赤の章~緋色の騎士~

虹あさぎ

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第一章

5

 
 どれくらいそうしていたのか、琉璃が呆然として座り込んでいる間に、朝の柔らかい日差しはいつの間にか明るく眩しいものへと変わり部屋へと差し込んできていた。

 その時、後ろから突然ノックの音が響く。続いて聞こえる女性の声。琉璃は少し気怠けだるげに立ち上がるとゆっくりと入り口のドアを振り返った。

 その先には、栗毛色の髪を頭の高い位置でくるくると一つにまとめた明るい黄緑色の瞳の少女が立っている。年齢は自分と変わらないくらいに見えた。

 少女は琉璃が目覚めている事に一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにニコリと微笑むと話し始めた。

「え?」

 思わず小さく声が出た。
 
 その小さすぎる琉璃の声は少女には届かなかったのか、彼女はさらに話を続けた。

 ──何これ?言葉が全然聞き取れない。

 いや、聞き取れないというより、言葉自体が分からなかった。英語ではない事はわかる。しかし琉璃にはそれくらいしかはっきりした事はわからなかった。

 なので今の琉璃にできる事は、少し困った表情を浮かべて言葉が分からない事をアピールしながら、伝わらないだろうなと思いつつも日本語で話す、それだけだった。

「あの、何言ってるのか全然分からないんですけど……って言っても、やっぱり通じない……よね?」

 少女は再び驚いた表情を浮かべて琉璃に手招きすると、近くのソファーを指差し、ここに座ってそのままでいてほしいといった仕草をした後、少しなにかしゃべってから部屋を出て行った。

 残された琉璃は、ますます訳が分からなくなっていたが、彼女が再び戻ってくるのを待つしかなかった。

  ***

「フィル様ぁ~!!」

 声と同時に、勢いよく開いたドアに、フィルは紅茶のカップを上げかけていた手を止めた。

「リリー……」

 ロイドは主人の部屋に、至極無作法な態度で飛び込んできたメイドの名を嗜めるような低い声で呼んだ。その表情は非常に険しい。

「あ!!いけない!」

 リリーと呼ばれた彼女はそのロイドの声と顔に驚き、しまったという分かりやすい表情をその顔に浮かべた。そして一度勢いよく開いたドアから静かに出て行くと、ノックをしてロイドの返事を確認してから再びドアを開け直した。

 バツが悪い感じでオドオドと部屋に入ると、まだ厳しい顔を崩さないロイドの隣で、彼女の仕える屋敷の主人であるフィル・リュデルガー・ベルシュタットは額に手を当てて愉快そうに笑っていた。

「フィル様。笑いすぎですよぉ!!」
「いや、失礼……」

 そう言いながらも、まだククッと笑い続ける主人に、少しだけ納得いかないとは思いつつも、リリーはそれよりも優先させるべき事を思い出して言った。

「フィル様が連れてこられた方が、目を覚まされたんです」
 
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