月に誓った、千年の恋 ―時を超えて、ただ君へ―

月華 澪

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🌙第三章 「忘れられない人」

第十四話 「最後の灯り」

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夕暮れの書店は、柔らかなオレンジ色に染まり、静かな時間が流れていた。

その日、さくらは最後の出勤だった。
けれど、それを知っているのは店長だけで、湊も、咲希も、まだ何も知らない。

閉店作業を終えた頃、湊が事務所から戻ってきた。

「……今日もおつかれさま」

「……おつかれさまでした」

さくらは、いつもと変わらぬ笑顔で答えた。
けれど、その瞳の奥には、言葉にできない想いが揺れていた。

「さくらさん、少しだけ……話せる?」

湊が声を落とす。

「……はい」

ふたりはカフェスペースの、いつもの窓際の席に並んで座った。

「綾乃と、話したんだ」

湊の声は静かで、どこか遠くを見ているようだった。

「……そうですか」

「彼女は……ずっと気づいてた。俺が、さくらさんのことを、目で追ってるって」

さくらは、何も言えなかった。
ただ、胸の奥で何かがきしむ音がした。

「それでも、綾乃は離れなかった。……俺には、彼女を裏切れるだけの覚悟がなかったんだと思う」

沈黙が降りる。

「……ごめん。さくら……」

「……謝らないでください。湊さん……」

さくらは顔を上げ、まっすぐに彼を見つめた。

「私、ずっとわかってました。あなたが誰を選ぶのか……それでも、そばにいられた時間が、私には宝物でした」

湊の目が揺れる。

「……さくら……」

けれど、その言葉の続きは、彼の唇からこぼれなかった。

代わりに、さくらがゆっくりと立ち上がる。

「……私、今日が最後の出勤日でした。明日でバイト、辞めます」

「……え?」

「伝えるのが遅くて、ごめんなさい。でも……ちゃんと、この気持ちだけは最後に言わせてください」

さくらは深く息を吸い、そして静かに、言葉を紡ぎ始めた。

「……あなたが、私の赤い糸で結ばれた運命の人でした。前世からずっと続いてきたつながり。私は、そう信じていました。

あなたといると、あたたかくて、居心地が良くて。
ずっとこうしていたいなって……ほんとは、私のところに来てほしいって、何度も思ってました」

湊は息をのむ。

「だから……湊さん。
また生まれ変わっても、次は私を待っていてほしい。私は、あなたを必ず探すから。
この言葉を、この気持ちを、覚えていてほしいの。

来世では、堂々と手を繋いで歩きたい。
あなたの隣を……ずっと一緒にいたい。

あなたを思う気持ちは、生まれ変わっても、きっと忘れないから」

しんと静まり返った空間に、彼女の言葉だけが灯るように響いていた。

「……さくら」

「さよならは、言いません」

そう言って、さくらはそっと背を向けた。

もう、涙は見せないと決めていた。
背後から湊が何かを言いかけた気がしたけれど、振り返らなかった。

店のドアを押し、最後のドアベルの音が響いたとき、
彼女の胸の中で、長い夢の幕が、静かに下りた。
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