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大学生

第6話

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 「そろそろ映画館に行くか」

 「うん!」

 マッグで昼食を食べた後、俺と六花は店を出て映画館へと向かった。
 
 「だから……くっつくなって」

 六花は午前中と同じく、俺の腕を自分の小さい胸に抱き寄せていた。
 二つのマシュマロが俺の腕を揉みくちゃにする。
 ――お、おおお俺の腕があぁぁぁぁ!
 もうやめてくれ!

 「いいじゃん!それとも……照れてるとか?」

 六花がイタズラっ子みたいな表情をして、さらに俺の腕をギュッと胸に押し付けた。
 俺はもう呆然としていた。
 手ではないとはいえ、感触がハッキリとよく伝わってくる。
 
 「べ、べべべべ別に照れてねぇし!」

 と、言いつつも俺は反射的に顔を逸らしてしまった。
 まともに顔が見ることができず、どうしていいか分からない。
 ――って、これ……午前中にもあったよな?

 「ねぇねぇ!それよりもうそろそろ着くよ?」

 六花にからかわれてたから気づかなかったが、もう映画館までは目と鼻の先だ。

 「でも、意外と混んでるなぁ……」

 最近、映画館の利用率が下がってるとか映画館離れとかネットニュースで目にしたような気がする。
 が、この行列……。
 映画館の店員らしき人が行列に並んだお客さんに整理券を渡している。そして、もう一人店員らしき人が待ち時間の書かれたボードを掲げていた。

 「三時間待ち……」

 今現在午後一時だから映画館に入れるのが午後四時というところか。
 うーん。
 んーん。

 「六花、帰ろうか」

 たかが映画ごときにこんなに待てるかッ!
 三時間もあれば、何ができるやら。
 今から帰れば、少なくとも三時間という無駄は省けるはず。

 「えー。なんでー。帰りたくなーい」

 六花が駄々をこねる子どものように言った。
 
 「帰ろう。三時間も無駄にしたくないし」

 人間は限られた時間でしか生きられないし、いつ死ぬか分からない。
 かつて誰かが言っていたが『一分一秒を大切にしろ!』と、俺は教えられたことがある。
 その時はどういう意味か分からなかったが、今なら分かる。
 
 「隼人、一分一秒を大切にすることも大事だけど……私のこともそれぐらい大事にしてね?」

 なんか心を読まれた上に、サラッとすごいことを言われたような気がする。
 ……でも、気のせいだよね?

 「……分かったよ……」

 六花がそこまで言うので仕方なく待つことにした。
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