私の愛する夫たちへ

エトカ

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第三部

外の世界

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 「本当にどこもおかしくない?」

 「どこにもおかいところなんてないよ。こんな可愛らしいレディと出かけられるなんて私は幸せ者だ」


 ロレンスが眩しそうな眼差しで下町で着られている服を身につけた真希を見ている。
 今日は真希とロレンスが城下町を散策する日だった。待ちに待った外出に、真希ははやる気持ちを抑えられずにいた。

 悪目立ちしないよう、真希とロレンスはシンプルな服装をしていた。それでも存在感のあるロレンスは立派な体躯もあって、平民に変装した貴族だとバレバレだった。真希の方は女性というだけで注目を集めるだろう。

 アルマロスとレラージェは最後まで心配していたが、二人が厳選した騎士を十人つけることでなんとか話がついた。


 「護衛、十人も必要ですか?」

 「マキ。君はただの女性ではない、稀人だ。先日のパーティーでおおやけにした以上、これからは常にリスクがつく。それを考慮すれば十人でも足りないくらいだよ」


 ロレンスが力説した。そういえば、以前アルマロスの屋敷から城に移る途中、馬車の中から街の様子を見たことがあった。その時に気づいたのは、女性がほとんど見当たらないことだった。

 その時に受けた説明では、女性が外出する時は複数の夫たちが妻を守るのだと言っていた。夫が三人いる真希だが、今回アルマロスとレラージェは仕事で忙しく同行出来ずにいた。

 女性である他に稀人であることを加味すれば、厳重な警護は必要不可欠なのだろう。騎士らも私服で人混みにまぎれるようにして付いて来るそうだ。

 城を出た真希とロレンスは、馬車に乗って大通りを通過していった。しばらくの間、窓越しに景色を楽しんでいたが、真希が歩くことを希望したので停車所で下りることにした。

 すると真希が下車した途端、周囲がざわついた。誰もが真希を見て驚いた表情をしている。女性だから?それとも稀人だから?きっとその両方なのだろう。

 言葉では言い表せないプレッシャーを感じ、居た堪れなくなった真希は俯いた。すると、それを見たロレンスが真希の顎をつまんで上向かせた。


 「大丈夫だ、私が付いている。マキがあまりにも可愛らしいから、奴らは君から目が離せないだけだよ。さぁ、行こう」


 ロレンスに手を取られ、二人は大通りを歩いた。
 どうやら今いるところは貴族たちが訪れるブティック街のようだった。陳列されたドレスや宝石などがショーウィンドウに所狭しと飾られている。

 ウィンドウショッピングに真希のテンションは上がった。宝石やドレスは夫たちから贈られたものがたくさんあるので、別に欲しいとは思わない。それでも女性というのは綺麗なものや可愛いものに魅かれる生き物だ。真希はキラキラした目で大いにウィンドウショッピングを楽しんだ。

 次に向かったのはいわゆる平民街だった。今日は週に一度のマーケットが開催される日だったようで、通り沿いには白いテントがずらりと並んで様々な物が売り出されていた。

 そこで真希はミサンガによく似たブレスレットを見つけた。三つ編みやボーダー模様、クロス模様など様々なものが並べられている。その中から、真希は一つ選ぶとロレンスに買いたい旨を伝えた。そして購入したそれをロレンスの腕に結びつける。


 「これね、私がいた世界では “ミサンガ”っていうの。ずっとつけておいて、切れたら願い事が叶うんだって。ほら、これロレンスの瞳の色と私の色が使われているでしょう?今日の思い出にって思ったんだけど嫌だった?」


 真希が選んだのは、明るい茶色と黒の糸を使った菱形のミサンガだった。落ち着いた色味だから普段からつけていても悪目立ちしないだろうと思ったのだ。


 「いいや、嬉しいよ。ありがとう、大切にする」


 そう言うと、ロレンスは真希を抱き寄せた。


 「私からも何かプレゼントをさせてくれ。何か欲しいものはないかい?」


 何があるだろう。城での暮らしは必要なものが全て揃っているため、真希は何が欲しいのか分からなかった。
 考えあぐねる彼女を見て、じゃあ歩きながら選ぼうということになり、再び二人は手を繋いで歩き出す。

 途中、いい匂いが漂ってきたのでそちらの方へ行ってみる。すると、美味しそうな食べ物がずらりと売られていた。丁度昼時とあって、二人は甘辛ダレがたっぷり塗られた肉と野菜の串刺しと、フルーツを絞った飲み物を買ってそれを昼食にした。

 木陰に設置されたベンチに腰をかけた二人は、買ってきたものを早速いただくことにした。


 「いただきま~す。んん!おいひい!!」


 食べた肉は柔らかく、タレとの相性がバッチリだった。


 「はは、豪快にいったね。どれ、私も一ついただくとしよう」


 ロレンスは手に持った串から肉と野菜を一緒にパクリと一口で口に入れた。そして「うまい」と一言。
 二人は手に持ったフルーツ入りドリンクで乾杯し、下町の雰囲気と味を楽しんだ。


 「初めて見る外の世界は、君にはどう映ったのか聞いてもいいかい?」


 手を繋いで歩道を歩いていると、ロレンスに質問された。真希は少しの間考えてから、今感じていることを素直に伝えることにした。


 「どこもかしこも活気があってエネルギーに満ちていると思ったわ。男の人が多いからなのかしら、……なんて言うか、今まで感じたことのない雰囲気で、最初は戸惑ったけれど今は興味深いと思ってる」


 本当に女性がいないのだ。いや、いたのかもしれないが全く気づかなかった。女性が少ない世界だと話では聞いていたけれど、実際にそれを目の当たりにすると、ことの深刻さを改めて感じさせられた。

 それでも人は歩みを止めず今を精一杯生きている。なんだか真希は、そこに希望を見た気がした。


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