をしているのか、建物を揺らしたり、扉をバンバンと叩いたりした。ここにいるのはわかっているものの、匂いだけで気配がしないので戸惑っているのだろう。やがてしびれを切らしたのか、引き戸の隙間に爪を入れ、無理やり扉を引き剝がしに来た。
「くるぞ」暗闇に芹那のおじいちゃんの声が響き、緊張が走った。
「みんな隠れて。僕が先に出ておとりになる。その隙に香奈子を連れて逃げて」
「なに言ってんのよ! そんなことできるわけないじゃない!」芹那が言った。
「いや、そうするより仕方ないじゃろう。どう言う成り行きかは知らんが、お前も知っておるのじゃろう、こやつがスサノオの生まれ変わりだと言うことは」
「う、うん……」
「まだまだその力を理解してはおらんが、そうやすやすとやられるほど弱くはないぞ、こやつは」
「で、でも……」
「他の者がおとりになったところで、一瞬でやられてしまうわい。かと言って、香奈子を連れて全員で逃げるのは無理じゃ。まずは香奈子を逃がすことを優先する。すまぬな、スサノオ。おぬしの言葉にすがらせてもらう」
「わかったよ。大丈夫。僕が先に出て鵺をひきつける。その間に……」と僕が話し終わる前に、鵺は倉庫の扉を引き剥がし、後ろに投げ捨てた。
「いくよ!!!」僕はそう言うと竹刀を持って外に飛び出した。体はすでに、金色の光の靄で包まれている。今までになく強い光だ。やはり闘志が強いほど、自分の力を信じるほど、この光も力を増すようだ。
 僕はさっき来た道を戻るように走り、鵺をひきつけた。
 向こうでは芹那と香奈子を抱えた芹那のおじいちゃんが逃げ出すのが見える。
「一矢必殺」僕はそう言って背中から矢を抜くと、鏃を舐めて心を静め、鵺の右目に狙いを定めて矢を放った。
「ひゃああああ!!!」と鵺の悲鳴が響き渡る。右目に命中したようだ。
 すかさず僕は、竹刀を鵺の脇腹めがけて切り込んだ。
 が、浅い。
 やはり竹刀では深手を負わせるのは難しいようだ。
「じゃあこれでどうだ!」僕はそう言って今度は鵺の喉元に竹刀を突き上げた。
 が、やはり致命傷を負わすどころか、逆に鵺の怒りを買う程度にしか傷をつけることができなかった。
 せめて両目を潰せば。僕はそう思い、もう一度背中から矢を抜き、鏃を舐めると今度は鵺の左目を狙った。
「一矢必殺」そう言って放った矢は、鵺の素早い動きに狙いを外した。
 遠くの校舎の向こうでは、芹那のおじいちゃんの車が走り去って行くのが見えた。
「よし。向こうは大丈夫そうだな」僕はそう言って、さっき芹那のおじいちゃんがしたように、鵺の右目に刺さった矢を竹刀で押し込んでやろうと地面を蹴って間合いを一気に詰めた。
 けれど鵺は僕の攻撃を宙に飛んでかわし、すかさず後ろに回り込むと巨大な鉤爪で僕の背中を切り裂いた。
「ぐはあっ!!!」と言って僕は地面に叩きつけられると、そのまま十メートル以上転がるように吹っ飛ばされた。さらに背中を焼けた鉄を押し付けられたような痛みがえぐった。
 少々の衝撃や刃物の攻撃では傷つかない僕の体ではあったけれど、鵺の鉤爪はその上をいっていた。
 息ができず、背中の痛みに僕は身動きができなくなった。
 さらに悪いことに、竹刀も手放してしまった。
 鵺の攻撃は容赦なく、さらに僕をもてあそぶように鉤爪で打った。
 こんどは腹に焼けるような痛みを感じながら、僕は校舎のコンクリートに叩きつけられた。
 一瞬、目の前が真っ暗になった。
 目を開けることができない。
 顔を触ると、ぬるぬると生温かい液体の感触がした。
 僕の、血だろうか……。
 顔の形がおかしい。
 顎が砕けたようだ。
 口から血が止まらない。
 立ち上がろうとすると、脚に力が入らない。見ると左脚も折れているようだった。
 どうすれば……、どうすればいい……。
 鵺はなおも僕に飛び掛かり、今度は口にくわえると、二度、三度と振り回した後、上に放り投げた。
 ゆっくりと回りながら僕は宙に舞い、学校の屋上を下に見ながら、その高さから地面に叩きつけられた。
 肺の中に残った空気が「ばはあっ!」」と言って吐き出される音を聞きながら、僕はそのまま意識を失った。








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