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008 『2時限目 生きる気力』
しおりを挟む着替えられた王子は、なかなか似合っていた。
市井にも溶け込めそう。
イメージ通り。
ただーー
一応病み上がりなので、あまり疲れさせたくない。
そしてーー
まだ不特定多数と会うのは時期尚早。
毒殺未遂後なので。
少しデリケートに対処しようと思う。
「では、王子様」
「何でしょうか? 家庭教師様」
王子が嫌味で切り返した。
だから可愛い過ぎます。
「私のことはアリシアとお呼び下さい。そして王子様ーー」
アリシアは声を潜める。
「……以後、王子様とは呼びません。二人きりと時以外何が起こるか分かりませんので。伯爵と私以外は、使用人一同伯爵様の親類という身分になっております。ですから何とお呼びしましょうか?」
「………ではルシアと」
それはめちゃくちゃ本名じゃないですか。
バレます。
「その御名でお呼びしたいのはやまやまですが、少し危険ですね」
「………」
気落ちしてますよ? 王子様。
「……では、ルーとだけ」
本名の次は、頭文字か……。
つまりーー
王子様にとって名は大切なものだということ。
自分の名前に忌避感を持っている人間は沢山いるけど、王子様に取っては愛着のあるもの。
変えたくはないのだ。
そこは尊重してあげたい。
でもシの音は使えない。
シは音的にはi音だ。
その部分だけ残そうか?
「ではルー様にイを付けてルーイ様にしましょうか? それ程印象は変わりませんし……」
王子は小さく頷いた。
オッケーが出ました。
「ではルーイ様」
私は手を伸ばした。
「?」
「手を繋いで参りましょう」
「エスコートが必要な場所なのか?」
いえいえ。
舞踏会じゃあるまいし。
庭ですから。
しかも辺境の。
「エスコートに似ていますが、ちょっと繋ぎ方が違います」
アリシアは王子の左手を取る。
「こんな風に手の指で相手の手の平をそっと掴むように繋ぐのです」
前世では恋人同士がよく手を繋いでいた。
けれど今世ではエスコートがやっぱり主流だと思う。
庶民であれば、親子で手を繋ぐかもしれない。
あくまではぐれない為の実用だけれど。
そしてーー
貴族は親子であっても手を繋ぐ機会は稀だろう。
「何の為に繋ぐ?」
「体温を感じる為に」
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