悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第三部

Hiroko

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プロローグ

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   一つ方法があるとすれば……。

 その言葉にすがるしかなかった。
 私は和也を連れ、東へ歩いた。
 もうそこには山も川もなく、ただ荒れ果てた土地と、どこまでも続く地平線があるだけだった。
 見上げてもそこに昇る太陽もなく、宇宙に赤い筆で雲を描いたような奇妙な空があった。
 誰も……、誰もいなくなった。
 お父さんも、おじいちゃんも、学校の友達も……、そして香奈子も。
 けれど、今はそれを考えている時じゃない。そう思いながらも、時の流れを失ったようなこの世界で、ただひたすら歩き続けていると、否応なしに思いは失った人々への悲しみへと傾いた。
 でも、でも私たちには行くべき場所がある。
 ちゃんとその方向へ進んでいる。
 動物の帰巣本能のように。
 あの踏切へ。
 あの世界へ。
 それだけが、今の私の支えになった。
 私は時々振り向いて、和也の姿をそこに探した。
 和也は虚ろな目をしていた。
 まるで声を失ったかのように何も話さなかった。
 かつてのスサノオの姿はそこにはなかった。

 何日歩いたのかわからなかった。
 日も昇らず、朝にも夜にもならない。
 スマホもバッテリー切れで時間を知る術もない。
「この辺のはずだ……」と思い、辺りを見回したが、踏切など残っているはずもなかった。それなのに……。
 カーン、カーン、カーン……。と音がした。
「嘘でしょ?」
 カーン、カーン、カーン……。どこかとてつもなく遠い昔から響いてくるような音だった。
「私を、呼んでいるんだ」
 カーン、カーン、カーン……。
「あ、あった。これだ……」私がそれを見つけると、音も同時に止んだ。
 八咫鏡だ……。
 本物は伊勢神宮に保管されていると聞いた。けれど八咫を大きさを表す名前だとすれば、伊勢神宮にあるものは小さすぎると言う説もある。
 きっと、本物はずっとここにあったんだ。
 あの空き地がもともとどう言う場所か知らないけれど、あの場所が異世界への入り口になっていたのは、踏切があったからでも電車にひかれるからでもない。もともとこの八咫鏡が地面に埋まっていたからだ。
 正人は倒れている和也を見つけると、「あとは任せたぜ」と言ってどこかへ行ってしまった。また伊吹山に行ったのだろうか。
「俺のやるべきことは、天逆毎を倒すことじゃなく、この世の理に触れ、二つに分かれた世界を一つに戻すことだ」と正人は言った。「天逆毎を倒すことは、それほど難しいことじゃない。さっきも言ったが、天逆毎は須佐之男命が強くなれば強くなるほど強くなる。だがその逆もまた然りだ」
「どう言うこと?」と私が尋ねると、「自分で考えてみるんだな」と正人は言った。
「わからないわよ……」と私が言うと、正人はため息を漏らした。
「和也にはもう、須佐之男命の力は感じない。そのうち取り戻すかも知れないが、いまの和也は、和也だ」
「つまり、須佐之男命の片割れである和也の力が弱まっているってことは、天逆毎も弱っているってこと?」
「いや、違う。いまの和也はもう、須佐之男命じゃないってことだ。そして和也が再び須佐之男命の力を得る前に、二人の須佐之男命を倒すタイミングを探すんだ」
「まるでなぞなぞね」
「もう一度、あの世界に戻るんだ。そこに答えはある」
「わかったわ」
「それともう一つ」
「もう一つ?」
「この一連の出来事には、もう一人大きな力を持った奴が関係している」
「もう一人? それって誰よ」
「予想はつくがな……」そう言って正人は空を見た。
「これが、天逆毎の仕業じゃないって言うの?」私は失われた日本の大地を見て言った。
「いいや、これは天逆毎の仕業だ。天逆毎と、和也のな」
「じゃあ何のことを言っているの?」
「おかしいと思ったことはないか?」
「なにが?」
「どうして俺と和也と美津子、もともと友達同士だった奴らがそろって神の末裔や八岐大蛇で、あの時代に飛ばされたのか。できすぎなんだよ」
「できすぎって?」
「俺には、誰かが俺たちの運命を捻じ曲げているようにしか思えねえ。そしてそんなことは天逆毎にはできねえ」
「じゃあ誰が?」
「それが今までわからなかったんだが、この空を見て見当がついたぜ」
「この空?」
「ああ。さっきも言ったが、天逆毎を倒すことはそんなに難しいことじゃねえ。だが、その後ろにいる奴を倒すのは、ちっとばかし骨が折れる」
「こ、この日本を、ここまでしておきながら、その天逆毎を倒すのは難しくないって言うの? そのさらに強い奴がいるって言うの?」
「そう言うこった!」正人はさもおかしそうに笑った。
 私はもう、言葉を失うと言うより、頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。
「まあ、そう気を落とすな。方法はある」
「どんな方法よ……」
「お前らはとにかくあの時代に戻り、美津子を探せ。俺もすぐに後を追う」
「探せって、どこを探せばいいのよ」
「恐らく出雲の辺りだ」
「あなたは、どうするのよ」
「俺はこっちの世界で用が済んだらすぐに後を追う」
「じゃあ、あなたがそいつを倒してくれるの?」
「ちげーよ。天逆毎を倒すのも、その後ろにいる奴を倒すのも、お前らがやるんだ。それに俺には別の役割がある。この狂った世界を、狂わされた世界を、元に戻すって言うな」
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