月に誓った、千年の恋 ―時を超えて、ただ君へ―

🌙第一章「光の巫女と騎士」

第九話 「再会の誓い」

森の中、焚き火の残り火が小さく揺れていた。

レオンは剣を膝に置き、ひとり、夜空を見上げていた。
かすかに光る月。その輪郭は、どこかエリスの面影を思わせる。

「無事でいてくれ、エリス……」

王都からの追っ手はすぐそこまで迫っている。
あの夜、エリスと別れてからまだ三日。彼女は、先に北の隠れ里へと向かった。
レオンは囮となって別ルートを辿っている。

──剣を振るうことしか知らなかった自分が、
　　こんなにも誰かのために願ったことがあっただろうか。

風が枝を揺らす気配と同時に、気配を感じた。
──敵。

レオンは剣を抜いた。
次の瞬間、三人の兵士が森の影から飛び出した。

「裏切り者の騎士、レオン・フィリオス！国王陛下の名の下に拘束する！」

「……ならば、俺は神の名の下に誓う。この剣は、ただ彼女を守るために振るう」

鋼がぶつかり合う音。
一人、また一人と倒れていく敵兵。
しかし、三人目──若い兵は、レオンの腕をかすめた。

「くっ……！」

浅い傷だったが、血がにじむ。
だがその時――

「レオン！」

息を切らして駆け寄る影。
エリスだった。彼女は隠れ里へ向かったはずの道を引き返してきたのだ。

「なぜ、戻ってきた！危険だと――」

「……あなたを感じたの。森の向こうで呼んでる気がして。行かないでって」

レオンの心臓が強く跳ねた。
神託でも運命でもない、彼女の“想い”が、彼を見つけたのだ。

「……バカだな、おまえは」

「うん。でも、あなたを失うよりマシ」

満月が二人を照らす。
血の匂いと、深い森の静寂の中で、二人は再び手を握った。

「もう、離さない。何があっても……」

「ええ。今度は私も、すべてを捨てても一緒にいる」

そう誓った夜、空には、今にもこぼれそうなほど大きな満月が輝いていた。