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14 共食い
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太陽が沈み、森が完全な暗闇に包まれると、スサノオは松の木を探して松明を作った。
「いいか、こういう油の浸み込んだやつを探すんだ」そう言ってスサノオは枯れた松の木をかき集めて、松明を作るのに向いた松とそうでない松の見分け方を教えてくれた。
亡霊は昨日と同じく、暗くなればなるほどその姿形をはっきりとさせた。
「ねえ、さっきの話、スサノオがもと神様って、どういうこと?」
「どういう事って、そのままの意味じゃねーか。俺はもともと神の国に住んでいた神の一族の一人だ。だが神の国を出て、一人の人間の女と出会い、契りを交わすことで俺は半分人間になっちまった」
「半分? 人間? どういうこと?」
「神には寿命がない。肉体も魂も滅ぶことはない。だが俺には肉体の寿命がある」
「死ぬ、って言うこと?」
「まあ、人間の考え方でいくとそう言うことだな。人間よりは長生きだがな」そう言ってスサノオは笑った。
「スサノオはいまいくつなの?」
「いくつ? 何歳ってことか? さあ、知らねーよ」スサノオは日に焼けた顔を松明の炎に照らされながらまた笑った。「神の国に時間はない。過ぎ越し方も、後の世も、そんなの人間の考え方だ」
「あ、それだ」
「それだ? 何がだ?」
「いま『後の世』って言っただろ? 僕が来た世界は、そこにあるんだ」
「和也が昨日言ったミライと言うやつか」
「そうそう、未来ってのは、きっといまスサノオが言った後の世のことだ」
「なるほどなあ、後の世、未来か。で、未来ってのはどんなふうになってる。いいとこかい? 神を見たことがないって言ったなあ。そんなことがあるのか。河童や亡霊もいないのかい?」
「神様を見たことはないよ。でも神様を信じている人はたくさんいる。河童や亡霊はいない。見えるって人も中にはいるけど、誰も信じちゃいない。いいとこか、って言われると……」僕はわからなかった。
「そうかい。まあ、未来がどんなとこかってーのは、これから和也を見て俺が想像するよ」
「僕を見て?」
「ああ。そこがどんな場所か、なんてことは、そこに住んでいる奴がどんなやつかを見ればわかる。『未来』、その言葉、覚えておくことにする」
亡霊の行列は、途切れることなく延々と続いた。
確かにスサノオの言う通り、この亡霊たちに害はないようだ。
よくよく観察してみると、剣をや弓を持った者、ぼろぼろの服を着てげっそりと痩せた者、赤ん坊を抱いた女や、しっかり表情までわかる顔を残した者や、骸骨になってしまった者、生前どんな風に生きていたか想像できるものが多かった。
どれくらい歩いたかわからない。
森は一向に途切れる様子がない。
「まてっ……」スサノオが不意に声を落としてそう言った。
「ど、どうしたの?」
「静かに。何かいる……」
僕にその姿は見えなかったけど、スサノオは深い森の奥、一点を見つめて警戒していた。
見ると、少し離れて隣を進んでいた八岐大蛇も止まって様子を窺っている。
コトネもハクビシンも、僕の後ろで息を潜めた。
「いや、ちがうな。なんだありゃ、何してる?」
「あれ? 亡霊が……」気が付くと、ずっと続いていた亡霊の姿が見えない。
「ああそうだ。向こうにいる何かに亡霊どもが足止めされてる」
「何が……、いるの?」
「いや、何がと言うより、ありゃ亡霊同士の共食いだな」
「亡霊の共食い?」
「気にするな。俺たちに害はない。犬同士の喧嘩みたいなもんだ。こっちが何もしなけりゃ、向こうも何もしてきやしないよ……、と言いたいとこだが」そう言ってスサノオは僕の足にしがみつき、不安な顔をしているコトネを見た。「コトネには無害、ってわけにもいかなさそうだな」
そう言えば、コトネも死んだ人間の魂だ。亡霊たちと同じと言うことになる。
近づくにつれ、だんだんと僕にも共食いをする亡霊と言うのが見えてきた。
でかい!
森の中で暴れるそいつは、高さが三メートル近くはあった。
死んでから時間が経つのか、見た目は骸骨だ。
鎧のようなものを着て、左腕が無く、胸から血を流している。
もがき苦しんでいるようにも見える。
バランスが悪くて立てないのか、這うようにして進んでいる。
動きは鈍いけれど、体が大きい分、手を振り降ろしただけで叩かれた地面が地響きを立てる。
オオオオオーーーーーーーンッ!!!
と森の木々を震わせるほどの唸り声をあげた。
なんだか他の亡霊とは違う。
他の亡霊は、ただ人の形をした白い影のようなものなのに、いま目の前で暴れるそいつはまるで実体を持つように見た目がはっきりしている。流れる血の色もちゃんと赤だ。
目の前を通り過ぎようとする亡霊を見つけると、そいつは右手で鷲掴みにし、吸い込むように口の中に入れた。
「何あれ、どうなってるの!?」僕は聞いた。
「戦で敗れた武将だろ。負けて死んだ武者どもの亡霊が集まり、さらに他の亡霊も食い物にしてあんだけでかくなったんだ。生きてた頃の念が強すぎるんだ。ありゃほっとくと怪異になるぞ」
「怪異?」
「化けもんのことだ」
「亡霊とは違うの?」
「亡霊は、何度も言うが害はない。同じ場所にいても、違う世界にいるからだ。俺たちに触れることもできないし、俺たちが触れることもできない。道が無くても進めるし、森の木もすり抜けちまう。だがあいつはもうこっちの世界に入りかけている。そのうち人間も食っちまうぞ」
「ど、どうするの?」
「さあな!」そう言ってスサノオは笑った。「まあ、やるだけやってみるさ」そう言うと、背中に背負った剣を抜き、「んおおおおおおお!!!!!!」と叫びながら武将の亡霊に飛び掛かっていった。
「いいか、こういう油の浸み込んだやつを探すんだ」そう言ってスサノオは枯れた松の木をかき集めて、松明を作るのに向いた松とそうでない松の見分け方を教えてくれた。
亡霊は昨日と同じく、暗くなればなるほどその姿形をはっきりとさせた。
「ねえ、さっきの話、スサノオがもと神様って、どういうこと?」
「どういう事って、そのままの意味じゃねーか。俺はもともと神の国に住んでいた神の一族の一人だ。だが神の国を出て、一人の人間の女と出会い、契りを交わすことで俺は半分人間になっちまった」
「半分? 人間? どういうこと?」
「神には寿命がない。肉体も魂も滅ぶことはない。だが俺には肉体の寿命がある」
「死ぬ、って言うこと?」
「まあ、人間の考え方でいくとそう言うことだな。人間よりは長生きだがな」そう言ってスサノオは笑った。
「スサノオはいまいくつなの?」
「いくつ? 何歳ってことか? さあ、知らねーよ」スサノオは日に焼けた顔を松明の炎に照らされながらまた笑った。「神の国に時間はない。過ぎ越し方も、後の世も、そんなの人間の考え方だ」
「あ、それだ」
「それだ? 何がだ?」
「いま『後の世』って言っただろ? 僕が来た世界は、そこにあるんだ」
「和也が昨日言ったミライと言うやつか」
「そうそう、未来ってのは、きっといまスサノオが言った後の世のことだ」
「なるほどなあ、後の世、未来か。で、未来ってのはどんなふうになってる。いいとこかい? 神を見たことがないって言ったなあ。そんなことがあるのか。河童や亡霊もいないのかい?」
「神様を見たことはないよ。でも神様を信じている人はたくさんいる。河童や亡霊はいない。見えるって人も中にはいるけど、誰も信じちゃいない。いいとこか、って言われると……」僕はわからなかった。
「そうかい。まあ、未来がどんなとこかってーのは、これから和也を見て俺が想像するよ」
「僕を見て?」
「ああ。そこがどんな場所か、なんてことは、そこに住んでいる奴がどんなやつかを見ればわかる。『未来』、その言葉、覚えておくことにする」
亡霊の行列は、途切れることなく延々と続いた。
確かにスサノオの言う通り、この亡霊たちに害はないようだ。
よくよく観察してみると、剣をや弓を持った者、ぼろぼろの服を着てげっそりと痩せた者、赤ん坊を抱いた女や、しっかり表情までわかる顔を残した者や、骸骨になってしまった者、生前どんな風に生きていたか想像できるものが多かった。
どれくらい歩いたかわからない。
森は一向に途切れる様子がない。
「まてっ……」スサノオが不意に声を落としてそう言った。
「ど、どうしたの?」
「静かに。何かいる……」
僕にその姿は見えなかったけど、スサノオは深い森の奥、一点を見つめて警戒していた。
見ると、少し離れて隣を進んでいた八岐大蛇も止まって様子を窺っている。
コトネもハクビシンも、僕の後ろで息を潜めた。
「いや、ちがうな。なんだありゃ、何してる?」
「あれ? 亡霊が……」気が付くと、ずっと続いていた亡霊の姿が見えない。
「ああそうだ。向こうにいる何かに亡霊どもが足止めされてる」
「何が……、いるの?」
「いや、何がと言うより、ありゃ亡霊同士の共食いだな」
「亡霊の共食い?」
「気にするな。俺たちに害はない。犬同士の喧嘩みたいなもんだ。こっちが何もしなけりゃ、向こうも何もしてきやしないよ……、と言いたいとこだが」そう言ってスサノオは僕の足にしがみつき、不安な顔をしているコトネを見た。「コトネには無害、ってわけにもいかなさそうだな」
そう言えば、コトネも死んだ人間の魂だ。亡霊たちと同じと言うことになる。
近づくにつれ、だんだんと僕にも共食いをする亡霊と言うのが見えてきた。
でかい!
森の中で暴れるそいつは、高さが三メートル近くはあった。
死んでから時間が経つのか、見た目は骸骨だ。
鎧のようなものを着て、左腕が無く、胸から血を流している。
もがき苦しんでいるようにも見える。
バランスが悪くて立てないのか、這うようにして進んでいる。
動きは鈍いけれど、体が大きい分、手を振り降ろしただけで叩かれた地面が地響きを立てる。
オオオオオーーーーーーーンッ!!!
と森の木々を震わせるほどの唸り声をあげた。
なんだか他の亡霊とは違う。
他の亡霊は、ただ人の形をした白い影のようなものなのに、いま目の前で暴れるそいつはまるで実体を持つように見た目がはっきりしている。流れる血の色もちゃんと赤だ。
目の前を通り過ぎようとする亡霊を見つけると、そいつは右手で鷲掴みにし、吸い込むように口の中に入れた。
「何あれ、どうなってるの!?」僕は聞いた。
「戦で敗れた武将だろ。負けて死んだ武者どもの亡霊が集まり、さらに他の亡霊も食い物にしてあんだけでかくなったんだ。生きてた頃の念が強すぎるんだ。ありゃほっとくと怪異になるぞ」
「怪異?」
「化けもんのことだ」
「亡霊とは違うの?」
「亡霊は、何度も言うが害はない。同じ場所にいても、違う世界にいるからだ。俺たちに触れることもできないし、俺たちが触れることもできない。道が無くても進めるし、森の木もすり抜けちまう。だがあいつはもうこっちの世界に入りかけている。そのうち人間も食っちまうぞ」
「ど、どうするの?」
「さあな!」そう言ってスサノオは笑った。「まあ、やるだけやってみるさ」そう言うと、背中に背負った剣を抜き、「んおおおおおおお!!!!!!」と叫びながら武将の亡霊に飛び掛かっていった。
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