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第2章
愛しい人〈グラン視点〉
しおりを挟む「もう少し、考えさせてくれませんか」
そう言った俺の愛しい人は、戸惑っている上に、辛そうな顔を見せた。
やはり俺のことが受け入れられないのだろうか。
それもそうだ。彼の記憶の中での最初の出会いは最悪そのものなのだから。
サクスム家での茶会のとき、俺とエウテルは再会した。実際にはエウテルにとっては初会だったのだろうが。
彼と初めて出会ったのは、キタラ家の三男の披露目パーティーだった。彼が裏庭で蹲っているのを見つけ、心配になり話しかけた。俺に気づき顔を上げた彼の顔は、年齢にそぐわないほどの多くの負の感情がこもった表情をしていた。手を差し出そうとすると、それを突っぱねまた蹲った。「僕に触るなっ!!」とも言われた。
まだ幼く他人の都合までは考えられなかった俺は、「いつまでも卑屈になっているんじゃない」と言って彼を無理やり立たせようと腕を引っ張った。
その瞬間、彼は近くにあった木の枝を取り俺の鎖骨付近を引っ掻いた。予想以上に深かったようで、その日一日中ずっと血が止まらなかった。今でもその傷は残っている。
その時彼は顔を歪ませて泣きながら、「今までずっと幸せだったやつには僕のことなんて何にも分りゃしない!」と叫んだ。
幼少期から、剣の訓練や勉強など、ヴィオローネ家に相応しい人間であるよう厳しく躾けられてきた俺は、もちろん辛いと思うことも何度もあった。
だから、俺のことだってわかるはずもないのに、今までずっと幸せだったやつと言われ癪だった。それから、エウテル・キタラの印象は悪いまま再会した。
傷をつけられた挙句、罵られたことを忘れるはずもなく、酷い態度で再会した彼に接した。しかし、あの時の威勢はなくなり、まるで俺のことなど覚えてないかのような反応を示したので、思わずイラついて傷を見せた。すると彼はより怯え謝罪を繰り返した。昔の彼とは別人物なのではという違和感さえ覚えた。
俺はあの行動を非常に後悔している。彼は、本当にあの時の記憶がなかったのだ。それも、毒を飲まされたことによる記憶喪失で、過去の全てを忘れてしまっていた。そんな人を、俺は自分の都合で傷つけてしまった。
学園や今回の調査で彼を知っていくうちに、一つの感情が生まれた。何に対しても懸命に取り組み、最も親しいであろうイル・ヴァディエを心から慕い、彼のために悪戦苦闘する姿に惹かれた。エウテルをそばで守りたい。そう思うようになった。
決して、番だからというわけではない。番だと気づく前だった。だからこそ、彼が番だと気づいた時には、歓喜をあげた。
それと同時に、彼が傷ついて今にも息絶えそうになっている姿を見て絶望した。あれだけ守りたいと思っておきながら、彼を守れなかった。
だが、エウテルは俺が少し回復させる度に感謝を伝えてくれた。トラウマになるほど、酷い目にあったのにも関わらず、笑いかけてくれた。そんな彼を見て、やはり、俺がそばで守りたいと思ってしまった。
番として、彼と一生を添い遂げたいと願ってしまったのだ。
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