番を求めて

エトカ

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番を求めて

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 あなたはわたしのもので、わたしはあなたのもの。

 わたしが一番じゃなくちゃ嫌。
 わたしのことを心配してくれて、いつも気にかけてほしい。

 愛されてるっていう証拠がほしいの。

 ねぇ、もっとわたしを好きになって。
 愛してるって言って抱きしめて。

 あなた以外なにもいらない。
 だからずっとそばにいて。





 *





 アンフィスバエナ帝国、執務室。書類に目を通していたブロンドの髪の男が顔をあげた。


 「印が現れた?」

 「はい。東の見張り台からの連絡で間違いありません。夜明け前に出現したとのことです」


 宰相からの報告を受け、ターコイズブルーの目が見開かれた。


 「……目視できるのなら、他の国々にもすでに知らせが行っているはず」

 「いかがされますか」


 誰もが固唾を呑んで次の指示を待っている。
 男は一瞬考える素振りを見せた後、立ち上がると各位に素早く指示を出していった。


 「我々もすぐに向かう。第一騎士団に連絡を。陛下には帰城後に報告すると伝えてくれ」


 男は幾人かの部下を連れて城を出ると、黒馬に乗って目的の地へと向かった。
 馬を乗り潰しては別のに乗り換え一昼夜走り続けた一行は、二日目の朝ようやく目的の地に到着した。


 「空に二つ目の虹が……っ!」


 誰かが感極まった声で叫んだ。見れば涙ぐんでいる者までいる。
 この地に生きる全ての者たちが待ちわびた日が、ついに訪れた瞬間だった。

 
 「ミカール殿下、どうやら我々の方が一足先に到着したようです。今のところ問題ありませんが、お急ぎになられた方がよろしいかと」

 「分かっている。ダネルはいるか」

 「はっ、お呼びでしょうか」


 長い銀髪を一つにまとめた男が、前に現れてミカールの前で片膝をついた。


 「これよりかずの森に入る。そして発見し次第、速やかに回収し撤退する。その補佐をお前に頼みたい」


 ミカールが命ずると、ダネルは速やかにその準備にとりかかった。残された者たちは副団長の指示のもと、準備に向けて動き出す。

 幾重にも張られた結界は、降臨を知らせる虹が出現した時のみ解かれると言われていた。強引に入ろうとすれば、神の怒りに触れて一瞬で塵となる。

 そんな言い伝えのある森に、二人は恐れることもなく足を踏み入れた。
 鬱蒼とした森は薄暗く、生き物の気配は皆無だった。足場に気をつけながら、二頭の馬が目的の場所へと急ぐ。

 彼らが草の根を分けて進んで行くと、一本の巨木の前に辿り着いた。どっしりと立つ木は、大人十数人がぐるりと囲えるくらいの太さがあり、まるでこの森のぬしであるかのような存在感があった。

 青々と茂る木々の枝葉から差し込む木漏れ日が、大地に降り注いでいる。神秘的な光景にミカールは目を細めた。そして幹のくぼみに、隠れるようにして人の姿があるのを見つけた。


 「……居た」


 ミカールが駆け寄ると、そこには身体を丸めて眠る少女の姿があった。
 そっと抱き上げ、あまりの軽さに驚く。腕の中で眠る少女を見下ろしたミカールは、ジンと胸が熱くなって涙が込み上げた。

 その場に立ち尽くす彼に近づいたダネルは、持参して来たブランケットを少女にそっとかけてやる。

 ミカールは安らかに眠る様子を見つめた後、愛おしそうに抱きしめて、もと来た道を引き返した。





 *





 どれくらい経ったのだろう、時の流れに取り残されたまま、うつらうつらと眠り込んでしまったような感覚だった。


 絹糸が流れるように無骨な指の感触を肌で味わい、その心地の良さに身を任せていると、わずかに開いていた唇がふさがれた。
 深い口づけをされながら舌を絡ませ、注がれる唾液をコクリと飲む。甘いそれはまるで媚薬のようで、ビリッとした快感が身体を突き抜けた。やがて片足を持ち上げられると、潤みきった泉に硬い熱棒がググッと押し入ってきた。


 「んぅ……んっ……んん……っ」


 ぬめった隘路の中をそそり立った逸物が滑り込んでくる。今まで味わったことのない、えもいわれぬ快感に打ち震えた。深い位置まで挿入されると同時に小刻みに抽挿が始まった。コツコツと優しく奥処をノックする。その度に喉から熱い嬌声が押し出された。


 「あっ、あぁ、あぁ、いいぃ……ッ!」


 このままドロドロに溶けてしまいたい。宝物のように抱きしめられていると、愛されているのだと嫌でも実感させられた。
 胸をつきたての餅のようにね回され、時おりぷっくり尖った先端を摘んでクリクリと遊ばれた。

 じんわりと浅いところで何度も気をやっていると、両脚を高く持ち上げられた。そのまま下肢を頭の横まで折りたたまれ、尻がシーツから離れて浮きあがる。目を向ければ、上を向いた秘部に突き刺さる結合部分が丸見えだった。


 「あ、……あぁっ」


 熱っぽいターコイズブルーの眼差しが、羞恥におののく女の様子をジッと観察している。


 「……だ、れ……あな……た」


 次の瞬間、最奥をズンッと一気に貫かれた。


 「はぅ……っ!」


 そのまま荒々しい腰使いで感じる場所を狙って突いてきた。一突き一突きが重く、内臓まで揺さぶられているような感覚に何度も意識が飛びそうになる。
 過ぎた快感から逃れたいのに、逞しい体躯に押さえつけられていてビクともしない。





 ーーこれでお前は私のものだ……、そして私の全てはお前のものになる。





 彼が何を言っているのかよくわからなかった。けれど心は歓喜に打ち震えた。ひび割れた心のグラスに、苛烈なまでの激情が急流となって注がれていく。





 ーー愛してる……お前の他になにもいらない。

 『ほんとうに、ずっと一緒にいてくれる?』

 ーーああ。もう片時も離さない。私という名の箱庭で、これでもかと言うくらい愛で尽くしてやろう。

 『嬉しい、絶対に離さないでね』





 満たされる歓びに目尻から涙がこぼれた。
 迫りくる絶頂を必死になって訴えると、律動が早くなり頭が一瞬で真っ白になった。


 「あ、んっ、あっあっあーーーーっ」


 深い深い闇の底に沈みながら、サワサワと波がしらの泡粒が、美しい音楽を残して消えていった。



 *



 アンフィスバエナ

 竜は最初に同胞を愛し、次に人々を愛した。

 やがて魂の伴侶を見つけた彼等は、盲目的なまでの愛寵ちょうあいに生涯を費やし、

 ついに死をも愛せるようになった彼等は、番との死に人生最大の幸福を見た。 





 *





 竜の血族が国を治めて五千年。民のために開かれた国土は世界一を有する。
 皇国の者たちは長い年月をかけて混じり合い、種族の垣根を越えてひとつの民となった。

 ミカール・キルナ・アンフィスバエナ。
 現国王の一粒種は、もうずいぶん長いこと魂の伴侶を探し求めていた。しかし、時は彼を待ってはくれなかった。


 王の老いである。


 近い未来に王となるミカールは、一刻も早く妃を娶らなければならなかった。周囲の者たちは、あらゆる手を使ってそれを実現させようとした。

 国中の美姫を城に集めて舞踏会を開いたり、夜寝所に女を忍ばせて既成事実を図ろうとしたり。しかし、どれも失敗に終わる。

 諦めきれなかった彼は、全能なる神に日々祈りを捧げ、世界中を旅してまわった。


 「私は人生の義務はひとつしかないと思っている」


 そう言って、彼はダネルを見た。


「それは幸福になることだ」


 彼は心の深いところで知っていた。たったひとつの救いを。それが“愛すること”だということを。





 *





 印が現れたとの知らせを受けた時、ミカールは歓喜に震えた。


 やっと……、やっと祈りが通じたのだ。


 泣くことも笑うことも忘れてしまっていた彼に、新たな希望の息吹が吹き込まれた瞬間だった。

 天より降りし神の子は、求めに応じて何者にもなれると言い伝えられている。
 あるじが聖女を求めれば聖女になり、戦の勝利を願えば覇者となって国を導く者となる。

 番が見つからなかったミカールにとって、この機を逃せば番を得る道は完全に閉ざされるだろう。そして孤独の苦しみを生涯にわたって味わい続けるのだ。


 「いかがされますか」


 「我々もすぐに向かう。第一騎士団に連絡を。陛下には帰城後に報告すると伝えてくれ」


 幸いにも、最初に開かずの森に入ったのはミカールたち一行だった。
 はやる気持ちを抑えて慎重に歩みを進める。やがて巨木の前にたどり着いた彼は、膝を胸に抱き寄せて眠る少女を見つけたのだった。

 彼女を見た瞬間、脳天から強烈な稲妻に打ち抜かれたかのような衝撃を受けた。


 色褪せた世界に唯一光り輝く存在。番。魂の片割れ。


 初めて触れた時の感動は生涯忘れることはないだろう。こみ上げてくる涙で視界が歪む。目を瞬かせて雫を散らし、腕の中で眠る愛しい存在を見つめた。そこへ近づいて来たダネルが、眠る彼女にそっとブランケットをかけてやる。

 すっかり彼の存在を忘れていたミカールは、ダネルを前にどす黒い独占欲に染まっていく。


 ーーこれは私のものだ、誰にも渡さない。


 ミカールは愛しい存在を隠すように包むと城へと急いだ。
 無事に帰城したミカールは、国王に報告もしないまま真っ直ぐ自室へと向かった。扉を閉める直前、「私が声をかけるまで誰も部屋に近づけるな」とだけ言って内側から鍵をかけた。





 *





 ミカールの番となった乙女は、寝台の上ですやすやと眠っていた。しなやかな裸体を前に、ミカールの雄の本能が刺激される。
 そっと触れれば、磨いた象牙色の肌はしっとりと吸い付いつくような手触りがした。
 彼女から立ち昇る甘い香りが鼻腔をくすぐり、ミカールは酩酊したかのような多幸感に満たされた。

 自らも服を脱ぎ寝台に上がると、シーツに広がる黒髪にスルリと指を通し、その艶やかさに感動した。

 薄桃色の唇が目に入り、蜜を求める蜂のように吸い寄せられて口付ける。唇を割って舌を差し込んだミカールは、その甘さに夢中になって口内を蹂躙した。


 思わず最奥まで突いて犯してしまいたい衝動にかられたミカールは、その欲望に抗えず、まだ十分に解せていない密穴にいきり立った怒張をねじ込んだ。 


 ーーーーああーーーー


 頭は一瞬で白くなり、快楽しか感じなかった。
 ゆっくりと引き抜き、ふたたび奥へと進む。奥の奥をやさしく突いてやると、可愛らしい嬌声が紡ぎ出されてミカールの耳をくすぐった。


 ーーこれでお前は私のものだ……、そして私の全てはお前のものになる。


 私以外の男を見るのも、女を見るのも許さない。
 でなければ、私は嫉妬で狂ってしまうだろう。

 私以外と喋ったり、触れたり触れられたりするなどもってのほか。
 生涯、私だけを見ていてくれ。

 お前は私のものだ。
 誰にも渡さない、絶対に離さない。

 
 「はぅ……っ!」


 ミカールは両の脚を肩に担ぐと、上から全体重をかけた。そして奥までどちゅんと貫く。

 その衝撃で、組み敷かれた乙女は顎を上に向けて目を見開いた。焦点の合わない黒い瞳はどこか遠くを見ているようだった。
 尋常でない熱と太さ、そして硬い彼のものが、極限まで広げられた蜜口にずぼずぼと出し入れされる。


 「あ、んっ、あっあっあーーーーっ」


 甲高い嬌声が響くと同時にミカールも絶頂し、ビュルッと大量の飛沫を胎の中に吐き出した。
 はぁはぁと荒い息を吐きながら、小さな身体をギュッと抱きしめる。


 この美しく愛らしい存在を、このままどこかに隠してしまおう。
 閉じ込めて自分だけのものにして、ひたすら愛でるのだ。


 恐ろしいほどの強烈な執着心と独占欲、そして狂愛が彼を新しい何かへと変えていった。

 異世界をも超えてひとつになった魂は、完全なものとなり、未来永劫離れることはない。





 【完】



 *


 【ダネルの苦悩】


 三代前の王妹が降嫁した侯爵家の長男であるダネルは、幼少の時に皇太子であるミカールの遊び相手に選ばれた。

 五つ年下のミカールは天使の様な美しさを持ち、また聡明で賢い子供だった。当時十歳だったダネルは、五歳になったばかりの彼を見た瞬間、無意識のうちに膝を折って屈従していた。


 ーー圧倒的なオーラ。


 次世代を担う彼は、この時すでに自分の置かれた状況を理解していたのだろう。
 幼児独特の無邪気さはどこにも見当たらず、支配する者としての風格が出来上がっていた。

 竜の血を濃く受け継ぐ王族は、王位継承までに番を見つけなければならなかった。
 運命の相手と結ばれなければ、ほぼ子は成せないと言われているからだ。

 現王と番った女は二十も歳上だったため、授かった命はミカールひとりだけだった。
 国中が皇太子の誕生を喜び、明るい未来を願った。

 竜の血が途絶えない限り、国の安寧は未来永劫続く。しかしそれはつまり、血が途絶えれば国は滅びるということになる。

 国中の願いを一身に背負う彼に、ダネルは忠誠を誓い命を捧げた。

 時が経ち、二十五歳を迎えたミカールに、まだ番はいなかった。
 老いてゆく国王に焦った重鎮たちは、番ではない貴族の娘を充てがおうとした。出生率は大幅に下がるが決してゼロではない。そこに賭けたのだろう。

 それでも皇子は頑としてそれを拒んだ。そして遂に祈りは聞き届けられ、番となる乙女を得ることが出来たのだった。


 そしてそれは、ダネルが恋に落ち、敗れた瞬間でもあった。


 ーーあれが欲しい


 王族ほどの濃さではないとはいえ、竜の血を引くダネルにとって彼女は麻薬だった。
 喉から手が出るほど欲しいのに、決して手に入らないもの。

 ミカールへの忠誠心が、かろうじてダネルをその場に留まらせた。

 目を閉じて大きく息を吸ったダネルは、ゆっくりと息を吐きながら胸の奥に潜む激情にそっと蓋をしたのだった。


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